報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 最後の人形 3

2021-07-12 11:12:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月28日15:00.天候:曇 宮城県栗原市某所 稲生家]

 ミカエラ:「お掃除、粗方終わりました」
 クラリス:「お役に立てましたでしょうか?」
 マリア:「う、うん。ありがとう。後で体と服、洗っておくからね」

 マリアの人形、ミクとハクは人間形態に戻り、蔵の中の清掃を一手に引き受けた。
 しかし、何十年も人の出入りが無かった蔵は荒れ放題で、そんな所を率先して掃除したのだから、埃塗れだけでは済まなかった。

 稲生俊彦:「あの外人さん達、一体どこから来た?」
 稲生勇太:「気にしないでください。マリアさんの付き人でして……」
 俊彦:「まだ若いのに、付き人付きなんて偉いんだっちゃね~」
 勇太:「僕の先輩だし、一人前の人なんで」
 俊彦:「いくつなの?」
 勇太:「えーっと……。魔道士に歳を聞いてはいけないという鉄則があって……」

 “魔の者”に襲われた時、いくつだったっけ……?

 勇太:(そういえば、今は“魔の者”の話を一切聞かないなぁ……)
 俊彦:「ん?」
 勇太:「まあ、僕よりは年上だけど……」
 稲生政代:「あんだ、早くアタシらも掃除するよ!」

 と、俊彦の妻が言った。

 俊彦:「ンあー、分がっだって!」
 勇太:「あ、僕も手伝います」
 俊彦:「いいがら!勇太はマリアさんと一緒にいでけろ!」
 政代:「まだまだ蔵ん中、汚れてっがらね。きれいにするのは、私らの仕事さ。勇太君達はお客さんだから、いいよいいよ」
 勇太:「はあ……」
 マリア:「ちょっと洗面所貸してください。このコ達を洗いますから」
 政代:「ああ、いいよ。自由に使ってけれ」
 マリア:「ありがとうございます」

 いつの間にか人形形態に戻るミカエラとクラリス。
 マリアは家の中に入ると、人形達を洗った。

[同日18:00.天候:晴 宮城稲生家・蔵]

 蔵の中に入る頃、西日が差して来た。
 どうやら何とか雨は免れたようだ。
 勇太とマリアは何とか蔵の中に入ることを許された。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。……」

 マリアは呪文を唱え、ここにいるはずの人形に対する『呼びかけ』を行なった。
 通常なら、それでこの場にいる人形達が何らかのリアクションをしてくる。
 だが、全くうんともすんとも言わなかった。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。……」
 勇太:「どういうことだ?」

 勇太は周りを見渡した。
 すると、不思議なことが分かった。
 いや、不思議としていいものかどうかは断言できないが……。
 要は、静岡の佐野家との違いについてである。
 佐野家には、蔵の中に日本人形やマネキン人形まで置かれていた。
 それが、この蔵には日本人形すら無い。
 もちろん、必ずなければならないというものでもないが、こういう田舎の家にはありそうなものなのに、それが全く無いのだ。

 マリア:「ダメだ。出て来ない。ここにはいないのだろうか……」
 勇太:「えーっ、そんな!ここまで来て……」

 2人の魔道士が失意に落とされそうになった時だった。

 俊彦:「ぅおーい、2人とも。そろそろ夕飯にすっぺ」
 勇太:「あ、伯父さん」
 俊彦:「人形は出て来たかね?」
 勇太:「いや、まだだよ。というかこの蔵、他に人形はしまってないの?日本人形とか……」
 俊彦:「いや、それは知らねぇ。何せ、何十年も閉まってた蔵だからやぁ~」
 勇太:「ここにあるって聞いたのになぁ……」
 俊彦:「また明日探せばいいべ。明日は蔵ん中整理すっからや。そん時、見つかるかもしれねぇっちゃ?」
 勇太:「う、うん……」

 それは無いなと勇太は思った。
 もしそうなら、とっくにマリアの『呼びかけ』に応じて出て来るはずなのだ。

[同日19:00.天候:晴 宮城稲生家 母屋1F茶の間]

 勇太とマリアが夕食を御馳走になっている時、俊彦の息子が言った。

 稲生祐介:「父さん、姉貴に『蔵が開いたから見に来たら?』って連絡しといたよ」
 俊彦:「そうか。そしたら?」
 祐介:「『どうやって開けた!?』って、びっくりしてたよ」
 俊彦:「ンだべなぁ~」

 俊彦はカラカラと笑った。

 勇太:「『魔法で開けた』って返信した?」

 勇太は従兄に言った。

 祐介:「言った言った。したら、『はぁ!?』って」
 勇太:「予想通りの反応だ」
 俊彦:「で?理恵は来るって?」
 祐介:「明日来るらしいよ」
 俊彦:「早っ!」
 勇太:「お姉さんって今、どこにいるの?」
 祐介:「仙台。平日も休日も関係の無い仕事で、ちょうど明日、公休だからそれで帰って来るって」
 勇太:「そうなんだ。あの蔵、いつから出入りが無くなったんですか?」
 俊彦:「祖母ちゃん(俊彦の母。『青い目の人形』を隠した本人)が死んでからだね。何しろ遺言で、『蔵の中の物を勝手に動かすな』って言ってたから、祖父ちゃん(俊彦の父)が、『そしたら、もう蔵には誰も入るな』って言って、鍵をどこかにやっちまったんだよ」
 勇太:「『蔵の中の物を勝手に動かすな』?それはどういう意味なんでしょう?」
 俊彦:「分かんねぇなぁ……。親父に聞いたら、『ガキは余計なこと聞くな』って怒られたし……」
 祐介:「ガキって、祖母ちゃんが死んだの、俺が子供の頃だよ。その時、父さん、もう40歳くらいじゃなかったっけ?」
 俊彦:「40にもなってまだガキ扱いとは、恐れ入ったね~」

 勇太は『蔵の中の物を勝手に動かすな』という遺言が、どうも気になった。

 勇太:「でも明日、蔵の中の物を整理するんですよね?」
 俊彦:「ンだ。もう親父も亡くなったし、俺がこの家継いだからには、あとは俺の好きにさせてもらうっちゃね」
 祐介:「俺も祖母ちゃんの遺言が引っ掛かるんだ。勇太達に探し物があるなら、きっと『蔵の中の物』を『動かした』時に分かると思うよ?」
 勇太:「そうだね。マリアはそれでいいかい?」
 マリア:「家主の意向に従うよ。いくら魔道士でも、他人の物をどうこうできないからね」

 マリアは食後に出された紅茶を啜って答えた。
 マリアだけ来客用のティーカップで、しかもわざわざ買って来たのか、紅茶であった。
 蔵の鍵を開け、中の清掃を(人形達にやらせたとはいえ)したのだから、VIP待遇に近いものである。
 そして、また謎のメッセージが勇太達の元に齎されることとなった。

 祐介:「ん?また姉ちゃんからのLINE。……『金庫の鍵は私が持ってるから、それまで手出ししないで』?」
 俊彦:「金庫?」
 勇太:「金庫?」
 マリア:「Kinko?」
 俊彦:「何のこっちゃ?」
 勇太:「蔵の中に金庫なんてあったっけ?」
 マリア:「いや、無かったと思う……」
 俊彦:「間違って送って来たんでねぇの?」
 祐介:「いや、別にグループLINEじゃないし……。何だろう?」
 勇太:「あの蔵、何か仕掛けがしてあるのかもね」
 俊彦:「まあ、無きにしもあらず、だなや」

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