報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

前回の続き

2014-01-03 00:22:45 | 日記
[12月1日14:00.ユタの家(威吹の部屋) 威吹邪甲&威波莞爾]

 ユタはカンジが煎じた薬を飲むと、昏々と眠り続けた。
「本当に大丈夫なんだろうな?もしユタがこのまま目を開けなかったら……」
「大丈夫ですよ」
 威吹の心配をよそに、至って平然としているカンジ。
「明日には先生の“獲物”殿は、元気になっていることでしょう」
 と、更に続ける。
「それならまあいいけど……」
 威吹は茶を入れながら、首を傾げて、まだ半信半疑といった感じだった。
「ほら」
 カンジに茶を出してやる。
「恐れ入ります」
(一応の礼儀はできているようだが……)
 ちゃぶ台を挟んで、カンジの向かい側に座る威吹。
「せっかくだから教えてくれ」
「何でしょう?」
「まずは今、里で何が起きているのかを。オレが封印されてから、現代に至るまでをかいつまんでな」
「分かりました」
 カンジは頷いた。

[同日18:00.同場所 威吹&カンジ]

「……というわけでありまして、今現在の掟が成立したのは……」
「もういい。この辺で、十分分かった」
「はい」
「つまり、里としては、オレなど不要というわけか。ハハハッ!ハハハハハハハ!」
 威吹は笑うしか無かったようだが、その目にはうっすらと涙が浮かんでいたとカンジは記憶している。
「こんなオレに弟子入りしたところで、却ってお前の立場が危うくなるだけじゃないのか?“しょうけら”の地味に強く進化したヤツをいとも簡単に倒せたくらいだから、弱いってわけじゃないだろ?」
「無駄に強くても、“獲物”が手に入らなければ意味がありません。そして、どうせ手に入れるなら、今やダイヤモンド並みの価値があるS級が欲しいのです。つまり、先生の“獲物”殿並みの人間です。是非、先生からその秘訣を教わりたいのです!」
(秘訣なんて無いって……)
 威吹はその言葉を飲み込んだ。
 向上心に満ち溢れ、輝いた目で自分を見つめる人生の後輩を絶望させる言葉を言い放つのは、気が引けてしまった。
「それにしたって、里の者ならオレよりもっと強く、首尾よく霊力の強い人間を確保しているのが何人もいるだろう?そいつらに教わったらどうだ?」
「いいえ。あいにくと、里の古老達は今や教科書を書くことしかできません。オレの今の力は、教科書通りのもの。しかしそれだけでは、先生のようにS級“獲物”を手に入れることはできない。せいぜい、C~B級くらいがいいところです。古老達に直談判しても、『それで十分だろう』とはぐらかされるだけで、教えてくれないのです」
(それは当り前だ。ユタのような特種は、ある意味、既得権益みたいなものだからな。そう簡単に、青二才に教えるもんか)
 と、威吹は思った。
「少なくとも、丙種や乙種であっても、それの手に入れ方を教科書にして教えているだけでも凄いと思うぞ?」
 恐らくカンジは、里では秀才……いや、天才なのだろう。学校があって、テストでは常にトップの成績を誇っていたと思われる。
「それではダメなんです。先生は封印という逆境を乗り越え、S級を手に入れられた。そのような猛者は妖狐族の中で、先生ただお1人なのです」
(何か、気に障るな……)
 と思ったが、カンジはけして悪意でもって言ったわけではないことは分かっていた。
「まあ、とにかく、ユタの全快を確認してからだ。弟子入りの是非は、それからだな」
「分かりました。あ、そうだ。先生、1つ言い忘れていましたが……」
「何だ?」
「先生を封印した、さくらという名の巫女のことですが……」
「あ?」
「先生のご記憶ですと、封印されたのは初夏ですよね?」
「ああ。桜もとうに散って、そろそろ暑くなるだろうなと話した。その翌日にオレは……」
「それが、変なのです」
「何が?」
「人間達の史料ですと、さくらという名の巫女は先生を封印した後、歩き巫女として奥州……つまり東北地方へ向かったことになっていて、その後の動向は不明とのことなんですが、里の調査ですと、先生を封印した前日か当日に、死んでいるんです」
「はあ!?」
 
コメント
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