報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「帰京」

2019-01-14 19:25:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月2日12:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 魔法陣に飛び込んで、再びワンスターホテルに戻って来た。
 エレーナの部屋の脇を通るが、どうやらエレーナはいないようだ。
 エレベーターで地下1階から1階へと上がる。

 稲生:「おや?」

 ロビーにはまだ他の組の魔道師達がたむろしていた。
 で、窓の外を見るとアナスタシア組の面々が黒塗りの車3台に分乗して立ち去る所であった。

 稲生:「年末に外国に行ったと思ったら帰って来て、また出国ですかね?」
 イリーナ:「何だかんだ言って、この国が気に入ってるんだよね。ナスっち達は」
 稲生:「ふーん……。あ、そうだ。帰りの足を確保しないと……」

 稲生はスマホを取り出すと、アプリを起動してタクシーを呼んだ。
 機械を使ってはいるが、まあ、数百年前の人間が見たら、確かに魔法を使っているように見えるかもしれない。
 イリーナは他の組の指導者と思しき魔道師と話をしていたが、マリアは面識の無い他の組の魔女と積極的に話そうとしなかった。
 それは相手側もそうである。
 で、男一人の稲生はもっと蚊帳の外。
 いたたまれなくなって、エントランスの外に出る。
 すると、そこへ何台ものハイヤーが到着した。
 で、ロビーでたむろしていた魔道師達がぞろぞろ出て来る。
 組の指導者と思しき魔道師が、颯爽とリアシートに乗り込む。
 後から続いて乗る弟子達。
 その様子を見ていた稲生は、ハッとした。

 稲生:「しまった!」

 頭を抱える稲生を他所に発車して行くハイヤー達。
 入れ違うように、1台のタクシーがやってきた。

 運転手:「稲生様ですか?」
 稲生:「あ……はい」

 イリーナもまた大魔道師なのだから、ハイヤーを予約するべきであった。
 一応、黒塗りのハイグレードタクシーではある。

 イリーナ:「おっ、車来た?」
 稲生:「あ、はい」

 イリーナとマリアは何の疑いも無く、リアシートに乗り込んだ。
 稲生は冷や汗をかきながら助手席に乗り込む。

 稲生:「JR上野駅までお願いします」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 運転手はメーターを作動させると、車を発進させた。
 メーターは魔界で乗った朧車のそれと違って液晶表示である。

 イリーナ:「何だかお腹減ったねぇ」
 マリア:「もうランチの時間ですよ」
 イリーナ:「アルカディアと日本じゃ、時差が無いから楽でいいね」
 マリア:「それはあの魔法陣が完璧だからですよ。本来だったら、時差どころのレベルじゃないでしょ?」
 イリーナ:「まあ、そうなんだけどね。もっと楽して冥鉄の列車に便乗するという手もあるんだけど、日本のどこに着くか分かんないしね」
 マリア:「さっき勇太と1番街駅を歩いていたら、一応次の列車の行き先は案内してましたよ?」
 イリーナ:「どこ?」
 マリア:「西鉄福岡ですって」
 イリーナ:「……んっ?さんの所へ行かせるフラグかしら?」
 マリア:「分かりません」

 リアシートに座る魔女達が他愛もない話をしているのを聞いて、稲生はホッとした。
 タクシーかハイヤーか、そういうのを気にしない2人で良かったと。

 イリーナ:「勇太君」
 稲生:「な、何でしょう?」
 イリーナ:「上野駅に着いたら、電車に乗る前にランチをしたいわ」
 稲生:「りょ、了解しました。いい店を検索しておきます」
 イリーナ:「お願いね」
 マリア:「師匠の水晶球で一発検索できるんじゃないですか?」
 イリーナ:「魔力の無駄使いはダメよ。機械に頼れるなら、その方がいい。覚えておきなさい」
 マリア:「はあ……」

[同日12:30.天候:晴 JR上野駅]

 稲生達を乗せたタクシーは、JR上野駅に到着した。
 料金の支払いはイリーナ得意のプラチナカードである。
 その為、タクシーを予約する際は必ずクレカの使える会社を指定していた。

 イリーナ:「これだけの大きなターミナル駅なら、美味しいお店もありそうね」
 稲生:「はい。どうぞ、こちらです」

 駅構内に入る3人。

 稲生:「先生、先ほどは失礼しました」
 イリーナ:「えっ、何が?」
 稲生:「他の先生方が自前の車やハイヤーを用意している中、僕はタクシーを頼んでしまって……。本当はハイヤーでなければいけないのに……」
 イリーナ:「いいよ。東京のタクシーは、ハイヤーと変わらないし」
 稲生:「そうですかね……」
 イリーナ:「昔、本当におカネが無かった時は、ヒッチハイクや貨物列車に便乗して旅をしたものさ。それと比べれば、タクシーでも贅沢なものよ」
 マリア:「でも今度は、ちゃんとハイヤー呼んであげなよ」
 稲生:「はい、すいません」
 マリア:「後ろに棺が乗せられるヤツw」

 ボコッ!

 マリア:「It heart!(痛っ!)」

 マリアのおフザケにゲンコツを食らわせるイリーナ。
 因みに英文の綴りだけ読むと、『イット・ハート』であるが、実際は早口で言う為、本当に日本語で『痛っ!』と聞こえるという。

 イリーナ:「アタシゃまだ霊柩車に乗るのは早いよ?マリアにはもう少し指導が必要ね」
 マリア:「は、はい。そうしてください」
 イリーナ:「ん?」

 稲生はキップ売り場に行くと、そこから大宮までの乗車券とグリーン券を購入した。

 イリーナ:「あれ?電車に乗る前にランチって言わなかった?」
 ランチ:「電車に乗りながらランチ?そうか。Ekiben(駅弁)だな」
 稲生:「違いますよ。改札の中にその店があるんです」
 イリーナ:「あ、そういうこと」
 マリア:「Ekinakaか。さすがは勇太だな」
 イリーナ:「日本国内の移動は勇太君に任せて安心だものね」
 稲生:「ありがとうございます。その代わり、ロシア国内の移動とイギリス国内の移動はお願いします」
 イリーナ:「そうね。いずれはシベリア鉄道に乗せてあげるわ」
 マリア:「列車内で“魔の者”と格闘しそうで怖いです」

 改札内にあるイタリアンカフェに入った。

 稲生:「今日のお昼はパスタにしましょう」
 イリーナ:「なるほど。マリアの人形達の作るパスタも美味しいけど、たまには別の味を楽しむのもオツなものね」

 なるべくコンコースが見える席……というよりは電車が見える席を選んだ稲生だった。
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「新年の挨拶」

2019-01-14 10:14:41 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月2日10:15.天候:晴 魔界王国アルカディア 王都アルカディアシティ南部・南端村郊外 稲荷神社]

 威吹:「いや、申し訳ないね。うちの弟子が……」
 坂吹:「…………」

 威吹の横で不貞腐れるような感じで正座する坂吹の姿があった。
 ギャグマンガであれば、頭にでっかいタンコブが出ていたことだろう。
 威吹に引っ叩かれた痕である。

 稲生:「いやー、ビックリしたよ。なに?坂吹君、そんなに強くなったんだ?」
 威吹:「こやつが、『狐火を遠くへ放つ技が成し遂げられたら凄い』というものだから、研究を任せてみたのだが……」

 妖狐にとって狐火の妖術は基本中の基本である。
 南光坊天海僧正の伝説にもある。
 駿府において病気に倒れた天海僧正を江戸から名医が向かったが、箱根の峠で夜を迎え、遭難しかけた。
 そこへ大勢の妖狐達が現れ、それぞれが狐火を出して道を照らし、医者を無事に峠の向こうまで誘導したのだという。

 稲生:「とんだ『高射砲』が出来上がったわけだ」
 坂吹:「昨夜は巨竜が上空を飛んでいました。きっと威吹先生に仇なさんとした輩の偵察ではないかと思い……」
 マリア:「それ、私達なんだけど?」
 稲生:「敵が朧車に乗って現れるなんて、逆にお笑いだよ」
 威吹:「だよなぁ。いや、ゴメンゴメン。ボクはついてっきり、坂吹が狐火の練習をしていると思っていたんだ」
 稲生:「いや、もういいよ。……はい、これが新年の挨拶」

 稲生は魔道師のローブの中から日本酒の一升瓶を取り出した。

 威吹:「おおっ、かたじけない!……歳暮に牛の肉までもらっておきながら、何の返しもできず、申し訳ない」
 マリア:「狐火のお返しはもらったけどな」
 稲生:「マリアさん!」
 マリア:「それより、勇太がこれだけ足を運んだんだ。勇太と使い魔の契約をする気は無いか?」
 稲生:「あ、そういえばそんな話もありましたね」
 マリア:「忘れてたの?」
 稲生:「あ、いや、ハハハ……」
 坂吹:「ただの人間が相手なら、先生ほどの御方がと反対するところですが、稲生さんだったらいいと思いますよ」
 威吹:「ふーむ……。もうしばらく、考えさせてくれ」
 稲生:「よろしく頼むよ。使い魔といっても、難しいことをしてもらおうなんて話じゃない。昔みたいな関係でいいんだ」
 威吹:「つまり、キミを敵から守る為の護衛か」
 稲生:「そんなところ」

 稲生は大きく頷いた。

[同日11:00.天候:晴 環状線内回り電車(モハ40系)内→1番街駅→魔王城]

〔「まもなく1番街、1番街です。お出口は、右側です。中央線、地下鉄線、軌道線はお乗り換えです。この電車は、デビル・ピーターズ・バーグまで急行運転を行います」〕

 焦げ茶色に塗装された電車がホームに入線する。

 マリア:「積もる話もあっただろうに、もう帰るの?」
 稲生:「威吹も家族持ちですからね。あんまりお邪魔はできませんよ」
 マリア:「なるほど」

 鉄道博物館における静態保存でしか見られないモハ40系が、魔界では現役。
 かつては急行電車用にモハ80系などもいたのだが、環状線のダイヤはいい加減(ダイヤが乱れると回復運転の為に各駅停車が急行に変わる、ニューヨーク地下鉄方式)なので、使い勝手が悪いのだろう。

〔1番街〜、1番街〜。中央線は3番線と4番線、地下鉄線は地下ホーム、軌道線は駅の外です。5番線は環状線内回り、急行電車です。デビル・ピーターズ・バーグまで急行です」〕

 山手線で言えば東京駅から池袋駅まで快速運転しようというもの。
 停車駅は京浜東北線よりも少なく、上野東京ライン並みである。
 沿線の利権によって停車駅がころころ変わるJRとは違うのだ(特に御徒町駅)。

 稲生達は電車を降りた。
 因みに1番線と2番線は、貨物ホームである。
 冥界鉄道公社からやってくる貨物列車がアルカディアシティへの物資を運搬にやってくるのだが、中には人間界では『幽霊電車』と呼ばれる列車もやってくることがある。
 稲生が乗った埼京線の最終電車も、そのうちの1つだ。
 冥界鉄道公社からの片乗り入れの為、魔界高速電鉄が乗り入れすることはないが、多くは当駅折り返し回送となる為、誤乗客は元の世界に帰ることができず、めでたくこの国の住民となるわけである。
 稲生達のような魔道師のように、魔法で行き来ができない限りは無理である。
 或いはイリーナみたいな大魔道師がその地位(これも利権かな)を発揮して、回送列車に特別に乗せてもらうということも可能。

 マリア:「急ごう。そろそろ師匠が起きちゃうよ」
 稲生:「分かるんですか?」
 マリア:「長いことあの人の弟子やってるから、何となくね」
 稲生:「予知能力じゃないのかな?」

 2人は駅の外に出た。
 駅の放送で軌道線は駅の外と言っていたが、要は路面電車のターミナルがそこだということ。
 先述したように、魔界では自動車交通が全く無い。
 その為、人間界では駅の外がバスターミナルになっているのがセオリーだが、ここでは路面電車のターミナルになっている。
 もちろん辻馬車(タクシー)の乗り場は別にある。

 魔王城に戻る。
 ここでの入場はとても厳格なものであるが、魔道師(特に宮廷魔導師を輩出しているダンテ一門)はほぼフリーパス。
 但し、見習はマスターと共に入退場しなければならない。
 その為、稲生はマリアを伴っていたわけである。

 イリーナ:「おや、戻って来たのかい?」
 稲生:「はい。ただいま戻りました」
 イリーナ:「威吹君、使い魔の契約してくれるといいねぇ」
 稲生:「は、はい!」
 マリア:(見てたのか?)
 イリーナ:「皆、続々と人間界に引き上げているわ。私達も帰りましょう」
 稲生:「はい」

 荷物をまとめ、出発の準備をする。

 イリーナ:「それじゃ帰りましょうか」
 稲生:「先生。総理に挨拶とかしなくていいんですか?」
 イリーナ:「ああ見えて、あの人も忙しい人だからね」
 横田:「クフフフフフ……。横田です。先日の新年会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
 稲生:「うわっ、出たっ!」
 イリーナ:「お忙しい幹事長さんには挨拶は無理だから、それよりはヒマな理事さんに挨拶しておくわね」
 横田:「はい、この不肖横田。しかと御挨拶賜りましてございます。クフフフフフ……」
 イリーナ:「じゃ、帰りましょうか」

 マリアは相変わらず不快な顔をしていた。

 横田:「あ、マリアンナさん。そろそろ私のパンティーコレクションに、あなたの使用済みパンティーも……」
 マリア:「キモ!
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする