報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「“魔の者”との攻防」

2022-07-23 17:12:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月13日14:51.天候:雨 東京都大田区蒲田 京急蒲田駅→東京都港区高輪 品川駅]

 京急空港線内は、何とか“魔の者”には見つからずに済んだ。
 いや、恐らく見つかってたのかもしれない。
 天空橋駅からの地上区間では、確かに晴れ間が見えていた。
 しかし、大鳥居駅を通過してからの地上区間では曇っていた。
 そして、京急蒲田駅。

〔「この電車は快特、京成高砂行きです。品川、泉岳寺の順に止まります。まもなく発車致します」〕

 稲生達がこの駅で降りず、そのまま上り電車に乗り続けることを知った“魔の者”は……。

〔「ご乗車ありがとうございます。この電車は快特、京成高砂行きです。品川、泉岳寺の順に止まります。泉岳寺から先、都営地下鉄浅草線内と京成押上線内は各駅に止まります。次は品川、品川です」〕

 電車が走り出すと、空には黒い雲が立ち込めた。
 そして、雷鳴と共にバケツをひっくり返したような雨が降り注ぐ。

〔「お客様にお知らせ致します。只今、電車、ゲリラ豪雨の中を走行しております。換気による窓開けを行っている所がございますが、雨が入る恐れがありますので、窓は閉めてご利用頂くよう、お願い申し上げます」〕

 マリア:「とんでもない“魔の者”だ」
 勇太:「いや、全く」

 勇太は隣の乗客と力を合わせて、開いている窓を閉めた。
 旧型車両でなくても、窓の開閉が重い所があったりするからだ。
 バケツをひっくり返したような雨でも、電車の運行に支障は出ず、無事に品川駅に到着した。

〔「品川です。この電車は都営浅草線、京成押上線直通、普通車、京成高砂行きです」〕

 勇太:「地下に入れば、また誤魔化せるかな?」
 マリア:「どうだろうな?」

 1分の停車の後、電車は再び発車した。
 次の泉岳寺駅から地下鉄区間になり、上空からグーグルアースの如く監視している“魔の者”の目は誤魔化せるだろう。

 マリア:「どこで降りる?」
 勇太:「そうだなぁ……」

[同日15:06.天候:不明 東京都港区浜松町 都営地下鉄大門駅→大江戸線電車先頭車内]

〔2番線は京成押上線直通、各駅停車、京成高砂行きです。大門(浜松町)、大門(浜松町)。都営大江戸線、JR線、東京モノレールは、お乗り換えです〕

 森下に行くのには、他に東日本橋駅で降りて、都営新宿線に乗り換えるというルートがある。
 しかし、勇太はその手前の大門駅での乗り換えを選択した。
 なるべく、他の地下鉄よりも地下深くを行く大江戸線で行った方が、より監視の目を誤魔化せるのではないだろうかと思ったのだ。

〔2番線、ドアが閉まります〕

 大門駅にはホームドアがある。
 電車のドアとホームドアが閉まり切ってから、電車が走り去って行った。

 勇太:「よし。今度は大江戸線だ」

 勇太はマリアの手を引いて、大江戸線ホームに向かった。

〔まもなく3番線に、両国、春日経由、都庁前行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕

 接続を取っているのかは不明だが、そんなに待ち時間無く電車がやってくる。
 都営大江戸線は全区間地下を走行する為、車体が雨に濡れているということはなかった。
 それでもフロントガラスにワイパーが付いているのは、仕様なのだろう。
 せいぜい洗車の時にくらいしか使わないのだろうか。
 何しろ、車両基地ですら地下にあるほどである。

〔大門(浜松町)、大門(浜松町)。都営浅草線、JR線、東京モノレールはお乗り換えです〕

 電車に乗り込むと、京急線を走行した都営地下鉄の車両よりは硬い座席に腰かけた。
 短い発車サイン音が、電車の車外スピーカーから流れる。
 そして、ホームドアと車両のドアが同時に閉まった。
 浅草線の場合は車掌乗務のツーマン運転なので、その後、車掌による発車合図のブザーが鳴ってから発車していたが、大江戸線はワンマン運転なので、ドアが閉まり切ったらすぐに発車する。
 ホームドアが無かった頃は、車両のドアが閉まると同時にスッと走り出していたものだ。

〔都営大江戸線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は両国、春日経由、都庁前行きです。次は汐留(シオサイト)、汐留(シオサイト)。“ゆりかもめ”は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕

 こちらは雨に一切当たる心配が無い代わりに、換気の為の窓が開けられたままである。
 その為、車外からの走行音がもろに車内に入って来てやかましい。
 これはトンネルが狭いのと、カーブが多いからである。

 勇太:「これで、しばらくは凌げるだろう。問題は、駅に着いてからだね。駅からホテルまでは、どうしても地上を行かないといけない」
 マリア:「こればっかりは、ダッシュで行くしかないか……」
 勇太:「テレポーテーションで行けたりしない?瞬間移動魔法の短距離版」
 マリア:「あれかぁ……。よし、やってみよう。どこにする?」
 勇太:「そうだねぇ……」

[同日15:28.天候:不明 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅]

〔森下、森下。桜鍋の“みの家”へおいでの方は、こちらでお降りください〕

 電車が森下駅に到着する。

〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです〕

 電車を降りて改札口に向かう。
 そして、改札口の外に出ると、2人はエレベーターに向かった。
 多目的トイレに向かうことも考えたが、人通りが多く、入った瞬間、怪しまれるだろうと思ったからである。
 密室を狙うなら、エレベーターでも良い。
 但し、他の利用客と同乗していないことが条件。
 幸いにして、この駅のエレベーターにはドアに窓が無い。
 改札外コンコースと地上を行き来するエレベーターを狙った。
 他に客がいないのを見計らうのは、勇太の役目。
 マリアは……。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。我らを飛ばせ。行き先は、ワンスターホテルなり。パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ……」

〔上へ参ります〕

 勇太:「さ、早く」

 勇太は目を閉じて呪文の詠唱を行っているマリアをエレベーターに乗せた。

〔ドアが閉まります〕

 そして、自分も乗り込んで素早く閉めるボタンを押す。

 マリア:「Lu la!」

 2人の体は光に包まれ、そして消えた。
 エレベーターが地上階に着いた時、そこには誰もいなくなっていた。

[同日15:40.天候:雨 同地区内 ワンスターホテル・エレベーター内]

 次の瞬間、2人の体はワンスターホテルのエレベーターの中にあった。

 マリア:「真っ暗で見えないぞ!」
 勇太:「ちょっと待って!」

 エレベーターの中には、長時間使用しないと節電モードの働く機種がある。
 それが働くと、籠内の照明が消え、換気ファンも止まるのである。
 但し、閉じ込めを防止する為、開けるボタンだけは点灯しており、それを押せば、中からドアが開くようになっている。
 勇太は一旦、開けるボタンを押した。
 すると、エレベーターのドアが開く。
 どうやら、最上階の5階にいるようだ。
 再びドアを閉め、1階のボタンを押すとエレベーターは下降し始めた。

 勇太:「ふう、これでよし」
 マリア:「久しぶりにこの魔法使ったけど、上手く行って良かった」
 勇太:「さすがマリア」

 これ、結果的に上手く行ったから良かったものの、もしも多目的トイレで使用していたら大変だった。
 地下鉄の駅は、『建物』ではなく、『洞窟』と同様の扱いになっている。
 『洞窟』では瞬間移動の魔法は使えない。
 まずは地上脱出魔法で脱出してから、瞬間移動魔法を使うという手順がある。
 しかしながら、地上階とを結ぶエレベーターの中は、ぎりぎり『建物』という扱いになる為か、そこで瞬間移動魔法を使う分にはセーフだったようである。

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