報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「マリア邸の夜」

2021-12-22 19:54:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月19日00:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷2F東側ゲストルーム(211号室)]

 勇太:「答えを言うよ。これは祖父が言ってたことだけど、さっきの話では、まるで隣村(高祖父が宿泊した村)は無関係のように見えるじゃない?実は違うんだよ。他言が無用な秘密の祭りなら、田舎の鉄道で1駅分の距離がある隣村まで出張る必要も無い」

 地方ローカル線の駅間距離は概して長い傾向にある。
 勇太が話した村々には、今は鉄道が通っているのだが、両村の駅間は所要時間5分掛かるという。
 つまり、隣の駅まで列車で5分掛かる距離を、江戸時代歩いたら……意外と結構な距離があることが分かる。

 勇太:「祖父は、こう考えた。『やっぱり、無関係だと思われた隣村の村民も、牛追いの祭りに関わっていた』と」
 エレーナ:「どう関わっていたんだぜ?」
 勇太:「祖父の見解では、『牛追いの祭り』を決行したのは、大木の村ではなく、隣の村。隣村の村民が飢えに苦しむあまり、隣の大木の村に攻め入って『牛追いの祭り』を決行し、村民全員や家畜を殺して食ったというのが真相だろうと」
 エレーナ:「なっにーっ!?」
 勇太:「高祖父が大木の村に行った時、既に人骨や牛骨は丁寧に埋められた後だったんだよ。もしも大木の村の村民が、普通に全員餓死したんだとしたら、誰がその遺体を埋めるんだい?」
 マリア:「隣村の住民が様子を見に行った時、既に全員死亡していて、それで埋めてあげただけというのは?」
 勇太:「だったら素直にそう言えばいいと思う。別に悪い事じゃないんだから。『大木の村で牛追いの祭りが行われた』というのは本当。でも、主催者は『隣村』。『牛追いの祭り』が終わった後、罪悪感を少しでも消す為に、ちゃんと埋めて供養したつもりだったんだと思うね」
 エレーナ:「そして、それにいち早く気づいた高祖父の先輩氏は、『あれから何十年も経っているわけだから、今さら隣村にその事を問うのは無理だ』と言ったんだな?」
 勇太:「そういうことなんじゃないかと、祖父は言ってた」
 エレーナ:「あえてゴーストでもモンスターでもなく、『生きた人間がゾンビ化』した話をしてくれたか。さすが稲生氏、センスがいいぜ」
 リリアンヌ:「フヒヒヒ……、お、面白かったです……」
 エレーナ:「とはいうものの、やっぱりゴーストやモンスターが出る話も聞きたいぜ。せっかくだから、そういう話をあと1話してくれないか?」
 勇太:「幽霊や魔物が出る話ねぇ……」

 勇太は腕組みをして、考え込んだ。

 勇太:「やっぱり東京中央学園であった怖い話でもしようか?」
 エレーナ:「で、更に稲生氏の体験発表も聞きたいんだぜ」
 勇太:「うーん……分かった。じゃあさっき、皆でトランプをやったじゃない?それにまつわる話をしよう」
 エレーナ:「おー!……でも、それが稲生氏の母校と、どう関係あるんだぜ?」
 勇太:「まあ、聞いてよ。僕にこの話をしてくれた当時の先輩、すっごいトランプ好きでね。といっても、トランプを使ったギャンブルが好きなだけなんだけど。さっきやったポーカーとか、ブラックジャックね。で、僕が契約することになっている悪魔って、アスモデウスで内定しているじゃない?あれってどうしてだと思う?」
 エレーナ:「? イリーナ先生の紹介なんじゃないか?」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。た、大抵は、師匠の紹介だと聞きます……」
 マリア:「……多分、表向きにはそうだ。だけど師匠は、何故か浮かない顔だった」
 エレーナ:「イリーナ先生は何て言ってるんだぜ?」
 マリア:「何か……『アスモデウスの方から売り込みに来た』って言ってたな」
 エレーナ:「それはつまり、稲生氏がアスモデウスの方から気に入られたというわけか。それはどうしてなんだぜ?稲生氏、キリスト教の信仰なんてしたことないだろ?」
 勇太:「無いよ。顕正会と日蓮正宗しか無い。当然ながら、どちらも仏教だし、キリスト教なんか外道の邪教認定している所も同じだ」
 エレーナ:「そうなんだぜ。普通、キリスト教系の悪魔ってのは、魔女が人間だった頃に、キリスト教の信仰をしていたことがあるってのが前提なんだぜ。稲生氏は違うはずなのに、どうしてなんだろうとは思ってたぜ」
 勇太:「その理由、僕には心当たりがある。それをこれから話そう」

 勇太は、高校生だった頃に起きた話をした。
 それは当時、先輩だった男子生徒が話してくれた『悪魔のトランプ』のことだった。

 エレーナ:「それってアレか?魔界で製作されたヤツで、ジョーカーがドクロの両目に2匹の蛇が絡まってるヤツか?」
 勇太:「やっぱりエレーナ、知ってたか……」
 エレーナ:「あれはなかなか有名な一品だからな。まさか、稲生氏と関わっていたとは、世間は狭いんだぜ」
 勇太:「トランプの絵柄が悪魔なんでしょ?その先輩、トランプの持ち主と契約しちゃったんだ」
 エレーナ:「マジかよ……」
 勇太:「やっぱりあれは有効なのかい?」
 エレーナ:「有効……だな。まさか、稲生氏も契約書を書いたのか?」
 勇太:「僕は書いていない。だけど、つまらないギャンブルに参加させられて、それで負けたせいで、その先輩の契約を負うことになってしまった。先輩が持っていたのは、絵柄が女の悪魔のトランプだった。不気味な絵柄なのに、何故か色っぽい。そんなタッチで描かれていたな」
 エレーナ:「それがアスモデウスか。多分、アスモデウスの使い魔か何かが潜んでいたトランプだったんだろう。そして、当時から魔力を持っていた稲生氏に注目し、アスモデウスに御注進といったところか」
 勇太:「やっぱりそういうことだったのか……」
 マリア:「私と会った時はそんな気配無かったけどな?」
 エレーナ:「マリアンナ。そういう上級悪魔が、必要無い時は気配を消すなんて技、上等中の上等だろ?」
 マリア:「それもそうか」

 現にマリアは“怠惰の悪魔”ベルフェゴール、エレーナは“物欲の悪魔”マモンと契約しているのだが、気配は全く感じさせない。

 勇太:「もしかしたら、アスモデウスが全部差し向けたことだったのかもね。僕が魔道士になることも……」
 マリア:「私は師匠の差し向けだと思っていたけど……。まあ、師匠も“嫉妬の悪魔”レヴィアタンと契約してるからな……」

 尚、エレーナとリリアンヌの師匠ポーリンは、“傲慢の悪魔”ルシファーである。
 リリアンヌはまだ見習いである為、悪魔と契約はしていない。
 もっとも、キリスト教系ではないものの、契約悪魔の目星は付いているもよう。
 そうでなければ、体の成長や老化が止まる(実際には極端に遅くなる)ことはない。

 エレーナ:「念の為に聞くが、例のトランプ、稲生氏が持ってるなんてことは……?」
 勇太:「無いよ。結局はあの先輩が持ったままだ。あの先輩、今はどうしているのやら……」
 エレーナ:「名前とか教えてくれれば、私が様子を見に行くぜ」
 マリア:「そして無事なようなら、トランプを法外な値段で買い取るつもりか。守銭奴魔女め」
 エレーナ:「そこは商売上手と言って欲しんだぜ」

 リリアンヌは欠伸をした。

 勇太:「もう1時だよ。そろそろお開きにして、寝ようかい?」
 リリアンヌ:「そ、そうしましょう」
 エレーナ:「分かった。じゃあ、お開きにしようぜ」

 今夜はこれでお開きになった。
 降霊会という名の怪談座談会であった。
 マリアは屋敷西側にある自分の部屋に戻ろうとした。

 勇太:「マリア」

 勇太は自分の部屋のドアから少し身を乗り出して手招きした。

 勇太:「良かったら……いいかい?」
 マリア:「勇太。……分かった」

 マリアは勇太の部屋に入った。
 明け方になるまで、マリアは自分の部屋に戻ることは無かったという。
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“大魔道師の弟子” 「稲生勇太が話した怖い話」

2021-12-22 15:15:22 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月18日23:30.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷東側2Fゲストルーム(211号室)]

 因みに稲生勇太が自室として与えられているゲストルームは205号室であり、この前、勇太の両親が宿泊した部屋は201号室である。
 この屋敷のゲストルーム、何故か部屋番号の1の位が奇数しか無いが……。

 稲生勇太:「東京中央学園の怖い話は、普通の人間が聞けば怖いかもしれない。だから、キミ達魔女が聴くとつまらないかもしれない」
 エレーナ:「今さらポルターガイスト現象なんて、私が魔法で再現できるから、確かに怖くないぜ」
 リリアンヌ:「フヒヒヒ……。わ、私もです……」
 マリア:「リリィのは魔力の暴走だろ?ちゃんと制御しろ」
 リリアンヌ:「フヒッ!?す、すす、すいません……」
 勇太:「そこで僕が話すのは、僕の祖父から聞いた話だよ。要は、祖父がその父親から聞き、僕から見れば曾祖父に当たる人は父親から聞いた話。つまり、僕から見たら高祖父の話だ」
 エレーナ:「その人も稲生氏みたいに、凄い魔力の持ち主だったのか?」
 勇太:「多分、違う。そんな話は聞かない。どちらかというと、高祖父の話を祖父が考察して、意味が分かると怖い話だよ」
 エレーナ:「ほーん……。じゃあ、ちょっと話してみてくれだぜ」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。よろしくお願いします」
 勇太:「僕の高祖父は明治政府の役人だったんだ。明治維新後、新政府は新たに全国の戸籍調査をすることになった。つまり、国勢調査だね」

 名前を稲生勇兵衛といった。
 彼は政府からの命令で、東北地方の国勢調査官のような役目を与えられた。
 彼が担当したのは、北東北のある地域。
 その村は既に廃村となっており、村の中心部にある大木の根元には、大量に埋められた人骨とそれを覆うようにして牛の頭らしき動物の骨があったという。
 調査台帳には特記事項としてその数を記載し、その村での調査を終えた稲生勇兵衛は、そこから一番近い隣村へと移動した。
 その隣村は廃村ではなく、今でも住民が生活している集落であった。
 隣村での調査も終えた勇兵衛は、ちょうど日も暮れたので、この村の宿屋に宿泊することにした。

 稲生勇兵衛:「そういえば御主人、ちょっと聞きたいことがあるのだが……」
 主人:「何でございましょうか?」
 稲生勇兵衛:「実は、この隣にあった村を先に調査してきたのだが、そこの大木に謎の人骨が大量に埋められていたのだ。何か知らないか?」
 主人:「隣の村……謎の人骨……」

 勇兵衛は夕食の最中、宿屋の主人に隣村でのことを話した。
 その話を聞いた主人は、困惑した顔で答えた。

 主人:「それと関係があるどうかは分かりませんが……」

 という前置きをした上で、次のような話をした。

 稲生勇太:「話は更に遡って、江戸時代の話になります」
 エレーナ:「もはや、うちの先生達の時代の話になりつつあるな」
 マリア:「イブキは生きてたんだっけ?」
 稲生勇太:「江戸時代後期、天保の頃だから、威吹はまだ封印されてる状態だよ」

 江戸時代で天保と聞けば、日本史に詳しい人なら、もうお分かりだろう。
 天保の大飢饉である。
 その大飢饉は、当時の記録によると、『倒れた馬にかぶりついて生肉を食らい、行き倒れとなった死体を野犬や鳥が食い千切る。親子兄弟においては、情けも無く、食物を奪い合い、それは畜生道にも劣る』といった悲惨な状況であった。
 天保4年の秋頃。
 未だ大飢饉の最中にあったある日の夜、この村(稲生勇兵衛が宿泊している村)に、異形の者が迷い込んで来た。

 勇太:「フラフラとさ迷い歩くその体は人間そのものであったけど、頭部は牛の正にそれだったという」
 エレーナ:「ミノタウロスか?」
 マリア:「ミノタウロスかなぁ……」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。ミノタウロスだと思います」
 勇太:「ギリシャ神話の怪物を真っ先に思い浮かぶ時点で、キミ達が欧米人だとすぐに分かるよ。僕は牛頭鬼(ごずき)だと思ったけど」

 馬頭鬼(めずき)とペアで、閻魔庁の警備をしている獄卒として有名である。

 勇太:「……話を続けるよ。とにかく、それを見つけた村人達は、その牛頭鬼みたいなヤツを捕まえようとしたらしいんだ」

 しかしその時、松明を手にした隣村(大木の村)の男達が十数人ほど現れ、鬼気迫る形相にて、

 隣村人A:「牛追いの祭りじゃ!他言は無用!」
 隣村人B:「牛追いの祭りじゃ!手出しも無用!」

 口々に叫びながらその異形の者を捕らえ、隣村へ続く道へと消えて行った。
 翌日には村中でその話が噂として広まったが、誰も隣村まで確認しに行こうとする者はいなかった。
 その日食うのにも困る大飢饉のこの状況では、それどころではなかったからである。
 翌年にはようやく藩より徳政令が出され、年貢の軽減が行われた。
 その折に隣村まで行った者の話によると、既にその村には人や家畜の気配は無かったとのことだった。
 それ以後、その村は『牛の村』としばらく呼ばれたが、滅多に近づく者もおらず、今(明治時代)は久しく、その名を呼ぶ者もいない。

 稲生勇太:「重苦しい雰囲気の中で、宿屋の主人はそんな話をした後、そそくさと後片付けの為に席を立ったという。高祖父はその場での解釈や考察は避け、役所に戻り、調査台帳をまとめ終えた後、懇意にしていた職場の先輩に意見を求めたらしい」

 先輩は天保年間の村民台帳を調べながら、考えを述べた。

 先輩:「大飢饉の時には、餓死した者を家族が食した例は聞いたことがある。しかし、その大木があった村では、遺骸だけでなく、弱った者から食らったのだろう。そして、生きた人を食らった罪悪感を少しでも減らす為、牛追いの祭りと称し、牛の頭皮を被せた者を狩ったのではないだろうか。お前の見た人骨の数を考えると、ほぼその村全員に相当する。牛骨も家畜の数と一致する。飢饉の悲惨さは筆舌に尽くしがたい。村民はもちろん、親兄弟も凄まじき修羅・畜生と化し、その様は最早、人の生活とは呼べぬものであったことだろう。この事は他の誰にも語らず、その村の記録は破棄し、廃村として県に届けよ。また、隣村にその咎を求めることもできまい。人が食い合う悲惨さは繰り返されてはならないが、この事が話されるのも、憚りあることだろう」

 この言葉を深く心肝に染めた勇兵衛は、それ以降この話は語らず、心の奥底へしまい込んだ。
 ……はずだった。

 勇太:「それから何十年か経って、日露戦争が始まりました。その戦争は、日に日に激化していったそうです」
 エレーナ:「知ってるぜ。『東洋の小国』が、あの大国ロシアを負かしたって有名だぜ」
 勇太:「その頃すっかり老人となった高祖父は病床に伏せて、戦乱の世を憂い、枕元に息子や孫達を呼び寄せて、心の奥底にしまい込んだあの話を語ったそうです」

 その中に、後に勇太の曾祖父となる者も含まれていた。
 曾祖父は後に息子である祖父にこの話を聞かせ、そして勇太は祖父から話を聞いたのである。

 エレーナ:「悲惨な話だったが、特に怖いとは思わなかったぜ?なあ、リリィ?」
 リリアンヌ:「は、はい……」
 マリア:「アイルランドでも大昔、大飢饉が発生したという話を聞いたことがある。それがアメリカへの移住者を増やした原因にもなったってね。確か、J・F・ケネディ大統領の先祖がそうだったって聞いたような……?」
 勇太:「まだ、分からないのかい?僕はもう、今の話の中で、『意味が分かると怖い話』をしたよ?」
 エレーナ:「なにっ!?」

 勇太の祖父は、曾祖父から聞いた話に対し、いち早くツッコミ所を発見した。
 そして、そのツッコミ所を聞いた曾祖父は震え上がったそうである。

 曾祖父:「そうか!そういうことか!それで親父(高祖父)の先輩は、今更『隣村に咎を求めることはできない』と言ったんだ!」

 どうやら、高祖父の先輩も、早めにツッコミ所を見つけていたようである。
 そして生憎だが、高祖父はそれに気づけなかったようだ。
 それとも、気づいていたのだが、気づかないフリをしていただけなのか……。

 勇太:「さあ……高祖父の体験談、ツッコミ所イコール『意味が分かると怖い部分』はどこだと思う?」

 ヒントは、どうやら隣村にも『牛追いの祭り』に関する咎があるらしい。
 大きなヒント、稲生勇兵衛が廃村の大木に来た時、人骨や牛骨はどのような状態だった?
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“大魔道師の弟子” 「魔女達の降霊会」

2021-12-20 20:17:58 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月18日23:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷東側2Fゲストルーム]

 エレーナ:「よし、皆集まったな?」

 勇太とマリアは、ゲストルームに集まった。
 そこはツインルームであり、エレーナとリリアンヌが泊まる部屋だった。
 ポーリンはイリーナと一緒に、西側のオーナーズルームに宿泊している。

 勇太:「一体、何をしようってんだい?」
 エレーナ:「降霊会をやろうって魂胆だ」
 マリア:「こりゃまたベタなマネを……」
 勇太:「降霊会って、幽霊を呼び寄せるヤツ?」
 リリアンヌ:「フヒヒヒ……。先輩、まるで魔女ですね」
 エレーナ:「魔女だぜ。それも、今回やる降霊会は、ただの降霊会じゃないぜ」
 勇太:「というと?」
 エレーナ:「簡単に言えば、稲生氏の体験発表だ」
 勇太:「体験発表!?まだ、発表できるほどの功徳は無いけど……」
 エレーナ:「違う違う。稲生氏は魔界の出入口に位置した為に、霊現象の多かった高校に通ってただろ?」
 勇太:「東京中央学園か。そうだね」

 マリアが普段着ている緑色のブレザーやグレーのプリーツスカートは、その高校の制服をモチーフとしたものである。
 緑色はマリアの契約悪魔のシンボルカラーである為、ちょうど良かったのだ。

 勇太:「それで?」
 エレーナ:「日本には百物語という儀式があるんだってな」
 勇太:「よく知ってるね!?」
 マリア:「百物語?」
 勇太:「怪談を100話一気に話すんだ。もちろん、何人かで何話かずつ」
 マリア:「そんなに!?」
 勇太:「そう。そして、100本のローソクを用意する。1話話すごとに、ローソクの火を1本ずつ消していく。そして、100話目を話して100本目のローソクを消すと、怪奇現象が起こるというものさ」
 マリア:「それは本当なのか?」
 勇太:「分かんないね。でも、僕の高校はともかく、大学でその実験を行ったゼミがあったんだ」
 マリア:「なに?詳しく」
 勇太:「うん。そのゼミは……」
 エレーナ:「ちょっとタイム!」
 勇太:「何だい?」
 エレーナ:「語り部は稲生氏専門でお願いしたいと思っているんだけど、準備がまだあるから、ちょっと待っててくれだぜ」
 マリア:「話の腰を折るなよ……」
 エレーナ:「トイレ行きたいヤツは今のうちに。それと、喉が疲れると思うから、水かお茶を用意しておくんだぜ。それと……」

 エレーナは小さなグラスに入ったローソクの火を点けた。

 エレーナ:「さすがにローソク100本は用意できないから、これ1本で代用だぜ。心配すんな。別に、最後消したりはしないぜ。そんじゃ……」

 エレーナは照明を消した。
 室内の灯りがローソク一本だけの明かりとなる。

 エレーナ:「それで稲生氏、そのゼミが何だって言うんだぜ?」

 準備が終わってからエレーナが振る。

 勇太:「あ……うん。そのゼミは民俗学を研究するゼミだったんだけど、ある年の夏、百物語について研究することになったんだって。その時のゼミ生の人数は10人。だから、単純計算で1人10話話すことになる」
 エレーナ:「1人で10話なんてキツくね?」
 勇太:「キツいと思う。僕でさえ……5~6話がせいぜいだな。あの東京中央学園に所属していて、毎月のように何らかの現象に見舞われていた僕でさえ、だよ?ましてや、皆が皆、霊感があるわけでもないのに、10話も話せるわけがない。最初はテンポ良く話せていたメンバーも、段々ネタ切れになってしまってね。それでも、何とか100話話し終えて、最後のローソクを消したんだ。その後、何があったと思う?」

 1:何も起こらなかった。
 2:幽霊が現れた。
 3:悪魔が現れた。
 4:殺人鬼が現れた。
 5:そんなことより折伏だ!

 エレーナ:「幽霊が現れたってことにしておきたいぜ」
 マリア:「素人達の集まりだろ?何にも起こらなかったんじゃないか?」
 リリアンヌ:「フフフ……。あ、悪魔が現れたに一票……」
 勇太:「その時は……何も起こらなかったんだ」
 エレーナ:「なーんだ!」
 マリア:「だろうな。そういうものだと思う」
 リリアンヌ:「悪魔は出ませんでしたか……」
 勇太:「で、後日談になるんだけど、ゼミ生達はあの話をもう一度聞き直してみたんだって。話は全部録音していたからね。ところが、だ。怖いのはここから」
 エレーナ:「ん?」
 勇太:「因みに会場は、幽霊が出るという噂の旅館の客室で行われていたんだ。……最後の100話目を誰が話したのか分からなかったそうだ」
 エレーナ:「メンバーに確認したのか?」
 勇太:「したそうだ。そしたら誰もが、『自分は話していない』『聞いていただけだ』と答えた」
 マリア:「誰かが面白がって、ウソついてるんじゃないか?」
 勇太:「普通はそう思うよね。そこで今度は、『100話目はどんな話だったか?』を確認した。ところが、確認した本人も、されたメンバーも内容を覚えていなかったんだ」
 エレーナ:「どういうことだ?」
 勇太:「もっとも、夜通し行われたイベントだ。100話目が終わる頃には、夜明けを迎えようとしていた。だから、メンバーの全員は眠かったし、中には居眠りしている人もいたくらいだから、それも無理は無かったんだと思う。そこでメンバーは、録音した内容を確認することにした。ところが、録音はされているんだけど、声が小さくてよく聞こえない。ボリュームを最大にした時、メンバーは全員が凍り付いた」

〔100話目の語り部:「これは私が昨夜、死んだ時の話なんですがね……」〕

 勇太:「しかも、数を数えてみると、全部で112話もあったんだ!」

〔91話目の語り部:「私はこの旅館に括られている者です。ねぇ皆さん……地縛霊が目の前にいるって、どんな気持ち……?」〕
〔84話目の語り部:「僕は……お母さんを捜してるんだ。ねえ……お母さん……どこ……?」〕
〔74話目の語り部:「功徳を話します。今月から売り始めたワックスが飛ぶように売れて、功徳~~~~~~~!!」〕

 エレーナ:「しれっと幽霊が参加していたんかい!」
 マリア:「その旅館、幽霊が何体いたのやら……」
 リリアンヌ:「フヒヒヒ……。日本のゴースト、侮りがたし……」
 エレーナ:「稲生氏の大学のゼミの話か。しかし、その話は又聞きなんだろう?」
 勇太:「まあね」
 エレーナ:「稲生氏の実体験を聞きたいんだぜ」
 勇太:「うーん……。実体験と言ってもなぁ……。色々とあるからなぁ……」
 エレーナ:「その中でも、飛び切り怖いヤツで頼む」
 勇太:「飛び切り怖いヤツか……」

 勇太は少し思案した。

 勇太:「分かった。じゃあ、話すよ」

 勇太がした話とは、どんなものだったのだろう?
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“大魔道師の弟子” 「交流会」 2

2021-12-19 21:17:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月18日18:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷1F西側大食堂]

 夕食は師匠達に合わせ、ロシア料理とイギリス料理が同時にテーブルに並んだ。

 イリーナ:「さ、姉さん、どうぞ一杯」
 ポーリン:「だから、姉さん言うな!」

 勇太達から見て直属の師匠達は、ダンテ一門が立ち上がって最初に入門した1期生達が殆どである。
 その1期生達の中にも先輩や後輩の関係があり、ここではイリーナよりも先に入門していたポーリンが先輩ということになる。
 ここでいう1期生とか2期生というのは入門した時期ではなく、誰の弟子なのかで決まる。
 イリーナとポーリンは創始者たるダンテの弟子である為、1期生であり、勇太達はそれら1期生の弟子である為、2期生なのである。

 イリーナ:「だって、姉弟子なんだから、姉さんでしょ?」
 ポーリン:「それはそうだが、それではまるで、日本の花柳界のようではないか」
 勇太:「あそこも徒弟制度ですからねぇ……」

 魔女達がワインを飲む中、勇太だけビールである。
 勇太は下戸で、2桁以上の度数のアルコールを飲めない為。
 リリアンヌはフランス国籍であるが、さすがに日本国内ということもあり、ここでは魔力を発動させる時以外はノンアルコールである。
 また、この中では一番悪酔いする為(2番目はマリア。ワインはOKなのに、日本酒や焼酎を飲むと途端に悪酔いする)。

 イリーナ:「来年の“ダンテ先生を囲む会”はどこでやるの?」
 ポーリン:「東アジア魔道団の動向次第だな。あいつら、フリーメイソンを取り込んでおるので、占いでも読めぬのだ」
 イリーナ:「またコロナの株を変化させたしね。このままでは、ゾンビウィルスを造りかねないわ」
 ポーリン:「それは作品が違うから無いじゃろう」
 イリーナ:「作品?」
 エレーナ:「ローストビーフ、お代わりくれ!」
 ミカエラ:「かしこまりました」

 テーブルの横でブロック肉のローストビーフを切り分けるメイド人形のミカエラ。

 マリア:「また太るぞ?」
 エレーナ:「その時は、またここのランニングマシーン使わせてもらうぜ」
 マリア:「ったく、タダだからって……」

 エレーナ、クイッとグラスワインを飲み干す。

 エレーナ:「ワインもお代わりだぜ!」
 クラリス:「かしこまりました」
 マリア:「タダ飯はホント遠慮無いヤツだな……」

 マリアは呆れた。

 エレーナ:「それより稲生氏、美人魔道士2人の汗だくランニングはどうだった?」
 勇太:「ど、どうだったって……」
 エレーナ:「うへへへ……!チ【ぴー】起ったか?」
 リリアンヌ:「せ、先輩、飲み過ぎです……」
 マリア:「オマエがセクハラ発言してどうするよ?!」
 エレーナ:「あぁ?私ゃオマエラと違って、性的被害は受けてねーんだぜ?だから、そんなトラウマどこ吹く風だぜ?男1人の稲生氏に寂しい思いをさせない役、私がピッタリだと思わないか?あぁ?」
 マリア:「師匠、エレーナだけ帰るって言ってます!」
 エレーナ:「言ってねーし!」
 イリーナ:「あらあら、仲がいいわね。昔、ケンカしてたのがウソみたいだね」
 ポーリン:「私個人は、まだお前のことを許したわけではないぞ。ダンテ先生の手前、ケンカをしないだけじゃ」
 イリーナ:「はいはい。勝手に脱走して戻ってきて、すいませんでした」

 イリーナは一度、ダンテの元を脱走している。
 真面目なポーリンは、裏切り者は始末しなければならないと思っていた。
 しかし、イリーナは戻ってきた。
 ダンテはそれを許したのだが、ポーリンは許すことができず、弟子も巻き込んだ大喧嘩に発展した(因みに他の1期生達は傍観していたが、どちらかというとポーリン寄りだった)。
 正式にダンテが仲裁に入り、何とか表向きには仲直りしている。
 そして今は、こうやって食事会を行うほどまでに和解した。
 2期生のエレーナが、勇太に従う妖狐・威吹に殺されかけたことを知ったダンテが動いたもよう。

 イリーナ:「皆、『仲良き事は美しき哉』だよ」
 エレーナ:「はーい」
 勇太:「ダンテ一門の綱領ですからね」
 ポーリン:「う、うむ……」

[同日20:00.天候:雪 同屋敷1F西側プレイルーム]

 プレイルームは、ちょっとしたカジノ・バーになっている。
 師匠2人はディーラー役のメイド人形を前に、バカラに興じている。
 そんな高額な持ち合わせが無い弟子達は、ポーカーをやっていた。

 マリア:「よっし!ストレート・フラッシュ!」
 リリアンヌ:「フヒッ!?……わ、わわ、私、フォーカードです……」
 勇太:「くそっ!僕はツー・ペアだ!」
 ダニエラ(ディーラー):「お待ちください、勇太様。勇太様はジョーカーをお持ちです」

 通常、ポーカーではジョーカーは使わない。
 しかしダンテ一門では、ローカルルールとしてジョーカーを使用する。
 そしてそのジョーカーは、何にでも使えるオールマイティーカードなのだ。
 それはポーカーだけではなく、ブラックジャックでも使われる。

 ダニエラ:「それですと、フルハウスになります」
 勇太:「おーっ!……でも、マリア達には及ばないんだね……」

 ストレート・フラッシュ系が強く、その次がフォーカード(正式名称はフォー・オブ・ア・カインドという)である。

 勇太:「エレーナは!?」
 エレーナ:「ふっふっふ。聞いて驚くんだぜ。何と、私はロイヤル・ストレート・フラシュなんだぜ!」
 勇太:「ええーっ!?」
 エレーナ:「ということは一番弱い出札の稲生氏が脱ぐんだぜ!チ【ぴー】見せてもらうんだぜ!」
 マリア:「いや、何言ってんだ、オマエ?ジャックが2枚だけしか揃ってないワンペアだろうが」
 リリアンヌ:「せ、せせせ、先輩?い、いつの間に、脱衣ポーカーになったんですか……?」
 エレーナ:「ちっ!」
 マリア:「というわけで、脱ぐのはオマエだぁ!エレーナぁぁぁっ!!」
 エレーナ:「やーなこった!今のは冗談だぜっ、あぁ!?」
 マリア:「魔女に二言は無いんだろう!?」
 勇太:「2人とも、酔っ払い過ぎだよーっ!」

 そんな様子を微笑ましく見る師匠2人。

 イリーナ:「楽しんでるみたいで何よりだわ」
 ポーリン:「エレーナ達も、明るいコになっちゃって、何だか魔女とはかけ離れた性格になりつつあるのゥ……」
 イリーナ:「ダンテ先生は、それでいいらしいわよ。で、それはそれとして、アタシの勝ちだから、姉さんのゴールドカード1枚もらうわね?」
 ポーリン:「く……!わ、私も脱いだ方がいいのか?」
 イリーナ:「1219歳のお婆さんのストリップなんか誰も見たくないだろうから、やめといた方がいいわ」
 ポーリン:「適当な年齢言うな!」
 イリーナ:「でも千の位は1で間違いないでしょう?」
 ポーリン:「姉弟子の年齢、千の位を間違えるようでは、認知症を疑った方がいいかもな?」
 イリーナ:「おー!じゃあ私、認知症じゃない!」

 見た目はどちらも40歳くらいなのだが……。
 こうして、魔女の棲む屋敷の夜は更けて行く。
 人間のブレイヤーキャラが侵入すると、魔女の棲む屋敷なんてホラー展開当たり前なのだが、実態はこのザマである。
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“大魔道師の弟子” 「交流会」

2021-12-18 20:30:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月18日15:00.天候:雪 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅前足の湯]

 リリアンヌ:「フヒヒヒ……。温かくて気持ちいいです……」
 エレーナ:「日光・鬼怒川の“ダンテ先生を囲む会”を思い出すぜ」
 マリア:「あの時、足湯入ったっけ?」
 エレーナ:「気持ちの問題だぜ。なあ?稲生氏」
 勇太:「ま、まあね」
 マリア:「リリィはともかく、エレーナは魔女宅でよく家に来るじゃないか」
 エレーナ:「今はうちのポーリン先生に付いているだけだぜ。しばらく、魔女宅は休みだぜ」

 エレーナとリリアンヌは、ポーリン組に所属している。
 師匠のポーリンは魔界を拠点にしており、マリアの屋敷は魔界とこの世界との中継地点にもなっていた(他に中継地点はワンスターホテルにもある)。
 久しぶりにポーリンが魔界からこの世界に戻って来たので、今日はマリアの屋敷に泊まることになったのだ。

 勇太:「魔界はそんなに大変な状態なの?」
 エレーナ:「ミッドガード帝国と、ようやく停戦したんだけど、アルカディアシティの復旧が大変なんだぜ」
 勇太:「そうなのかぁ……」
 エレーナ:「まあ、魔界高速電鉄だけはいち早く復旧したがな」
 リリアンヌ:「フフフ……。瓦礫の中を走る路面電車……落盤したトンネルを掘り直して走る地下鉄……」
 勇太:「路面電車はともかく、地下鉄はそんな復旧の仕方でいいの?」
 エレーナ:「いいんじゃね?さて、そろそろ上がろうぜ。ディナーまでに戻ってこいって、先生の指示だっただろ」
 リリアンヌ:「フヒヒ……そうです」

 しかしリリアンヌ、足湯から出たところで、近くに設置されてるセブンティーンアイスの自販機をジィーッと見つめた。

 勇太:「食べたいの?」
 リリアンヌ:「こ、ここ、こう見えても、17歳(セブンティーン)なもので……フフフフ……」
 勇太:「ウソぉ!?」
 エレーナ:「ウソじゃないぜ。ま、入門した時はまだ12歳~13歳だったから、見た目はそのまんまだがな。魔道士を見た目で判断するんじゃねーぜ?それは稲生氏、オマエも分かってんだろ?」
 勇太:「そ、それもそうか……」

 40歳女性の見た目をしていながら、実年齢は1000歳以上のイリーナを思い浮かべた勇太だった。

 勇太:「分かったよ。何にする?」
 リリアンヌ:「Merci beaucoup!(ありがとうございます!)」
 エレーナ:「やったぜ!稲生氏の奢りだぜ!太っ腹だぜ!ありがとうだぜ!」
 マリア:「オマエは日本語かい」
 勇太:「何がいい?」
 リリアンヌ:「フヒヒヒ……。そ、そそ、それじゃ、このバニラアイスを……」
 エレーナ:「私はクリームソーダだぜ」
 マリア:「じゃあ、御言葉に甘えて。宇治抹茶ラテ」
 勇太:「はいはい」
 リリアンヌ:「フヒッ!?本当にアイスクリームが出てきました!」
 勇太:「そりゃ、そういう自販機だもんね」
 エレーナ:「フランスじゃ、珍しいんだとよ。もっとも、世界中で自販機が充実しているのは日本くらいなもんだぜ」
 勇太:「そうなの?」
 エレーナ:「新聞の自販機とか電車のキップとか、あとはガムの自販機か?飲み物以外で売ってるモンっつったら、それくらいだぜ」
 リリアンヌ:「フフフ……。お菓子の自動販売機なら、パリで見たことあります……」
 勇太:「ふーん……。エレーナのホテルにも、自販機あるでしょ?」
 エレーナ:「ああ。飲み物の自販機な。他にも有料チャンネルのカードとかもあるぜ」
 勇太:「“ベタなビジネスホテルの法則”だね」
 エレーナ:「何だそりゃ」
 マリア:「食べたらさっさと戻ろう。雪積もって来た。完全に閉ざされる前に戻らないと」
 勇太:「そうだね」

[同日16:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 エレーナ:「ディナーの前に運動しろって、どういうことだぜ?」
 勇太:「足湯の許可は取ってるはずなんだけどねぇ……」
 マリア:「いや、多分罰ゲームじゃないと思う。この前と違ってランニングじゃなく……普通にフィットネスだから」

 今度のランニングマシーンは、勾配を付けられることはなかった。

 エレーナ:「まあいいぜ。確かにここ最近、運動不足だったからな。タダでフィットネスマシーン使ってOKと考えれば、あながち……な」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。そ、そそ、それにしても先輩達、どうしてそんなアスリートみたいなユニフォーム着てるんですか?」
 エレーナ:「ロッカーの中にあったのが、これだったんだ。何かおかしいか?」

 エレーナは青いスポブラと、レーシングショーツを穿いていた。
 マリアは緑色のそれである。

 マリア:「オマエは何の疑いも持たないんだな。さすが東欧系」
 エレーナ:「ああ?カンケーあんのか、それ?」

 因みにリリアンヌは何だか日本の高校の体操服みたいに、上が白のTシャツ、下が臙脂色の短パンである。

 エレーナ:「てか、オマエも出身は私の国の隣だろうが」
 マリア:「育ちはイギリスだから、東欧って感じはしないねぇ……」
 勇太:「それより、さっさと終わらせよう。今度は1キロだって」
 マリア:「海抜500メートル走じゃなくて、今度は海抜0メートルの1000メートルか。こっちの方が楽そうだ」
 エレーナ:「何を言ってやがるんだぜ」

 エレーナがランニングマシーンの上を走り出す。

 エレーナ:「稲生氏!美人魔道士2人が陸上ユニ着て汗だくになる姿、間近で見てチ【ぴー】おっ立てるんだぜ!」
 マリア:「何さらっと下ネタ言ってんだ!」
 リリアンヌ:「フヒーッ!?い、稲生先輩、そういう趣味のある人……!」
 勇太:「ちちち、違う違う!誤解だって!」
 エレーナ:「リリィ!今度そのショートパンツ、ブルマに穿き替えてやんな!そしたら稲生氏、もっと喜んでくれるぜ!」
 リリアンヌ:「フヒッ!?ぶ、ぶるま……!?な、ななな、何ですか、それは……!」
 マリア:「エレーナ!だから下ネタ言うの、やめろ!」
 勇太:(一体先生達は、何を考えていらっしゃるのだろう……?)

 1人だけ普通のジャージの勇太は、そんなことを考えながらランニングマシーンの上を走った。
 時折、セパレーツタイプのユニフォームを着ている美人魔道士2人をチラチラ見ながら……。

 勇太:(僕、無事に年末迎えられるんだろうか……)
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