報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「JR大糸線」

2019-10-28 15:07:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月26日12:21.天候:晴 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅]

 1日に数本しか無い路線バスに乗り、村の中心部にあるJRの駅までやってくる。
 そしてその足で駅構内に入るが、Suicaではなく、キップを買って中に入る。
 JR大糸線は未だSuicaのエリアではないからだ。
 本線ホームたる1番線には2両編成の電車が停車していて、『ワンマン』の表示がされていた。

 稲生:「良かった。間に合った間に合った」
 マリア:「結構ギリギリだったね。ワープを使わなかったら、乗り遅れてたよ」
 稲生:「そうですね」

 電車に乗り込み、空いているロングシートに座った。
 観光地を走るからか、ボックスシートも導入されているのだが、千鳥配置になっており、結局はロングシート主体と言っても良い。
 稲生達を最後の乗客とすると、運転士が立ち上がって乗務員室ドアの窓から顔を出すと、ドアスイッチを操作した。
 そして、ドアが閉まったのを確認すると、また運転席に座る。
 ガチャッとハンドルを操作する音が静かな車内に聞こえて来た。
 今度はインバータのモーター音。
 ゆっくり走り出すと、ポイントを渡る為に電車が揺れる。
 走り出した時の揺れとポイントの揺れで、マリアの体重が稲生の肩に一瞬のしかかった。
 もちろん、稲生にとっては御褒美である。

〔この電車は大糸線上り、信濃大町、穂高方面、各駅停車の松本行き、ワンマンカーです。【中略】次は、飯森です〕

 稲生:「大糸線に乗るのは久しぶりですね」
 マリア:「勇太の最近のルートは、バスで長野駅に出ることが多い」
 稲生:「そっちの方が楽だからですよ。やっぱり新幹線を使った方が速くて楽です」
 マリア:「まあね」
 稲生:「安く行こうとすれば、バスタ新宿行きの高速バスになりますしね。先生が御一緒で予算が使えるのであれば、新幹線に乗った方がいいです」
 マリア:「うん」

 しかし何故か長野ルートを使いたがる稲生。
 白馬なら大糸線の北の終点、糸魚川まで行っても北陸新幹線には乗れる。
 しかし、何故か稲生はそのルートを使いたがらない。
 恐らく、南小谷駅でJRが分岐する為、強制的に乗り換えをさせられることとなり、それが煩わしいのだろう。
 一人旅やマリアとの二人旅ならまだ何とかなるが、新幹線ルートを使えるイリーナと一緒の場合、そうもいかない。
 その為、今では大糸線を使うのは大町市に用があるか、松本市に用がある時くらいしか利用しなくなってしまった。
 今日は前者である。
 やはり『村』よりは『市』の方が揃っている。

 稲生:「昔は211系も走っていましたが、今は無いですね。あの、ロングシートだけしか無い旧型の……」

 現在はその車両、信濃大町駅から南でしか運転されていない。
 ワンマン非対応の為。
 まだ稲生が入門する前、普通の人間としてマリアと会っていた時、乗った大糸線電車は211系だった。
 あれから何年経ったのか……。
 魔道士の怖い所は、自分の見た目が全く変わらない為、周囲の時間の経過が時々分からなくなることである。
 魔道士が未だに魔法だけで生活するのではなく、こうして時間で動くものを利用するのは、そういった時間の感覚を取り戻す為でもあるのだろうか。

 マリア:「イギリスでは、あんまり無いな。こういう横向きのシート。地下鉄とかなら当たり前だけど……」

 ヨーロッパの近郊列車はクロスシート車が基本。
 ロングシート車は地下鉄や路面電車くらいのもの。
 それらでさえクロスシート車も存在するくらいである。

 稲生:「未だに背中合わせのクロスシートとかは慣れないですね。たまに魔界高速電鉄にいたりしますけど……」

 種々雑多の電車が走る魔界高速電鉄。
 地下鉄においてもそれは顕著で、開業当時の地下鉄銀座線1000形に酷似した電車と、ニューヨーク地下鉄の旧型電車が一緒に走っているような線区も存在する。

 マリア:「もっとも、私も人間だった頃はイングランドの片田舎に住んでいたわけだけど……」
 稲生:「その時住んでいた家、今でもあります?」
 マリア:「……あると思う。でも、恐らく未だに空き家か、或いはもう誰か人手に渡っているんじゃないかな」
 稲生:「どうしてそう思うんですか?」
 マリア:「私が死ぬ前から、両親は離婚寸前だったからだよ。日本には『子は鎹(かすがい)』っていう諺があるらしいね?私もそのパターンだったことを考えると、私が(人間としては)死んだことで、離婚したと思うよ」
 稲生:「そうですか……」
 マリア:「だから、勇太のご両親があんなに仲がいいのがとても羨ましい」
 稲生:「そこは威吹のおかげなんですよ」
 マリア:「イブキの?」
 稲生:「威吹が来る前はうちも貧乏で、両親も不仲でしたよ。今から思えば信じられないくらい。威吹が幸運をもたらしてくれたんですよ」
 マリア:「妖狐は、ヨーロッパでは『金銭欲・物欲の悪魔』マモンの眷属とされている。そのせいかな?」
 稲生:「稲荷大明神が日本におけるそのような存在であったとするならば、十分に納得行きますね。魔の通力だったみたいで、確かにお金には困らなくなり、それが原因で不仲だった両親の仲も修復しましたが、僕自身は悪い妖怪に狙われるようになりましたから」
 マリア:「そうか」
 稲生:「でも、残念です」
 マリア:「何が?」
 稲生:「僕もマリアさんの御両親に挨拶したかったのに」
 マリア:「どうせ私は、イギリスじゃ死んだことになっているから、別にいいよ」
 稲生:「本当にそうですか?」
 マリア:「何が?」
 稲生:「だってマリアさん、パスポート持ってるでしょ?」
 マリア:「これは師匠のツテで……」
 稲生:「永住者の資格も取られた」
 マリア:「だからこれも師匠が……」
 稲生:「マリアさんの『死体』が見つかっていないのに、死亡扱いですか?」
 マリア:「日本だって、行方不明者が何年も見つからなかったら、死亡扱いされるんだろう?」
 稲生:「北朝鮮に拉致された、ということでもなければ……」
 マリア:「さすがに私はそんなことは無さそうだなぁ……」

[同日12:59.天候:晴 長野県大町市 JR信濃大町駅]

〔まもなく信濃大町、信濃大町です。信濃大町では、全ての車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。……〕

 白馬駅からおよそ30分ほど電車に揺られ、稲生達は大町市に入った。

 稲生:「みどりの窓口は白馬駅にもあるからいいんですが、他にも必要なものがありますからね」
 マリア:「買い物だったら付き合うよ。もうここまで来たけど」
 稲生:「どうもどうも」

 ドアが開いて電車を降りる。
 改札口は跨線橋を渡らないといけないので、2人で手を繋いで昇って行った。

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