[12月18日23:30.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷東側2Fゲストルーム(211号室)]
因みに稲生勇太が自室として与えられているゲストルームは205号室であり、この前、勇太の両親が宿泊した部屋は201号室である。
この屋敷のゲストルーム、何故か部屋番号の1の位が奇数しか無いが……。
稲生勇太:「東京中央学園の怖い話は、普通の人間が聞けば怖いかもしれない。だから、キミ達魔女が聴くとつまらないかもしれない」
エレーナ:「今さらポルターガイスト現象なんて、私が魔法で再現できるから、確かに怖くないぜ」
リリアンヌ:「フヒヒヒ……。わ、私もです……」
マリア:「リリィのは魔力の暴走だろ?ちゃんと制御しろ」
リリアンヌ:「フヒッ!?す、すす、すいません……」
勇太:「そこで僕が話すのは、僕の祖父から聞いた話だよ。要は、祖父がその父親から聞き、僕から見れば曾祖父に当たる人は父親から聞いた話。つまり、僕から見たら高祖父の話だ」
エレーナ:「その人も稲生氏みたいに、凄い魔力の持ち主だったのか?」
勇太:「多分、違う。そんな話は聞かない。どちらかというと、高祖父の話を祖父が考察して、意味が分かると怖い話だよ」
エレーナ:「ほーん……。じゃあ、ちょっと話してみてくれだぜ」
リリアンヌ:「フヒヒ……。よろしくお願いします」
勇太:「僕の高祖父は明治政府の役人だったんだ。明治維新後、新政府は新たに全国の戸籍調査をすることになった。つまり、国勢調査だね」
名前を稲生勇兵衛といった。
彼は政府からの命令で、東北地方の国勢調査官のような役目を与えられた。
彼が担当したのは、北東北のある地域。
その村は既に廃村となっており、村の中心部にある大木の根元には、大量に埋められた人骨とそれを覆うようにして牛の頭らしき動物の骨があったという。
調査台帳には特記事項としてその数を記載し、その村での調査を終えた稲生勇兵衛は、そこから一番近い隣村へと移動した。
その隣村は廃村ではなく、今でも住民が生活している集落であった。
隣村での調査も終えた勇兵衛は、ちょうど日も暮れたので、この村の宿屋に宿泊することにした。
稲生勇兵衛:「そういえば御主人、ちょっと聞きたいことがあるのだが……」
主人:「何でございましょうか?」
稲生勇兵衛:「実は、この隣にあった村を先に調査してきたのだが、そこの大木に謎の人骨が大量に埋められていたのだ。何か知らないか?」
主人:「隣の村……謎の人骨……」
勇兵衛は夕食の最中、宿屋の主人に隣村でのことを話した。
その話を聞いた主人は、困惑した顔で答えた。
主人:「それと関係があるどうかは分かりませんが……」
という前置きをした上で、次のような話をした。
稲生勇太:「話は更に遡って、江戸時代の話になります」
エレーナ:「もはや、うちの先生達の時代の話になりつつあるな」
マリア:「イブキは生きてたんだっけ?」
稲生勇太:「江戸時代後期、天保の頃だから、威吹はまだ封印されてる状態だよ」
江戸時代で天保と聞けば、日本史に詳しい人なら、もうお分かりだろう。
天保の大飢饉である。
その大飢饉は、当時の記録によると、『倒れた馬にかぶりついて生肉を食らい、行き倒れとなった死体を野犬や鳥が食い千切る。親子兄弟においては、情けも無く、食物を奪い合い、それは畜生道にも劣る』といった悲惨な状況であった。
天保4年の秋頃。
未だ大飢饉の最中にあったある日の夜、この村(稲生勇兵衛が宿泊している村)に、異形の者が迷い込んで来た。
勇太:「フラフラとさ迷い歩くその体は人間そのものであったけど、頭部は牛の正にそれだったという」
エレーナ:「ミノタウロスか?」
マリア:「ミノタウロスかなぁ……」
リリアンヌ:「フヒヒ……。ミノタウロスだと思います」
勇太:「ギリシャ神話の怪物を真っ先に思い浮かぶ時点で、キミ達が欧米人だとすぐに分かるよ。僕は牛頭鬼(ごずき)だと思ったけど」
馬頭鬼(めずき)とペアで、閻魔庁の警備をしている獄卒として有名である。
勇太:「……話を続けるよ。とにかく、それを見つけた村人達は、その牛頭鬼みたいなヤツを捕まえようとしたらしいんだ」
しかしその時、松明を手にした隣村(大木の村)の男達が十数人ほど現れ、鬼気迫る形相にて、
隣村人A:「牛追いの祭りじゃ!他言は無用!」
隣村人B:「牛追いの祭りじゃ!手出しも無用!」
口々に叫びながらその異形の者を捕らえ、隣村へ続く道へと消えて行った。
翌日には村中でその話が噂として広まったが、誰も隣村まで確認しに行こうとする者はいなかった。
その日食うのにも困る大飢饉のこの状況では、それどころではなかったからである。
翌年にはようやく藩より徳政令が出され、年貢の軽減が行われた。
その折に隣村まで行った者の話によると、既にその村には人や家畜の気配は無かったとのことだった。
それ以後、その村は『牛の村』としばらく呼ばれたが、滅多に近づく者もおらず、今(明治時代)は久しく、その名を呼ぶ者もいない。
稲生勇太:「重苦しい雰囲気の中で、宿屋の主人はそんな話をした後、そそくさと後片付けの為に席を立ったという。高祖父はその場での解釈や考察は避け、役所に戻り、調査台帳をまとめ終えた後、懇意にしていた職場の先輩に意見を求めたらしい」
先輩は天保年間の村民台帳を調べながら、考えを述べた。
先輩:「大飢饉の時には、餓死した者を家族が食した例は聞いたことがある。しかし、その大木があった村では、遺骸だけでなく、弱った者から食らったのだろう。そして、生きた人を食らった罪悪感を少しでも減らす為、牛追いの祭りと称し、牛の頭皮を被せた者を狩ったのではないだろうか。お前の見た人骨の数を考えると、ほぼその村全員に相当する。牛骨も家畜の数と一致する。飢饉の悲惨さは筆舌に尽くしがたい。村民はもちろん、親兄弟も凄まじき修羅・畜生と化し、その様は最早、人の生活とは呼べぬものであったことだろう。この事は他の誰にも語らず、その村の記録は破棄し、廃村として県に届けよ。また、隣村にその咎を求めることもできまい。人が食い合う悲惨さは繰り返されてはならないが、この事が話されるのも、憚りあることだろう」
この言葉を深く心肝に染めた勇兵衛は、それ以降この話は語らず、心の奥底へしまい込んだ。
……はずだった。
勇太:「それから何十年か経って、日露戦争が始まりました。その戦争は、日に日に激化していったそうです」
エレーナ:「知ってるぜ。『東洋の小国』が、あの大国ロシアを負かしたって有名だぜ」
勇太:「その頃すっかり老人となった高祖父は病床に伏せて、戦乱の世を憂い、枕元に息子や孫達を呼び寄せて、心の奥底にしまい込んだあの話を語ったそうです」
その中に、後に勇太の曾祖父となる者も含まれていた。
曾祖父は後に息子である祖父にこの話を聞かせ、そして勇太は祖父から話を聞いたのである。
エレーナ:「悲惨な話だったが、特に怖いとは思わなかったぜ?なあ、リリィ?」
リリアンヌ:「は、はい……」
マリア:「アイルランドでも大昔、大飢饉が発生したという話を聞いたことがある。それがアメリカへの移住者を増やした原因にもなったってね。確か、J・F・ケネディ大統領の先祖がそうだったって聞いたような……?」
勇太:「まだ、分からないのかい?僕はもう、今の話の中で、『意味が分かると怖い話』をしたよ?」
エレーナ:「なにっ!?」
勇太の祖父は、曾祖父から聞いた話に対し、いち早くツッコミ所を発見した。
そして、そのツッコミ所を聞いた曾祖父は震え上がったそうである。
曾祖父:「そうか!そういうことか!それで親父(高祖父)の先輩は、今更『隣村に咎を求めることはできない』と言ったんだ!」
どうやら、高祖父の先輩も、早めにツッコミ所を見つけていたようである。
そして生憎だが、高祖父はそれに気づけなかったようだ。
それとも、気づいていたのだが、気づかないフリをしていただけなのか……。
勇太:「さあ……高祖父の体験談、ツッコミ所イコール『意味が分かると怖い部分』はどこだと思う?」
ヒントは、どうやら隣村にも『牛追いの祭り』に関する咎があるらしい。
大きなヒント、稲生勇兵衛が廃村の大木に来た時、人骨や牛骨はどのような状態だった?
因みに稲生勇太が自室として与えられているゲストルームは205号室であり、この前、勇太の両親が宿泊した部屋は201号室である。
この屋敷のゲストルーム、何故か部屋番号の1の位が奇数しか無いが……。
稲生勇太:「東京中央学園の怖い話は、普通の人間が聞けば怖いかもしれない。だから、キミ達魔女が聴くとつまらないかもしれない」
エレーナ:「今さらポルターガイスト現象なんて、私が魔法で再現できるから、確かに怖くないぜ」
リリアンヌ:「フヒヒヒ……。わ、私もです……」
マリア:「リリィのは魔力の暴走だろ?ちゃんと制御しろ」
リリアンヌ:「フヒッ!?す、すす、すいません……」
勇太:「そこで僕が話すのは、僕の祖父から聞いた話だよ。要は、祖父がその父親から聞き、僕から見れば曾祖父に当たる人は父親から聞いた話。つまり、僕から見たら高祖父の話だ」
エレーナ:「その人も稲生氏みたいに、凄い魔力の持ち主だったのか?」
勇太:「多分、違う。そんな話は聞かない。どちらかというと、高祖父の話を祖父が考察して、意味が分かると怖い話だよ」
エレーナ:「ほーん……。じゃあ、ちょっと話してみてくれだぜ」
リリアンヌ:「フヒヒ……。よろしくお願いします」
勇太:「僕の高祖父は明治政府の役人だったんだ。明治維新後、新政府は新たに全国の戸籍調査をすることになった。つまり、国勢調査だね」
名前を稲生勇兵衛といった。
彼は政府からの命令で、東北地方の国勢調査官のような役目を与えられた。
彼が担当したのは、北東北のある地域。
その村は既に廃村となっており、村の中心部にある大木の根元には、大量に埋められた人骨とそれを覆うようにして牛の頭らしき動物の骨があったという。
調査台帳には特記事項としてその数を記載し、その村での調査を終えた稲生勇兵衛は、そこから一番近い隣村へと移動した。
その隣村は廃村ではなく、今でも住民が生活している集落であった。
隣村での調査も終えた勇兵衛は、ちょうど日も暮れたので、この村の宿屋に宿泊することにした。
稲生勇兵衛:「そういえば御主人、ちょっと聞きたいことがあるのだが……」
主人:「何でございましょうか?」
稲生勇兵衛:「実は、この隣にあった村を先に調査してきたのだが、そこの大木に謎の人骨が大量に埋められていたのだ。何か知らないか?」
主人:「隣の村……謎の人骨……」
勇兵衛は夕食の最中、宿屋の主人に隣村でのことを話した。
その話を聞いた主人は、困惑した顔で答えた。
主人:「それと関係があるどうかは分かりませんが……」
という前置きをした上で、次のような話をした。
稲生勇太:「話は更に遡って、江戸時代の話になります」
エレーナ:「もはや、うちの先生達の時代の話になりつつあるな」
マリア:「イブキは生きてたんだっけ?」
稲生勇太:「江戸時代後期、天保の頃だから、威吹はまだ封印されてる状態だよ」
江戸時代で天保と聞けば、日本史に詳しい人なら、もうお分かりだろう。
天保の大飢饉である。
その大飢饉は、当時の記録によると、『倒れた馬にかぶりついて生肉を食らい、行き倒れとなった死体を野犬や鳥が食い千切る。親子兄弟においては、情けも無く、食物を奪い合い、それは畜生道にも劣る』といった悲惨な状況であった。
天保4年の秋頃。
未だ大飢饉の最中にあったある日の夜、この村(稲生勇兵衛が宿泊している村)に、異形の者が迷い込んで来た。
勇太:「フラフラとさ迷い歩くその体は人間そのものであったけど、頭部は牛の正にそれだったという」
エレーナ:「ミノタウロスか?」
マリア:「ミノタウロスかなぁ……」
リリアンヌ:「フヒヒ……。ミノタウロスだと思います」
勇太:「ギリシャ神話の怪物を真っ先に思い浮かぶ時点で、キミ達が欧米人だとすぐに分かるよ。僕は牛頭鬼(ごずき)だと思ったけど」
馬頭鬼(めずき)とペアで、閻魔庁の警備をしている獄卒として有名である。
勇太:「……話を続けるよ。とにかく、それを見つけた村人達は、その牛頭鬼みたいなヤツを捕まえようとしたらしいんだ」
しかしその時、松明を手にした隣村(大木の村)の男達が十数人ほど現れ、鬼気迫る形相にて、
隣村人A:「牛追いの祭りじゃ!他言は無用!」
隣村人B:「牛追いの祭りじゃ!手出しも無用!」
口々に叫びながらその異形の者を捕らえ、隣村へ続く道へと消えて行った。
翌日には村中でその話が噂として広まったが、誰も隣村まで確認しに行こうとする者はいなかった。
その日食うのにも困る大飢饉のこの状況では、それどころではなかったからである。
翌年にはようやく藩より徳政令が出され、年貢の軽減が行われた。
その折に隣村まで行った者の話によると、既にその村には人や家畜の気配は無かったとのことだった。
それ以後、その村は『牛の村』としばらく呼ばれたが、滅多に近づく者もおらず、今(明治時代)は久しく、その名を呼ぶ者もいない。
稲生勇太:「重苦しい雰囲気の中で、宿屋の主人はそんな話をした後、そそくさと後片付けの為に席を立ったという。高祖父はその場での解釈や考察は避け、役所に戻り、調査台帳をまとめ終えた後、懇意にしていた職場の先輩に意見を求めたらしい」
先輩は天保年間の村民台帳を調べながら、考えを述べた。
先輩:「大飢饉の時には、餓死した者を家族が食した例は聞いたことがある。しかし、その大木があった村では、遺骸だけでなく、弱った者から食らったのだろう。そして、生きた人を食らった罪悪感を少しでも減らす為、牛追いの祭りと称し、牛の頭皮を被せた者を狩ったのではないだろうか。お前の見た人骨の数を考えると、ほぼその村全員に相当する。牛骨も家畜の数と一致する。飢饉の悲惨さは筆舌に尽くしがたい。村民はもちろん、親兄弟も凄まじき修羅・畜生と化し、その様は最早、人の生活とは呼べぬものであったことだろう。この事は他の誰にも語らず、その村の記録は破棄し、廃村として県に届けよ。また、隣村にその咎を求めることもできまい。人が食い合う悲惨さは繰り返されてはならないが、この事が話されるのも、憚りあることだろう」
この言葉を深く心肝に染めた勇兵衛は、それ以降この話は語らず、心の奥底へしまい込んだ。
……はずだった。
勇太:「それから何十年か経って、日露戦争が始まりました。その戦争は、日に日に激化していったそうです」
エレーナ:「知ってるぜ。『東洋の小国』が、あの大国ロシアを負かしたって有名だぜ」
勇太:「その頃すっかり老人となった高祖父は病床に伏せて、戦乱の世を憂い、枕元に息子や孫達を呼び寄せて、心の奥底にしまい込んだあの話を語ったそうです」
その中に、後に勇太の曾祖父となる者も含まれていた。
曾祖父は後に息子である祖父にこの話を聞かせ、そして勇太は祖父から話を聞いたのである。
エレーナ:「悲惨な話だったが、特に怖いとは思わなかったぜ?なあ、リリィ?」
リリアンヌ:「は、はい……」
マリア:「アイルランドでも大昔、大飢饉が発生したという話を聞いたことがある。それがアメリカへの移住者を増やした原因にもなったってね。確か、J・F・ケネディ大統領の先祖がそうだったって聞いたような……?」
勇太:「まだ、分からないのかい?僕はもう、今の話の中で、『意味が分かると怖い話』をしたよ?」
エレーナ:「なにっ!?」
勇太の祖父は、曾祖父から聞いた話に対し、いち早くツッコミ所を発見した。
そして、そのツッコミ所を聞いた曾祖父は震え上がったそうである。
曾祖父:「そうか!そういうことか!それで親父(高祖父)の先輩は、今更『隣村に咎を求めることはできない』と言ったんだ!」
どうやら、高祖父の先輩も、早めにツッコミ所を見つけていたようである。
そして生憎だが、高祖父はそれに気づけなかったようだ。
それとも、気づいていたのだが、気づかないフリをしていただけなのか……。
勇太:「さあ……高祖父の体験談、ツッコミ所イコール『意味が分かると怖い部分』はどこだと思う?」
ヒントは、どうやら隣村にも『牛追いの祭り』に関する咎があるらしい。
大きなヒント、稲生勇兵衛が廃村の大木に来た時、人骨や牛骨はどのような状態だった?
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