報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 東北新幹線“はやぶさ”101号

2021-07-08 20:06:11 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月28日07:40.天候:曇 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅→東北新幹線4101B列車8号車内]

〔ピン♪ポン♪パン♪ポーン♪ 17番線に、7時41分発、“はやぶさ”101号、盛岡行きが10両編成で参ります。この電車は途中、仙台と仙台から先の各駅に止まります。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車です。……〕

 新幹線乗り場に入った稲生達は、朝食の駅弁を購入してホームに上がった。
 こちらも上りホームは新幹線通勤者で賑わっている感はあるが、在来線の比ではない。
 下りホームは、稲生達のような旅行客が多かった。
 緊急事態宣言終了に伴い、ボチボチと旅行客が増えて来た。
 尚、作者は団体客のことを『Gotoトラベル隊』と呼んでいる。

〔「17番線、ご注意ください。7時41分発、“はやぶさ”101号、盛岡行きの到着です。仙台から先の各駅に止まります。自由席はございません。自由席特急券ではご乗車になれませんので、ご注意ください」〕

 車両が統一されている東海道新幹線ホームには、安全柵(ホームドア)がある。
 しかし、様々な車両が停車する東北新幹線には、まだ一部の駅を除いてホームドアは設置されていない。
 HIDの眩い真っ白なヘッドライトを灯して、エメラルドグリーンの塗装が目を引く列車が入線してきた。

 エルフェゴール:「ふむ、エメラルドグリーンか。悪くない」

 いつの時代の英国紳士のコスプレか、シルクハットにタキシードと蝶ネクタイ、ステッキを持っていつの間にか現れるマリアの契約悪魔。
 シンボルカラーは緑色であり、契約者たるマリアに緑色の服を着せているのも契約の1つである。
 今、マリアはダークグリーンのローブに、モスグリーンのプリーツスカートを穿いていて、それが緑色である。

〔「おはようございます。大宮ぁ、大宮です。17番線の電車は7時41分発、“はやぶさ”101号、盛岡行きです。次は、仙台に止まります。お乗り間違えの無いよう、ご注意ください」〕

 全車両指定席の列車では、下車客など無く、稲生達はすぐに列車に乗り込んだ。
 この時点で8割方の乗客が乗っていた。
 平日なのでサラリーマン客が多いが、一部にGotoトラベル隊も含まれている。
 予約した2人席に座った。
 すぐにホームから発車ベルの音が微かに聞こえて来る。
 在来線では全てのホームで発車メロディが流れるが、新幹線だけはベルのままである。
 マリアはいつもの通り、人形の入ったバッグを荷棚に置き、ローブをその横に置いた。
 ローブを脱ぐと、まるでJKのようである。
 18歳の時に入門したマリアは、早くから悪魔と契約した為に老化が止まっている。
 18歳と言えばまだ成長期だが、その成長も止まるのである。
 それでも完全に止まるわけではなく、極端に遅くなるというのが正解。
 一応これでも身長は少し伸び、体つきも大人びるようになった。
 というわけで、大卒と同時に入門した稲生も22歳で老化は止まっていることになる。
 テーブルを出して、弁当を置いている間に列車が走り出した。

〔「大宮からご乗車のお客様、お待たせ致しました。おはようございます。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。東北新幹線“はやぶさ”101号、盛岡行きです。次は、仙台に止まります。仙台から先は終点盛岡までの各駅に停車致します。……」〕

 駅弁を開ける。

 稲生:「やっぱり鉄道旅行と言えば、駅弁だなぁ」
 マリア:「日本の文化だろうね。イギリスには無い」
 稲生:「でも向こうは食堂車がまだあるでしょ?その代わりこっちは、もう食堂車が無いからね」
 マリア:「まあね」

 尚、荷棚に乗っているミク人形とハク人形はカップアイスを食べていた。
 シンカンセンスゴイカタイアイスは、JR東日本からは無くなってしまった(売店では購入できるが、車販のあの硬さは無い)。

 マリア:「後でルーシーに、『今度は東北新幹線に乗ってる』とでも伝えておこう」
 稲生:「いつかまた来日して、新幹線に乗れるといいねぇ……」

[同日09:12.天候:曇 宮城県栗原市志波姫新熊谷 JRくりこま高原駅→栗原市民バス車内]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、くりこま高原です。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。くりこま高原の次は、一ノ関に止まります〕

 大宮駅からおよそ1時間半。
 信じられないほどのスピードで、目的地の最寄り駅に接近した。
 これは“はやぶさ”の最高時速が320キロであることの現れである。

 稲生:「あっという間に到着したな」
 マリア:「320キロなら、ルーシーも大喜びだろうね」
 稲生:「早く来れるといいねぇ……」

 列車は少しずつ速度を落として行く。
 マリアは荷棚に手を伸ばして、バッグとローブを取り出した。
 車内は大宮駅を出た時点で満席に近くなっていたのだが、仙台駅で乗車率を落とし、今では半分くらいの数である。

〔ドアが開きます〕

 列車がホームに停車し、ドアが開く。
 この駅にはホームドアがある。
 停車する列車が少ない為に、逆に車両が統一化でき、尚且つ通過線が無いから必要なのだろう。
 くりこま高原駅は東北新幹線が開通してから後付けで開業した駅であるが、東海道新幹線では同じく後付け開業の新富士駅と違い、通過線を設けることはできなかった。
 そこで、ホームドアを早々と設置することになったのだ。
 今では本線を通過列車は時速320キロで通過するので、この駅で列車を待つ間、通過列車に当たるとスリリングである。

 マリア:「ここからバスだな?」
 稲生:「そう。待ち時間はそんなに無くて、すぐに乗れる感じだよ」
 マリア:「それは良かった。何だか本当に、ローカル駅って感じ」
 稲生:「うん、そうだね」

 階段を下りて改札口に向かい、駅の外に出る。
 駅の外はロータリーが広がっていたが、確かに全体的に静かな感じだ。

 稲生:「あの白いバスかな」
 マリア:「Suicaは使える?」
 稲生:「いや、多分使えない。自治体バスとかコミュニティバスだと、往々にして使えないことが多いからね」
 マリア:「じゃあ、どうする?」
 稲生:「そりゃもうニコニコ現金払いだろう」
 マリア:「いくら取られるんだろう?」
 稲生:「路線バスだから、そんなに取らないと思うけどね」
 マリア:「地元市民は福祉政策の一環で安い運賃でバスに乗れるが、よそ者は高めに取られるってことはあるよ」
 稲生:「あー、欧米ではそういう所があるらしいね。日本では……多分無いと思うけど……」

 乗り合いタクシーやデマンドバスなどは地元民が優先で、地元民の利用が無かったり少なかったりした場合のみ、よそ者の利用可というのはある。
 しかしこれから稲生達が乗る市民バスは自治体バスとはいえ、一般の路線バスにカテゴライズされるものである為、運賃さえ払えればよそ者でも自由に乗車可であるはずだ。
 そして実際そうだったのだが、やはりマリアの存在は目立つようで、他の乗客達からの視線を受けることになった。

 稲生:「宮崎アニメの“魔女の宅急便”だって、主人公は初めて大都市に来た時、市民達からの好奇の視線を浴びたものだよ」
 マリア:「知ってる。そりゃ、ホウキで乗り付けたら目立ってしょうがないだろう」
 稲生:「エレーナはその点、上手くやってるねぇ……」
 マリア:「まず、あの町に教会が無いのが幸いだ。教会は魔女狩り共の拠点になるから、それが無いだけでも大きい」
 稲生:「なるほど。僕達、日蓮正宗(特に妙観講)から見れば『邪宗の砦』か……」

 そんなことを話していると、バスにエンジンが掛かった。
 発車の時間になってからエンジンを掛けるところは、首都圏と変わらない。

〔「栗駒方面行き、発車致します」〕

 白い塗装の中型路線バスは、中扉を閉めて発車した。
 尚、昭和時代の田舎のバスは都会のそれと違ってオンボロであることがベタな法則であったが、令和の今、如何にフリー乗降制が導入されるほどの路線であったとしても、車種は都会を走る路線バスとほぼ同じであり、いわゆるボロい車両は存在しない(大型か中型か小型かの違い)。
 稲生達が乗ったバスも中型車ではあったが、首都圏でも普通に見られるノンステップバスであった。

 マリア:「向こうの家に連絡は?」
 稲生:「父さんからしてくれてる。僕達があの列車に乗って、このバスで向かっていることは、向こうの稲生さん達も知っているはずだよ」
 マリア:「そうか……。で、その手に持っている荷物は何?」
 稲生:「お土産だよ。蔵の中を探させてもらうのに、タダってわけにはいかないでしょう?ましてや人形が見つかったら、マリアさんがもらうんだから」
 マリア:「確かに、対価は必要だな。だけど、現物でいいのか?金なら、私も少しは出せる……」
 稲生:「こういうのが日本の文化ってものなんだよ」

 因みに稲生が持っているのは埼玉県の酒造メーカー造られた純米吟醸酒の一升瓶、それと埼玉名物“十万石まんじゅう”の詰め合わせである。

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1 コメント

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Unknown (雲羽百三)
2021-07-09 12:49:04
世界を陰から操る黒幕が存在するのなら、それは複数かもしれない。
その複数の黒幕達がマウント取り合戦を繰り返し、ブレた世界となっているのではないだろうか。
一部の人々はそれを「神」と呼び、一部の人々は「仏」と呼び、一部の人々は「悪魔」と呼ぶ。

この作品はそんな「神」「仏」「悪魔」を使った大魔道師達の下で走り回る魔女達の物語。
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