報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

前回の続き。タイトルは、「逝っとけダイヤ」

2013-12-01 20:24:14 | 日記
[17:20 東京メトロ有楽町線 新木場行き 西武6050系車内 威吹、ユタ]

「取りあえず、これで新木場まで行って、そこからりんかい線に乗り換えよう」
 ユタはドアの上の路線図を見て言った。
「威吹、新木場には来たことあるかい?」
「いや、無いな」
 威吹はユタの質問に対し、首を横に振った。
「そもそも江戸自体、入ったことが無い。せいぜい、成木街道(青梅街道の旧称)の中野宿(東京都中野区)までしか無い」
 それでも威吹は路線図で、今自分がどこにいるかは分かったようだ。
 乗車電車が西武鉄道の物の為か、西武線の路線図の方が詳しく載っている。
 西武新宿線方向に目を向ければ、懐かしい地名、田無とか小川とかが見える。そこから、有楽町線の新木場駅が1番右端に書かれていることで、遠くまで来たことを痛感するのだった。
「なるほど」
 電車が地下から地上に出る。と!
「ん!?」
 突然、車内が閃光に包まれた。そして、窓ガラスにはバケツで直接掛けられたかのような水しぶきが叩きつける。
「びっくりした……」
「夕立だな」
 威吹は至って平然としている。
「つーか、ゲリラ豪雨だ……」
 ドアの上のモニタで、天気予報をやっていた。どうやら、都内のあちこちでゲリラ豪雨が発生しているらしい。
 その為か、更にあちこちの鉄道路線のダイヤが乱れているようだ。

[17:29.新木場駅りんかい線ホーム→りんかい線車内 威吹、ユタ]

〔「2番線から、埼京線直通、快速、川越行きが発車致します」〕
「待って!待って!」
 威吹とユタは乗り換え先でも、急いで乗り込んだ。
 乗り込むと、すぐにドアが閉まって走り出した。
「ふう……」
 ホームに目を向ければ、駆け込み乗車に失敗して、地団太踏む乗客の姿が見える。
「よし。これで、大宮まで行くぞー」
「承知」
 ユタは空いているブルーの固い座席に座ると、ホッと一息ついた。

[同時刻 新木場駅りんかい線ホーム 藤谷の班員A、班員B]

「ああっ、くそっ!」
「失敗した!」
 2人は藤谷の指令で動いていた法華講員2人だった。タッチの差で、威吹達を取り逃がしてしまった。
 班員Aは携帯電話を取り出した。
「すいません、班長。奴ら新木場駅に来たのはいいんですが、かなり急ぎ足でして……。ええ。取り逃がしてしまいました。すいません」
{「ばっ、バカヤロ!俺の10万円持ち逃げした顕正会員だぞ!?どうしてくれる!」}
 班員Bが電話を替わる。
「班長。奴らが乗った電車は埼京線直通、快速、川越行きでした。つまり、赤羽までの埼京線各駅と戸田公園、武蔵浦和、与野本町、大宮から川越までの各駅に人員を配置すれば包囲網ら掛かります」
{「どこにそんな人員があるんだ、ああっ!?」}
「それは……」
{「ん、待てよ。ブクロ?ブクロっていやあ、うちのお寺の最寄駅じゃねーか!」}
「さいです」
{「ダメ元で、ブクロ付近で一斉捜索しよう。着物姿に銀髪なんて、すぐに分かるからな」
「了解です」
{「埼京線直通の……?」}
「快速、川越行きです。車両はJRじゃなく、りんかい線の70-000系(ななまんけい)です」
{「よし!それだ!その電車をブクロで一斉捜索だ!」}
「了解しました!」

[17:44. りんかい線大井町駅 威吹、ユタ]

 電車が地下ホームに滑り込む。りんかい線ホームは二層構造になっている。
〔「大井町です。お客様に、お知らせ致します。只今、湘南新宿ラインは集中豪雨の影響で、遅れが発生しております。そのため、この電車も時間調整を行っております。発車まで、しばらくお待ちください。お急ぎのところ、大変恐れ入ります」〕
 そんな車内放送が流れた。
「参ったなぁ……」
 ユタが呟いた。
「どういうこと?」
 威吹が聞いた。
「ゲリラ豪雨が都内のあちこちで発生してるせいか、電車も遅れてるらしいんだ。大崎駅から池袋駅まで、湘南新宿ラインと同じ線路を走るもんだから、それが遅れるとこっちも影響を受けるんだ」
「現代は大変だな」

 それから3分後、ようやく運転再開する。

「まだ運転打ち切りじゃないだけマシか……」
 と、ユタが呟いた。

[17:50.大崎駅8番線 威吹、ユタ]

〔「お客様にお知らせ致します。川越線は集中豪雨の影響で、埼京線との直通運転を中止致しました。その為この電車、本日に限りまして、快速、大宮行きとさせて頂きます。……」〕
「うわ、行き先変わった!」
「何か不都合かい?」
「いや、まだ大宮行きなだけマシだ。まだ運転打ち切りじゃない……」

 しかしそれでも大崎駅でも相当、発車まで待たされた。

[18:10.JR新宿駅4番線 威吹、ユタ]

 電車が新宿区に入ると、再びゲリラ豪雨に見舞われた。で、ドアが開くと、雨しぶきが車内に入ってきた。ドアの横に座っている威吹は、顔をしかめた。
〔「お客様にお知らせ致します。この先を走ります各駅停車が運転を打ち切りました。その為この電車、本日に限りまして、各駅停車、大宮行きとさせて頂きます。……」〕
「うわっ、また種別まで変わった!……いや、不都合は無いけど」
〔「……発車まで、もうしばらくお待ちください」〕
 ドアの上のスクロール式LED案内板も、『各駅停車 大宮行き』と表示していた。

[18:20.JR池袋駅4番線 藤谷班総員]

「いいか!?各車両に2人ずつ入って、捜索しろ。銀髪に白い着物、紺色の袴の男を見つけたら知らせろ!」
「はい!」
「快速の川越行きだぞ!」
「はい!」
〔「各駅停車、大宮行きの到着です」〕
「班長」
「これは違うな。これはパスだ」
「はい!」
 りんかい線の車両が入線してくる。
〔「遅れております各駅停車の大宮行きは、すぐの発車となります。お近くのドアからご乗車願います」〕
〔4番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕
「班長!」
 ダダダッと走ってくる2人の班員。
「おい、持ち場を離れるな!どうした?」
〔「4番線、電車が発車します。電車から離れてお歩きください」〕
「いました!銀髪に着物の男!」
「なにいっ!?」
 走り過ぎ去る電車の中には、確かに威吹とユタがいた。しかも、互いに目があった。
「あ、あいつら、快速、川越行きだと言ってたじゃねーか!嘘情報流しやがって!」
「途中で乗り換えたんスかね?」
「とにかく、あれだ。赤羽駅を押さえろ!」
「もう間に合わないっスよ!」
「北赤羽と浮間舟渡は!?」
「退転者しか住んでません!」
「このやろ……!戸田公園から先は、埼玉地区の管轄だし……」
「班長、地区長を通して埼玉地区に応援を呼びかけましょう!」
「いや……。俺は一旦、寺に戻る。車を出して、直接埼玉に乗り込むぞ」
「ええっ!?」
「行き先は大宮だったな?」
「そうですけど、顕正会員が大宮……あっ!?」
「顕正会員なら、大宮だろー!ブクロで降りなかったということは……」
「そうですね」
「一応、常盤台の東京会館も押さえろ」
「分かりました」

[19:30.JR大宮駅タクシー乗り場→タクシー車内 威吹、ユタ]

「ひどい遅れだったなぁ……。予定より、30分も遅れたよ」
「こっちは雨は……少しは降ったようだな」
 しかし、今は雨が止んで蒸し暑い。今夜も熱帯夜になりそうだ。
「ここからタクシーで帰ろう。まさか、家まで押しかけてこないだろうけど……」
「大丈夫。その時はボクが半死半生にしてやるから」
「お手柔らかに……」
「あっ!もしかして……」
 東口のNEWDAYSの前を通り掛かった時、ユタ達に話し掛けてくる青年の姿があった。
「はい?何ですか?」
「もしかして、東京の銀座から来ました?」
「ええ、まあ……」
「ちょっと待っててください」
 すると男は携帯電話を出して、
「もしもし。藤谷班長ですか。大宮駅で見つけました。銀髪に着物姿の男」
「……ユタ、逃げるぞ!」
 威吹はユタの手を取って、走り出した。
「あっ、待てっ!」
「追っ手だった!」
「大宮にまで!?」
「車はどこだ!?」
「この階段を降りたところ!」
 2人は階段を転がり落ちるように駆け降りると、タクシーに飛び乗った。
「とにかく、すぐ出してください!」
「はい」
 タクシーはすぐに走り出した。
「もしもし。すいません、班長。取り逃がしてしまいました。……班長も車で?分かりました。自分もタクシーで追います。……はい」

[19:40.タクシー車内 威吹、ユタ]

「こりゃ本当に、家まで来そうだな」
「ええっ」
「まあ、ボクに任せといて」
 威吹はニヤリと笑うと、両手の骨をバキボキ鳴らした。
「はは……。あっ、運転手さん。このスクランブル交差点、右に曲がってください」
「それはできません」
「えっ?あれ?右折禁止?いつの間に?」
「すぐに顕正会本部会館に向かいます」
「は?」
「久しぶりだね?稲生君、威吹君」
 白い帽子を取った運転手は、
「わわっ!?田原隊長!?」
 かつての顕正会の上長だった。車は旧中山道を右折ではなく、本当に直進した。
「何やら大変な目に遭ってるようだね?顕正会を退転して身の持つはずが無いと、やっと分かったかい?」
「隊長こそ、どうしてタクシーの運転手に?確か、公務員でしたよね?」
「怨嫉に遭ってね。しかしこれも、罪障消滅だよ」
「……職場の人や役所にやってくる人達を折伏して、大クレームですか?」
 ユタはジト目で言った。
「しかし、こうしてすぐに再就職が叶った。功徳だよ」
「いや、でも……タクシーの運転手って、すぐになれる職業じゃ……?ま、とにかく、僕は顕正会には戻りません!降ろしてください!」
「ここで降りたら、またキミには罰が下ることになる。ここで再会したのもまた仏縁。料金はいらないから、早く本部に戻るんだ」
「ケンショーなんかで活動してたから、有紗が死んだんだ!」
「あれは魔障だよ。キミの彼女を失わせて、キミをいかに顕正会から退転させようとしたんだ。今、魔の思うツボの状態だよ」
「絶対違う!」
「おい!ユタは嫌がってるだろ!止めろ!」
 威吹は後ろから隊長を羽交い絞めにした。
「危ないだろ!」
 タクシーが蛇行運転する。危うく対向車に衝突しそうになる。哀れ、対向車はセンターラインをはみ出したタクシーを避ける為に急ブレーキを踏んだら後続車に追突された。

[20:00.さいたま市内の産業道路 藤谷春人]

「ぜってぇ、10万円は取り戻すからな!」
 藤谷は大宮駅で威吹達を目撃した班員から、タクシー会社とナンバーを教えてもらっていた。
 ん?ブクロから大宮まで車で40分で行けるのかって?怒りの藤谷は、時にはケンショーレンジャーをも超越するようである。
「いたっ!しかも、乗ってる!」
 産業道路で追いつく藤谷。パッシングして、クラクションを鳴らす。
「こらーっ!止まりやがれ!」

[同時刻 タクシー車内 威吹、ユタ、田原隊長]

「何だ、後ろのベンツ!?」
「隊長が暴走運転するから、ヤーさんが怒ってるんですよ、きっと!」
「ヤクザだぁ!?よーし、浅井先生の大信力を思い知らせてやろう」
 田原はアクセルを踏み込んだ。
「止まって、話し合いに行くんじゃないんかい!」

[同時刻 ベンツEクラス 藤谷春人]

「ダンプ1号、聞こえるか!タクシーの進路を塞げ!」
 藤谷は車の中から、何やら指令を出した。ちょうどその時、『この先、道路工事中』という立て看板が見えた。

〔車が動きます。ご注意ください。バックします。ご注意ください〕

 ゆっくり道路上にバックして、タクシーの進路上に出る大型ダンプ。その車体には、『(株)藤谷組』と書かれていた。
「ああっ!?」
 しかし、タクシーは華麗にダンプの横をすり抜ける。
「作戦失敗か!くそっ!」
 だが、ガッシャーン!という衝突音が聞こえてきた。
「んんっ!?」

[20:15.さいたま市大宮区産業道路 威吹、ユタ]

「うう……」
 タクシーは華麗にダンプを交わした。……のだが、そこは道路工事現場。片側交互通行をやっていたのだった。つまり、ダンプがバックしている間、タクシー側は停車するようにガードマンが指示していたのにも関わらず、それを無視して対向車線と飛び出したということは【お察しください】。
「大丈夫か、ユタ!?」
 威吹は衝突する瞬間、ユタの体に覆い被さって身を挺していた。
「はー、死ぬかと思った」
 ユタにも威吹にもケガは無く、隊長だけが作動したエアバックに突っ伏していた。
「ん?」
 助手席の後ろのドアをバールのようなものでこじ開けたのは、藤谷。
「あー、もうっ!10万円返せと言いたいところだけど、話は後だ!」
「凄い執念だな。正直、妖狐のオレも震えた」
「そりゃどうも。しかも衝突した相手が、うちのユニック車(クレーン付きのトラック)なんてな。こりゃ、この運転手とタクシー会社から相当ふんだくれそうだぜ。病院に行ったら、折伏な?顕正会員さんよ?」
「え?」
「法義でコテンパンにノしてやるからなぁ……。あと、10万円返せ」
「僕、顕正会は辞めました」
「え?」
「あと、威吹は顕正会員じゃないです」
「元顕か。まあいい。あんた達の催眠術の件で話がある。……が、その前に病院で検査してからな」
「は、はい……」

 執念の藤谷。大勝利……と言えるかどうかは、この惨状を見て【お察しください】。(公開終わり)

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 埼京線の度重なる行き先、種別変更は、実際に作者が体験したことです。今年のゲリラ豪雨は、凄かったですなぁ……。
 実は藤谷の実家は、建設業だったという。因みに今後、藤谷に家業にどれだけ関わっているか出る……かもしれない今日この頃です。
 何度も言いますが、そもそも勝ち馬券の金を持ち逃げしたユタが悪い。んでもって、落とした藤谷本人がそもそも悪い。
 1番の被害者は、藤谷にこき使われた班員達だろう。
 でも実際、大宮駅東西や都内では、顕正会員のタクシーとか結構いるんでしょうなぁ……。まあ、法華講もいるけど。
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愚痴より小説書いてる方が楽しかったりしてw

2013-12-01 15:12:40 | 日記
 “妖狐 威吹”より、「元顕正会員vs現役法華講員」

[ある夏の土曜日16:30.東京都中央区銀座2丁目 威吹邪甲&稲生ユウタ]

「お大事に」
「どうも、お世話様でした」
 ユタと威吹は、あるクリニックから出てきた。
「ここが妖狐族の指定病院なんてね……。フツーのクリニックじゃないか」
 ユタは外に出てから、改めてクリニックの外観を見て言った。
「……だね。400年も経って、さすがに制度の改変があったことをすっかり忘れていた。無論、そんなの理由にならないからね」
 盟約者は年に1度の割合で、妖狐族が進出している医療機関にて健康診断が義務付けられていた。
 “獲物”に疫病をうつさない、うつされないための対策らしい。
 制度改変を知ったのはユタ。
「しかし、僕と威吹の関係なんて絶対秘密なのかと思ったら……」
 ユタは買ったばかりのスマートフォンを出した。
「他の“獲物”さんが、自分達のことフェイスブックで公開しているのには驚いたよ」
「ふぇいすぶっくって、何だい?」
 威吹は首を傾げた。
 ユタが開いたFBは、京都に在住しているという“獲物”の女性のものだった。相手の妖狐は、また威吹とはまた違うクーリッシュなタイプのイケメンだ。
 制度改変のことは、このFBで知った。連絡を取ってみたら親切に教えてくれたが、あいにくと指定医療機関は埼玉には無く、都内まで出ないとダメらしかった。しかも、ここ銀座だった。
「ん?」
 一方通行の路地裏。ユタは何故か落ちている紙切れが気になった。一瞬、JRの“みどりの窓口”や指定席券売機で発行されているキップのように見えたのだ。
「何だ、馬券か……」
「馬券?」
「そういえばこの近くに、ウインズがあったな」
 ユタは軽く威吹に説明していた。
「……なるほど。何となく分かった。で、その馬券とやらが当たったら、どうするんだい?」
「僕もやったことは無いんだけど、要はこれを換金するわけさ。ちょっと行ってみよう」
 現代の文化を教えてあげるのもいいだろうとユタは思った。
「今はこれも機械で、換金できちゃうからね」
「ふーん……」

[16:40.JRAウインズ銀座 威吹、ユタ]

「車通りまーす!ご注意くださーい!」
 警備員達の交通誘導を横目に入場する。どこのウインズでも、入場料は無料だ。入場だけなら、年齢制限も無い。
「要はね、買った馬券をあの機械に入れると、勝手に計算して換金してくれるんだ」
「ほおほお……」
「まあ、これは外れ馬券だろうから、突っ込んだところで、弾かれるのがオチだけどね」
「どうやるの?」
「ちょうど今、空いてるな。こうやるんだよ」
 ユタは馬券を機械に通した。
「でね、もしこれが当たっていたら、掛け金とオッズに応じた賞金が出てくるんだ」
「へえ……」
「外れていたら、馬券だけが出てくるから」
〔お札をお取りください〕
「ほら、こうやってお札を取れ……はい!?」
 ユタは機械の方を向き直った。すると、今度はジャラジャラと端数分と思われる小銭も出てきた。
「え……?」
 ユタ、しばし固まる。そんなユタの様子を見て、威吹は首を傾げた。
「ん?当たっていたのかい?ユタ、金はもう出てきたみたいだけど?……ユタ?どうしたの?」
「えー……と」
「? 賞金が足りないのかい?もし何だったら、ボクが主催者に直談判してくるけど?」
「い、いや、違う……」
「おい、兄ちゃん達、何やってんだよ?早く金取ってどけよ」
 後ろから60代くらいの壮年客が煽ってきた。
「は、はい!」
 ユタは金を取って、取りあえず機械から離れた。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……。札は10枚あるな。で、小銭の方が……」
 威吹は金勘定をしていた。どうやってしまっていたのか、懐からそろばんを出して計算している。
「い、威吹……」
「ん?」
「取りあえず、ここ離れよう……」
「? うん」
 ユタは無造作に金を財布に入れた。
「だからよ!オレの当たっていた馬券がどこか落としたんだって!!」
「いや、お気持ちは分かりますがね、お客さん。だけど、現にその馬券が無いんじゃ、どうしようも無いんですよ」
 緑色の制服を着た職員(整理員)に食って掛かる男の姿をユタは見つけた。
 暑い夏だというのに黒いジャケットを羽織り、下は黒いズボン。身長は180センチ以上、体重も100キロくらいはありそうな大柄で強面の男だった。
「10万だよ、10万!間違いなく当たってんだって!落とした場所は分かってんだ!シルバーフォックス・クリニックの前だよ!行ってみたら無かったんだ!誰かに拾われたんだよ!」
「いや、ですからね……」
「オジさん」
 そこへ1人の通り掛かった小学生くらいの少年が話し掛けてきた。
「誰がオジさんだ!まだ32だぞ!」
「いや、小学生から見りゃオッサンだよ、兄ちゃん。タケシ、知らねぇオッサンに話し掛けるなって言ってんだろー。帰るぞ」
「はーい」
 さっきユタ達を煽った壮年客だった。
「そういや、さっきも10万当てた兄ちゃん達がいたな。だから、本命のオッズがクソだったんだな……」
「うん。てゆーか、拾ってきたヤツだよ、じいじ」
「はははっ、マジかよー。超ラッキーな連中だなー」
「ちょ、ちょっと待った!」
 黒ジャケットの男は、壮年と少年を呼び止めた。
「拾った場所ってどこだ!?」
「あのクリニックの前」
 と、少年は指さした。
「俺が落とした所じゃねーか!拾った奴はどこに!?」
「そこで換金してたよー」
「なにっ、じゃああの兄ちゃん達がそうだったのかー。ますますラッキーな連中だぜ」
 壮年の男は孫の手を引きながらも、もう片手には缶ビールを片手にしている。
「1人は長い銀髪に着物着てたぜ」
「着物!?」
「おう。上は白っぽいヤツで、下は紺色の袴だったかな。多分、遠くからでも分かるぜ」
「くっ……」
「あっちの出口から出てったよー」
 と、少年は東口、マクドナルドの方を指さした。
「じいじ、マック食べたーい」
「ちっ、しょうがねーな。このビール飲んでからな」
 
[16:50.銀座2丁目→東京メトロ銀座一丁目駅 ユタ、威吹]

「……そういうことだったのか」
 ユタから事情を聞いた威吹は、ようやく理解した。そして言う。
「まあ、あの時点で、馬券とやらが当たっていたかどうかなんて分からないし、それに落とす方が悪い
「とどのつまり、この一言に尽きるんだけどね」
 ところが、当の落とした本人はそれで納得できるわけでもなく……。
「いた!着物姿の男!」
 黒ジャケットの男は、すぐに威吹達を発見した。
「おう、コラ!待てやーっ!!」
「うわ、見つかった!」
 ユタは飛び上がった。
「逃げろ、威吹!」
「承知!……狐妖術、“惑”!ハっ!!」
 威吹は妖術を放った。
「うっ!?」
 男は威吹とユタが、何人もいて、それぞれが別の方向に逃げていくように見えた。
「このやろ!催眠術か、何かか……!ん?催眠術……?」
 男は何かを思い出そうとしている。

 威吹達は銀座一丁目駅の改札口まで来ていた。
「ふう……。ここまで来れば……」
 ユタは息が上がっていた。
「あちぃ……」
「この時代の江戸の夏は暑いね」
「夏でも涼しかった江戸時代が羨ましいくらいだ」
「もう大丈夫かな?」
「だいぶ幻惑させたからね。むしろ、ここまで来ることは……」
「コラーッ!見つけたぞ!」
「げっ!?」
「え?オレの妖術、効かなかっ……た?」
 威吹は困惑した。男の手には、数珠らしき物が握られていた。
「威吹、電車に乗るぞ!」
「う、うん!」
 威吹はユタからSuicaを与えられ、電車の乗り方も教わっていた。2人はすぐに改札内に飛び込んだ。
「待てや、コラ!」
「ちょ、ちょっとお客さん!」
 駅員が男を止める。
「Pasmoか乗車券をお買い求めください!」
「それどころじゃねーんだよ!!」
「お急ぎなのは分かりますが、電車すぐ来ますから」

[17:10.東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅2番線→西武6050系車内 威吹、ユタ]

「よしっ、ちょうど電車がいた!」
〔「新木場行き、ドアが閉まります」〕
 2人が飛び乗ると同時に、ドアが閉まる。
「助かったー」
 そこへ男も走ってきたが後の祭りで、電車はすぐに走り出した。
〔次は新富町、新富町です〕
〔The Next station is Shintomicho.〕
「ここから、どうやって帰るの?」
 威吹が当然の質問をしてきた。
「あ、そうか。いいルート考えないと……」
 ユタはドアの上にある路線図を見た。

[17:15. 銀座一丁目駅 黒ジャケットの男]

「思い出した!確かあいつら、催眠術でうちの講員を無理やり顕正会に入れた顕正会員達じゃねーか!」
 男は憤慨した様子で、携帯電話を取り出した。
「東京地区班長、藤谷から一斉緊急連絡!顕正会員2名、俺の金を窃盗して新木場方面に逃走中。江東区並びに江戸川区の講員達は、直ちに新木場駅周辺を固めろ!」(次回に続く)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 何かあまり藤谷のイメージが良く書かれていないが、これは威吹を視点としたスピンオフだから。全体的に威吹から見て信仰者のイメージが悪いために、こういった表現になっている。
 本来、拾得物横領のユタが悪く書かれていないのも、威吹から見れば悪事ではないから。
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あいにくとこの番組は見ていないが。

2013-12-01 00:23:42 | 日記
結婚しないと孤独死する!? Nスペ「孤立する高齢者」ネットで反響(産経新聞) - goo ニュース

 孤独死しない為に、生涯独身者はお金を貯めて老人ホームに入ればいいという意見もヤフコメには見られるが、どうもポテンヒットさんの見解だと、それもアウトらしい。
 ただ、アレだ。猪瀬都知事が危機に瀕している、徳州会からのワイロ借り受けたと見苦しい言い訳説明しているあの問題の黒幕。徳田虎雄氏(←という名前、漢字だったと思うが、違ってたらスマソ)の健康状態を見て御覧なさい。車椅子の生活で、喋ることもできない状態だ。意思表示は文字盤を視線で追ってするらしい。
 氏は病院をいくつも経営している大富豪だ。体があんな状態でも、半強制的に生きる気力でもって老害を振りまいて未だその存在感を大きなものとしている。
 では翻って、私ども低所得者かつ生涯独身者が氏と同じ病気に罹患したらどうなるだろう?恐らくは腐乱・白骨・ミイラ、いずれかの状態で発見されるのがオチではないだろうか。そんな老人が激増して、それを処理する行政はてんてこ舞いさせられることだろう。それを嫌った行政が、マスコミにネガキャンさせているようにしか見えない。
 そういった意味では、顕正会は良いセーフティ・ネットワークになってくれるだろう。何しろ連絡の密度がパない。
 あいにくと法華講は、信心活動を本人のペースに任せている部分もあるので、あまり個別に連絡を取ろうとはしない(うちの支部だけ?)。なので、法華講でも孤独死や孤立死する人は出てくると思うよ。……いや、既にもう出ているかもしれない。私もその1人に、いずれなるだろう。
 創価学会はちょっと知らない。そっちの畑は歩いたことが無いので。

 でもねぇ、富裕層でもなければ、ほとんど体も動かせない、喋ることもできない状態になるくらいなら、孤独死した方が幸せかもしれないよ?
 ぶっちゃけ、死んだ後のことなんか知らないし。

 ただね、私が例えば浅井会長や池田名誉会長、もしくは阿部日顕上人くらいまで生きた後、孤独死したとしよう。前者お二方については、今お亡くなりになっても、その地位から嘘でも泣いてくれる人や洗脳された会員達が心から泣いてくれるだろう。私の場合、嘘でも泣いてくれる人がいるかどうか……。
 一般庶民が孤独死するということは、つまりそういうことなのだろう。

 気軽に今生で結婚できず、かといって来世にも行けない世の中になったようだ。

 ま、どんな死に方するにせよ、地獄界で後ろ指さされない生き方だけしておけばいいさ。

 ええ。別に、今生で罪障完全消滅させるつもりはありません。ただ、ある程度は消滅させておいて、来世では今より良い人生(できればリア充に)が歩めればいいです。
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