報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“魔女エレーナの日常” 「ポーリン組も準備を始める」

2019-10-29 21:07:21 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間10月26日13:00.天候:濃霧 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ 魔王城新館]

 受付嬢:「こんにちは。どなたに御用ですか?」
 エレーナ:「ダンテ流魔法道ポーリン組のエレーナです。宮廷魔導師のポーリン先生と御約束があって参りました。妹弟子のリリアンヌも一緒です」
 受付嬢:「かしこまりました。少々お待ちください」

 魔王城新館のロビーはとても広い。
 大企業の本社ビルのロビーもかくやといったほどだ。
 どちらかというと、ホテルのロビーに近いかもしれない。
 しかし魔王城のそれは広さだけであり、とても落ち着いた雰囲気とは言えない。
 何故ならホールは薄暗く、城の上には時計台が突き出ているのだが、その下の振り子の部分が規則正しく、コーンコーンと響いているからだ。
 振り子の錘(おもり)だけで直径何メートルもあり、当然ながら柄の部分も何十メートルとある。
 東京の新宿NSビルのホールには、ギネスにも載っている大型の振り子時計があるのだが、それが柱時計に見えてしまうくらいだ。
 しかしその時計の精度は高性能であり、市民に時を告げる役割は大きいものとなっている。
 このホールでは、かつて旧政府軍と新政府軍の最終決戦が行われた場所で有名だ。
 今でも大時計の振り子の前には、そのことを伝えるモニュメントが設置されている。
 新政府軍の勝利で終わったことが書かれている。

 リリィ:「こ、ここ、ここに来るのは、ひ、ひひ久しぶりです……」

 リリィは緊張しているのか、治りかけた吃音症をぶり返してしまっていた。
 因みに受付嬢は、褐色の肌をした魔族である。
 その容姿は美しいもので、恐らく人間の男をそれで魅了して誑かせた後、取って喰うタイプの魔族だろう。
 同じ女の、しかもさっさと正体を見抜いている魔女のエレーナには何の興味も示さなかったようだが。

 受付嬢:「お待たせしました。それでは、新館北側の応接室999号室へお越しくださいとのことです」
 エレーナ:「ありがとう」

 エレーナはリリアンヌを伴って、言われた部屋に向かった。

 リリィ:「ご、ごごゴーレム……」
 エレーナ:「今はもうほとんど作動しない、ただの石像だな。本科教育で習っただろ?あれの動かし方」
 リリィ:「は、はい……」

 またしばらく進むと……。

 リリアンヌ:「が、ががガーゴイル……」
 エレーナ:「本当は外に設置しておく物なのに、中に置くとは……。トイレの警備でもさせてんのか?」

 魔王城においては、トイレの入口に石像が設置されていることが多々ある。
 チップトイレを兼ねている為、石像に小銭を入れてやらないとドアが開かない。
 無理やりこじ開けようとすると、石像が動いて【お察しください】。
 ガーゴイルやマンティコアなどの動物系だと口の中、先ほどのゴーレムのような人型だと手を差し出しているので、それに渡してやると良い。

 リリアンヌ:「トイレの警備しているの、あれ……」
 エレーナ:「あ、何だありゃ?」

 エレーナが訝し気な顔をしたのは、トイレの入口にいたのはクリスタル製のお地蔵さんで、しかもサングラスを掛けていた。
 手を差し出しているので、やはりチップが欲しいようだ。

 エレーナ:「……何の趣味で作られたお地蔵さんだ?」
 リリアンヌ:「オジゾーザン?」
 エレーナ:「日本では守り神の1つみたいなものだが、稲生氏の前で言うと嫌な顔をするから黙ってておけよ?」
 リリアンヌ:「フヒッ!?ブッディストの敵?」
 エレーナ:「いや、多くは味方なんだが、稲生氏の宗派だけ別」
 リリアンヌ:「???」
 エレーナ:「でも気をつけろよ?稲生氏みたいに魔力の強いヤツだから許されるけど、東アジア魔道団のヤツが酔っ払ってションベン引っ掛けたら大変な目に遭ったらしいから」
 リリアンヌ:「フヒッ!?わ、私達の敵の!?」
 エレーナ:「どこぞの反日コリアン魔女がやったらしいんだが……」
 リリアンヌ:「しかも魔女?!」

 そんな話をしているうちに、ようやく案内された部屋に到着する。
 中に入ると、古風な洋館にあるような重厚の造りの応接室が広がっていた。

 ポーリン:「遅いぞ、2人とも」
 エレーナ:「も、申し訳ありません!」
 リリアンヌ:「も、ももも、申し……」
 ポーリン:「まあ、良い。そこに掛けなさい」
 エレーナ:「はい、失礼します!」
 リリアンヌ:「し、しし、失礼します!」

 ポーリンは老婆の姿をしていた。
 イリーナと違って、若返りの魔法は必要な時にしか使わない。

 ポーリン:「今度のダンテ先生の御来日については聞いている通りだ。イギリスのロンドンを発ち、成田空港へ降り立たれる」
 エレーナ:「となると、アテンド役は……」
 ポーリン:「ベイカー組と決まった。ベイカー組は先だって弟子を2人日本で失ったので、弟子はルーシー・ロックウェル1人だけである」
 エレーナ:「やっぱりそうなりますか」
 ポーリン:「1期生の中では年長クラスのベイカーともあろう者が、油断して弟子を2人失ったことは大きい。私自身は弟子もろとも謹慎処分にすべきと進言したのだが、却下されてしまった」
 エレーナ:「さすが大師匠様の御心は広いですね」
 ポーリン:「先生は『挽回の機会を与える』とのこと。しかし、その広い御心に甘えてはなりませんよ?」
 エレーナ:「はい!」
 リリアンヌ:「は、はい!」
 ポーリン:「日本国内におけるアテンドはイリーナ組が行う。しかも、まだ見習弟子のユウタ・イノウにだ」
 エレーナ:「稲生氏は日本人ですし、しかも趣味が趣味なだけにベストチョイスではあるかと……」
 ポーリン:「ダンテ先生直々の推薦ですから、そこに関して邪魔はしてなりません。しかしエレーナ」
 エレーナ:「な、何でしょう?」
 ポーリン:「あなたも日本を拠点としている以上、ダンテ先生に対してアピールすべき点があるはずです。ユウタ・イノウは所詮日本人。日本人の視点でしか日本という国を見られない。しかし、あなたは違います。在日ウクライナ人として、違う視点で見ることができるはず。イリーナ組に負けてはなりませんよ?イリーナに負けるようなことがあっては、ならないのです……!」
 エレーナ:「分かりました」

 表向きにはイリーナとポーリンのケンカは収束したことになっている。
 ダンテが介入して直々に和解命令が来た以上、それを無視してケンカを続けたら、正直破門まで行ってしまうかもしれない。
 あれ?日蓮正宗でそんなことあったような?
 しかし、心中においてはやはり仲直りしたとは言えないポーリンなのだった。

 エレーナ:(キャシー先輩が独立した理由、何となく分かるような気がする……。負けるわけにはいかないっつってもなー、稲生氏のことだからもうとっくにプラン立ててるだろうし……。全く)

 とはいえストリートチルドレンだった自分を拾って、ここまで育ててくれた恩はあるので、無碍にもできない。

 エレーナ:(さて、どうしたもんか……)

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