報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター”「狂科学者の孫娘」 4

2014-01-27 00:39:39 | 日記
[2月22日18:00.財団仙台支部 敷島孝夫&エミリー]

「さーて、今日も1日働いたな」
「お疲れさまです。敷島さん」
 受付の所に行くと、エミリーが待っていた。
「おっ、お前もお疲れさん。アリスは?」
「大会議室で・講演中です」
「ほお……。まだやってるのか」
 あの世界的なマッド・サイエンティストの孫娘ということで、学界でも俄かに注目されているアリス。
 特に修理不可能とされたエミリーを直したということで、更に話を聞きたがる学者達が事務所を訪れていた。
「アリスのことだから、講演料取ってんじゃないのか?」
「それは……」
 エミリーは答えに詰ってしまった。
「まあいいや。まだ時間掛かるってんなら、先に帰ろう。腹減ったし」
「イエス」
 敷島がエレベーターホールへ向かおうとした時、大会議室から拍手が聞こえてきた。
「終わった・ようです」
「そうか」
 ゾロゾロと出て来る聴聞者達。
「ウィリーの孫娘というだけで、相当な注目度だな」
「イエス」
 南里も世界的な権威を持っていたが、弟子の平賀はあまり注目されているとは言えない。
 もっとも、平賀とて若くして大学教授になった天才であることに変わりはないのだが。
「どうせまだ時間掛かるだろうから、先に帰るぞ」
「イエス。……ノー。お待ちください」
「ん?」
 すると、大会議室から慌ててアリスが出て来た。
「Wait!レディを置き去りにして帰る気!?」
「何がレディだよ。無差別テロロボット2機の護衛付きでよく言うよ」
 もっとも、今は事務所奥の倉庫に保管中。

[同日18:30.帰宅の途→マンション 敷島孝夫、エミリー、アリス・フォレスト]

「オフィスからアパートメントまで歩ける距離だなんていいね」
 アリスが言った。
「どっちがいいのやら……」
「What’s?」
「いや、南里研究所にいた頃は、そこからチャリで5分の所に住んでいたからさ。今の職場からマンションまで徒歩20分と、どっちが楽かなぁって」
「自転車で通勤できないの?」
「ああ。財団事務所は原則、公共交通機関だけしか認められていない。なまじっか市街地にあるせいでな。理事達ですら、ビルの地下駐車場を借りたりとかしてる人が何人かいるけど……」
「ロボットに担いでもらうのはOK?」
「日本じゃすぐ警察に通報されるから、許可しかねます」
 敷島はキッパリと答えた。
「シビアね」
「嫌なら、アメリカに帰ってもいいんだぞ。自由の国なんだろ?」
「フン……。エミリーを連れて行けるんだったら、そうしてるよ」
 というよりも、まだアメリカに帰国できない事情があるようだ。
 ヒュウと寒風が吹きすさぶ。
「あー、今日も冷えるな」
「まもなく・雪が降る・もようです」
 と、エミリーが言った。
「なに?通りで、余計寒いわけだ」
 敷島はマフラーを締め直した。
「降られる前に、急いで帰ろう」

[同日22:00.敷島のマンション 敷島、アリス、エミリー]

「シキシマ。もう寝るね」
「おう。お疲れー……じゃなかった。お休み」
 敷島は自分用のプライベートPCで、DVD観賞。就寝はいつも、日付が変わる頃である。
(若いのに、意外と早寝だなー)
 まだ時差ボケでもあるのだろうか。タンクトップにショートパンツといったラフな格好で、アリスは寝泊まりしている部屋に潜り込んだ。そこには、充電中のエミリーもいる。

[2月23日02:00.同場所 敷島孝夫]

 敷島はふと目が覚めた。ここ最近、夜中に目を覚ますことが多い。年を取ると寝付きが悪くなったり、眠りが浅くなるという。正にそれかと思うのだが……。
「ったく……」
 敷島は起き上がると、トイレに向かった。寝室内はエアコンの暖房を入れてあるが、その外は寒い。

 震えながら用を済ませると、足早に自分の部屋に戻ろうとした。
「!?」
 その時、アリスの部屋からすすり泣く声が聞こえて来た。
 まるで心霊スポットにおける、女幽霊の泣き声のようで、敷島は一瞬びっくりしたが、
(アリスか。何なんだ?)
 その出所と正体に気づき、そのまま部屋に戻ろうとしたが、
(っえーい!)
 どうも気になったので、ドアに近づいてみた。
(んん?)
 何か言っているようだが、どうも英語のようで、敷島には何のことかさっぱりだった。
 しかし、何かあるなら同室のエミリーが動くはずだ。
 朝になったら聞いてみようかと思った。
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面白い観点だ。

2014-01-25 20:59:23 | 日記
ドラえもんとのび太、どっちが主人公なの?(教えて!ウォッチャー) - goo ニュース

 私の現在進行形の作品として、SF系では“ボーカロイドマスター”とそのリメイク版の続編である“アンドロイドマスター”。この主人公は言わずもがな、敷島孝夫が主人公である。彼主眼でストーリーが進んでいるからだ。
 オリジナル版では群集劇に拘ったため、例えば平賀主体でストーリーが進んだり、初音ミクや鏡音リン・レン主眼でストーリーを進めてみたが、やはり私としては1人の主人公を主体としてストーリーを進める、基本的な手法の方が合っているようである。
 最近の傾向としてはアリス・フォレストが結構やってみると個性が強いキャラであるため、敷島と並んで立てるような気がした。それは今後、あるフラグメントにもなっているのだが、ややもすれば彼女を主人公としたスピンオフを書く機会があれば、そうしてもいいのではないかなと考えている。

 ではもう1つの作品“ユタと愉快な仲間たち”はどうなのか。実は作者をして、稲生ユウタと威吹邪甲どちらが主人公なのか、はっきりと答えることができない。
 いかに群集劇とはいえ、それでもメインの人物は誰かということになる。その場合は、1番最初に登場したキャラクターがそうだとなることが多いようだ。
 例えば私がハマっているアニメ版“アイドルマスター”もまた群集劇なのだが、メインは天海春香ということになっている。
 元々オリジナルのゲーム版からそうなってはいるのだが、やはり法則通り、第1話の1番最初に登場している。そして作品終盤で、彼女主体のストーリーになっている。
 ドラえもんもまた、私はのび太が主人公だと思っている。ドラえもんは群集劇ではないが(劇場版ではそれと似たストーリー構成になっている部分もある)、第1話を見ると、1番最初にのび太が登場しているので、やはりのび太が主人公ではないかと思うのだ。それに、基本的には彼主眼でストーリーが進むことも多い。

 こちらのブログでは紹介していないが、“ユタと愉快な仲間たち”で、タイトルの割には第1話に相当する部分が、威吹の悲恋話から始まっていたりする。
 それから狐の石像に封印されている威吹が登場し、やっと現代に移ってユタが登場するのである。では、威吹が主人公じゃない。そう思うだろう?
 ところがどっこい。ここで紹介している部分をお読み頂ければ分かるが、その後はユタ主体でストーリーが進む、法則に当てはまらない、自分でもヒネくれたストーリー構成だと思っている。
 スピンオフで威吹主体で話を進ませるのはあったけどね。あれは“ユタと愉快な仲間たち”と付かず離れずのヤツだったからなぁ……。そう、“ユタと愉快な仲間たち”が京浜東北線だとすれば、“妖狐 威吹”は埼京線みたいな。結局最後には本編と合流して終わるところがピッタリだ。

 ま、100パー趣味で楽しくやらせてもらっていますよ。
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“アンドロイドマスター”「狂科学者の孫娘」 3

2014-01-25 18:01:29 | 日記
[2月22日 07:00.仙台市内の敷島のマンション 敷島孝夫、アリス・フォレスト、エミリー]

「おはよう・ございます」
「ああ、おはよう」
 敷島が起きると、台所ではエミリーが朝食の用意をしていた。
 そのまま洗面所に向かう。
(あー、くそ。昨日寝過ぎた。昼過ぎくらいに起きときゃ良かったな……)
 逆に夜、眠れなかった敷島であった。
「ん?」
 そこでふと気づく。

「アリスは?」
 顔を洗った後で、敷島はエミリーに聞いた。
「まだ・寝ていらっしゃいます」
 エミリーがそう答えた。
「全く、もう……」
 敷島のマンションは2DK(納戸付き)である。
 エミリーの保管場所確保の為ということで、この間取りの部屋にした。
 アリスは表向き、エミリーの整備・監視の為ということで、エミリーと同じ部屋で寝た。なので、敷島とは別室なので悪しからず。
「ルームシェアの習慣、日本には無ぇっつの!」
 敷島はドアを開けようとしたが、一応聞き耳を立ててみる。
 さすがに、あられもない姿の状態で突入するわけにはいかないだろう……。
「ん?(何だか、イビキかいてんのか、あいつ?)」
 一応、ノックしてみる。
「入るぞー?」
 開けてみると……。
「んがっ!?」
 確かに、ある意味ではあられもない姿かもしれない。だが全く、色気を感じない。
(コイツ、寝相悪過ぎ……!)
 180度に近い状態。枕はその辺に蹴とばしたか何だか……。
「起きろ!居候!」
 スパーン!
「Ouchi!」
 敷島お得意の丸めた新聞紙で引っ叩くの図。
「……うう……ん……。おはよう、シキシマ。朝ごはん?」
「エミリーなら元気に活動してるぞ」
「アタシって天才!」
「あー、はいはい。とっとと着替えろ。昨日早退したから、今日は少し早目に出勤するから。……ほら、早くしろ!」
 するとジト目になるアリス。
「アンタがいると着替えらんないよ!」
「うあっ!?」

[2月22日 09:00.財団仙台事務所 敷島孝夫]

「さ、参事」
「何だ?」
 課員は困惑した様子で、敷島の元へやってきた。
「あのアリス・フォレスト博士と同棲してるって本当ですか!?」
「ばかやろ!んなわけねーだろ!」
「いや、でも……」
「現時点でエミリーを修理できたのはアリスだけだし、整備ができるのもアリスだけだ。結局、エミリーの故障の原因は複合的で、根本的なものとしては、整備不良なんだってさ」
 平賀が整備していたのだが、どうやら完璧ではなかったらしい。
「それにしたって、一緒に住むなんて……」
「正直、来日した時点で滞在先が無いっていうのは確かに本当みたいだな」
 ウィリーから相当な額の遺産を相続したはずなので、新たな住まいを探すのは簡単なはずだ。
 まあ、確かに外国籍でビザの都合もあるだろうが……。
「年も離れてるし、人種も違う。何より、テロリストの孫娘に欲情なんかしないよ」
「ですかねぇ……。でも、よく警察に逮捕されませんね?」
「証拠不十分で立件不可だそうだ。バージョン5.0の試作型と今いる量産型なんて、本当に同じ種類なのかと思うくらい形が違うし……」
「んなバカな!?」
「きっと背後で、大きな力が働いたのかもな。いわゆる、『大人の事情』ってヤツだ」
「何か……なぁ……」
 アメリカなどでは司法取引でもしたのかもしれない。アリスが表に出てから、俄かに海外マフィアが世界中で摘発されているという。
 日本では司法取引の制度は無いはずだが……。
「あまり首を突っ込まない方がいいってことっスか」
「そういうことだな。まあ、この財団の存在自体が【ホワホワ】みたいなものだ」
「セリフにも伏せ字を入れるようになったんスね」

[同日12:00.同場所 敷島孝夫&アリス・フォレスト]

「なあ、いい加減に吐いちまったらどうだい?」
「な、何のことだ?」
 アリスはロングコートを羽織り、閉じられたブラインドの隙間から外を眺めながら言った。
「故郷のママも泣いてるぞー?」
「つか、俺の地元ここだし!マザコンじゃあるまいし、母親をママなんて呼ばないって!」
「アナタが悪いんじゃない。レンホーが悪いんだ」
「民主党の国会議員が何で悪いんだ?蓮舫?
「Sorry.レンボー……」
「連坊?若林区の連坊地区がどうした?」
「Ah...ほら、所得が下のこと……」
「貧乏!」
「そう、それ!」
「ったく、日本語完璧だと思ったら、変なところでトチりやがって……」
「とにかく、あなたが悪いんじゃないの。貧乏が悪いのよ」
「これでも、35歳男性の平均年収行ってるぜ?平均より全然足りない作者よりかは上だ」
 悪かったな!
「だいたいお前……」
 と、そこへ、
「ちわー!芙蓉軒です!毎度どうも!」
「あ、出前来た」
 出前持ちがやってくる。
「カツ丼2人前ですね」
「はい。あ、クーポンあります」
「あ、はい。それじゃ、10パーセント引きで……」
「ほら、カツ丼」
 敷島はアリスに丼を1つ渡した。
「Thank you!」
(全く。食う時は目を輝かせやがって……)
「あれ?今度は白人さん入ったんですか?」
 顔なじみの出前持ちが目を丸くした。
「確かこの前、中東の人が出入りしてましたよね?」
「ははは……。とあるゲームソフトをそのイラン人から買って以来、音信不通だよ。表向きにはビザ切れて帰ったことになってるけど……」
「はあ?」
「今度は中国人辺りが来るかな?」
「作者が右寄りの人ですから、韓国人と並んでまずムリですね」
「それもそうだな」
「じゃ、またよろしくお願いします」
「どうもねー。でも作者がまだ左寄りの高校生だった頃に書いた作品には、中国人がしっかり登場しているっと……」
 敷島が自分の机の上にカツ丼を置くと、アリスはその向かい側に椅子を置いた。そして、電気スタンドを敷島に向けて点灯させる。
「眩しいな!何だよ、お前!?さっきから!」
「美味いか?」
「ああっ!?」
「だって、日本じゃ、カツ丼はこうして食べるんでしょ?」
「何の話だ!!」
「それ、“ベタな刑事ドラマの法則”……」
 ようやく意味を理解した課員が苦笑した。
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何かここ最近……。

2014-01-24 20:56:25 | 日記
 いくら日記のネタが無いからって、小説書き過ぎだな。多摩先生から、小説の分だけ別枠に移したらどうだと言われたが、管理が大変だし、あくまでもメインは日記なのでこのままにしておく。
 取りあえず、ジャンルの所だけは「日記」と「小説」で分けているのだが。

 まあ、日記のネタが無いということは、それだけ平和だってことなんだけどね。
 警備日報にも、「特になし」と書くというのは、実はそれが我々警備業の成果でもあるのだ。

 で、アンサイクロペディアによれば、「特になし」の意味には2つあって、1つは本当に何も無いことであるが、もう1つは、あっても到底書けない黒い内容だというんだな。……うん、ま、お察しください。

 明日は会社で昇格試験がある。昨年はあいにくと不合格となってしまったので、もう1度チャレンジという形である。
 年々その試験は難しくなっており、昔は「名前さえ書けば合格できる」ほどの難易度だったらしいが、今では最低合格ラインが今年からアップされるとか、本社の試験官達が総入れ替えとなった為に、筆記試験の出題傾向さえもガラリと変わるなどの噂も出るほど、ますます不利な状況になっている。
 果たして、このブログで成果報告ができるかどうか。
 愚痴ブログになるか、しばらくまた小説の連載が続いてお茶濁しになるのかどうか。それは分からない。

 まあ、できるだけ頑張ってこよう。
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“アンドロイドマスター”「狂科学者の孫娘」 2

2014-01-24 17:23:04 | 日記
[2月20日 16:00.財団仙台支部 敷島孝夫、平賀太一、アリス・フォレスト]

 どよめく支部内。メイドロボットなどは、その威圧感にフリーズしてしまうほどだった。
「招聘に応じてくれて、ありがとう」
 エントランスまで出迎える敷島と平賀。バージョン5.0量産型2機に護衛されるかのように入ってきたのは、アリス・フォレストだった。
 血の繋がりは無いものの、あの“世界的なマッド・サイエンティスト”として世界を震撼させたウィリアム・フォレスト、通称“ドクター・ウィリー”の孫娘として、今、学界内で俄かに注目されている。
 彼女は自他共に認める、ウィリーの後継者であり、今回の件は十条の手引きによる。
「日本語は分かるから、あえて英語で話す必要は無いな?」
 平賀は苦い顔をしてアリスに言った。
(あれ?翻訳機どこいったっけ?……あ、いいのか)
 敷島は一瞬、自分のポケットを探った。
 アリスは敷島達を養祖父やシンディの仇と誤解していたが、平賀にとっては、アリスがむしろ師匠の仇でもあるのだ。
「もちろんよ。平賀太一教授」
 アリスは悠然とした感じで、警戒心を露わにする平賀にウインクした。
「じー様からはノウハウを全部受け継いだから安心して」
「お手並み、拝見とさせてもらおう」
 3人して、研究室に向かった。
(十条理事も、俺と同じ考えだったか)
 十条に問い合わせた敷島だったが、やはり十条は渡米中で、すぐに帰国できない状態だという。
 そこで司法関係とのやり取りも終えたアリスならと、十条はアリスにエミリーの修理を依頼したという。
「修理代の請求先はどこ?」
「完全出来高制だ。直せなければ報酬はナシだ」
 平賀は吐き捨てるように言った。
「んまっ、何それ!?」
「お手並み拝見だと言っただろう?」

[同日 16:10.同場所 敷島、平賀、アリス]

「Hum,Hum...」
 アリスはエミリーを遠隔監視しているPCと、本人を見比べていた。
 LEDライトを取ると、閉じられている瞼を開けて照らしてみたり、口を開けて中を覗いたり……。
「まるで医者だな」
 敷島はそう思った。
「シンディとスペックがほぼ一緒ね」
「そりゃ同型機だからな。ディテールで違う所がかなりあるだろう?」
「まあ、それはいくらでも……」
 アリスはノートPCを置くと、エミリーの着ているスリットの深いロングスカートのついたワンピースを脱がした。
「ま、修理始めるから手伝って」
「分かった」
「私は外で問い合わせの対応でもしていますよ」
 敷島は言った。
「敷島さん、その前にエミリーをひっくり返すの手伝ってください」
「えっ?」
「エミリーの自重200キロなんで、ひっくり返すのが大変なんです」
「ああ!」
 エミリーのコスチュームの下はビキニ状の装甲版、いわゆる“ビキニ・アーマー”が装着されている。
 そのうちブラの部分を外して上半身裸にすると、うつ伏せにする。
 エミリーの故障の原因は上半身にあると断定したアリスは、背中の蓋を開けた。なので、下のビキニショーツまでは脱がさなくていいようだ。
「OK.だいたい分かったわ」
「本当か!?」
 平賀は目を丸くした。

[同日 21:00.財団仙台支部事務所・受付ロビー 敷島孝夫]

 原因が分かったからと言って、すぐ簡単に直せるものではないようだ。未だに修理完了の報告は来なかった。
 小さなロビーの長椅子からは研究室が見えることもあって、敷島はそこに座って修理完了の報告を待っていた。
 平賀としては複雑な気分だろう。師匠の仇敵の助手をしなければならないなんて、屈辱でもあるかもしれない。
 しかし、そこを飲まないと、やはり師匠から相続した大きな遺産を失うことになる。
 因みにアリスが護衛に連れて来たバージョン5.0量産型2機は、事務所の奥に保管されている。
 自分が指示しないことには勝手に動くことは無いから、安心しろとのことだった。
 最初は研究室の前に立たせて厳重警備をさせるつもりだったが、そもそも今やアリスが敵に回らなければ脅威など無いので、そこまでする必要は無いと判断し、倉庫に待機(保管?)してもらうことになった次第。

[2月21日 05:00.同場所 敷島孝夫]

 誰かが膝枕してくれている……。
 エミリーがよく、膝枕してくれた。
 まるで人間のように、柔らかく安心感に包まれる何かがあった。
 それももうできなくなると思うと、夜も眠れなくなることがあった。
 たかだか膝枕で……。ん?膝枕?
「!?」
 敷島がパッと起きた。
「あ、たかおさん。起きましたか?」
 私服ながら、イメージは崩さない程度の服装をしたミクが目の前にいた。
「ミク!?お前、どうして……?」
 ミクが膝枕していたのだった。
「エミリーが故障したと聞いて、すぐに駆けつけたかったんですが……」
「KAITO!」
「仕事が忙しくて、来られなかったんです。そしたら今度は修理が入るということなので、いても立ってもいられなくて……」
「まあ、エミリーには色々世話になったし、私も世話してやったから、簡単に壊れられちゃ困るのよねー」
 MEIKOもいた。
「そしたらプロデューサー、グースカ寝てるし。叩き起こしてやろうかと思ったけど、ミクが膝枕したがってね。ま、ボーカロイドに膝枕してもらうなんて機会、滅多に無いんだから、ありがたく思いなさいよ」
「ああ。そうだな」
「昨日の夕方から修理を始めたと聞きましたが、状況はどうなんですか?」
 KAITOが聞いて来た。
「いや、それが……。原因はすぐに分かったみたいなんだけど……」
 他にボカロはいなかった。今や全員が売れっ子であるため、なかなか駆けつけられなかったのだろう。
 その時、研究室のドアが開いた。
「平賀先生!」
「平賀博士!エミリーの状態は!?」
「てか、博士の方がフラフラじゃない!」
「いや、ははは……。大丈夫、大丈夫……」
 MEIKOに支えてもらう平賀。
「修理、終わりましたよ。直りました。何て、ヤツだ……。さすがは……ドクター・ウィリーの孫娘……」
「おおっ!」
 敷島は研究室内に飛び込んだ。
「エミリー!大丈夫か!?」
 そこには、ビキニ・アーマー姿のエミリーが上半身だけ起こした形で台の上に座っていた。
「敷島・さん。ご迷惑を・お掛けしました」
「大丈夫なんだな?大丈夫なんだな?」
「イエス」
 エミリーは敷島の2度の問い合わせにニコッと笑って答えた。
「いやあ、良かったぁ……。早速この朗報をキールに連絡します」
 KAITOは心底ホッとした感じで、ケータイを取り出した。
「ああ。……って、お前、何でキールの連絡先知ってるんだ!?」
 MEIKOが代わりに答えた。
「ほら、今度、執事がメインの映画に出ることになったでしょ?その役作りの為に、キールから色々と教わったのよ」
「いつの間に……」
 アリスは研究室内の椅子にもたれかかり、アイマスクをして寝息を立てていた。
「報酬は財団から弾まないといけないな。まあ、試運転してからだけど……」
 敷島は総務部の室内に行き、また取って返した。
「取り急ぎ、まずは諸経費だけでも前金、小切手で……」
 十条とは逆に、さっき渡米して来たというので、その交通費から払わなければならないだろう。
 敷島は小切手を切ろうとした。
 すると、アリスがパッと起きた。アイマスクを取り外し、敷島に詰め寄る。
「No!キャッシュで!キャッシュで頂戴!」
「銀行ですぐ換えられるよ!まだ朝早くて開いてないけど……」
 その時、敷島は思った。
(しっかしアメリカから飛んできて、すぐにエミリーの修理を長時間やって……元気なコだなー)
 理系の割には体付きがしっかりしていて、体力もあるということか。

[2月21日 15:00.仙台市内の敷島のマンション 敷島孝夫]

『世界唯一のマルチタイプ、エミリー復活!』『正に神業!その手法とは!?』『アリス・フォレスト博士の真意や如何に!?』
 財団内の機関紙は異例の号外が刷られ、業界紙もまた臨時号としてエミリーが復活したことを報じていた。
 これだけ注目されたのはエミリーの存在感も去ることながら、あの世界的なマッド・サイエンティストから遺伝子以外の全てを受け継いだとされるアリスが修理を手掛け、それに成功したことが大きい。
 無論、それは科学テロリストの孫娘でもあるということから、表立った取材も受けることなく、ただ単に、
「今後、エミリーの整備は自分が請け負う」
 というコメントを残しただけだった。
 彼女は正に日陰者らしく報酬を受け取ると、まるで風来坊のように何処へと去って行った……。

 ……はずなのだが!
「う……」
 徹夜してしまった敷島は、今日は午前中だけで仕事を切り上げ、午後は早退して休むことにした。
 しばらく横になって寝ていたのだが、部屋のインターホンが鳴った。
 ここいらに色んな勧誘が来ることは珍しくない。
 この前も顕正会だかが、諌暁書やら顕正新聞やらをポスティングしていきやがった。
 しょうがないので、その後でやってきたエホバの証人の2人の信者に横流ししたが。
 居留守を使おうとした敷島だったが、もう1度インターホンが鳴った。
(うるさいなぁ……。早く帰れよ)
 敷島は頭から布団を被っていたが、手元にあるスマホが鳴った。
(今度は何だ?)
 参事くらいになると、多忙でしょうがないと己惚れてみる(本当は定時に出勤して、余裕で定時に帰れる)。
「はい、もしもし?」
{「ちょっと!いるのは分かってるんだからね!早く開けなさいよ!ドア壊すわよ!」}
「うわっ!?」
 一瞬MEIKOかと思ったが、来週から舞台公演に出るということで、既に関西に行っているはずだから、それはあり得ない。
 敷島はそれでも慌てて飛び起きて、玄関に向かった。
「な、何だよ!?」
 ドアを開けると、そこにいたのはアリスだった。
「エミリーの整備できるの、アタシしかいないみたいだから」
「ああ、そうだな。それがどうした?もちろん報酬は財団から定期的に出す。額に不満があるのなら、交渉は来週にしてくれ」
「そうじゃないの」
「じゃ何?」
「エミリーは確かに直ったけど、まだまだ予断を許さない状況だわ」
「そうなのか。それで?」
「ここにエミリーを保管してるんですって?」
「ああ。平日は財団事務所で受付係をやってる。それ以外は基本的にここだな。まあ、出歩くこともあるけど……」
「分かったわ。それじゃあ……」
 何故か大型のキャリーバックを手にしているアリス。
「私もここに詰めて、エミリーの監視に当たるわ。了承しなさい」
「ふーん……。え?……ええーっ!?」
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