[3月14日18:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は大口クライアントの1人で、大手製薬会社社長の斉藤秀樹氏の家に招かれた。
新庄:「到着しました。お疲れさまでした」
愛原:「ありがとうございました」
スライドドアが自動で開く。
助手席の後ろに座っていた私が一番先に降りることになるが、助手席の霧崎さんがそれより先に降りた。
玄関のドアが開いて、中から他のメイド達が出て来た。
新庄:「御嬢様のお荷物だ。しっかり持って」
メイドA:「はい」
霧崎:「皆様、どうぞ。こちらへ」
愛原:「お邪魔します」
何度かこちらの御宅にはお邪魔させて頂いているのだが、何度来ても豪邸には慣れないものだな。
斉藤秀樹:「やあ、愛原さん、来てくれましたか!」
愛原:「社長、この度はお招き頂き、ありがとうございます」
秀樹:「娘が世話になりましたからね。これくらい当然ですよ。どうぞ、お上がりください」
愛原:「失礼します」
私は早速靴を脱いでスリッパに履き替えた。
途中にあるリビングに行くと、壁には絵の他に……。
高橋:「先生、ショットガンが飾ってありますよ」
愛原:「あ、本当だ」
古い型のショットガンである。
恐らく、ウィンダム辺りだろう。
ポンプアクションタイプで、私のような素人が使おうとする場合、リロードするのにちょっと手間が掛かるのが難点……って、そんなことを話せるのが既にヤバいな。
秀樹:「ああ、これですか。用心の為に飾っているものです。もちろん、本物です。ああ、当然許可は取ってありますよ。誰でも取れないように、固定してあります。固定具を外すには、ちょっとした仕掛けを解く必要があります」
愛原:「社長、失礼ですが、これではまるで今後それが必要になる展開のフラグのように思われますが?」
秀樹:「それが無いことを祈りましょう」
ゲームや映画だとガチだよ。
ダイニングの方からはいい匂いがした。
秀樹:「夕食の方、今用意している所です。もうしばらくここでお待ちください」
愛原:「ありがとうございます」
絵恋:「お父さん、リサさんが今日泊まるわ。いいでしょ?」
秀樹:「ああ、いいとも。ゆっくりしていってね」
リサ:「はい」
愛原:「うちのリサがお世話になります」
秀樹:「何でしたら、愛原さん達もお泊りになっても結構ですよ」
愛原:「いやいやいや、それはさすがに厚顔無恥というものです」
秀樹:「遠慮なさらなくて結構ですよ。私も今日と明日は自宅待機ですから」
愛原:「そりゃ明日は日曜日ですから……はっ!もしかして?」
秀樹:「ええ。お気づきの通りです。もう既に私達、経済界の間では、ゴルフすら自粛の対象ということですよ。そしてこの波は、明らかに酷くなる」
愛原:「リサのウィルスは役に立てそうにないですか」
秀樹:「それはまだ分かりませんね。『BOWが病気になったのを見たことが無い』だけで、全く罹らないとは限らないのですから」
実験ではリサの場合、インフルエンザはもちろん、エボラ出血熱ですら持ち前のTウィルスやGウィルスで撃退できたということだが……。
問題はそれを普通の人に使えるよう、どう調整したらいいのか、か。
ヘタすりゃ投薬した途端、ゾンビ化なんてあり得るもんな。
絵恋:「リサさん、私の部屋に行きましょ。荷物置いて来るのよ」
リサ:「うん」
絵恋さんとリサは連れ立って、階段の方に向かった。
その横にはホームエレベーター(家庭用エレベーター。トイレくらいの広さ)もあるから、それで上がったかもしれない。
確か、絵恋さんの部屋は3階だと聞く。
秀樹:「愛原さんも高橋さんも、本当に遠慮なさらなくていいのですよ?」
愛原:「そうですねぇ……」
その時、私は高橋が上の空だということに気づいた。
高橋の視線を追うと、霧崎さんがリサの荷物を持って3階に向かう所だった。
他のメイドさんは食事の支度をしているが、霧崎さんは絵恋さん専属なので仕事が違うのだろう。
愛原:「では、お言葉に甘えて、一泊だけ……」
秀樹:「どうぞ、ごゆっくり。後で部屋を用意させましょう」
愛原:「着替えとか、後でコンビニで買ってくるか」
高橋:「そうっスね」
秀樹:「寝巻なら洗濯済みの浴衣がありますので、それをお貸ししますよ」
愛原:「随分用意がいいんですね?」
秀樹:「こういう立場だと、急な来客とかたまにありますのでね。……あ、ちょっと」
メイドB:「はい、旦那様」
秀樹:「食事の支度が終わったら、客間の用意をしてくれ。こちらの方々が今夜、お泊りになるから」
メイドB:「かしこまりました」
愛原:「客間はどちらにあるんですか?」
秀樹:「1階の奥です。和室タイプですので、布団を2組用意します」
愛原:「なるほど……」
私は一瞬迷ったが、この話を切り出した。
愛原:「ここのメイドさん達は泊まり込みですか?それとも通いで……」
秀樹:「今、食事の用意をしているのが通いです。泊まり込み……つまり、住み込みなのが、運転手の新庄君と娘の世話係の霧崎君ですね」
愛原:「そうですか」
秀樹:「うちの使用人で、何か気になることでも?」
愛原:「あ、いえ……」
秀樹:「せっかく来て頂いたのですから、もっとざっくばらんな話でも構いませんよ?」
愛原:「失礼ですが、霧崎さん、何かワケありのようにお見受けするのですが……」
秀樹:「ああ、そのことですか。さすがは洞察力に優れた名探偵ですな。霧崎君に限らず、あそこで食事の用意をしている2人も……あまり大きな声では言えないワケがあるんですがね」
愛原:「えっ?」
秀樹:「私だって根っからの罪人、悪人を1つ屋根の下に置くつもりはありませんよ。彼女らは不幸にも、人生のレールに置き石をされたことで脱線・転覆した列車に乗ってしまったのです。その列車の復旧作業を私は手伝ったに過ぎない。新庄君もですよ」
愛原:「えっ!?」
秀樹:「愛原さんが高橋さんというワケありの人材を登用したのと同様、私も似たようなことをしただけのことなのです」
高橋の場合は押し掛け弟子みたいなものだが……。
高橋:「通りで皆して、『臭い』と思ったぜ……」
愛原:「社長、いち早く気づいたのは私ではなく、むしろ彼だったりするんですが」
秀樹:「優秀な助手を登用できるのも、その探偵の優秀性を表すステータスですよ」
高橋:「さすが社長。少しリスペクトっス」
愛原:「もっとリスペクトして差し上げろよ!」
秀樹:「まあまあ。……そろそろ食事が出来上がるようです。どうぞ、ダイニングの方へ」
愛原:「あ、はい。ありがとうございます」
メイドB:「旦那様、食事の御用意が整いました」
秀樹:「うん、ありがとう。娘達を呼んで来てくれ」
メイドB:「かしこまりました」
私達はリビングの隣のダイニングに移動した。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は大口クライアントの1人で、大手製薬会社社長の斉藤秀樹氏の家に招かれた。
新庄:「到着しました。お疲れさまでした」
愛原:「ありがとうございました」
スライドドアが自動で開く。
助手席の後ろに座っていた私が一番先に降りることになるが、助手席の霧崎さんがそれより先に降りた。
玄関のドアが開いて、中から他のメイド達が出て来た。
新庄:「御嬢様のお荷物だ。しっかり持って」
メイドA:「はい」
霧崎:「皆様、どうぞ。こちらへ」
愛原:「お邪魔します」
何度かこちらの御宅にはお邪魔させて頂いているのだが、何度来ても豪邸には慣れないものだな。
斉藤秀樹:「やあ、愛原さん、来てくれましたか!」
愛原:「社長、この度はお招き頂き、ありがとうございます」
秀樹:「娘が世話になりましたからね。これくらい当然ですよ。どうぞ、お上がりください」
愛原:「失礼します」
私は早速靴を脱いでスリッパに履き替えた。
途中にあるリビングに行くと、壁には絵の他に……。
高橋:「先生、ショットガンが飾ってありますよ」
愛原:「あ、本当だ」
古い型のショットガンである。
恐らく、ウィンダム辺りだろう。
ポンプアクションタイプで、私のような素人が使おうとする場合、リロードするのにちょっと手間が掛かるのが難点……って、そんなことを話せるのが既にヤバいな。
秀樹:「ああ、これですか。用心の為に飾っているものです。もちろん、本物です。ああ、当然許可は取ってありますよ。誰でも取れないように、固定してあります。固定具を外すには、ちょっとした仕掛けを解く必要があります」
愛原:「社長、失礼ですが、これではまるで今後それが必要になる展開のフラグのように思われますが?」
秀樹:「それが無いことを祈りましょう」
ゲームや映画だとガチだよ。
ダイニングの方からはいい匂いがした。
秀樹:「夕食の方、今用意している所です。もうしばらくここでお待ちください」
愛原:「ありがとうございます」
絵恋:「お父さん、リサさんが今日泊まるわ。いいでしょ?」
秀樹:「ああ、いいとも。ゆっくりしていってね」
リサ:「はい」
愛原:「うちのリサがお世話になります」
秀樹:「何でしたら、愛原さん達もお泊りになっても結構ですよ」
愛原:「いやいやいや、それはさすがに厚顔無恥というものです」
秀樹:「遠慮なさらなくて結構ですよ。私も今日と明日は自宅待機ですから」
愛原:「そりゃ明日は日曜日ですから……はっ!もしかして?」
秀樹:「ええ。お気づきの通りです。もう既に私達、経済界の間では、ゴルフすら自粛の対象ということですよ。そしてこの波は、明らかに酷くなる」
愛原:「リサのウィルスは役に立てそうにないですか」
秀樹:「それはまだ分かりませんね。『BOWが病気になったのを見たことが無い』だけで、全く罹らないとは限らないのですから」
実験ではリサの場合、インフルエンザはもちろん、エボラ出血熱ですら持ち前のTウィルスやGウィルスで撃退できたということだが……。
問題はそれを普通の人に使えるよう、どう調整したらいいのか、か。
ヘタすりゃ投薬した途端、ゾンビ化なんてあり得るもんな。
絵恋:「リサさん、私の部屋に行きましょ。荷物置いて来るのよ」
リサ:「うん」
絵恋さんとリサは連れ立って、階段の方に向かった。
その横にはホームエレベーター(家庭用エレベーター。トイレくらいの広さ)もあるから、それで上がったかもしれない。
確か、絵恋さんの部屋は3階だと聞く。
秀樹:「愛原さんも高橋さんも、本当に遠慮なさらなくていいのですよ?」
愛原:「そうですねぇ……」
その時、私は高橋が上の空だということに気づいた。
高橋の視線を追うと、霧崎さんがリサの荷物を持って3階に向かう所だった。
他のメイドさんは食事の支度をしているが、霧崎さんは絵恋さん専属なので仕事が違うのだろう。
愛原:「では、お言葉に甘えて、一泊だけ……」
秀樹:「どうぞ、ごゆっくり。後で部屋を用意させましょう」
愛原:「着替えとか、後でコンビニで買ってくるか」
高橋:「そうっスね」
秀樹:「寝巻なら洗濯済みの浴衣がありますので、それをお貸ししますよ」
愛原:「随分用意がいいんですね?」
秀樹:「こういう立場だと、急な来客とかたまにありますのでね。……あ、ちょっと」
メイドB:「はい、旦那様」
秀樹:「食事の支度が終わったら、客間の用意をしてくれ。こちらの方々が今夜、お泊りになるから」
メイドB:「かしこまりました」
愛原:「客間はどちらにあるんですか?」
秀樹:「1階の奥です。和室タイプですので、布団を2組用意します」
愛原:「なるほど……」
私は一瞬迷ったが、この話を切り出した。
愛原:「ここのメイドさん達は泊まり込みですか?それとも通いで……」
秀樹:「今、食事の用意をしているのが通いです。泊まり込み……つまり、住み込みなのが、運転手の新庄君と娘の世話係の霧崎君ですね」
愛原:「そうですか」
秀樹:「うちの使用人で、何か気になることでも?」
愛原:「あ、いえ……」
秀樹:「せっかく来て頂いたのですから、もっとざっくばらんな話でも構いませんよ?」
愛原:「失礼ですが、霧崎さん、何かワケありのようにお見受けするのですが……」
秀樹:「ああ、そのことですか。さすがは洞察力に優れた名探偵ですな。霧崎君に限らず、あそこで食事の用意をしている2人も……あまり大きな声では言えないワケがあるんですがね」
愛原:「えっ?」
秀樹:「私だって根っからの罪人、悪人を1つ屋根の下に置くつもりはありませんよ。彼女らは不幸にも、人生のレールに置き石をされたことで脱線・転覆した列車に乗ってしまったのです。その列車の復旧作業を私は手伝ったに過ぎない。新庄君もですよ」
愛原:「えっ!?」
秀樹:「愛原さんが高橋さんというワケありの人材を登用したのと同様、私も似たようなことをしただけのことなのです」
高橋の場合は押し掛け弟子みたいなものだが……。
高橋:「通りで皆して、『臭い』と思ったぜ……」
愛原:「社長、いち早く気づいたのは私ではなく、むしろ彼だったりするんですが」
秀樹:「優秀な助手を登用できるのも、その探偵の優秀性を表すステータスですよ」
高橋:「さすが社長。少しリスペクトっス」
愛原:「もっとリスペクトして差し上げろよ!」
秀樹:「まあまあ。……そろそろ食事が出来上がるようです。どうぞ、ダイニングの方へ」
愛原:「あ、はい。ありがとうございます」
メイドB:「旦那様、食事の御用意が整いました」
秀樹:「うん、ありがとう。娘達を呼んで来てくれ」
メイドB:「かしこまりました」
私達はリビングの隣のダイニングに移動した。