報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ワンスターホテルに到着」

2022-07-23 21:35:52 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月13日15:45.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 駅のエレベーターと違い、アナウンスなど何も無いエレベーターが1階に到着する。
 小さなホテルの小さなエレベーターだ。

 エレーナ:「へい、らっしゃい!」
 クロ:「らっしゃい!」

 フロントにいるエレーナと、その使い魔の黒猫のクロが出迎えた。

 マリア:「寿司屋か!」
 勇太:「ラーメン屋かw」

 外は土砂降りの雨だった。
 しかし、そんなことは想定内とばかり、全く気にしていないホテルスタッフの面々。

 エレーナ:「よくここまで無事に辿り着いたな」
 クロ:「ここは安全地帯だニャ」
 エレーナ:「こう見えても、“魔の者”を一度撃退したことのある私がここで働いている以上、もう“魔の者”の好き勝手にはさせないんだぜ」
 勇太:「それは頼もしい。……あ、これ、『運転室付きグリーン車』の猫にお土産」
 エレーナ:「運転室付きグリーン車?」
 勇太:「『クロ』だ」
 エレーナ:「おいw」
 クロ:「ちゅーる♪ちゅーる♪ニャンちゅーる~♪」
 エレーナ:「よく途中で買えたな?」
 勇太:「羽田空港のコンビニで売ってた」
 エレーナ:「マジか」
 勇太:「それで、部屋割りはどうなってるの?」
 マリア:「まさか、ツイン一室とか、ダブル一室にしてるとか……」
 エレーナ:「あぁ?ンなことするか。ちゃんとデラックスシングル2部屋にしておいたんだぜ」
 勇太:「へえ……」(←ちょっと残念な勇太)
 マリア:(デラックスシングル2つの方が、料金取れるからだな……)

 普通のシングルはシングルベッドだが、デラックスシングルはセミダブルベッドとなる。
 ツインのツインベッドよりは安いが……。

 エレーナ:「それじゃ、先に料金を頂くんだぜ」
 勇太:「はいはい。それじゃ、イリーナ先生のカードで」
 エレーナ:「毎度あり~!」

 エレーナは鍵を2つ持って来た。
 カードキーではなく、普通の鍵である。

 エレーナ:「3階の311号室と312号室だぜ」
 マリア:「そこは最上階じゃないのか」

 するとエレーナ、顔を近づけて小声で言った。

 エレーナ:「4階と5階は眺望がいい」
 マリア:「それなら……」
 エレーナ:「それはつまり、“魔の者”が外から見られやすいってことでもある」
 勇太:「……だろうね」

 だから、勇太達はなるべく鉄道は地下鉄を利用したのだ。
 幸いにして、この森下地区を通る鉄道は地下鉄しか無い。

 エレーナ:「3階から下は近隣の建物と同じくらいの高さにあるので、窓は磨りガラスになってる。一応、外からは覗かれにくい」
 勇太:「そういうことか」
 マリア:「“魔の者”の目、それくらいで誤魔化せるものなのか?」
 エレーナ:「少なくとも私は、ニューヨークはなるべく地下鉄で移動したし、ホテルも下層階に宿泊した。一応、それで上手く行ったぜ」
 勇太:「なるほど。ここは経験者を信じよう」
 マリア:「私も一応、経験者なんだが……」
 エレーナ:「『眷属』との戦いの経験者な?」
 マリア:「……確かにそうだ」
 エレーナ:「幸い“マジックスター”は鋭意営業中だぜ。食事はそこで取ればいいし、そこに自販機コーナーもある。一泊くらいなら、わざわざ外に出ることはないだろう」
 勇太:「それで明日、魔界の穴を使わせてくれるんだね?」
 エレーナ:「ああ、約束だぜ」

 2人は鍵を受け取って、再びエレベーターに乗り込んだ。

 マリア:「勇太。夕食は18時からだったな?」
 勇太:「そうだね」
 マリア:「少し疲れたから、夕食まで昼寝してる。もし寝坊したら起こして」
 勇太:「内線掛けようか?」
 マリア:「そうしてくれると助かる」
 勇太:「分かった」

 エレベーターを3階で降りる。
 311号室と312号室は、エレベーターから離れた廊下の奥にあった。
 廊下の内装は、ごく普通のビジネスホテルのそれである。
 部屋もそうなのだが、何だか少し不気味に感じられた。
 廊下には煌々と白いダウンライトが灯っている。
 ホテル廊下である以上、ビカビカに明るく照らす必要は無いのだが、前よりも薄暗く感じた。
 そもそもが、黒い雲が空を覆っている為、まだ16時にもなっていないのに、まるで19時近くの明るさなのである。

 勇太:「うっ!」

 その時、窓から稲光が差し込んだ。
 直後、ドカーンと大きな雷鳴が轟く。
 まるで、ホテルに逃げ込んだターゲットに出て来るよう警告しているが如くである。

 マリア:「小賢しいマネを……」

 部屋に着いて、マリアが鍵で部屋のドアを開ける。

 勇太:「僕も一緒にいようか?」
 マリア:「いや、いい。エレーナの言う通り、ここは安全だろう。ホテルから出たりしなければ、ね」
 勇太:「部屋からも出ない?」
 マリア:「夕食の時間までは、ね」
 勇太:「そ、そうか」
 マリア:「それじゃ、また」
 勇太:「あ、ああ」

 マリアは部屋に入った。
 すぐにドア横のスイッチに手を伸ばして、照明を点ける。
 室内の照明も、ダウンライトのみとなっていた。
 他にはライティングデスクの上に、電気スタンドがあるくらい。
 エレーナの言う通り、確かに部屋の窓は磨りガラスになっていた。
 一応、開けることもできるようだが、換気用に大きく開かないようになっているらしい。
 もちろん、開けるつもりは無かった。
 カーテンは縦引きのロールカーテン。
 それを引いて、更に窓を塞ぐ。

 マリア:「これでよし」

 マリアは大きく頷くと、ローブを脱いでコートに掛けた。
 そして、昼寝の前にシャワーを浴びることにした。

 マリア:(案外、バスルームの方が安全かもしれない)

 一糸まとわぬ姿になると、マリアはバスルームに飛び込んだ。

 一方その頃、隣の部屋の勇太はというと……。

 勇太:「あちっ!あちっ!」

 室内の湯沸かしポットでお湯を沸かし、お茶を入れていた。
 よくビジネスホテルの客室にサービスとして付いているお茶である。
 ホテルのWi-Fiに接続し、手持ちのタブレットで情報収集を始める。

 勇太:「東京都江東区と墨田区だけ大雨、雷、洪水警報?あからさま過ぎる……」

 東京23区の中でも、江東区は広い方である。
 恐らく同じ江東区でも、南部の豊洲や有明はウソみたいに晴れているのだろう。
 また、墨田区においても、隣の菊川地区とかがとばっちりを受けているだけで、錦糸町とかに行けば晴れているのかもしれない。

 勇太:「こんな嫌がらせ程度で、僕達がホテルから出て来るとで思ってるのかね……」

 夕食までの間、マリアの所に忍んで行きたいと思った勇太だったが、寝起きのマリアもなかなか機嫌が悪いことを知っているので、やめておいた。
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“大魔道師の弟子” 「“魔の者”との攻防」

2022-07-23 17:12:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月13日14:51.天候:雨 東京都大田区蒲田 京急蒲田駅→東京都港区高輪 品川駅]

 京急空港線内は、何とか“魔の者”には見つからずに済んだ。
 いや、恐らく見つかってたのかもしれない。
 天空橋駅からの地上区間では、確かに晴れ間が見えていた。
 しかし、大鳥居駅を通過してからの地上区間では曇っていた。
 そして、京急蒲田駅。

〔「この電車は快特、京成高砂行きです。品川、泉岳寺の順に止まります。まもなく発車致します」〕

 稲生達がこの駅で降りず、そのまま上り電車に乗り続けることを知った“魔の者”は……。

〔「ご乗車ありがとうございます。この電車は快特、京成高砂行きです。品川、泉岳寺の順に止まります。泉岳寺から先、都営地下鉄浅草線内と京成押上線内は各駅に止まります。次は品川、品川です」〕

 電車が走り出すと、空には黒い雲が立ち込めた。
 そして、雷鳴と共にバケツをひっくり返したような雨が降り注ぐ。

〔「お客様にお知らせ致します。只今、電車、ゲリラ豪雨の中を走行しております。換気による窓開けを行っている所がございますが、雨が入る恐れがありますので、窓は閉めてご利用頂くよう、お願い申し上げます」〕

 マリア:「とんでもない“魔の者”だ」
 勇太:「いや、全く」

 勇太は隣の乗客と力を合わせて、開いている窓を閉めた。
 旧型車両でなくても、窓の開閉が重い所があったりするからだ。
 バケツをひっくり返したような雨でも、電車の運行に支障は出ず、無事に品川駅に到着した。

〔「品川です。この電車は都営浅草線、京成押上線直通、普通車、京成高砂行きです」〕

 勇太:「地下に入れば、また誤魔化せるかな?」
 マリア:「どうだろうな?」

 1分の停車の後、電車は再び発車した。
 次の泉岳寺駅から地下鉄区間になり、上空からグーグルアースの如く監視している“魔の者”の目は誤魔化せるだろう。

 マリア:「どこで降りる?」
 勇太:「そうだなぁ……」

[同日15:06.天候:不明 東京都港区浜松町 都営地下鉄大門駅→大江戸線電車先頭車内]

〔2番線は京成押上線直通、各駅停車、京成高砂行きです。大門(浜松町)、大門(浜松町)。都営大江戸線、JR線、東京モノレールは、お乗り換えです〕

 森下に行くのには、他に東日本橋駅で降りて、都営新宿線に乗り換えるというルートがある。
 しかし、勇太はその手前の大門駅での乗り換えを選択した。
 なるべく、他の地下鉄よりも地下深くを行く大江戸線で行った方が、より監視の目を誤魔化せるのではないだろうかと思ったのだ。

〔2番線、ドアが閉まります〕

 大門駅にはホームドアがある。
 電車のドアとホームドアが閉まり切ってから、電車が走り去って行った。

 勇太:「よし。今度は大江戸線だ」

 勇太はマリアの手を引いて、大江戸線ホームに向かった。

〔まもなく3番線に、両国、春日経由、都庁前行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕

 接続を取っているのかは不明だが、そんなに待ち時間無く電車がやってくる。
 都営大江戸線は全区間地下を走行する為、車体が雨に濡れているということはなかった。
 それでもフロントガラスにワイパーが付いているのは、仕様なのだろう。
 せいぜい洗車の時にくらいしか使わないのだろうか。
 何しろ、車両基地ですら地下にあるほどである。

〔大門(浜松町)、大門(浜松町)。都営浅草線、JR線、東京モノレールはお乗り換えです〕

 電車に乗り込むと、京急線を走行した都営地下鉄の車両よりは硬い座席に腰かけた。
 短い発車サイン音が、電車の車外スピーカーから流れる。
 そして、ホームドアと車両のドアが同時に閉まった。
 浅草線の場合は車掌乗務のツーマン運転なので、その後、車掌による発車合図のブザーが鳴ってから発車していたが、大江戸線はワンマン運転なので、ドアが閉まり切ったらすぐに発車する。
 ホームドアが無かった頃は、車両のドアが閉まると同時にスッと走り出していたものだ。

〔都営大江戸線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は両国、春日経由、都庁前行きです。次は汐留(シオサイト)、汐留(シオサイト)。“ゆりかもめ”は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕

 こちらは雨に一切当たる心配が無い代わりに、換気の為の窓が開けられたままである。
 その為、車外からの走行音がもろに車内に入って来てやかましい。
 これはトンネルが狭いのと、カーブが多いからである。

 勇太:「これで、しばらくは凌げるだろう。問題は、駅に着いてからだね。駅からホテルまでは、どうしても地上を行かないといけない」
 マリア:「こればっかりは、ダッシュで行くしかないか……」
 勇太:「テレポーテーションで行けたりしない?瞬間移動魔法の短距離版」
 マリア:「あれかぁ……。よし、やってみよう。どこにする?」
 勇太:「そうだねぇ……」

[同日15:28.天候:不明 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅]

〔森下、森下。桜鍋の“みの家”へおいでの方は、こちらでお降りください〕

 電車が森下駅に到着する。

〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです〕

 電車を降りて改札口に向かう。
 そして、改札口の外に出ると、2人はエレベーターに向かった。
 多目的トイレに向かうことも考えたが、人通りが多く、入った瞬間、怪しまれるだろうと思ったからである。
 密室を狙うなら、エレベーターでも良い。
 但し、他の利用客と同乗していないことが条件。
 幸いにして、この駅のエレベーターにはドアに窓が無い。
 改札外コンコースと地上を行き来するエレベーターを狙った。
 他に客がいないのを見計らうのは、勇太の役目。
 マリアは……。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。我らを飛ばせ。行き先は、ワンスターホテルなり。パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ……」

〔上へ参ります〕

 勇太:「さ、早く」

 勇太は目を閉じて呪文の詠唱を行っているマリアをエレベーターに乗せた。

〔ドアが閉まります〕

 そして、自分も乗り込んで素早く閉めるボタンを押す。

 マリア:「Lu la!」

 2人の体は光に包まれ、そして消えた。
 エレベーターが地上階に着いた時、そこには誰もいなくなっていた。

[同日15:40.天候:雨 同地区内 ワンスターホテル・エレベーター内]

 次の瞬間、2人の体はワンスターホテルのエレベーターの中にあった。

 マリア:「真っ暗で見えないぞ!」
 勇太:「ちょっと待って!」

 エレベーターの中には、長時間使用しないと節電モードの働く機種がある。
 それが働くと、籠内の照明が消え、換気ファンも止まるのである。
 但し、閉じ込めを防止する為、開けるボタンだけは点灯しており、それを押せば、中からドアが開くようになっている。
 勇太は一旦、開けるボタンを押した。
 すると、エレベーターのドアが開く。
 どうやら、最上階の5階にいるようだ。
 再びドアを閉め、1階のボタンを押すとエレベーターは下降し始めた。

 勇太:「ふう、これでよし」
 マリア:「久しぶりにこの魔法使ったけど、上手く行って良かった」
 勇太:「さすがマリア」

 これ、結果的に上手く行ったから良かったものの、もしも多目的トイレで使用していたら大変だった。
 地下鉄の駅は、『建物』ではなく、『洞窟』と同様の扱いになっている。
 『洞窟』では瞬間移動の魔法は使えない。
 まずは地上脱出魔法で脱出してから、瞬間移動魔法を使うという手順がある。
 しかしながら、地上階とを結ぶエレベーターの中は、ぎりぎり『建物』という扱いになる為か、そこで瞬間移動魔法を使う分にはセーフだったようである。
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“大魔道師の弟子” 「今度は進路を北東に」

2022-07-22 23:23:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月13日13:20.天候:曇 東京都大田区羽田空港 東京国際空港第1ターミナル]

 バスはほぼダイヤ通りに羽田空港第1ターミナルに到着した。
 バスが停車すると、待ち構えていた係員が荷物室のハッチを開けて、乗客の荷物を降ろしている。

 運転手:「ご乗車ありがとうございました。羽田空港第1ターミナルに到着です」
 アメリカ人乗客:「運転してくれてありがとう!御礼に1ドルやるよ!受け取ってくれ!」(←と、英語で言っている)
 運転手:「ああ、お客様、日本ではチップは要りませんよ!大丈夫です!お気遣い、ありがとうございます!」
 アメリカ人:「Oh!」
 マリア:「Oh……」
 勇太:「いや、マリアは知ってるでしょ!?永住者!」

 アメリカにおける空港シャトルバスは、その性質によってはチップを払わなければならない。
 但し、この日本のエアポートリムジンのように、公共の『路線バス』として運転されている場合はチップは不要である。

 アメリカ人:「本当に要らないのかい!?まるで、本当のリムジンのようなサービスをしてくれたのに!」
 運転手:「お気をつけて行ってらっしゃいませー」
 マリア:「ドライバーと、うちの日本人ガイドがいいって言ってるんだから、いいんだよ。早く降りろ、ゴリラ」(←と、英語で言っている)

 マリア、日本語では硬い喋り方なのだが、英語だと辛辣である。
 こういう事は、特にハリウッド映画なんかでも見られる。
 日本語吹き替え版だと比較的柔らかな表現に訳されているのだが、字幕スーパー版だと【お察しください】(但し、それでもまだ柔らかい表現に和訳されているという)。
 “バイオハザードシリーズ”の主人公格であるクレア・レッドフィールドやレオン・S・ケネディ、最近ではイーサン・ウィンターズがこれに当たる(英語だと明らかに『死ねや、クソ野郎!』とか言ってるのに、字幕では『覚えてやがれ!』とかになってる)。

 アメリカ人:「Sorry,miss.(悪いな、嬢ちゃん)」

 バスを降りて、ターミナルの中に入る。

 マリア:「もうお昼を過ぎた。何かランチでも食べよう」
 勇太:「そうだね。何がいい?」
 マリア:「勇太のオススメ。多分、日本食になるだろうけど」
 勇太:「分かった。じゃあ、そうしよう」

 2人が向かった先は……。

[同日13:45.天候:曇 同ターミナル・マーケットプレイスB1F てんや]

 カウンター席に2人で並んで座る。

 マリア:「天ぷらか。なかなかいいのチョイスしたじゃない」
 勇太:「きっと魔界じゃ、食べれないと思ってね」
 マリア:「探せばこういう店あると思うけど、なかなかな。……あ、でもイブキの家に行けば、食べれるんじゃない?」
 勇太:「わざわざ天ぷら食べに行くのも、どうかと思うよ」

 てんやと言えば天丼であるが、2人はあえて天丼ではなく、定食を注文した。

 マリア:「勇太の家ですき焼き御馳走になって、ここで天ぷら食べて……後は何だ?」
 勇太:「寿司でも食べる?」
 マリア:「寿司……生魚か。遠慮しておくよ」
 勇太:「あと、鰻重か鰻丼もあるよ」
 マリア:「それだと予算オーバーにならない?」
 勇太:「鰻、高いからなぁ……」

 運ばれて来た天ぷら定食の天ぷらをサクサクと頬張る。

 勇太:「魔界の安倍首相も日本人なんだから、日本食食べてると思うけどね」
 マリア:「たまにだろ?基本的に、ブラッドプール女王の意向に従うはず」

 もっとも、吸血鬼出身の女王は、普通の食事をしない。
 首相以下、家臣達に美味い物を食べさせているのは、単にその分、美味い血液を提供せよとのことなのだ。

 マリア:「羽田空港を経由するというアイディアは、私が提供した。ここからは、勇太のアイディアに任せるよ」
 勇太:「ああ、任せてくれ。それはいいんだけど、1つ、懸念材料があるんだよなぁ……」
 マリア:「懸念材料?」

[同日14:43.天候:不明 羽田空港第1・第2ターミナル駅→京浜急行電鉄空港線快特電車先頭車内]

 昼食を終えた2人はトイレを済ませた後、京急線乗り場に向かった。

 勇太:「この辺は地下を走るからいいんだけど、品川までは地上区間もあるから、そこでバレる恐れがあるんだよなぁ……」

 入線してきた電車は、都営地下鉄の車両だった。
 それも、旧型車両である。
 現時点でそれは予備車として1編成残っているだけのはずだが、それが動員される何かがあったようだ。
 始発駅なので、着席は容易だ。
 取りあえず、ドア横の座席に隣り合って座る。

〔「ご案内致します。この電車は14時43分発、都営地下鉄浅草線、京成押上線直通、快特、京成高砂行きです。これから先、羽田空港第3ターミナル、蒲田、品川、泉岳寺の順に止まります。泉岳寺から先、都営浅草線内と京成押上線内は各駅に止まります。まもなく、発車致します」〕

 マリアは魔道士のローブを羽織り、フードを深く被っている。
 残念だが、これでは逆に目立つような気がして仕方が無い。
 本当なら目立たないシャツとジーンズ、後はキャップでも被れば良いのではと思う。
 だが、“魔の者”は魔道士の魔力を感じ取って、追い回すのだそうで、それを隠すにはローブの方が良いのだとマリアは言う。
 しかし、視覚的には明らかに目立っている。
 発車の時刻になり、ホームから発車ベルが鳴り響いた。
 そして、ドアチャイムが鳴ってドアが閉まる。
 当駅にはホームドアが無い為、ドアが閉まると、運転室から発車合図のブザーが聞こえて来た。
 その後、ガチャッとハンドルを操作する音。
 それから電車は走り出した。
 尚、地下線内にいる為、運転室と客室との境の窓にはブラインドが下ろされている。
 マリアが座っているドア横の席も、戸袋窓が無い為、外からは見えにくい席のはずである。

〔「ご乗車ありがとうございます。この電車は都営浅草線、京成押上線直通、快特、京成高砂行きです。次は羽田空港第3ターミナル、羽田空港第3ターミナルです」〕

 旧型車両の為か、自動放送は搭載されていないようで、車掌の肉声放送が流れた。

 勇太:「まず、最初の地下区間は天空橋駅まで」

 天空橋駅の手前で電車は地上に出る。
 しかし、次の大鳥居駅の手前でまた地下に潜り、大鳥居駅を出るとまた地上に出る。
 後は品川駅まで地上区間となるので、この間、“魔の者”の目を誤魔化せれば良いのだが……。
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“大魔道師の弟子” 「方向転換、南へ」

2022-07-21 20:23:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月13日11:20.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 大宮駅西口バス停→東京空港交通バス車内]

 駅でトイレを済ませ、それから西口そごう前のバス停に向かう。
 バス停に着き、他の乗客と共にバスを待っていると、パトカーが1台停車した。
 特にサイレンは鳴らしていないが、赤色灯は点けている。
 そこから警察官が2名降りてくる。

 警察官A:「失礼。外国の方ですか?申し訳無いですが、旅券か在留カードを見せてはもらえませんか?」

 バス停に並んでいる外国人達に、パスポートか在留カードの提示を求めている。
 旅行客の外国人達は、警察官にパスポートを見せていた。

 警察官A:「ドイツ人に……台湾人……韓国人か……」
 警察官B:「あなたも外国の人ですね?パスポートか何か……」
 マリア:「Yes...」

 マリアは在留カードを出した。
 かつてはパスポートに永住許可のシールが貼られたものを所持していたが、嵩張るので在留カードを発行してもらっている。

 警察官A:「イギリス人?!」
 警察官B:「何だって!?」
 警察官A:「あ、でも、永住者だな……。失礼ですが最近、イギリスに帰国されたことは?」
 マリア:「いえ、無いです。ずっと日本です」
 警察官A:「日本国内にイギリス人のお知り合いはいますか?」
 マリア:「いえ、いません」

 確かにマリアの屋敷に、ルーシー以外のイギリス人が遊びに来ることはない。
 そのルーシーもコロナ禍で、来日できずにいる。

 警察官A:「うーむ……」

 警察官は在留カードとマリアを見比べている。

 勇太:「一体、彼女が何か?」
 警察官B:「あなたは?」
 勇太:「僕は日本人です」

 勇太は自分の運転免許証を出した。

 警察官A:「彼女との関係は?」
 勇太:「仕事仲間です。あと……将来的には結婚を……」
 警察官A:「そうですか。……失礼ですが、彼女は学生では?何か……どこかの高校の制服らしき物を着ていますが?」
 勇太:「あ、いえ、違うんです。これはただ、彼女が趣味で着ているだけで……」
 マリア:(まあ、確かに私が勇太の気を引く為に着たのが始まりだけど……。まさか、このまま着させられるとは……)
 警察官B:「そうでしたか。実はイギリス人の国際指名手配犯を追っていまして、その手配書とこちらの方の顔が似ているものですから……」
 勇太:「そうなんですか」
 警察官A:「永住者の方なら違いますね。失礼しました」

 どうやら最近、日本に入国した者であるらしい。
 警察官達は再びパトカーに乗って、去って行った。

 マリア:「これも“魔の者”の妨害か?」
 勇太:「そうなの?」
 マリア:「“魔の者”が直接日本国内に入ることはできないけど、自分の力を植え付けた人間を眷属として使役することはできるからね」
 勇太:「そ、そういえば北海道の時もそうだったような……」

 そこへ、羽田空港行きのリムジンバスが到着した。
 オレンジ色とクリーム色が特徴である。
 バス停にいた警備服の係員がやってきて、バスの荷物室のハッチを開ける。

 運転手:「お待たせしました。羽田空港行きです。乗車券をお持ちのお客様から、先にご案内致します」

 既にチケットを持っている勇太達が、優先乗車となる。

 マリア:「チケットが無くても乗れるんだ」
 勇太:「席が空いていればね」

 もっとも、少しずつ客が増えているとはいえ、ヘタしたら渋滞にハマって遅れるかもしれない空港行きは空いている事が多い。
 勇太とマリアは、運転手にチケットを渡して乗り込んだ。
 1つ手前のバス営業所から来たので、既に先客が何人か乗り込んでいる。

 勇太:「後ろに行こう。少しでも、“魔の者”の目から逃れるんだ」
 マリア:「分かった」

 2人はトイレの前の席に座った。
 これならトイレの影に隠れられる。
 バス車内は冷房が効いていて涼しかった。
 座席に座る前に、マリアはバッグに荷棚に置いてローブは脱いだ。

 勇太:「このローブも、怪しまれるのかもしれないね」
 マリア:「夏は着ない方がいいかなぁ……。でも、着てると結構便利なんだけど」
 勇太:「まあ、そうだね」

 日差しや紫外線をカットしてくれるのだが、湿気は籠るのが難点だ。
 だから、涼しい所では脱いでおいた方が良いのだろう。
 幸いこのバスは、窓はスモークガラスになっている。
 外からは、あまり車内が見えないようになっていた。
 案外、無札の乗客が多く、○○航空はどこのターミナルで降りたら良いかという質問を今更運転手に聞く外国人旅行客もいる。
 ただ、空港リムジンバス運転手にしてみれば想定内の質問なのか、すらすら答えられている。

 マリア:「こっちには、優秀な日本人ガイドがいるからね」
 勇太:「そりゃどうも」

 乗車率としては50パーセントくらいであったが、バスは数分ほど遅れて大宮駅を発車した。

 勇太:「それにしても、良かったよ」
 マリア:「何が?」
 勇太:「さっきの職務質問。羽田空港からどこに行くのか聞かれなくて。僕達のルート、明らかに怪しいしね」
 マリア:「あー、確かに。空港に行くのに、飛行機には乗らないなんて怪しいか」
 勇太:「誰かを送迎しに行くというのなら、別にいいんだけど、そうでもないしね」
 マリア:「確かに。永住者で良かった。これが観光客とか留学生とかだったら、もっと詳しく聞かれてただろうね」
 勇太:「そうだねぇ……。でも、国際指名手配食らうような犯罪をしたイギリス人って……」

 勇太はスマホを取り出して、ニュースサイトにアクセスした。
 しかし、そのような事件は報道されていなかった。

 勇太:「んん?」
 マリア:「まだニュースにはなっていないかもしれない。もしかしたら、エレーナなら知ってるかもしれないな」
 勇太:「なるほど。そうか」

 情報料を取られそうな気がするのは、気のせいだろうか。

 バスが首都高に入ると、空が曇って来た。
 しかし、雨は降らない。
 この為、これが本当の天気なのか、それとも“魔の者”の警戒なのかは分からなかった。
 もし仮に後者だとするなら、恐らく勇太達の目的地を測りかねているのかもしれない。
 羽田空港には、今のところ魔界の穴は無い。
 羽田空港からどこへ行くのかは分からないが、羽田空港が東京都大田区にある以上、上京することにはなるから、取りあえず警告として曇り空にはしておこうということなのかもしれない。
 いずれにせよ、首都高走行中はずっと曇っているだけで、雨が降って来ることはなかった。
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“大魔道師の弟子” 「2回目の 急がば回れ 遠回り」

2022-07-21 14:40:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月13日07:00.天候:晴 埼玉県川口市 稲生家3F]

 朝起きてシャワーを浴びるマリア。
 昨夜の寝巻はバスローブを借りた。

 マリア:(ここのシャワー、使い易くていい。うちの屋敷にも導入しようかな……)

 そんなことを考えながら、シャワールームを出る。
 近くの勇太の部屋からは、唱題の声が聞こえた。
 いつに無く元気な大きな声だ。
 何かあったのだろうか?
 そんなことを考えながらバスタオルで体を拭き、それを体に巻き付けながら、隣の洗面台でドライヤーを使用した。
 元々、さいたま市時代の稲生家には仏壇があった。
 しかし、勇太の両親の怨嫉により、処分されてしまったと聞く。
 あの頃は勇太の怨念は凄まじいものがあり、マリアがそれに振り回されるほどであった。
 佳子の乗った路線バスがコントロール不能で、電柱に激突事故を起こしたことはまだ記憶に残っている。
 マリアは黙っていたが、『怨嫉謗法の罰だ!』との勇太の言は適切ではなく、勇太自身の怨念が魔力を帯びて動作したものだとマリアは知っている。
 そのことを言うと、マリアにも怨念が向けられると思われるので、黙っているのだが。

[同日08:00.天候:晴 稲生家1Fダイニング]

 1階のダイニングに向かうと、朝食が用意されていた。
 稲生家における最後に朝食ということで、和定食である。

 佳子:「今日も天候が不安定らしいから、気をつけるのよ」
 勇太:「大丈夫。原因は分かってるから」
 佳子:「ええ?」
 マリア:「いただきまス。(“魔の者”のしわざだとは……ママに言えないな)」
 佳子:「マリアちゃん、服の洗濯終わったから、持って行ってね」
 マリア:「はい。ありがとうございます」

 今のマリアは、白いブラウスに緑色のプリーツスカートを穿いている。

 勇太:「父さんは出掛けたの?」
 佳子:「仕事が忙しいみたいよ。イリーナ先生と会えれば、また違ったんだろうけど……」
 勇太:「……!」
 マリア:「……師匠に会ったら、伝えておきます」
 佳子:「よろしくね」

 マリアは勇太の反応に気づきつつ、代わりに答えておいた。

[同日10:47.天候:曇 埼玉県蕨市 JR蕨駅→京浜東北線926A電車10号車内]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の電車は、10時47分発、各駅停車、大宮行きです〕

 蕨駅に着くと、また空が曇り始めた。
 “魔の者”が勇太達を見つけて、警戒を始めたらしい。
 駅に着いて電車を待っていると、マリアが話し掛けてきた。

 マリア:「何かあったの?今朝から様子が変だよ?」
 勇太:「僕も予知夢を見るようになったのかなぁ……」
 マリア:「予知夢?何だそれは?」
 勇太:「凄い不吉な夢なんだ」
 マリア:「仕方が無いよ。で、なに?」
 勇太:「イリーナ先生が……」
 マリア:「師匠が?」

 その時、隣の宇都宮線の線路を中距離電車が轟音を立てて通過していった。

〔まもなく2番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください〕

 その直後、接近放送も鳴る。
 宇都宮線はダイヤが乱れていて、京浜東北線にも数分程度の遅れが出ていた。

 勇太:「……というわけさ」
 マリア:「具体的……だな」
 勇太:「でしょう?」

 そこへ電車がやってくる。

〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます〕

 先頭車に乗り込み、空いているブルーの座席に腰かける。
 遅延しながら運転されている為、すぐに発車メロディが鳴った。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 すぐに車両のドアとホームドアが閉まる。
 蕨駅の場合、ドアというよりは稼働柵と言った方が良いかもしれない見た目だ。
 電車が動き出すまで、マリアは考え込んでいた。

〔次は、南浦和です〕
〔The next station is Minami-Urawa.JK42.〕

 電車が走り出し、自動放送が流れた後でマリアが口を開いた。

 マリア:「予知夢の内容に、具体性があればあるほど、それが正夢になる確率は高い」
 勇太:「だよね?どうしよう……」
 マリア:「とはいうものの、師匠のことだから、上手く立ち回るような気もするけどね」
 勇太:「そ、そうだよね!?」
 マリア:「師匠に訪れる危機の予知夢を、私じゃなく、勇太が見るというのが分からないな……」
 勇太:「何で僕なんだろうね?」
 マリア:「さあ……」

 しかし、マリアは1つの理由を予想した。

 マリア:(勇太の魔力は高い。多分、魔力だけなら、もう私を上回っているかもしれない。そのせいだ)
 勇太:「マリア?」
 マリア:「取りあえず、今のところは様子見。似たような夢を何度も見るようなことがあったら、要注意だよ」
 勇太:「わ、分かった。今朝の勤行で、あの夢が正夢にならないよう御祈念したから大丈夫だよね?」
 マリア:「……どうかな」

 マリアは首を傾げた。
 と、同時に電車内に夏の暑い日差しが差し込んで来る。
 どうやら“魔の者”が、2人が逆方向に向かっていると知って、上京しないと油断し始めたらしい。
 ただ、その代わり、外堀は埋めつつあるようで、乗降ドアの上のモニタからは運行情報が流れている。
 北関東や南関東、そしてチバラギ東関東のローカル線では、大雨でダイヤが乱れているらしい。
 宇都宮線や高崎線も例外ではなく、そこから逃げて来た客の混雑により、京浜東北線も数分の遅れが発生している。

 マリア:「今日はワンスターホテルに着いたら、外には出ないことだ。幸い、レストランはあるから、一泊くらいなら出なくてもいいと思う。とにかく、今は無事にワンスターホテルに着けることを考えよう」
 勇太:「う、うん。そうだね」

[同日11:02.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

〔次は終点、大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、埼京線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いている所がありますので、足元にご注意ください。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 電車が北の終点駅に接近しても、天候は良好のままだった。

 勇太:「ホテルに着いたら、先生に連絡しても?」
 マリア:「私からやっておく。どうせ、定時連絡はしないといけないし」
 勇太:「分かったよ」

 電車内は冷房が効いて涼しかったが、一度そこから降りると蒸し暑い。

 マリア:「久しぶりにプールで泳ぎたい」

 と、マリアは言った。
 屋敷のプールのことを言っているのだろうが、多分しばらくの間は無理だろう。
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