[5月17日22:00.天候:曇 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校]
稲生がOBとして仕入れた情報によると、オカルト同好会的に集まった当時の女子生徒5名は、ここで悪魔の召喚術を行ったという。
その召喚術式が書かれた魔道書は本物だったらしく、本当に悪魔を召喚してしまった女子生徒達はパニックに陥り、悪魔に対して正規の契約を持ちかけるわけでもなく、キャンセルして帰すわけでもなく、ただ犠牲者を増やすだけであったという。
魔道士であれば持ち前のパケット……もとい、ギガ数……もとい、マジックパワーを使って正規の契約を持ちかけるのだが、そもそもが遊び半分で召喚してしまった少女達は対応に困り、ついには悪魔の召喚術を行うことを始めに言い出し、実際に悪魔を呼び出してしまった少女を責め立てた。
仲間達のこの行為に少女はブチギレ、悪魔に対し、1人の少女を生贄に、残った全員を抹殺するよう命令した。
悪魔は大きく頷いてこの契約を遂行した。
翌朝、この地には少女達のバラバラ死体が散乱しており、悪魔を召喚した少女は今も行方不明になっているのだという。
稲生:(まるでマリアさんのようだ。どこかで魔道士になっているのかもしれないけど、もしそれがダンテ一門だったらすぐに僕の耳に入るだろうしな)
ダンテ一門に所属する魔道士は世界中で数百人いるという。
殆どが欧米諸国に集中しているわけだが、その中で唯一の日本人、それも男性ということで注目を浴びた。
日本人というだけで注目されるわけだから、件の少女がもしもここで魔道士になっているのだとしたら、稲生の先輩として目の前に現れてもおかしくはない。
稲生:(他門で魔道士になっているのかもな。東アジア魔道団だったら嫌だな……)
ダンテ一門とアジア圏内でシェア争いをしている他門もある。
稲生という日本人を先に入門させた為、軋轢が発生しているのだ。
そちらには日本人も比較的多く入門していると聞く。
それよりも、マリアとルーシーが召喚した悪魔のことだ。
その悪魔がこの学校に伝わる怪談話に登場した悪魔と同一なのかは不明だ。
悪魔:「これはこれは……。魔道士に召喚されるとは有り難き幸せ。そちらは我に何を望み、そして何を与えてくれる?」
マリア:「その前に聞きたいことがある。これ、お前のしわざか?」
悪魔:「! 何の事だか、知らぬな」
ルーシー:「人間は騙せても、魔道士は騙せないってことは知ってるよな?」
悪魔:「それは重々承知している。だが、身に覚えが無い。契約のこと以外には興味が無い故、これにて失礼……」
マリア:「待て!まだ話は終わってない!」
ベルフェゴール:「おいおい。正直に言った方が身の為だよ?」
悪魔:「げっ!?べ、ベルフェゴール様?!」
いきなりの上級悪魔の登場に、中級または下級悪魔は驚愕した。
ベルフェゴールは人間の前に現れる時と同じように、英国紳士の恰好をしている。
自分よりも格下の悪魔相手に、わざわざ正体を曝け出す必要も無いということだ。
ベルフェゴールは山高帽の鍔を持ち上げて言った。
ベルフェゴール:「最近はキミ達の方も、なかなか人間の契約者すら現れず、不景気だってことは知っている。だからキミの手法を否定する気は無い。『人間を誘き寄せるつもりが、間違えて魔道士様を誘き寄せてしまいました。ごめんなさい』と言えば済む話だ」
マリア:「いや、勝手に済ますなよ?」
ベルフェゴール:「え?」
ルーシー:「騙されたのは私の方だ。私の方の悪魔も出さないといけないか?……サタン!」
サタン:「は、ここに……」
ベルフェゴール:「おお、サタンさん。しばらく」
キリスト教は七つの大罪の1つ、“憤怒の悪魔”サタンである。
ベルフェゴールのシンボルカラーが緑なのに対し、サタンは白。
だからルーシーはローブの下には白いTシャツを着ている。
悪魔:「ひ、ひえええっ!さ、サタン様まで!?」
ベルフェゴール:「何か、ボク達のマスター方はボク達以上のことをお望みのようだ。素直に聞き入れる方が身の為だと思うがね?」
悪魔:「お、お助けぇぇぇぇっ!」
マリア:「逃げるな!」
ルーシー:「待て!」
魔女達に追い回される悪魔を見た稲生は……。
稲生:(本当にこいつが、あの怪談話に出て来た悪魔なのか???)
と、首を傾げた。
だが、それを確かめる間も無く、悪魔は魔道士2人に調伏されてしまったのである。
マリア:「これの本物の景品を出さないと、オマエの存在そのものを消す」
ルーシー:「マリアンナの言っていることは本気だと分かるよね?」
稲生:(こ、この人達怖い……)
稲生もまた心の中で震えていると……。
マリア:「勇太っ!」
稲生:「は、はい!」
マリア:「勇太からも何か言ってやって!」
稲生「は、はい!……そ、そういうわけだから、言う事を聞かないと流血の惨を見る事、必至であります!」
悪魔:「け、景品は……ありません」
マリア:「あぁッ!?」
ルーシー:「ほう……?サタン!こいつ、ボコボコにして!」
サタン:「……Yes.」
悪魔:「ままま、待ってください!代わりにこれを!」
悪魔は代替品を差し出して来た。
稲生:「あれ?やっぱり大江戸温泉物語の招待券だ。代わりというか、これそのものじゃないの?」
悪魔:「そうとも言います!ですから、どうかこれで!」
稲生:「分かったよ。あまり粘ると電車の時間にも響くから、これで手を打つよ。それでいいですね?」
マリア:「勇太がそう言うのなら、それでいいだろう」
ルーシー:「……まあ、しょうがない」
[同日22:50.天候:晴 東京都台東区上野 JR上野駅]
悪魔からせしめた大江戸温泉物語の招待券を手に、稲生達は再び上野駅の低いホームにやってきた。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の15番線の列車は、22時50分発、特急“スワローあかぎ”15号、高崎行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕
稲生:「いやあ、間に合った間に合った。危うく乗り遅れるところでしたよ。先に乗っててください。僕はジュース買って行きますから」
マリア:「ああ、分かった」
2人の魔女は稲生が買ってくれた指定席特急券を手に、先頭車の7号車に乗り込んだ。
マリア:「勇太の『ジンクス』、魔法になりつつあるね」
ルーシー:「15番線で15号。私にはこの数字の一致の方が不吉に感じるよ」
2人席が2つ取られており、そこに座るマリア達。
マリア:「『数字のマジック』か。そうならない為に、某魔法学校へ行く特別列車はわざと変な数字にしたんだっけ」
ルーシー:「15という数字。何か意味があると思う?」
マリア:「下りには奇数の番号を付けるのよ」
ルーシー:「何で知ってるの?」
マリアはホームを歩く勇太を指さして言った。
マリア:「勇太が得意げに語っていた」
ルーシー:「なるほど」
ルーシーはそれを手帳に書き込んだ。
〔「この電車は22時50分発、高崎線の特急“スワローあかぎ”15号、高崎行きです。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕
微かにホームから発車ベルが聞こえて来る頃、勇太が戻って来た。
稲生:「お待たせしました」
そして、マリア達とは通路を挟んだ隣の席に座る。
通路側で、窓側には既に帰宅途上のサラリーマンと思しき男性客が座っていた。
終点まで乗るのか、座席を最大まで倒し、カーテンを閉めて既に仮眠モードに入っている。
そもそもが客層的には、そういった利用者を当て込んだ列車である。
〔15番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕
〔「15番線から特急“スワローあかぎ”15号、高崎行き、まもなく発車致します」〕
全車両指定席の電車に駆け込み乗車はされにくい為か、高崎線を走る最終の特急列車はスムーズに発車した。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。「お待たせ致しました。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。22時50分発、高崎線の特急“スワローあかぎ”15号、高崎行きです。これから先、赤羽、浦和、大宮、上尾、桶川、北本、鴻巣、熊谷、深谷、本庄、新町、終点高崎の順に止まります。……」〕
マリア:「勇太。さっきの温泉のチケット……」
勇太:「はい」
マリア:「多分大丈夫だと思うけど、一応本物かどうか確認して」
勇太:「分かりました」
当然ながら日本語で書かれている招待券。
こういうのは日本人に見てもらった方が良いとマリアは判断したようだ。
さっきチラッと稲生が見た限りでは本物っぽかった。
いや、あの上級悪魔2人が圧を掛けている状態で偽物を寄越すとは思えないのだが……。
勇太:「あっ!」
確かにそれは本物だったが、やはり中級以下とはいえ、悪魔の方もタダではやられないことを実感することになった。
稲生がOBとして仕入れた情報によると、オカルト同好会的に集まった当時の女子生徒5名は、ここで悪魔の召喚術を行ったという。
その召喚術式が書かれた魔道書は本物だったらしく、本当に悪魔を召喚してしまった女子生徒達はパニックに陥り、悪魔に対して正規の契約を持ちかけるわけでもなく、キャンセルして帰すわけでもなく、ただ犠牲者を増やすだけであったという。
魔道士であれば持ち前のパケット……もとい、ギガ数……もとい、マジックパワーを使って正規の契約を持ちかけるのだが、そもそもが遊び半分で召喚してしまった少女達は対応に困り、ついには悪魔の召喚術を行うことを始めに言い出し、実際に悪魔を呼び出してしまった少女を責め立てた。
仲間達のこの行為に少女はブチギレ、悪魔に対し、1人の少女を生贄に、残った全員を抹殺するよう命令した。
悪魔は大きく頷いてこの契約を遂行した。
翌朝、この地には少女達のバラバラ死体が散乱しており、悪魔を召喚した少女は今も行方不明になっているのだという。
稲生:(まるでマリアさんのようだ。どこかで魔道士になっているのかもしれないけど、もしそれがダンテ一門だったらすぐに僕の耳に入るだろうしな)
ダンテ一門に所属する魔道士は世界中で数百人いるという。
殆どが欧米諸国に集中しているわけだが、その中で唯一の日本人、それも男性ということで注目を浴びた。
日本人というだけで注目されるわけだから、件の少女がもしもここで魔道士になっているのだとしたら、稲生の先輩として目の前に現れてもおかしくはない。
稲生:(他門で魔道士になっているのかもな。東アジア魔道団だったら嫌だな……)
ダンテ一門とアジア圏内でシェア争いをしている他門もある。
稲生という日本人を先に入門させた為、軋轢が発生しているのだ。
そちらには日本人も比較的多く入門していると聞く。
それよりも、マリアとルーシーが召喚した悪魔のことだ。
その悪魔がこの学校に伝わる怪談話に登場した悪魔と同一なのかは不明だ。
悪魔:「これはこれは……。魔道士に召喚されるとは有り難き幸せ。そちらは我に何を望み、そして何を与えてくれる?」
マリア:「その前に聞きたいことがある。これ、お前のしわざか?」
悪魔:「! 何の事だか、知らぬな」
ルーシー:「人間は騙せても、魔道士は騙せないってことは知ってるよな?」
悪魔:「それは重々承知している。だが、身に覚えが無い。契約のこと以外には興味が無い故、これにて失礼……」
マリア:「待て!まだ話は終わってない!」
ベルフェゴール:「おいおい。正直に言った方が身の為だよ?」
悪魔:「げっ!?べ、ベルフェゴール様?!」
いきなりの上級悪魔の登場に、中級または下級悪魔は驚愕した。
ベルフェゴールは人間の前に現れる時と同じように、英国紳士の恰好をしている。
自分よりも格下の悪魔相手に、わざわざ正体を曝け出す必要も無いということだ。
ベルフェゴールは山高帽の鍔を持ち上げて言った。
ベルフェゴール:「最近はキミ達の方も、なかなか人間の契約者すら現れず、不景気だってことは知っている。だからキミの手法を否定する気は無い。『人間を誘き寄せるつもりが、間違えて魔道士様を誘き寄せてしまいました。ごめんなさい』と言えば済む話だ」
マリア:「いや、勝手に済ますなよ?」
ベルフェゴール:「え?」
ルーシー:「騙されたのは私の方だ。私の方の悪魔も出さないといけないか?……サタン!」
サタン:「は、ここに……」
ベルフェゴール:「おお、サタンさん。しばらく」
キリスト教は七つの大罪の1つ、“憤怒の悪魔”サタンである。
ベルフェゴールのシンボルカラーが緑なのに対し、サタンは白。
だからルーシーはローブの下には白いTシャツを着ている。
悪魔:「ひ、ひえええっ!さ、サタン様まで!?」
ベルフェゴール:「何か、ボク達のマスター方はボク達以上のことをお望みのようだ。素直に聞き入れる方が身の為だと思うがね?」
悪魔:「お、お助けぇぇぇぇっ!」
マリア:「逃げるな!」
ルーシー:「待て!」
魔女達に追い回される悪魔を見た稲生は……。
稲生:(本当にこいつが、あの怪談話に出て来た悪魔なのか???)
と、首を傾げた。
だが、それを確かめる間も無く、悪魔は魔道士2人に調伏されてしまったのである。
マリア:「これの本物の景品を出さないと、オマエの存在そのものを消す」
ルーシー:「マリアンナの言っていることは本気だと分かるよね?」
稲生:(こ、この人達怖い……)
稲生もまた心の中で震えていると……。
マリア:「勇太っ!」
稲生:「は、はい!」
マリア:「勇太からも何か言ってやって!」
稲生「は、はい!……そ、そういうわけだから、言う事を聞かないと流血の惨を見る事、必至であります!」
悪魔:「け、景品は……ありません」
マリア:「あぁッ!?」
ルーシー:「ほう……?サタン!こいつ、ボコボコにして!」
サタン:「……Yes.」
悪魔:「ままま、待ってください!代わりにこれを!」
悪魔は代替品を差し出して来た。
稲生:「あれ?やっぱり大江戸温泉物語の招待券だ。代わりというか、これそのものじゃないの?」
悪魔:「そうとも言います!ですから、どうかこれで!」
稲生:「分かったよ。あまり粘ると電車の時間にも響くから、これで手を打つよ。それでいいですね?」
マリア:「勇太がそう言うのなら、それでいいだろう」
ルーシー:「……まあ、しょうがない」
[同日22:50.天候:晴 東京都台東区上野 JR上野駅]
悪魔からせしめた大江戸温泉物語の招待券を手に、稲生達は再び上野駅の低いホームにやってきた。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の15番線の列車は、22時50分発、特急“スワローあかぎ”15号、高崎行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕
稲生:「いやあ、間に合った間に合った。危うく乗り遅れるところでしたよ。先に乗っててください。僕はジュース買って行きますから」
マリア:「ああ、分かった」
2人の魔女は稲生が買ってくれた指定席特急券を手に、先頭車の7号車に乗り込んだ。
マリア:「勇太の『ジンクス』、魔法になりつつあるね」
ルーシー:「15番線で15号。私にはこの数字の一致の方が不吉に感じるよ」
2人席が2つ取られており、そこに座るマリア達。
マリア:「『数字のマジック』か。そうならない為に、某魔法学校へ行く特別列車はわざと変な数字にしたんだっけ」
ルーシー:「15という数字。何か意味があると思う?」
マリア:「下りには奇数の番号を付けるのよ」
ルーシー:「何で知ってるの?」
マリアはホームを歩く勇太を指さして言った。
マリア:「勇太が得意げに語っていた」
ルーシー:「なるほど」
ルーシーはそれを手帳に書き込んだ。
〔「この電車は22時50分発、高崎線の特急“スワローあかぎ”15号、高崎行きです。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕
微かにホームから発車ベルが聞こえて来る頃、勇太が戻って来た。
稲生:「お待たせしました」
そして、マリア達とは通路を挟んだ隣の席に座る。
通路側で、窓側には既に帰宅途上のサラリーマンと思しき男性客が座っていた。
終点まで乗るのか、座席を最大まで倒し、カーテンを閉めて既に仮眠モードに入っている。
そもそもが客層的には、そういった利用者を当て込んだ列車である。
〔15番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕
〔「15番線から特急“スワローあかぎ”15号、高崎行き、まもなく発車致します」〕
全車両指定席の電車に駆け込み乗車はされにくい為か、高崎線を走る最終の特急列車はスムーズに発車した。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。「お待たせ致しました。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。22時50分発、高崎線の特急“スワローあかぎ”15号、高崎行きです。これから先、赤羽、浦和、大宮、上尾、桶川、北本、鴻巣、熊谷、深谷、本庄、新町、終点高崎の順に止まります。……」〕
マリア:「勇太。さっきの温泉のチケット……」
勇太:「はい」
マリア:「多分大丈夫だと思うけど、一応本物かどうか確認して」
勇太:「分かりました」
当然ながら日本語で書かれている招待券。
こういうのは日本人に見てもらった方が良いとマリアは判断したようだ。
さっきチラッと稲生が見た限りでは本物っぽかった。
いや、あの上級悪魔2人が圧を掛けている状態で偽物を寄越すとは思えないのだが……。
勇太:「あっ!」
確かにそれは本物だったが、やはり中級以下とはいえ、悪魔の方もタダではやられないことを実感することになった。
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