報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「斉藤家に到着」

2020-04-08 19:53:41 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月14日18:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は大口クライアントの1人で、大手製薬会社社長の斉藤秀樹氏の家に招かれた。

 新庄:「到着しました。お疲れさまでした」
 愛原:「ありがとうございました」

 スライドドアが自動で開く。
 助手席の後ろに座っていた私が一番先に降りることになるが、助手席の霧崎さんがそれより先に降りた。
 玄関のドアが開いて、中から他のメイド達が出て来た。

 新庄:「御嬢様のお荷物だ。しっかり持って」
 メイドA:「はい」
 霧崎:「皆様、どうぞ。こちらへ」
 愛原:「お邪魔します」

 何度かこちらの御宅にはお邪魔させて頂いているのだが、何度来ても豪邸には慣れないものだな。

 斉藤秀樹:「やあ、愛原さん、来てくれましたか!」
 愛原:「社長、この度はお招き頂き、ありがとうございます」
 秀樹:「娘が世話になりましたからね。これくらい当然ですよ。どうぞ、お上がりください」
 愛原:「失礼します」

 私は早速靴を脱いでスリッパに履き替えた。
 途中にあるリビングに行くと、壁には絵の他に……。

 高橋:「先生、ショットガンが飾ってありますよ」
 愛原:「あ、本当だ」

 古い型のショットガンである。
 恐らく、ウィンダム辺りだろう。
 ポンプアクションタイプで、私のような素人が使おうとする場合、リロードするのにちょっと手間が掛かるのが難点……って、そんなことを話せるのが既にヤバいな。

 秀樹:「ああ、これですか。用心の為に飾っているものです。もちろん、本物です。ああ、当然許可は取ってありますよ。誰でも取れないように、固定してあります。固定具を外すには、ちょっとした仕掛けを解く必要があります」
 愛原:「社長、失礼ですが、これではまるで今後それが必要になる展開のフラグのように思われますが?」
 秀樹:「それが無いことを祈りましょう」

 ゲームや映画だとガチだよ。
 ダイニングの方からはいい匂いがした。

 秀樹:「夕食の方、今用意している所です。もうしばらくここでお待ちください」
 愛原:「ありがとうございます」
 絵恋:「お父さん、リサさんが今日泊まるわ。いいでしょ?」
 秀樹:「ああ、いいとも。ゆっくりしていってね」
 リサ:「はい」
 愛原:「うちのリサがお世話になります」
 秀樹:「何でしたら、愛原さん達もお泊りになっても結構ですよ」
 愛原:「いやいやいや、それはさすがに厚顔無恥というものです」
 秀樹:「遠慮なさらなくて結構ですよ。私も今日と明日は自宅待機ですから」
 愛原:「そりゃ明日は日曜日ですから……はっ!もしかして?」
 秀樹:「ええ。お気づきの通りです。もう既に私達、経済界の間では、ゴルフすら自粛の対象ということですよ。そしてこの波は、明らかに酷くなる」
 愛原:「リサのウィルスは役に立てそうにないですか」
 秀樹:「それはまだ分かりませんね。『BOWが病気になったのを見たことが無い』だけで、全く罹らないとは限らないのですから」

 実験ではリサの場合、インフルエンザはもちろん、エボラ出血熱ですら持ち前のTウィルスやGウィルスで撃退できたということだが……。
 問題はそれを普通の人に使えるよう、どう調整したらいいのか、か。
 ヘタすりゃ投薬した途端、ゾンビ化なんてあり得るもんな。

 絵恋:「リサさん、私の部屋に行きましょ。荷物置いて来るのよ」
 リサ:「うん」

 絵恋さんとリサは連れ立って、階段の方に向かった。
 その横にはホームエレベーター(家庭用エレベーター。トイレくらいの広さ)もあるから、それで上がったかもしれない。
 確か、絵恋さんの部屋は3階だと聞く。

 秀樹:「愛原さんも高橋さんも、本当に遠慮なさらなくていいのですよ?」
 愛原:「そうですねぇ……」

 その時、私は高橋が上の空だということに気づいた。
 高橋の視線を追うと、霧崎さんがリサの荷物を持って3階に向かう所だった。
 他のメイドさんは食事の支度をしているが、霧崎さんは絵恋さん専属なので仕事が違うのだろう。

 愛原:「では、お言葉に甘えて、一泊だけ……」
 秀樹:「どうぞ、ごゆっくり。後で部屋を用意させましょう」
 愛原:「着替えとか、後でコンビニで買ってくるか」
 高橋:「そうっスね」
 秀樹:「寝巻なら洗濯済みの浴衣がありますので、それをお貸ししますよ」
 愛原:「随分用意がいいんですね?」
 秀樹:「こういう立場だと、急な来客とかたまにありますのでね。……あ、ちょっと」
 メイドB:「はい、旦那様」
 秀樹:「食事の支度が終わったら、客間の用意をしてくれ。こちらの方々が今夜、お泊りになるから」
 メイドB:「かしこまりました」
 愛原:「客間はどちらにあるんですか?」
 秀樹:「1階の奥です。和室タイプですので、布団を2組用意します」
 愛原:「なるほど……」

 私は一瞬迷ったが、この話を切り出した。

 愛原:「ここのメイドさん達は泊まり込みですか?それとも通いで……」
 秀樹:「今、食事の用意をしているのが通いです。泊まり込み……つまり、住み込みなのが、運転手の新庄君と娘の世話係の霧崎君ですね」
 愛原:「そうですか」
 秀樹:「うちの使用人で、何か気になることでも?」
 愛原:「あ、いえ……」
 秀樹:「せっかく来て頂いたのですから、もっとざっくばらんな話でも構いませんよ?」
 愛原:「失礼ですが、霧崎さん、何かワケありのようにお見受けするのですが……」
 秀樹:「ああ、そのことですか。さすがは洞察力に優れた名探偵ですな。霧崎君に限らず、あそこで食事の用意をしている2人も……あまり大きな声では言えないワケがあるんですがね」
 愛原:「えっ?」
 秀樹:「私だって根っからの罪人、悪人を1つ屋根の下に置くつもりはありませんよ。彼女らは不幸にも、人生のレールに置き石をされたことで脱線・転覆した列車に乗ってしまったのです。その列車の復旧作業を私は手伝ったに過ぎない。新庄君もですよ」
 愛原:「えっ!?」
 秀樹:「愛原さんが高橋さんというワケありの人材を登用したのと同様、私も似たようなことをしただけのことなのです」

 高橋の場合は押し掛け弟子みたいなものだが……。

 高橋:「通りで皆して、『臭い』と思ったぜ……」
 愛原:「社長、いち早く気づいたのは私ではなく、むしろ彼だったりするんですが」
 秀樹:「優秀な助手を登用できるのも、その探偵の優秀性を表すステータスですよ」
 高橋:「さすが社長。少しリスペクトっス」
 愛原:「もっとリスペクトして差し上げろよ!」
 秀樹:「まあまあ。……そろそろ食事が出来上がるようです。どうぞ、ダイニングの方へ」
 愛原:「あ、はい。ありがとうございます」
 メイドB:「旦那様、食事の御用意が整いました」
 秀樹:「うん、ありがとう。娘達を呼んで来てくれ」
 メイドB:「かしこまりました」

 私達はリビングの隣のダイニングに移動した。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤家へ向かう」

2020-04-08 15:17:47 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月14日17:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 昨日は斉藤社長に頼まれ、病院でワクチンを打っている娘の絵恋さんの様子を見に行った。
 ワクチンの副作用なのか、夕方まで昏々と眠っていたが、目が覚めた時にはケロッとしていた。
 これで一応、科学的には絵恋さんのBOW化は防げたということになる。
 リサとしてはBOWの友達ができなくなって寂しくないかと思うが、案外そうでもないらしい。
 往々にして独占欲の強いBOWは『仲間が増えた』ことより、『ライバルが減った』ことの方が都合良く思うとのこと。
 リサとしては絵恋さんが人間に戻ってくれる方が、『ライバルが減り』、且つ『獲物が増えて』一石二鳥と考えるのだろう。

 高橋:「先生、車が着いたみたいですよ」
 愛原:「おう。じゃあ、行くか。じゃあ高野君、悪いけど後は頼むよ」
 高野:「了解です。お気をつけて。マサも失礼の無いように」
 高橋:「分かってるよ」

 因みに事務所の外では、既にリサが待っていた。
 自粛の為に着る機会が無くなってしまった学校の制服を着ている。
 始業式から、学校が始まれるといいんだがな。
 エレベーターに乗り込み、1階へ下りる。
 因みにリサは泊まる気満々のようで、着替えの入ったバッグも持っている。

〔1階です〕

 高橋:「先生、エレベーターのドアが開いた途端にゾンビがなだれ込んで来る恐れがありますので、後ろに控えてください」
 愛原:「今現在、蔓延しているのはコロナウィルスであって、ゾンビウィルスじゃないからな?」

 因みに仮にゾンビがいたとしても、奴らは呻き声を上げていたり、ドアを叩いてたりしているので、大抵はドアが開く前にそこいるのが分かる。
 例外なのはドアの前で寝ているゾンビが、開いた途端に起き上がって襲ってくる場合だ。

 愛原:「ゾンビなんかいねーよ」
 高橋:「ですね」
 愛原:「仮にいたとしても、こっちにはラスボスクラスのBOWがいるから安心だ」

 私はリサの肩をポンと叩いた。
 リサはニヤッと笑って、

 リサ:「むふっ、任せて!」

 と、右手でガッツポーズをした。

 リサ:「タイラント君はもちろん、ネメシスだって私の思い通り」
 愛原:「それは素晴らしい」

 しかし、私は何故か背筋が寒くなった。
 一番怖いのは、いかにも化け物の姿をしているゾンビやハンターよりも、普段人間の姿をしているBOWなのだと改めて認識させられる。

 絵恋:「リサさん、お迎えに登場!」
 リサ:「サイトー、来てくれたー」

 同じく学校の制服を着ている絵恋さんが、リサの両手をがっちり掴んだ。
 何でも、実家でその制服を洗濯するらしい。
 普通はクリーニング店に出すものだが、そこは大富豪。
 自宅にそういう設備があるらしい。
 リサの服もついでに洗ってもらうということで、着て行くというわけだ。

 新庄:「これはこれは愛原所長、お久しぶりでございます」

 車からお抱え運転手の新庄氏が降りてくる。
 60歳を過ぎている為か、白髪が目立つ。
 元々はタクシーの運転手をしていたが、斉藤社長にひょんなことからヘッドハンティングされ、お抱え運転手として働いているらしい。
 もちろん、タクシー運転手の給料よりも高額の給料で。
 少し人数が多いせいか、車はロールスロイスもどき光岡・ガリューではなく、アルファードだった。

 霧崎:「お荷物、お持ちします」
 リサ:「ありがとう」

 助手席から絵恋さん専属メイド、『切り裂きパール』……ではなく、霧崎真珠さんが降りて来た。
 ドキッとなる高橋。
 メイド服萌え……ではなく、ちゃんとその中の人を性の対象として見ているんだよな?
 そうしてもらわないと、こいつのゲイがいつまで経っても治らない。
 高野君もショートヘアであるが、彼女がショートボブであるのに対し、霧崎さんはベリーショートに近い。
 つまり、ボーイッシュということだ。
 多分このボーイッシュなヘアスタイルが、高橋のゲイ心をくすぐったのかもしれない。
 いつものメイド服を着ているが、メイドカフェだとミニスカートが多いが、こちらはロングスカート。
 だがそれをいいことに、スカートの中にナイフとか隠し持ってるんだよなぁ……きっと。

 新庄:「では、どうぞお乗りください」

 新庄運転手がスライドドアを開ける。
 電動なので、スーッと自動で開く。
 確かこういう車の場合、真ん中の席が上座だったか。
 となると、やはりここは御嬢様の絵恋さんが……。

 絵恋:「リサさん、私達は後ろに座りましょ!」
 リサ:「ん!」
 愛原:「いいのかい?絵恋さんは御嬢様だから、新庄さんの真後ろじゃないのかい?」
 絵恋:「いえいえ。愛原先生は父の招待客なんですから、むしろ愛原先生がこちらですよ」
 愛原:「そうなのか。では、お言葉に甘えて……」

 その時、私は気づいた。

 愛原:「あ、いや、高橋君がそこに座ってくれ」
 高橋:「えっ?でも先生……」
 愛原:「いや、いいんだ。たまには進行方向左側に座ってみたい」
 高橋:「はあ……」

 さすがはミニバンの中でも高級車。
 シートは白い本革張りだ。

 新庄:「それでは出発致します」

 新庄運転手がスライドドアを閉めて、運転席に乗り込んだ。
 そして、車が走り出す。
 いや、私があえて高橋に運転席の後ろを譲った理由はこれだ。

 高橋:「…………」(霧崎真珠を斜め後ろからガン見している)

 そんなに気になるなら、ガツンと告ればいいのに。
 後で聞いてみるか。
 因みに当の霧崎さんは気にする様子が無い。
 運転席の後ろなら、助手席を斜め後ろから見れるからってことに気づいたのだ。

 絵恋:「リサさん、水着持ってきた?また地下のプールに入れるようにしてもらったから、一緒に泳ぎましょうね!」
 リサ:「ん!」

 大富豪の家にしては敷地面積は意外と狭いのだが、代わりに地上3階建てで地下1階まであり、エレベーターもある。
 3LDKの賃貸マンションに住むのがやっとの私には、雲の上の御殿だ。
 
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緊急事態宣言、7日発令=1カ月程度、7都府県が対象―私権制限可能に・新型コロナ

2020-04-06 21:11:28 | 日記
gooニュースhttps://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-200406X169

 いよいよ、恐れていたことが起きるなぁ……。
 ここまで来たら、そろそろ白状しよう。
 富士急静岡バスの“やきそばエクスプレス”号がどうして全便運休になったか?
 最後の可能性が、この緊急事態宣言の発令だ。
 もちろんそれで都市封鎖はしないと安倍総理が表明しているが、静岡県や山梨県を拠点にしている富士急グループのバスが上京することを恐れたのは想像に難くない。
 表向きの理由としては乗客数の激減ということになっているが、それでも公共交通機関である以上、最低限の本数は確保しておかなければならないはず。
 その使命を放棄してまで全便運休を決めたのは、偏に上記が理由だろうと思った。
 つまり、もはや災害レベルというわけだ。
 台風や大地震、大雪(雪害)でも全便運休はある。
 要はそれと同じことなのだと。
 文字通り、バイオハザード(生物災害)である。
 私の勤務している所はJR関係者が多く出入りしている所で、数日前にはそこの関係者達が既にその情報をキャッチしていた話を聞いたので、かなり信憑性はあると思う。
 JR本社がその情報をキャッチし、JRバスと共同運行している各バス会社にその情報が行ったとしてもおかしくはない(が、その割にJRバスは減便しつつも運行は続けている)。

 いずれにせよ、この期に及んで遠出を企む者は阿呆扱いされることだろう。
 そして、今週末に御登山を企んでいる私も、そんな阿呆の1人なのだ。

 とにかく、緊急事態宣言の対象となる地域にお住まいの読者の皆様は、どうか御無事で。
 警備員たる私の仕事では在宅勤務など不可能ですので、明日はまた泊まり勤務です。
 小説の更新は、明後日を予定しております。

 もしもブログの更新が数日以上止まったら、私も感染したものと思って頂いて間違い無いと思う。
コメント (8)
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“私立探偵 愛原学” 「3月半ばの頃は、まだ都市封鎖なんて他人事だった」

2020-04-05 19:43:58 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月13日11:22.天候:曇 東京都千代田区丸の内 都営バス東京駅丸の内北口停留所→都営バス東20系統]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 大日本製薬本社ビルで、斉藤社長と会談した私は事務所に戻るべく、再び東京駅に向かった。
 といっても、その前から出ているバスに乗れば乗り換え無しで帰れる。

 高橋:「先生。1つ思ったんですけど……」
 愛原:「何だ?」

 バスに乗り込み、後ろの席に座って高橋が言った。

 高橋:「あれだけの大企業のトップに会いに行くのに、都営バスってのもどうかと……」
 愛原:「別に、堂々とエントランスから入って受付することに変わりは無いんだからいいだろうが」

 私はそう言ったのだが、確かに恐らく都営バスで社長に会いに行くVIP客もいるまい。
 そりゃ新幹線で上京してきて、そこから徒歩であのビルに向かうというのはあるだろう。
 本社ビルは東京駅から歩いて行ける距離にあるからだ。
 あとはハイヤーか、安くしてもタクシーといったところか。
 ハイヤーならそのまま地下駐車場に入って行き、VIP用車寄せからビル内に入って行くことができるからだ。

 愛原:「経費削減の折、公共交通機関に拘ってしまったが、今度はタクシーくらいチャーターするか」
 高橋:「レンタカーを手配してくれれば、俺が運転しますよ?」
 愛原:「……いや、それは遠慮しておく」

 私は肩を竦めた。
 と、時間になったのか、バスにエンジンが掛かる。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスが走り出す。
 それにしても、最近のバスは前扉が再び折り戸になり、折り戸のすぐ後ろの展望席も無くなったものだ。
 で、オートマが増えつつある。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは日本橋、門前仲町、東京都現代美術館前経由、錦糸町駅行きでございます。次は呉服橋、呉服橋。朝日生命大手町ビル、日本ビルヂング、丸の内中央ビル、東京駅日本橋口へおいでの方は、こちらが便利です。次は、呉服橋でございます〕

 愛原:「このバスで行くと、ちょうどお昼くらいに事務所に着けるな。ついでに昼飯を買って行こう」
 高橋:「そうっスね」
 愛原:「高野君と……どうせリサもいるだろうから、何がいいか聞いてみよう」

 私はスマホを取り出した。
 因みに都営バスでは、一般路線バスにしては珍しくWi-Fiが導入されている。
 一部には運転席の後ろにモニターも付いているし、さすが予算が潤沢にある公営バスは違う。

 愛原:「高野君は照り焼きマックバーガーのセット、リサがビッグマックのセットだって」
 高橋:「結局、マックに走るわけですか」
 愛原:「まあ、いいや。たまにはハンバーガーもいいだろう。吉牛はこの前食べたし」
 高橋:「先生が仰るなら、吝かではないですが……」
 愛原:「俺のdポイントカード使ってくれ」
 高橋:「分かりました」

[同日11:55.天候:曇 東京都墨田区菊川 都営バス菊川駅前バス停→マクドナルド菊川駅前店→愛原学探偵事務所]

〔ピンポーン♪ 次は菊川駅前、菊川駅前でございます。都営地下鉄新宿線、都営バス、東京すかいつりー駅方面と築地駅方面はお乗り換えでございます。次は、菊川駅前でございます〕

 愛原:「そういえば、絵恋さんのマンションもこの近くだったよなぁ?」
 高橋:「な、何スか?奴らのマンションは、新大橋通り沿いっスよ?ぶっちゃけ、次の次のバス停の辺りっス」
 愛原:「俺は絵恋さんのマンションだと言ったのに、高橋君は『切り裂きパール』も思い浮かべたわけだね」
 高橋:「せんせぇ……」
 愛原:「ああ、悪かった悪かった」

〔「ご乗車ありがとうございました。菊川駅前です。菊川駅の入口は、バスの進行方向に進んだ先の交差点にございます」〕

 私達はバスを降りた。

 愛原:「明日は迎えの車が来るって話だからな。絵恋さんも一緒に乗って行くんだとしたら、もしかしたら霧崎さんも一緒かもしれんぞ?」
 高橋:「!」

 やれやれ。
 これでゲイぶりが治ってくれればいいんだが。

 愛原:「ただいまー」

 マックに寄って頼まれた物を買い、両手にビニール袋を提げて私達は意気揚々と引き揚げた。

 高野:「お疲れ様です、先生」
 リサ:「お帰りなさい、先生」
 愛原:「うーっス。お昼にしよう。早速買って来たぞー」
 リサ:「わー♪」

 リサは喜びの余り、第1形態に戻ってしまった。
 これだけなら、まだ体が赤銅色に変わり、額に一本角が生え、両耳が長く尖り、両手の爪も尖る程度で済むのだが……。
 いや、確かにこれだけでも相当の変化だとは思う。
 だけど、まあ、まだ御愛嬌な方か。
 因みに犬歯も尖るので、ますます鬼のようだ。

 愛原:「リサ、明日、絵恋さんの家に行くぞ。埼玉の方だ」
 リサ:「ほーなの?」

 リサ、口いっぱいにハンバーガーを頬張りながら答えた。

 愛原:「斉藤社長が夕食会を開くって言うから、お前も一緒に来い。多分、絵恋さんも一緒だ」
 リサ:「りょーかい」
 高橋:「おい、コラ!先生に何だその口の利き方は!?『かしこまりました。先生』だろ!?」

 高橋はリサに向けてマグナムの銃口を向けた。

 高野:「マサ、そういうのは先生が注意するものよ。いいからあんたも食べな」
 愛原:「そうだよ。別に俺は気にしてないから。それに、リサにマグナムは効かないって何度言ったら分かるんだ」

 マグナム弾を頭に受けても、『痛っ!』で済むようなレベルだぞ?
 普通なら、頭が潰れたトマトになって即死するところを。
 それをリサも知ってか、はたまた高橋が本当に撃つわけないと思っているのか、リサは全く気にせずハンバーガーを食べている。

 リサ:「一個じゃ足りないかな……」
 愛原:「ほら、こんなこともあろうかと、予備を買っておいた」

 私は単品で購入したチーズバーガーをリサに渡した。

 リサ:「さすが先生!」
 愛原:「セットのポテトもあるから、それも食っていいから」

 食欲旺盛な所は育ち盛りだからというのも去ることながら、やっぱりそういうことには貪欲なBOWなんだからだろうな。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤社長の帰国」

2020-04-05 11:32:54 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月13日09:41.天候:曇 東京都墨田区菊川 都営バス菊川駅前バス停→都営バス東20系統車内]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 先日、ついに斉藤社長が帰国した。
 しかしマスコミの囲み取材は答えず、無言で迎えの車に乗ったのがテレビで観た社長の姿だった。
 その後で正式な記者会見をしたのだが、社長の答えは、新型コロナウィルスに対して有効と確認できるワクチンを手に入れることはできなかったというものだった。
 では一体、何の為にヨーロッパに行ったのか?ただの国外逃亡だったのではないかという批判に対しては、まるで政治家のように交わしていった。

 高橋:「先生、バス来ましたよ」
 愛原:「ああ」

 私と高橋はこれから斉藤社長に会いに行く。
 どんな話が聞けるのだろう。
 バスに乗り込むと、後ろの席に座った。
 本数の少ないバス路線であるから、そんなにいつも混んでいるわけではないのだが、今日は尚更空いているような気がした。
 大日本製薬を始め、多くの大企業ではそろそろテレワークなどを始めているらしい。
 それに、学生達も自宅待機からそのまま春休みに入ったということもあろうか。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスが走り出す。
 大日本製薬も、研究所などではテレワークは無理だろう。
 できるのは本社の事務部門とか、それくらいではなかろうか。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは東京都現代美術館、門前仲町、日本橋経由、東京駅丸の内北口行きでございます。次は森下五丁目、森下五丁目でございます。……〕

 愛原:「どうなんだ?霧崎さんのことは?」
 高橋:「俺は先生一筋ですんで、あいつのことなんかどうでもいいんです」
 愛原:「お前はLGBTのGだと思っていたが、実はBなんじゃないのか?」
 高橋:「そ、そんなことはないっス」

 確かに思いっ切り影のあるメイドさんであるが、容姿はけして悪くはない。
 彼女が事件を起こした時、未成年だったということもあって、実名報道だの顔写真だのは出てこなかった。
 高橋に言わせれば、当時の『切り裂きパール』はポッチャリしていた上、メイクも派手で、いかにもヤンキー女って感じだったらしい。
 今はむしろほっそりしていて、メイクも地味だ。
 メイドカフェの店員の中には、コスプレの一環なのか、派手なメイクをしている者もいるというのに。

 愛原:「いいんだって。気にするなよ。男の俺を追い掛けるより、女の尻を追い掛ける方が男にとってはごくごく自然なことだから」
 高橋:「俺は今は一流の探偵目指して勉強中です。そんなヒマはありませんよ」
 愛原:「はは、そうか」

 硬派ぶっているが、私には強がっているように見えたがな。

[同日10:30.天候:曇 東京都千代田区丸の内 大日本製薬本社]

 終点でバスを降り、東京駅に程近い高層ビルの中に大日本製薬はある。
 そこの総合受付で、見目麗しい容姿の受付嬢に用件を伝える。
 高橋にも一応スーツは着させているが、やっぱりどうしてもこいつが着ると歌舞伎町のホストみたいになってしまう。
 顔に傷跡があるホストなんかモテるのかと思うかもしれないが、『だが、それがいい』という女性客も一定数いるようだ。
 俗に言うオラオラ系というか、ワルだった頃の武勇伝を聞くのが好きな女とか……いるのかと思うのだが、いるらしいな。

 受付嬢:「お待たせ致しました。それでは奥のエレベーターで、30階へどうぞ」
 愛原:「ありがとうございます」

 私と高橋はVIP用ゲストカードを受け取った。
 これは役員エリアに向かう来訪者に渡すものらしい。
 受付嬢は私に渡す時は普通の対応だったが、高橋に渡す時は何故か生唾を飲み込むような仕草になった。
 本人は気づいていないが、イケメンなんだよなぁ……。

 愛原:「それじゃ、行くぞ」
 高橋:「はいっ!」
 警備員:「それでは、こちらのゲートからお通り下さい」

 警備員の敬礼に迎えられて、役員エリアに向かうエレベーターホールに入る。
 さすがにオフィスビルということもあってか、外が見えるエレベーターではなかった。

〔ピンポーン♪ 30階です〕

 エレベーターで一気に上がると、耳がツーンとなるのはセオリー。

 秘書:「お疲れ様でございます。ご案内させて頂きます」
 愛原:「どうもすいません」

 私達は女性秘書についていった。
 役員エリアということもあって、その空間はとてもシックな造りになっている。

 秘書:「こちらでございます」

 応接室に通された。
 もう1つドアがあるが、そこが社長室だろう。

 高橋:「先生も、いずれはこのようなビルに……」
 愛原:「いや~、さすがに無理だろう」
 高橋:「先生ならきっとできますよ」
 愛原:「プレッシャー掛けないでくれよ」

 大手の探偵会社の中には、立派なオフィスビルを構えている所もあるにはあるが……。
 警備会社だって超大手のセコムやアルソックであれば、今私達がいるビルに匹敵する規模の本社ビルを構えているくらいだ。

 秘書:「失礼致します」

 秘書さんがお茶を持ってきてくれる。

 愛原:「あ、こりゃどうも。どうぞ、お構いなく……」

 やはり、もう1つのドアは社長室なのだろう。
 そこから斉藤社長が出て来た。

 斉藤秀樹:「やあ、どうも。今日は御足労ありがとうございます」
 愛原:「いえいえ。仕事の依頼とあらば、どこへでもお伺い致しますよ」
 秀樹:「残念ながら、今日は仕事の依頼ではないのですよ。もっとも、この前の仕事の報酬追加払いの話ではありますがね」
 愛原:「追加払い?」
 秀樹:「娘が色々とお世話になりましたからね」
 愛原:「さすがにBOWは想定外でしたが、何とかなりましたので。それで、娘さんは今後どうなさるおつもりですか?」
 秀樹:「ドイツの愚息を折檻してきまたよ。妹……つまり、娘を勝手に実験台にした廉でね」
 愛原:「実験台!?」
 秀樹:「全く。あれでは昔のアンブレラと何ら変わることが無い。ワクチンというのは、そのウィルスを弱毒化または無毒化したものであることは愛原さんも御存知ですね?」
 愛原:「ええ。インフルエンザのワクチンなんか、その代表例ですね。あとは、BCGとか……」
 秀樹:「ええ。ワクチン同士であっても実験はできると見た愚息が娘を勝手に実験台にしました。目論見は成功し、娘はああなったというわけです」
 愛原:「そりゃヒドい」
 秀樹:「しばらく日本に帰って来なくていいと言っておきました。本当なら留学そのものを中止させて強制帰国させようかと思ったんですが、どうもこの先、むしろそうしない方がいいような気がしましてですね」
 愛原:「何かあるんですか?」
 秀樹:「新型コロナウィルスの猛威は更に酷くなるでしょう。さしもの日本も、鎖国せざるを得ない。そんな状況になりそうです」
 愛原:「ええっ!?」
 秀樹:「もちろん江戸時代以前じゃあるまいし、鎖国はオーバーな表現ではありましょうが、しかしそれくらいの勢いの対応を政府は迫られるということです。ヨーロッパでは既にその対応を始めている。到底オリンピックどころではないわけです」
 高橋:「『中止だ、中止!』」
 愛原:「高橋」
 高橋:「サーセン……」
 秀樹:「とにかく愚息にはワクチンを作らせました。それを娘に投与すれば、娘はまた元に戻れるはずです。手遅れでなければ、の話ですが」
 愛原:「じゃあ、急いで打ちませんと」
 秀樹:「今日、娘が都内の病院に行っているはずです。その時、投与されるはずです」
 愛原:「おお~」
 秀樹:「そこでやっぱり仕事の依頼をしたいのですが、娘の様子を見に行ってはもらえませんか?病院の場所はお教えします」
 愛原:「あ、はい。もちろん、喜んで」
 秀樹:「報酬は……そうですね。明日、お支払いしましょう」
 愛原:「明日は土曜日ですが?」
 秀樹:「私の家に来てください。もちろん、リサさんも連れてね」
 愛原:「なるほど」

 夕食会でも開こうって話か。
 飲食店とかはウィルスが怖いから、家に集まろうって話なのかな。
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