[7月13日15:45.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]
駅のエレベーターと違い、アナウンスなど何も無いエレベーターが1階に到着する。
小さなホテルの小さなエレベーターだ。
エレーナ:「へい、らっしゃい!」
クロ:「らっしゃい!」
フロントにいるエレーナと、その使い魔の黒猫のクロが出迎えた。
マリア:「寿司屋か!」
勇太:「ラーメン屋かw」
外は土砂降りの雨だった。
しかし、そんなことは想定内とばかり、全く気にしていないホテルスタッフの面々。
エレーナ:「よくここまで無事に辿り着いたな」
クロ:「ここは安全地帯だニャ」
エレーナ:「こう見えても、“魔の者”を一度撃退したことのある私がここで働いている以上、もう“魔の者”の好き勝手にはさせないんだぜ」
勇太:「それは頼もしい。……あ、これ、『運転室付きグリーン車』の猫にお土産」
エレーナ:「運転室付きグリーン車?」
勇太:「『クロ』だ」
エレーナ:「おいw」
クロ:「ちゅーる♪ちゅーる♪ニャンちゅーる~♪」
エレーナ:「よく途中で買えたな?」
勇太:「羽田空港のコンビニで売ってた」
エレーナ:「マジか」
勇太:「それで、部屋割りはどうなってるの?」
マリア:「まさか、ツイン一室とか、ダブル一室にしてるとか……」
エレーナ:「あぁ?ンなことするか。ちゃんとデラックスシングル2部屋にしておいたんだぜ」
勇太:「へえ……」(←ちょっと残念な勇太)
マリア:(デラックスシングル2つの方が、料金取れるからだな……)
普通のシングルはシングルベッドだが、デラックスシングルはセミダブルベッドとなる。
ツインのツインベッドよりは安いが……。
エレーナ:「それじゃ、先に料金を頂くんだぜ」
勇太:「はいはい。それじゃ、イリーナ先生のカードで」
エレーナ:「毎度あり~!」
エレーナは鍵を2つ持って来た。
カードキーではなく、普通の鍵である。
エレーナ:「3階の311号室と312号室だぜ」
マリア:「そこは最上階じゃないのか」
するとエレーナ、顔を近づけて小声で言った。
エレーナ:「4階と5階は眺望がいい」
マリア:「それなら……」
エレーナ:「それはつまり、“魔の者”が外から見られやすいってことでもある」
勇太:「……だろうね」
だから、勇太達はなるべく鉄道は地下鉄を利用したのだ。
幸いにして、この森下地区を通る鉄道は地下鉄しか無い。
エレーナ:「3階から下は近隣の建物と同じくらいの高さにあるので、窓は磨りガラスになってる。一応、外からは覗かれにくい」
勇太:「そういうことか」
マリア:「“魔の者”の目、それくらいで誤魔化せるものなのか?」
エレーナ:「少なくとも私は、ニューヨークはなるべく地下鉄で移動したし、ホテルも下層階に宿泊した。一応、それで上手く行ったぜ」
勇太:「なるほど。ここは経験者を信じよう」
マリア:「私も一応、経験者なんだが……」
エレーナ:「『眷属』との戦いの経験者な?」
マリア:「……確かにそうだ」
エレーナ:「幸い“マジックスター”は鋭意営業中だぜ。食事はそこで取ればいいし、そこに自販機コーナーもある。一泊くらいなら、わざわざ外に出ることはないだろう」
勇太:「それで明日、魔界の穴を使わせてくれるんだね?」
エレーナ:「ああ、約束だぜ」
2人は鍵を受け取って、再びエレベーターに乗り込んだ。
マリア:「勇太。夕食は18時からだったな?」
勇太:「そうだね」
マリア:「少し疲れたから、夕食まで昼寝してる。もし寝坊したら起こして」
勇太:「内線掛けようか?」
マリア:「そうしてくれると助かる」
勇太:「分かった」
エレベーターを3階で降りる。
311号室と312号室は、エレベーターから離れた廊下の奥にあった。
廊下の内装は、ごく普通のビジネスホテルのそれである。
部屋もそうなのだが、何だか少し不気味に感じられた。
廊下には煌々と白いダウンライトが灯っている。
ホテル廊下である以上、ビカビカに明るく照らす必要は無いのだが、前よりも薄暗く感じた。
そもそもが、黒い雲が空を覆っている為、まだ16時にもなっていないのに、まるで19時近くの明るさなのである。
勇太:「うっ!」
その時、窓から稲光が差し込んだ。
直後、ドカーンと大きな雷鳴が轟く。
まるで、ホテルに逃げ込んだターゲットに出て来るよう警告しているが如くである。
マリア:「小賢しいマネを……」
部屋に着いて、マリアが鍵で部屋のドアを開ける。
勇太:「僕も一緒にいようか?」
マリア:「いや、いい。エレーナの言う通り、ここは安全だろう。ホテルから出たりしなければ、ね」
勇太:「部屋からも出ない?」
マリア:「夕食の時間までは、ね」
勇太:「そ、そうか」
マリア:「それじゃ、また」
勇太:「あ、ああ」
マリアは部屋に入った。
すぐにドア横のスイッチに手を伸ばして、照明を点ける。
室内の照明も、ダウンライトのみとなっていた。
他にはライティングデスクの上に、電気スタンドがあるくらい。
エレーナの言う通り、確かに部屋の窓は磨りガラスになっていた。
一応、開けることもできるようだが、換気用に大きく開かないようになっているらしい。
もちろん、開けるつもりは無かった。
カーテンは縦引きのロールカーテン。
それを引いて、更に窓を塞ぐ。
マリア:「これでよし」
マリアは大きく頷くと、ローブを脱いでコートに掛けた。
そして、昼寝の前にシャワーを浴びることにした。
マリア:(案外、バスルームの方が安全かもしれない)
一糸まとわぬ姿になると、マリアはバスルームに飛び込んだ。
一方その頃、隣の部屋の勇太はというと……。
勇太:「あちっ!あちっ!」
室内の湯沸かしポットでお湯を沸かし、お茶を入れていた。
よくビジネスホテルの客室にサービスとして付いているお茶である。
ホテルのWi-Fiに接続し、手持ちのタブレットで情報収集を始める。
勇太:「東京都江東区と墨田区だけ大雨、雷、洪水警報?あからさま過ぎる……」
東京23区の中でも、江東区は広い方である。
恐らく同じ江東区でも、南部の豊洲や有明はウソみたいに晴れているのだろう。
また、墨田区においても、隣の菊川地区とかがとばっちりを受けているだけで、錦糸町とかに行けば晴れているのかもしれない。
勇太:「こんな嫌がらせ程度で、僕達がホテルから出て来るとで思ってるのかね……」
夕食までの間、マリアの所に忍んで行きたいと思った勇太だったが、寝起きのマリアもなかなか機嫌が悪いことを知っているので、やめておいた。
駅のエレベーターと違い、アナウンスなど何も無いエレベーターが1階に到着する。
小さなホテルの小さなエレベーターだ。
エレーナ:「へい、らっしゃい!」
クロ:「らっしゃい!」
フロントにいるエレーナと、その使い魔の黒猫のクロが出迎えた。
マリア:「寿司屋か!」
勇太:「ラーメン屋かw」
外は土砂降りの雨だった。
しかし、そんなことは想定内とばかり、全く気にしていないホテルスタッフの面々。
エレーナ:「よくここまで無事に辿り着いたな」
クロ:「ここは安全地帯だニャ」
エレーナ:「こう見えても、“魔の者”を一度撃退したことのある私がここで働いている以上、もう“魔の者”の好き勝手にはさせないんだぜ」
勇太:「それは頼もしい。……あ、これ、『運転室付きグリーン車』の猫にお土産」
エレーナ:「運転室付きグリーン車?」
勇太:「『クロ』だ」
エレーナ:「おいw」
クロ:「ちゅーる♪ちゅーる♪ニャンちゅーる~♪」
エレーナ:「よく途中で買えたな?」
勇太:「羽田空港のコンビニで売ってた」
エレーナ:「マジか」
勇太:「それで、部屋割りはどうなってるの?」
マリア:「まさか、ツイン一室とか、ダブル一室にしてるとか……」
エレーナ:「あぁ?ンなことするか。ちゃんとデラックスシングル2部屋にしておいたんだぜ」
勇太:「へえ……」(←ちょっと残念な勇太)
マリア:(デラックスシングル2つの方が、料金取れるからだな……)
普通のシングルはシングルベッドだが、デラックスシングルはセミダブルベッドとなる。
ツインのツインベッドよりは安いが……。
エレーナ:「それじゃ、先に料金を頂くんだぜ」
勇太:「はいはい。それじゃ、イリーナ先生のカードで」
エレーナ:「毎度あり~!」
エレーナは鍵を2つ持って来た。
カードキーではなく、普通の鍵である。
エレーナ:「3階の311号室と312号室だぜ」
マリア:「そこは最上階じゃないのか」
するとエレーナ、顔を近づけて小声で言った。
エレーナ:「4階と5階は眺望がいい」
マリア:「それなら……」
エレーナ:「それはつまり、“魔の者”が外から見られやすいってことでもある」
勇太:「……だろうね」
だから、勇太達はなるべく鉄道は地下鉄を利用したのだ。
幸いにして、この森下地区を通る鉄道は地下鉄しか無い。
エレーナ:「3階から下は近隣の建物と同じくらいの高さにあるので、窓は磨りガラスになってる。一応、外からは覗かれにくい」
勇太:「そういうことか」
マリア:「“魔の者”の目、それくらいで誤魔化せるものなのか?」
エレーナ:「少なくとも私は、ニューヨークはなるべく地下鉄で移動したし、ホテルも下層階に宿泊した。一応、それで上手く行ったぜ」
勇太:「なるほど。ここは経験者を信じよう」
マリア:「私も一応、経験者なんだが……」
エレーナ:「『眷属』との戦いの経験者な?」
マリア:「……確かにそうだ」
エレーナ:「幸い“マジックスター”は鋭意営業中だぜ。食事はそこで取ればいいし、そこに自販機コーナーもある。一泊くらいなら、わざわざ外に出ることはないだろう」
勇太:「それで明日、魔界の穴を使わせてくれるんだね?」
エレーナ:「ああ、約束だぜ」
2人は鍵を受け取って、再びエレベーターに乗り込んだ。
マリア:「勇太。夕食は18時からだったな?」
勇太:「そうだね」
マリア:「少し疲れたから、夕食まで昼寝してる。もし寝坊したら起こして」
勇太:「内線掛けようか?」
マリア:「そうしてくれると助かる」
勇太:「分かった」
エレベーターを3階で降りる。
311号室と312号室は、エレベーターから離れた廊下の奥にあった。
廊下の内装は、ごく普通のビジネスホテルのそれである。
部屋もそうなのだが、何だか少し不気味に感じられた。
廊下には煌々と白いダウンライトが灯っている。
ホテル廊下である以上、ビカビカに明るく照らす必要は無いのだが、前よりも薄暗く感じた。
そもそもが、黒い雲が空を覆っている為、まだ16時にもなっていないのに、まるで19時近くの明るさなのである。
勇太:「うっ!」
その時、窓から稲光が差し込んだ。
直後、ドカーンと大きな雷鳴が轟く。
まるで、ホテルに逃げ込んだターゲットに出て来るよう警告しているが如くである。
マリア:「小賢しいマネを……」
部屋に着いて、マリアが鍵で部屋のドアを開ける。
勇太:「僕も一緒にいようか?」
マリア:「いや、いい。エレーナの言う通り、ここは安全だろう。ホテルから出たりしなければ、ね」
勇太:「部屋からも出ない?」
マリア:「夕食の時間までは、ね」
勇太:「そ、そうか」
マリア:「それじゃ、また」
勇太:「あ、ああ」
マリアは部屋に入った。
すぐにドア横のスイッチに手を伸ばして、照明を点ける。
室内の照明も、ダウンライトのみとなっていた。
他にはライティングデスクの上に、電気スタンドがあるくらい。
エレーナの言う通り、確かに部屋の窓は磨りガラスになっていた。
一応、開けることもできるようだが、換気用に大きく開かないようになっているらしい。
もちろん、開けるつもりは無かった。
カーテンは縦引きのロールカーテン。
それを引いて、更に窓を塞ぐ。
マリア:「これでよし」
マリアは大きく頷くと、ローブを脱いでコートに掛けた。
そして、昼寝の前にシャワーを浴びることにした。
マリア:(案外、バスルームの方が安全かもしれない)
一糸まとわぬ姿になると、マリアはバスルームに飛び込んだ。
一方その頃、隣の部屋の勇太はというと……。
勇太:「あちっ!あちっ!」
室内の湯沸かしポットでお湯を沸かし、お茶を入れていた。
よくビジネスホテルの客室にサービスとして付いているお茶である。
ホテルのWi-Fiに接続し、手持ちのタブレットで情報収集を始める。
勇太:「東京都江東区と墨田区だけ大雨、雷、洪水警報?あからさま過ぎる……」
東京23区の中でも、江東区は広い方である。
恐らく同じ江東区でも、南部の豊洲や有明はウソみたいに晴れているのだろう。
また、墨田区においても、隣の菊川地区とかがとばっちりを受けているだけで、錦糸町とかに行けば晴れているのかもしれない。
勇太:「こんな嫌がらせ程度で、僕達がホテルから出て来るとで思ってるのかね……」
夕食までの間、マリアの所に忍んで行きたいと思った勇太だったが、寝起きのマリアもなかなか機嫌が悪いことを知っているので、やめておいた。
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