報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 終章 「希望」 final

2016-07-26 19:11:12 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月26日10:30.東京都内某所 愛原学探偵事務所]

 霧生市の事件の後、私達はまず病院に入院した。
 霧生市があった県の県庁所在地にある、大きな総合病院だ。
 既にその病院にあっては、霧生市の大惨事が未知のウィルス蔓延によるバイオハザードが原因だと分かっていたらしい。
 私達はすぐに検査され、ゾンビ化の傾向が無いかどうかを何度も確認された。
 だが不思議なことに、感染していた形跡はあったものの、ウィルスが見事に死滅していることに病院関係者は驚愕とした。
 そして、あの研究所から持ち出したワクチンの製造方法を病院に引き渡したのである。
 1週間の検査入院の後で退院できたが、その後、警察やら公安やらの事情聴取がたまらなかった。
 何だ何だ、これじゃゾンビ化しちゃった方が楽だったのかと思うくらい。
 さすがに最後にはマシンガンだのショットガンだの撃ちまくっていたなんて証言しようものなら、間違い無く捕まると思った。
 だけど、嘘はついちゃいけないなと思い、私は正直に話した。
 警察は困ったような顔をしていたが、こういうことも証拠が無いと銃刀法違反とかで逮捕できない。
 何しろ、マシンガンなどは持っていなかったのだから。
 恐らく警察も、丸腰ではあの町からの脱出は不可能だということは知っていたようだ。
 地元の霧生警察が全滅したくらいだからな。
 ただ、あの町からの生存者は私達の他にもいて、そんな彼らは私達のように銃を手に入れ、それでゾンビを倒しながらやっと町を出られた人達ばかりだった。
 多くの生存者がそれで生還したものだから、私達を含めて全員逮捕できるわけがない。
 さすがにここまで来ると、政府も黙ってはいられなくなり、官房長官がテレビで、
「霧生市から脱出してきた者に限り、そこで銃を使ったことに対する罪は問わない」
 なんて言い出した。
 この事件を受けて、せっかくアメリカ本国から生き残ったアンブレラ・ジャパンも新宿の超高層ビルに入居する本社に家宅捜索が入ったり、業務停止命令を受けたりと社会的信用を失い、そこの株券は紙くず同然となった。
 その為、後押しをしていた他の製薬会社も慌てて逃げ出して、アジアで唯一生き残っていたアンブレラはアジアからその存在を消すことになった。

 尚、霧生市は今、自衛隊と米軍が共同作戦で化け物達の掃討作戦に当たっている。
 当然、町への入口である県道は旧道・新道共に封鎖されている。
 実際にバイオハザードの対応に当たったことのある米軍が主導で行っているらしい。
 さすがに核兵器で持って焦土と化させるというようなことは、いくら何でも日本で行われることはない。

 因みに高木巡査長が追い掛けていた事件だが、一家惨殺事件だったらしい。
 忽然と一家全員が行方不明になって、全員が白骨死体となって見つかったそうだから、死後かなり経っているわけだ。
 そして、その一家の娘だけが今でも見つかっていない。
 調べてみると、その一家が行方不明になった日と仮面の少女が拉致された日がほぼ一致する。
 ということは、もしや……。
 因みに仮面の少女も一緒に病院に担ぎ込まれたはずたが、いつの間にか病院からいなくなっていた。
 さすがに彼女にあっては、民間の総合病院ではダメだと判断されたか。
 国家ぐるみで研究対象となったりしてな。
 もちろん、私が関係者に彼女の行方を聞いても教えてくれなかった。
 どこかで生きていてくれれば良いが……。
 曲がりなりにも、人間の少女の姿をしているのだから、政府のモルモットになることだけは避けてもらいたいものだ。

 高野氏は自分が所属する新聞社が消滅してしまったものだから、そこと資本関係のあった一般紙の新聞社に自分が溜めておいた取材内容を持ち込んだ。
 それは瞬く間に大きく取り上げられ、一般紙だけでなく、スポーツ新聞、更にそこと関係のあるテレビ局やネットニュースにまでなった。

 私達もしばらくはマスコミの取材などに追われ、通常営業ができなくなっていた。
 それもようやく一段落し、再び事務所で依頼者が来るのを待っていたのだが……。
「先生、ボスから電話です」
 高橋はあの事件があっても尚、変わる様子は無かった。
 ただ、時折夢の中でゾンビ無双しているような寝言を聞くことはある。
「はい、もしもし。お電話替わりました。愛原です」
{「私だ」}
「仕事の依頼が入りましたか?」
{「うむ。依頼人がまもなくそちらに向かうから、よく話を聞いてやってくれ。以上だ」}
「分かりました」
 どうでもいいけど、別にボスからの電話が無くても、クライアントがそのままうちの事務所に来ればいいだけの話じゃ?
 そう思っていると、ガラス戸の外側に人影が写った。
「こんにちはー」
「あれ!?」
 そこにいたのは高野氏だった。
「お久しぶりー。1ヶ月ぶりかな?」
「それくらいだね」
 私は彼女にソファを進めた。
「どこかの新聞社に転職したの?」
「うーん……それなんだけど、なかなかいい所無くって……」
「産経新聞は?一応、自分の愛読紙なんだけど……」
「いや、ちょっとね……。ってことで、まだ無職なの」
「あらま」
「でね、依頼ってのが……」
 高野氏は鞄の中から書類を出した。
 それは履歴書と職務経歴書。
「お願い!ここで働かせて!事務員でいいからっ!」
「へ!?」
「キサマ……!先生をたらしこんで、骨抜きにするつもりか!そうはイカンぞ!」
 高橋は体を震わせ、持っていた湯呑み茶碗を乱暴にテーブルの上に置いた。
「あら?私なら、立派に先生の秘書を務める自信がありますわよ?」
 確かに高野氏の履歴書の資格欄には、秘書検定の文字が書かれているが……。
 そういう問題じゃない。
 人を雇うほど、うちの事務所は儲かっているわけではないのだ。
 だが、高野氏のコバンザメのような食い付きぶりに、私は追い返すことができなかった。
 そして、それが功を奏した。
 何故なら、8月の予定表に、私や高橋の休みが無くなっていたからだ。
 マスコミの取材に追われたことで、私の元には依頼が殺到した。
 事務所の留守役を雇う必要が出て来て、それに大きく手を挙げたのが高野だった。
 今では立派なうちの事務員だ。

 そうそう。
 そして今、私は大きな依頼を受けている。
 それは仮面の少女の肉親を捜してあげること。
 調査の過程で彼女の本名も明らかになったし、肉親がどうなったかも分かった。
 そして、彼女の居場所についても……。
 私は調査結果を自分の机の引き出しにしまい、依頼人である彼女が来るまで、ずっとここに保管することにした。
 因みに連絡先や事務所の場所については、既に彼女に自分の名刺を渡しているので、それで分かるはずだ。

 彼女はきっと来る。
 私は新たな依頼を受け、再び地方に向かいながらそう確信していた。

 尚、高橋はゾンビ無双する夢を今でも見るそうだが、私は仮面を着けたあの少女が目の前に現れる夢を見る。

                                                            完
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“私立探偵 愛原学” 終章 「希望」 1

2016-07-26 10:18:44 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月28日06:40.天候:晴 アンブレラコーポレーション・ジャパン 霧生開発センター1階裏口→警備室]

 血まみれの男が足を引きずって、建物の周りをゆっくりと歩く。
 その様は、まるでゾンビとはまた違う別の化け物のようだった。
 男はここの研究員で、2階のトイレに隠れていたところを愛原に発見され、一緒に脱出しようとしていた。
 それがタイラントに捕まり、4階の窓から叩き落された。
 本来ならば地面に叩き付けられて即死だっただろう。
 だが幸いにも、男はコンクリートの通路ではなく、更にその外側の芝生部分に落ちた為に即死は免れた。
 先日、強い雨が降ったおかげで、その芝生の土も柔らかくなっていたことも幸いだった。
 それでも重傷は免れず、彼はまるでゾンビのような足取りで、ある場所に向かっている。
「化け物どもめ……!フザけやがって……!全員……ブッ殺してやる……!!」
 男は恨み節を吐きながら、非常口から手持ちのカードキーで館内に戻る。
 そして、警備室に入った。
 もはや死んでもおかしくないほどのケガなのに、彼をそこまでさせるのは、偏に執念であった。
 男はまだ愛原が触っていない別の操作パネルを操作した。

『自爆プログラムの実行、承認待機中です。1度実行してしまうと、このプログラムを停止させることはできません。自爆プログラムを実行しますか?』

「ふっ……ふふふふ……!死にさらせ!化け物ども!!」
 男は半ば殴り付けるように、キーボードのエンターキーを叩いた。
 と、同時に、1階通用口のバリケードが破られる。
 そこに集っていたゾンビやクリムゾンヘッド、リッカーなどがついに突破してきたのだ。
「!!!」
 侵入してきた化け物達は、男の血の匂いをすぐに嗅ぎ付け、警備室になだれ込んだ。
 そして……。

[同日07:07.天候:晴 同場所・4階廊下]

〔……当館は、まもなく自爆します。このプログラムを停止することはできません。在館者の皆様は、速やかに館外へ避難してください。カウントダウンに入った場合、安全の保障はできません。繰り返します。……〕

「キミも来るんだ!」
 私は仮面の少女だった者に声を掛けた。
 彼女は自分を化け物だと言った。
 だがその仮面の下は、普通にかわいらしい10代の女の子の顔があっただけだった。
 彼女は小さく首を振った。
「あなたは仲間と一緒に逃げて。5階の出入口が開いたから、そこから避難できるはずだよ」
「仲間と一緒に?」
 すると階段の上から、
「先生!」
「愛原さん!」
 嘘だろう!?高橋君と高野氏の声がした。
 私は耳を疑ったが、
「先生!どこですか!?」
「愛原さん!生きてたら返事して!」
 明らかに高橋君と高野氏の声だった。
「俺は生きてるぞ!」
 私は階段に向かった。
「先生!良かった!無事で……!」
「それはこっちのセリフだ!つい、死んだとばっかり思ってたぞ!」
「私もそう思ったよ!でもとにかく、説明は後!早いとこ逃げよう!」
 私は後ろを振り向いた。
 すると、もう仮面の少女の姿は無かった。
 ただ、トイレの入口にその仮面が落ちていたが……。

〔カウントダウンに入ります。爆発10分前です〕

「先生!急いで!」
「あ、ああ……!」
 私達は階段を駆け登った。
 すると確かに外へ出るシャッターは開けられており、ドアの鍵も開いていた。
 外へ出ると、化け物達の姿は無かった。
「気が付いたら、あそこの警備ボックスの中にいてね。何が何だか分からなかったよ」
「俺もです」
 確かにこの搬入口の出入口には、駐車場の入口にあるようなプレハブの小屋があった。
 そして警備室のカメラで見た通り、トラックやワンボックスが数台止まっていた。
「鍵が無いのよ!車では逃げられないよ!」
「いや、車の鍵なら警備室で見つけてきた!」
「さすが先生!」
 私は総当たりで車の鍵を合わせてみた。
 鍵にはトヨタのロゴマークが付いていたが、リモコンキーにはなっておらず、それでどの車のドアが開くか知ることができなかった。
 ただ、私はトラックではないかなと思った。
 トラックでリモコンキーって、あんまり聞いたことが無いからだ。
 案の定、2台目で当たった。
 宅配便のトラックによくある2トンの普通サイズであり、それなら私でも運転できる。
 後ろがアルミバンではなく、合成皮革で作られた幌になっていた。
 見ると、荷台には空になった大型のゲージが3個ほど無造作に置かれている。
 実験動物か何かを運んでいたトラックだったのか。
 こういうトラックなら、キャブはベンチシートになっているので3人乗れる。
 私は乗り込んでエンジンを掛けた。
「先生!これでやっと脱出できますね!」
「ああ」
 私はマニュアルシフトのギアを入れて、サイドブレーキを解除した。
 が、
「……ちょっと待っててくれ」
「は?」
「やり残したことがあった。もし間に合わないようなら、先に脱出しててくれ」
「な、何言ってるの!?今さらどうでもいいじゃない!」
「そうですよ、先生!わざわざ地獄に戻る必要はありません!」
 だが、私は再びギアをニュートラルにしてサイドブレーキを引くと、トラックから降りた。
「先生!」
 私は2人が呼び止めるのも聞かず、再び研究所の中に戻った。

〔爆発5分前です〕

 既に館内ではあちこちで、小火や小爆発が起きているのだろう。
 焦げ臭い臭いが立ち込めていた。
 ふと階段から下を見ると、階下では火災が起きていた。
 ゾンビ達が侵入していたが、火災に巻かれて断末魔を上げるゾンビやハンターの声が聞こえた。
 私は4階まで駆け下りると、仮面の落ちていた女子トイレに向かった。
「ウガーッ!?」
 トイレの中には、あのタイラントがいた。
「キサマ、何故戻ってきた!?」
 タイラントの声は呻き声や唸り声だったが、私の頭の中にはそれが訳された言葉が入って来る。
「やっぱり、あのコを連れて行く。あのコは化け物じゃない。どこにいる?」
「…………」
 すると、奥から2番目の個室から仮面の少女が出て来た。
「どうして戻って来たの!?」
「キミはここにいるべきじゃない。外へ出るべきだ!」
「私は……」
 すると、タイラントが仮面の少女を個室の外に出した。
「お嬢様。あなたは脱出してください。どうか、御無事で……」
「…………」
 タイラントに促され、やっと少女は決意したようだ。
 すると、トイレの外からゾンビやハンターの鳴き声が聞こえて来た。
 しまった!ここに気づかれたようだ。
 すると、タイラントが立ち上がった。
「ここは私が食い止めます。あなたは、生きてください」
「ごめんね……。ありがとう……」
 タイラントは外に出ると、ゾンビ達を自慢の腕力で次々と殴り飛ばしていった。
 私は彼女の手を取り、急いで階段を登った。

〔爆発1分前です〕

 そして外に出る。
「先生!」
「待たせたな!」
「そのコは!?」
「後で説明する!早く脱出しよう!」
 私は仮面の少女をトラックの荷台に乗せた。
「しっかり掴まってろ!!」
 私は再び運転席に座ると、急いでトラックを発進させた。
 出口のゲートバーを破壊して、新霧生道路に出る。
 そして加速したと同時に、後ろから物凄い爆発音が聞こえて来た。

 トラックはトンネルに入る。
 町は全方向を山に囲まれている為、この高規格道路は長いトンネルが掘られているのだ。

 トンネルを出ると、今正に自衛隊が町に突入しようとしている最中だった。
 私達は自衛隊に保護された。
 ようやく助かったのだ。
 自衛隊の車両に乗り換える時、青空を見上げてようやく私は生還を実感したのである。
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“私立探偵 愛原学” 第4章 「記憶」 final

2016-07-25 20:55:13 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月28日06:40.天候:晴 アンブレラコーポレーション・ジャパン 霧生開発センター]

 ついに丸腰のまま対峙することになったタイラントとリサ・トレヴァー。
 しかし、彼女らは私をすぐに殺そうとせず、何故か私を質問攻めにしてきた。
 そして、
「あなたは今、殺されると思っている?」
「……殺されそうだけど、でも、なるべくなら死にたくないよ」
 すると彼女は、両手を自分の白い仮面に添えた。
 自分から仮面を取り外そうとしているようだ。
「ウガ……!」
 するとタイラントがそれを止めるかのように、身を乗り出し、リサ・トレヴァーに手を伸ばした。
「いいの!……放っといて」
「…………」
 やはりこのタイラントはリサの言う事を聞くようだ。
 タイラントはリサに言われて、手を引っ込めた。
「あなたは私の顔を見てみたい?」

 1:見てみたい。
 2:見たくない。
 3:どちらでもない。

「……違うな」

 4:キミに任せる。

「キミに任せるよ」
 少し投槍だったか。
 もしかして、機嫌を損ねてしまったかも。
 だが、彼女は手を止めて、しばらく何か考えているようだった。
「あのノートは見てくれた?」

 1:見た。
 2:見てない。
 3:何のノート?

「医務室にあったノートだね。見たよ」
「私が化け物だってことは知ってるね?」
「……何とも答えようが無いな。見た目だけ見ると、キミはまだ『不思議ちゃん』の領域から出てないよ」
「私はもうオバさんなの。だけど、体はこの通り。化け物でしょ?」
「それなら、やっぱり顔を見せてもらってからということになるかな。少なくとも、服から出ている手足だけ見れば、中学生か高校生くらいの女の子って感じだけど?」
 そう。
 それはとても艶やかな10代の少女だ。
 とても、私より年上とは思えない。
「この町で何が起きたか、知ってる?」
「パニックホラー映画みたいになってるね。ゾンビやその他の化け物が町中を闊歩し、俺達生きている人間に食らい付く」
「その犯人が私達だとしたら?」
「何だって?」
「日記を見てたら、分かるでしょ?私の名前……リサ・トレヴァーは本名じゃないの。本名は私も覚えていない。多分、記憶を消されたんだと思う。だけど、このリサ・トレヴァーという名前の人……本物がどういう運命を辿ったのかは私も聞いてる。幸い、ここの研究所の人達は優しかったから、アメリカの本物のリサ・トレヴァーよりは幸せだったんだと思う」
 そんなことは無いな。
 こんな無機質な研究所に何十年も閉じ込められて、幸せだとは思えない。
 但し、あくまでも実験動物的な扱いをされたアメリカのリサ・トレヴァーと比べれば、まだ少しだけ人間扱いしてくれたというだけのことだ。

 真相はこうだ。
 アンブレラコーポレーション・ジャパンが、既に経営破たんしたアメリカの本体で作られていたクリーチャーやゾンビウィルスを隠し持っていることが国にばれてしまった。
 何でも、そういったバイオテロ対策を行う世界機関が存在して、そこのエージェントが突き止めたらしい。
 もちろんアンブレラもそれに気づき、急いで証拠隠滅を図ろうとした。
 霧生電鉄の駅員が書いた日記にあった貨物電車の運行も、それによるものであった。
 その為、こっちのリサもタイラントも処分されることとなった。
 因みにタイラントがリサの言う事を聞くのは、何もそういう設定をされたからではない。
 リサよりも実験体として虐げられていたタイラントを、リサが慰めていたからである。
 アメリカのものよりも知性が付いていたタイラントは、リサを逃がそうと、実験施設で大暴れ。
 その際に、保管されていたウィルスが漏れてしまった。
 研究員達は急いで隔離を行ったが、既にウィルスに感染した害虫や害獣達が街中に行ってしまった。
 リサ達は研究員達がほぼ全滅したことを知ると、あえて脱出ではなく、ここに留まることにした。
 その理由は……。

「私は……私もだけど、そこのタイラントも死にたくなかったんだよ。あなたは私達に殺されると思ってるだろうけど、私達もそんな思いをしたの……」
 すると、頭の中に男の声が響いて来た。
 それは呻き声や唸り声しか上げられないタイラントが発しているようだった。
「私の能力の1つだ。まだ、ここの研究員達は気づいていなかったがな。……彼女は私と違い、元々普通の人間だった。大量の且つ何種類ものウィルスを投与され、不老不死の化け物になっても尚、殺されれば死ぬのだ。哀れだと思わんかね?」
「かわいそうだと思う。だけど、俺の仲間まで殺して欲しくはなかったな。俺達はキミ達を殺しにきたわけじゃない。ただ単に、この町から出たかっただけなんだ」
「…………」
「キミが元は普通の人間だということは、あのノートを見て知ってるよ。キミのご家族は?いくらキミの実際の年齢が私より上だとしても、まだ御両親とかは生きてらっしゃるんだろう?」
「……記憶が無い。どうせ生きていない」
「記憶が無いからって、どうしてそう言い切れるんだ?」
 リサは割れた窓に視線をやって言った。
「あいつらは、いつもそうしてきた。さらわれて来た人間の女の子は、私だけではなかった」
「ええっ?」
「皆、実験体にされた。そして……皆、死んだ。化け物になっても尚、生き残ったのは私だけ……。リサ・トレヴァーという名前を付けられたのも、それが理由だよ」
「で、でも……」
「私、昔聞いたことがある。実験体をただ1人さらってくるのではなく、少なくとも一家心中に見せかけて殺すだとか、通り魔の犯行にさせるだとかね……。東京でも昔、一家全員が殺された事件があったんだって?」
「あったかな、それ……」
「あれもこのアンブレラのしわざだから」
「な、なに……!?」
「だから、私の両親も死んでるはず」
「まだ分からないよ。俺が探してやる!」
「……?」
「俺はこう見えても、東京で探偵やってるんだ。ほら!」
 私はそう言って、名刺を差し出した。
「この町に来たのだって、探偵としての仕事の依頼を受けて来たんだ。行方不明人の探し出しだって、探偵の仕事さ。俺がやってやる。例え死んでいたとしても、お墓くらいあるだろ?それを探してやる!だから、俺と一緒に来い!一緒にこの町を脱出しよう」
「……ありがとう。でも、私はこの町からは出られない」
「どうしてだ……?」
「この町の人達を大勢殺してしまった。私は生きている価値が無い」
「そもそも、そんな危険なウィルスを隠し持っていたアンブレラが悪いんだ!」
 すると突然、タイラントが動き出した。
「な、何だ!?」
「!?」
 突然の動きに、リサも慌てた様子でタイラントを見る。
 タイラントは、先ほど研究員を投げ落とした窓に駆け寄っていた。
「何があった?」
「あの野郎!まだ生きておった!しぶとい人間め!」
「ええーっ!?」
 そして次の瞬間、けたたましい警報が所内に鳴り響いた。

〔「当館自爆プログラムの起動を確認。在館者にあっては速やかなる避難を勧告。このプログラムを停止させることはできません。繰り返します。……」〕

「じ、自爆!?」
 すると、タイラントも窓を破って外に飛び出して行った!
「あなたは、ここから逃げて」
「キミも逃げるんだ!」
 リサは首を横に振った。
 そして、仮面を取り去る。
「こんな化け物は、生き残る価値が無いから。私はここで化け物としての人生を終わらせるの。あなたはいい人みたいだから、助けてあげる。タイラントが5階の出入口を開けておいたから、それで外に出られるはずだよ」
「!」
 私は……私はどうすればいい?
 この研究所は、あとどれくらいで、どのくらいの規模の爆発を行うか分からない。
 早く逃げないと、私も巻き込まれてしまう。
 しかし、このコはあまりにも不憫でならない。
 なるべくなら連れて行ってあげたい。
 だけど、彼女は行きたがらない。

 一体、どうすれば……!?
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“私立探偵 愛原学” 第4章 「記憶」 10

2016-07-24 20:39:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月28日05:46.天候:晴 アンブレラコーポレーション・ジャパン 霧生開発センター]

 4階の女子トイレは個室が4つある。
 奥から2番目の個室に、“トイレの花子さん”は出るという。
 私は早速、奥から2番目の個室をノックした。
 すると、中からドアがノックされた。
「花子さん、いますかー?」
 と、声を掛けると、
「はーい!」
 という返事が返って来る。
 ベタな“学校のトイレの花子さんの法則”だ。
 そして、ドアを開けると……誰もいない。
「くすくす……」
 という笑い声がするので、上を見ると、ドアの上から花子さんがこちらを見ている。
 捕食者のような目で……。
 ……のはずなのだが、いない。
「何だよ、もう!」
 私は肩透かしを食らった気分になって、トイレを飛び出した。
 あの研究員を助ける為だ。
「!!!」
 案の定、研究員はタイラントに捕まっていた。
 身長216cmもある大男で、土気色のスキンヘッドにサングラス、そしてくすんだ緑色のロングコートを羽織って、両手には黒い革手袋を着けている。
 それが研究員の襟首を掴んで、持ち上げていた。
「た……たしゅけ……」
 研究員は虚ろな目をして私を見た。
 だが、マシンガンすらろくすっぽ効かなかったタイラントだ。
 今の私は丸腰。
 とてもどうすることもできない。
 すると、背後から気配を感じた。
 振り向くとそこにいたのは……。
「花子さん……いや、リサ・トレヴァーか?」
 肩まで伸ばした黒髪に、白を基調としたセーラー服をモチーフにしたと思われる制服のようなものを着ている。
 白い仮面には目の部分に2つの細長い穴しか開いていない為に、顔は分からない。
 タイラントとは、明らかに50〜60cmもの身長差があった。
 その少女が口を開いた。
 もちろん、仮面にその口は隠れているのだが。
 その為か、地声ではない声が聞こえて来た。
 よく、何か凶悪事件などが発生した時に、テレビが関係者にインタビューすることがあるだろう?
 その際、関係者のプライバシーを守るという名目でボイスチェンジャーが使われることがある。
 そのボイスチェンジャーで喋っているかのような声だった。
「お前はその男を助けたいか?」
「何だって?」
「今しがた会ったばかりの赤の他人と、今まで一緒に戦って来た仲間達……男1人と女1人だったか。どちらかを助けてやろう」
「高橋君と高野さんは無事なのか!?」
「ああ」
 仮面の少女は大きく頷いた。
 高野氏の安否は分からないが、高橋は私の前であのタイラントに焼却炉に投げ込まれ、生きたまま焼かれたはずだが……。
「仲間達を選べば、高橋君と高野さんを助けてくれるのか?」
「ああ」
「た……たしゅけて……くらさ……!な……何でも……しますか……ら………!」
 研究員は苦しそうだ。
 私は言葉を選んだ。

 1:高橋君と高野さんを助けてくれ。
 2:あの研究員さんを助けてくれ。
 3:両方助けてくれ。
 4:まず、高橋君と高野氏が無事である証拠を見せて欲しい。

「あの研究員さんを助けてくれ」
 私はそう言った。
 何も、高橋君や高野さんのことなんかどうでもいいと思っているわけではない。
 それに、本当にあの2人が無事なのかどうか疑わしい。
 証拠を見せてもらおうと思ったが、さすがに目の前の苦しんでる人を助ける方が先だと思った。
 この事態を乗り切れば、必ず活路を見出せる。
 そう思ったのだ。
 だが、仮面の少女はニヤリと笑った……ような気がした。
 そして、
「ダメだ」
 冷たく言い放つと、タイラントに向かって何か合図した。
 タイラントは頷いてその研究員を……。
「わあああああああっ!!」
 窓ガラスに叩きつけた。
 窓ガラスが粉々に割れて、研究員は4階から真っ逆さまに落ちて行った。
 地面に落ちた時の、グシャッとかドサッという音が混じったような音が聞こえた気がした。
 私が呆気に取られていると、タイラントがゆっくり近づいて来た。
 今度は私の番だ!
 逃げなきゃと思ったが、後ろにリサ・トレヴァーがいることで、逃げられないと思った。
 動けなくなっている私の様子を見越してか、タイラントは私の右脇を通り過ぎ、リサ・トレヴァーは私の左脇を通り過ぎ、私の前に立った。
「……?」
 どういうわけだか、この2人から殺気が弱まった。
 もちろん、タイラントの大男ならではの威圧感はヒシヒシと背中に伝わっているのだが。
「これから私のする質問に答えてよ」
「……え?」
 相変わらずボイスチェンジャーで甲高い声を出しているかのような声であるが、口調は女の子らしくなった。

 1:分かった。
 2:やだよ。

「分かった」
「嘘をついても分かるの。私の能力の1つ。だから、正直に答えてね」

 1:分かった。
 2:やだよ。

「分かった。何を答えればいい?」
「あなたはさっき、仲間達と研究員、どちらを助けて欲しいか聞かれた時、研究員だと答えたよね?」

 1:そうだ。
 2:違うよ。
 3:何て答えたっけなぁ……。

「そうだ」
「あなたはどうして大事な仲間ではなく、見ず知らずの研究員だと答えたの?」

 1:ただ何となく
 2:あの時は研究員を助けたかった。
 3:嘘をついた。

「あの時は研究員さんを助けて欲しかったんだ。それ以上でも以下でもない」
「……次の質問に行くよ。あなたはこの町に何をしに来たの?」

 1:観光
 2:仕事
 3:受験
 4:犯罪
 5:ただ、何となく。

「仕事だよ」
 何だ何だ?このコは私を質問攻めにして、どうするつもりだ?
 タイラントは相変わらず、背後から私を見下ろして見ているだけだ。
 彼女が出した質問は、以下の通り。

『あなた達をレストランのゾンビから助けてくれた警察官の名前は?』
『1:高田 2:高木 3:高原 4:高畑 5:高森 6:名前は名乗っていない』

『その警察官の階級は?』
『1:巡査 2:巡査長 3:巡査部長 4:警部補 5:警部 6:警視 7:分からない』

『倒されたゾンビが低い確率で再び復活し、全体的に赤みを帯びて襲って来る化け物は何と言う?』
『1:赤鬼 2:クリムゾンヘッド 3:リッカー 4:スギャグデッド 5:プラーガ 6:ウーズ』

『霧生電鉄でゾンビ化した駅員は、何に噛まれてゾンビ化した?』
『1:クモ 2:ゾンビ 3:ネズミ 4:ノミ 5:ダニ 6:コウモリ』

『霧生電鉄の大ボス、大グモが網を張らなくなった訳は?』
『1:不明 2:元々そういう種類だった 3:巨大化したことで、その必要性が無くなった 4:クモの勝手でしょ〜』

『大山寺の宗派は?』
『1:日蓮宗 2:日蓮正宗 3:日蓮本宗 4:新日蓮宗 5:正信会 6:単立寺院』

『ジョージ・F・ロックウェルが所属していた特殊部隊の通称は?』
『1:USS 2:FBC 3:BSAA 4:UBCS 5:SECOM 6:ALSOK』

『高野芽衣子が隠れていた宿坊の名前は?』
『1:大恩坊 2:報恩坊 3:理境坊 4:石野坊 5:総一坊 6:広布坊』

『大山寺で壱之坊に現れた中ボスは、誰が変化したもの?』
『1:浅井城道 2:浅井克道 3:浅井信道 4:浅井妙道 5:浅井昭道 6:浅井甚道』

『大本堂で現れた大ボスの正式名称は?』
『1:リッカー 2:ハンターα 3:サスペンデッド 4:スギャグデッド 5:クリムゾンヘッド』

『大本堂で現れた大ボスは誰が変化したもの?』
『1:ジョージ 2:尼僧 3:修行僧 4:信徒 5:寺族 6:正確には分からない』

『大本堂の裏手のヘリポートに、救助ヘリが墜落した理由は?』
『1:操縦ミス 2:整備不良 3:欠陥 4:ガス欠 5:同乗者がゾンビ化した 6:パイロットがゾンビ化した』

『あなたは私を誰だと思う?』
『1:トイレの花子さん 2:リサ・トレヴァー 3:化け物 4:人間 5:未知なる何か』

『あなたは今、殺されると思う?』
『1:殺されると思う 2:殺されるとは思わない 3:殺されそうだが、死にたくない』

 何だろう?
 このクイズに何か意味でもあるのだろうか?
 もしかして、全問正解しないと殺されるのだろうか。
 それとも、誠意を込めて答えれば多少間違えても許してくれるだろうか。
 ……最悪、ただの彼女らの暇つぶしに付き合わされただけで、答えられようが答えられまいが、結局殺されるのかもしれない。
 私はどうなってしまうのだろう?
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“私立探偵 愛原学” 第4章 「記憶」 9

2016-07-23 22:40:46 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月28日04:58.天候:不明 アンブレラコーポレーション・ジャパン 霧生開発センター]

「う……」
 私はふと目が覚めた。
 気が付くと、ベッドの上で寝かされていた。
 辺りを見回すが、まるでそこは診療所のようだった。
 実際、室内にはそのような薬の匂いが漂っている。
 どうして私は……?
 直前の記憶を思い返してみる。
 確か私は……研究所の地下の洞窟みたいな所に誘き寄せられて……?そこで、タイラントと……あっ!そうだ!そこで、成す術も無く倒れた私の頭の上に、仮面の少女……確か、リサ・トレヴァーという名の女の子が現れたんだっけ。
 で、その後……?
 死んだと思っていたのに、どうして私は助かったのだろう?
 誰かが助けてくれた?
 都合良くあの後、誰かが助けてくれたというのか。
 私はベッドから起き上がると、床に足を着けた。
「ん?」
 すると、足が何やら空き缶を蹴っ飛ばしてしまった。
 見ると、ベッドの周りには救急スプレーの空き缶がそこら中に転がっている。
 何でこんな所に?
 おかげ様で私の体力は今『Fine』状態ではあるが、ここは病院ではないのか。
 よく見ると、診療所というよりは学校の保健室をもっと広くしたような感じの……。
 ……そうか!ここは病院ではない。
 まだアンブレラの研究所にいるのだ。
 こういう所にだって医務室くらいあるだろう。
 きっとそれだ。
 私が靴を履いて医務室の外に出ようとした時、
「そうだ!銃は!?」
 上着は室内の事務机の椅子に掛けてあった。
 普段はここで産業医が診察に当たっていたのだろう。
 しかし、肝心の銃は無かった。
 完全に丸腰の状態だ。
「参ったなぁ……」
 幸いにして、化け物と同室していたということは無いが……。
 しかも診察机の上には、一冊の古いノートが置かれていた。
 気になったので開いてみると、誰かの研究ノートのようだった。

『1984年11月20日。被験者が運ばれてくる。アメリカの本社研究所では、既に始祖ウィルスを用いた研究を始めたと聞く。日本法人もようやく東京に本社を立ち上げ、この辺境である霧生村に研究所を構えることができた。アメリカ本社では密かに人体実験を行っていると聞く。こちらも負けてはいられない』
『1985年6月2日。アメリカ本社では14歳の少女リサ・トレヴァーを被験者とした実験に失敗したと聞く。しかし、あれは失敗と言えるのだろうか。申し訳無いが、アメリカ人ならではのイエスかノーかの二者択一が生んだ悲劇としか思えない。こちら側のリサ・トレヴァーは良い結果を出してくれている。本社には悪いが、先に行かせてもらおう』
『1986年3月12日。また金をタカりに来た在日朝鮮人達をハンター製造の実験台にする。確かに彼らに頼んで、被験者達を連れて来てもらったのは事実だ。しかし、あそこまで金に汚い連中だったとは……。自業自得とは、このことを言うのだ。一応、彼らは隠蔽用として、1度は日本海に出てもらったから、捜査機関も手が出せない朝鮮半島に連れて行かれたとでも思っているだろう』

 ……日本のリサ・トレヴァーは拉致被害者だったのか?
 いや、違うな。このノートの内容が事実だとすれば、北朝鮮拉致被害者を装った拉致被害か。
 その後もどんどん観察記録を読んで行く。
 1990年代になると、事態が一変した。
 アメリカ本社直轄の研究所で事故が相次ぎ、そしてそれは地元の町1つを壊滅させる事態にまで陥ってしまったことだった。
 アメリカ本社はそれが元で倒産してしまったが、それを知ってか、日本法人は直前に独立。
 他の製薬企業の後押しを受けて、その名を残したまま事業を継続させた。
 2000年代に入ると、アメリカやヨーロッパに退避させていたクリーチャーやウィルスなどを日本でも保管するようになる。
 2010年代に入ると、リサ・トレヴァーなどのクリーチャーが廃棄処分にされることが決定した。
 最後の数ページによれば、制御の効かなくなったリサ・トレヴァーがタイラントと組んで、この町にウィルスをばら撒いたことが書いてあった。
「こんなことが……」
 私は手が震え、ノートを落としてしまった。
 だが、最後のページには赤い文字で、『4階のトイレまで来い』と書かれていた。
 これを書いたのが誰だかすぐに分かった。
 リサ・トレヴァーだ。
 彼女は私を万全な状態にしてから殺すつもりなのだ。
 恐らく、このノートの内容が本当なのであれば、彼女は『飼い犬』だったのだろう。
 だが、彼女は元々人間だ。犬ではない。
 自我もあるだろうし、自分が拉致されて数十年もここにいさせられたとあらばどう思うか……。
「数十年!?」
 写真や本人を見る限り、彼女は15歳前後の女の子だ。
 実験体にされていたから、歳を取らなかったのだろうか。
 全く、恐ろしいことだ……。
 私は深呼吸をして、医務室への外に出るドアを開けた。

 医務室は2階にあった。
 エレベーターは止まっていたが、しかし代わりに階段の防火シャッターが開いていた。
 私が階段を上ろうとした時だった。
「ん?」
 階段の近くにあるトイレ。
 2階は関係無いはずなのだが、そこから人の気配がした。
「何だろう?」
 確かめたいが、私には武器が無い。
 もし下手に確かめでもして、実は化け物が潜んでいたとなると、命は無いかもしれない。
 どうする?

 1:確かめに行く
 2:確かめに行かない

 もしかしたら、まだ安否不明の高野氏かもしれない。
 私は消火器を手に、男子トイレの中に入った。
「……誰か、いるのか?」
 私は恐る恐る声を掛けてみた。
 後ろからも襲われないように、後ろも警戒しながら。
 すると、
「そ、その声は……生きてる人間か?」
 1番奥の個室から震える男性の声がした。
 あいにくと、高橋ではない。
「そうだ。今のところ、私はまだゾンビ化していない。もしあなたも生きてる人間なんだとしたら、出て来てほしい」
 私がそう言うと、恐る恐るといった感じて、引き戸のドアが開けられた。
 中にいたのは、白衣を着た男。
 どうやら、研究員らしい。
「あ、あんた1人か?」
「そうだ。あなたはここの研究員か?」
「あ、ああ……。ここは危険だ。キミはどこから来た?」
「トンネルの電車乗り場からだよ。でも、そこも危険だ。5階の搬入口から出れば大丈夫だと思うんだけど……。そこから、町の外に出られるか?」
「バイパスと繋がってるから、そこから車に乗れば可能だ。だけど、肝心のシャッターの鍵が無いんだ」
「……だろうな。でも、もしかしたら、2人でこじ開ければ何とかなるかもしれない。こっちだ。来てくれ」
「分かった」
 私は名も知らぬ研究員という、思わぬ生存者を連れてトイレを出た。
 そして、階段を駆け登って5階へ向かう。
 そういえばノートには、4階のトイレに行くように書いてあったな。
「ちょっと待った」
「何だ?」
「実は4階のトイレに寄ってこようと思うんだ」
 私が言うと、研究員は目を丸くした。
「どうしてだ!?」
「いや、まあ、大したことじゃないんだけど……」
「だったら急がないと!ここは危険だ!」
 研究員が私の服の裾を引っ張る。

 1:4階の女子トイレに向かう。
 2:5階へ向かう。

「いや、4階に行けと言われてるんだ。そこに行って何も無かったら、5階に行くよ」
「勝手にしろ!俺は先に5階に行くからな!」
 研究員は私が止めるのも聞かず、階段を駆け登って行った。
 私は1人、4階の女子トイレに向かう。
 まあ、恐らくあのリサ・トレヴァーが待ち受けているんだろう。
 だけど、私はそれを無視して5階に行ってはいけないような気がした。

「うぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 案の定、5階からあの研究員の叫び声が聞こえて来た。
 だが、自分でも不思議なくらいに私はそれを確認に行こうとも思わなかった。
 どうしても、今は何があっても4階の女子トイレに行かなければならない。
 その思いに取り憑かれていたのだ。

 結局は私も、リサ・トレヴァーに殺されるのだろうか。
 いや、“トイレの花子さん”とも言うか……。
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