報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「視察の終わり」

2021-12-07 16:03:43 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月21日14:30.天候:曇 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 帰りの(というか旅行のついでに乗る)列車の時間が近づき、勇太の両親達は出発の準備をした。
 玄関前で、宗一郎とイリーナが最後の挨拶をしている。

 稲生宗一郎:「お世話になりました」
 イリーナ:「何のお構いもできませんで……」
 宗一郎:「いえ、とんでもない。泊めて頂いた上に、食事や酒なども御馳走になり、身に余る光栄です」
 イリーナ:「喜んで頂けて、何よりですわ。これで勇太君が、普段どのような生活をしているか、少しでも理解いただければ幸いです」
 宗一郎:「はい。こんな立派な御屋敷に住み込みで修行できるなんて、素晴らしいです」
 イリーナ:「それはそれは……」
 宗一郎:「先生も是非、関東へいらっしゃることがあれば、我が家に。狭い家ですが」
 イリーナ:「ありがとうございます。この家が大き過ぎるだけであって、御宅も立派な新築が建ったようでありますね」
 宗一郎:「おかげさまで」

 そう言うと、宗一郎は周りを見渡した。
 それから、懐から小切手の入った封筒を渡す。

 宗一郎:「これは少ないですが、占いの見料です。銀行で、すぐに換金できるようになっておりますので」
 イリーナ:「まーいど。それでは、こちらに占いの結果が書かれています」

 イリーナは2つ折りの厚紙のボードを宗一郎に渡した。
 2つに折ると、B5版くらいの大きさになる。

 宗一郎:「ありがとうございます」
 稲生佳子:「あなた、そろそろ行くわよ」
 宗一郎:「うむ。今行く」

 玄関の外では、車が待機していた。
 行きはマリアの魔法で出した車だったので、まんまロンドンタクシーのような車だったが、今度は勇太の魔力を使っている。
 そうなると、今度は日本のタクシーみたいな車が出てくるわけだ。
 最近流行りのジャパンタクシーに酷似していた。
 ロンドンタクシーと違ってリアシートがボックスシートになっていないので、荷物は後ろに積むことができる。
 この場合、マリアが助手席に乗り、稲生家の面々が後ろに乗ることになる。

 マリア:「じゃ、出して」

 マリアが運転手に言うと、黒スーツに白い帽子を深く被った運転手が頷いて車を走らせた。
 屋敷の前はコンクリートの舗装がされているが、そこを過ぎてトンネルの手前辺りから未舗装となる。
 往路と同じ、照明の無い長いトンネルをヘッドライトのハイビームにして走行する。

 勇太:「父さん、先生から占い受けてたの?」
 宗一郎:「バレてたか。実はそうなんだ。このコロナ禍、どのようにして会社の運命を左右させるかをだな……」
 勇太:「先生の見料、高いよ?もちろん、百発百中だけど」
 宗一郎:「しかし、当たれば後に見料を上回る高い収益が得られる。万年専務から、副社長を目指すぞ!」
 勇太:(万年でも、長年取締役にいられることの方が凄いと思うけど……)
 マリア:「東京都内には住まわれないのですか?ダディの会社は、都内にあると聞きましたが……」
 宗一郎:「北関東エリアを任されているものでね。その拠点である埼玉県に住んでいた方が、色々と便利なんだよ。もちろん、本社は大手町にあるがね」
 マリア:「そうですか……」

 さいたま市にある埼玉支社長を万年勤めているのも事実だ。
 もっとも、今は都内の本社に赴くことが多い為、都内とさいたま市の間という意味で川口市に新居を建てた由。
 さいたま市の旧居が、マリアの母親アレックスに爆破されたのを機に……。

[同日15:30.天候:曇 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅]

 勇太達を乗せた車は、JR白馬駅前のロータリーに到着した。
 傍から見れば、タクシーが到着しただけのように見えるだろう。
 運転手に荷物を降ろしてもらい、車を降りる。
 少し時間があったので、駅前にある足湯に浸かった。

 勇太:「そうそう。お使いの度に入ろう入ろうと思ってたんだけど、ダニエラに邪魔されてさぁ……」
 マリア:「寄り道は許さないってことだ。……けど、足湯くらいはいいような気がするな。後でダニエラに言っとく」
 勇太:「お願いしますよ」

 人形の製作者兼管理者はマリアであるので、人形達は全てマリアの命令で動いている。
 もっとも、グランドマスターのイリーナはマリアを飛び越えて人形達に命令できる。

 宗一郎:「そろそろ出ようか」
 マリア:「はい」

 マリアが足湯から出ようとした時、佳子がマリアのスカートの裾を押さえた。

 佳子:「気を付けて。見えちゃうよ」
 マリア:「あっ……!Sorry……」

 今日のマリアは昨日みたいなワンピースではなく、いつものブレザーとプリーツスカートを穿いていた。
 ワンピースはロングスカートだが、ブレザーの方は違う。

 佳子:「このくらいの歳の外国人さんだと、もうラフにジーンズとか穿いてるイメージだけど、マリアさんは違うのね。魔法使いだから」
 マリア:「……あまりそんなことは無いですね。勇太が、この恰好が好きみたいなので」
 佳子:「あらあら」
 マリア:「私の友人で、別の組の魔女は、日本に来るまで、Tシャツにジーンズというラフな格好でした」
 勇太:「ルーシーのことか」
 マリア:「ですが、私のこの服を物凄く気に入ったので、わざわざ原宿に買いに行ったくらいです」
 佳子:「ああ。確かに、原宿で売ってるもんね。制服系ファッション。ていうか勇太、いくらマリアさんが似合うからって、いつまでもこんな格好させるのやめなさい」
 勇太:「ええっ!?い、いや、でも……!」
 マリア:「いいんですよ。私もこの服、気に入ってますから」
 宗一郎:「そろそろ列車が来る。早いとこ駅に入ろう」
 佳子:「はいはい」

 勇太達は駅構内に入った。

 宗一郎:「よし。車内で退屈しないよう、何か買って行こう」

 列車はまだ到着しておらず、宗一郎は待合室にあるキヨスクに入った。

 宗一郎:「えーと……」
 佳子:「何してるの?」
 宗一郎:「旅のお供に」

 宗一郎はドヤ顔して、缶ビールとおつまみを手にした。

 佳子:「昼間っから飲むんじゃないの!」
 宗一郎:「いいじゃない。旅行気分はこう……」
 佳子:「ダーメ。血糖値が云々って言われたんだから、控えなさい!」
 宗一郎:「今日だけでもォ……」
 佳子:「あなた……!!」(佳子がキレる3秒前)
 宗一郎:「はーい……」(´・ω・`)ショボーン
 マリア:「…………」(←稲生夫妻のやり取りに、笑いを堪えている)
 勇太:「おおっ、来た!“リゾートビューふるさと”!」

 勇太は両親そっちのけで、ホームに入線してきた2両編成のハイブリット気動車に、スマホのカメラを向けた。

〔「1番線に到着の列車は、15時35分発、快速“リゾートビューふるさと”号、長野行きです。2両編成、全ての車両が指定席です。停車駅は信濃大町、信濃松川、穂高、松本、姨捨、篠ノ井、終点長野の順に止まります。……」〕

 観光客向けのリゾート列車だが、大糸線内ではワンマン運転のもよう。
 また、気動車であるのだが、エンジン音が静かなのは、ハイブリット車だからだろう。

 勇太:「入場券買って来る!」

 勇太は有人窓口の横にある自動券売機に行くと、そこで入場券2枚を買った。

 勇太:「はい、マリアのも!」
 マリア:「私もいいの?」
 勇太:「いいのいいの!」

 改札口は自動化されておらず、ホームの入口には駅員が立って鋏(スタンプ)を入れている。

 勇太:「どっちの車両?」
 宗一郎:「前の車両だな」

 宗一郎は手持ちの指定席券を見ながら言った。
 車両は普通車ながら、そのシートピッチは特急のグリーン車並みである。

 マリア:「どうか、お気をつけて」
 宗一郎:「マリアさんも、勇太をどうかよろしく」
 マリア:「分かりました」
 佳子:「勇太、年末年始は帰省するの?」
 勇太:「あー、そうだねぇ……」
 宗一郎:「冬は雪に閉ざされるんだろう?イリーナ先生も連れて来たらどうだ?」
 勇太:「まあ、先生に聞いてみる」
 マリア:「師匠はむしろ屋敷内で冬眠するのが好きな人ですから」

 マリアは苦笑して言った。

 マリア:「勇太の弟子入り前は、よく師匠は年末年越し飲み会をしたものです。不健康極まりないですね」
 宗一郎:「ハハハ……」

〔「1番線から、“リゾートビューふるさと”号、まもなく発車致します」〕

 駅長が出て来て、ホームの監視を始めた。
 ワンマン運転で車掌がいない為、客終合図は運転室に向かって行う。

 宗一郎:「それじゃ、帰省のことが分かったら教えてくれ」
 勇太:「分かった」

 勇太の両親は列車に乗り込んだ。
 駅長の合図で、ドアが閉まる。
 そして、ハイブリット気動車の特長である、静かな走りを見せた。

 勇太:「よし、出発したな」
 マリア:「あのまま帰られるのだろうか?」
 勇太:「なーんかあの様子じゃ、長野市内で一泊しそうだね。明日は平日だけど、休み取ってるって言うし」

 大企業の場合、前後が休日に挟まれている1日だけの平日は『有給休暇取得奨励日』に指定されていることが多い(呼称は企業によって違う)。
 役員はこの限りではないが、ただ、部下を休ませなければならないのに役員が出勤してしまうと、企業によってはその部下が休みにくくなってしまうので、やはり役員も休むことが多い(もちろん、その企業の業務内容や役員が担当している部門にもよる)。

 マリア:「なるほど」
 勇太:「じゃあ、帰ろうか」
 マリア:「ちょっと待って。せっかく駅まで来たんだから、少し買い物してから帰りたい。夕食までに戻れば、師匠も何も言わないはずだ」
 勇太:「それもそうだね」

 勇太達は駅を出た。
 そして車に乗り込むと、運転手に村内のスーパーに行くように伝えた。
 総合スーパーなら、食料品だけでなく、日用品も売られているからだ。

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