報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

「ユタの御受誡秘話」続き

2013-12-04 17:25:58 | 日記
[15:30.東京23区内 日蓮正宗・大化山正証寺 ユタ、威吹、藤谷]

 お寺の駐車場に車を止める。
「はい、到着」
「ここですか……」
「都心の一等地だ。凄いだろ」
「これが現代の江戸……」
 威吹はキョロキョロと辺りを見回し、鼻をフンフン鳴らした。
「悪い。江戸からは外れてるかも」
 藤谷が頭をかいて言った。
「え?」
 三門に回ると、1人の青年が立っていた。
「藤谷さん」
「おーう。御受誡者連れてきたぞ。御住職は?」
「もうちょっとで戻って来るかと……」
「ああ、うちの班員の田部井ってんだ。こいつは元学会員だよ」
「田部井です」
「稲生です。よろしくお願いします」
「稲生さん。歳は?」
「19歳です」
「若いな。キミなら、きっと僕より早く罪障消滅できますよ」
「本当ですか?」
「僕が学会辞めて宗門に来たの、22の時なんで。あ、今25なんですけどね」
「へえ……」
「ま、とにかく、御住職が戻って来られるまで、中で書類手続きを……」
「あ、はい」
 と、その時だった。公道から轟音を立てて、赤いスポーツカーが飛び込んできた。
「む!?」
 それは三門前に止まる。藤谷のベンツと同じ左ハンドルのその車から降りてきたのは、
「御住職、お帰りなさい」
「ああ、どうも……」
 何故か深刻そうな顔をしている50がらみの住職。
「御住職、御受誡者を連れてきました。お願いします」
 すると住職はユタ達の方を見て、ニコッと笑った。
「こんにちは。よく御決心されましたね」
「ど、どうも……」
「田部井さん、ここでいいですかね?」
 そして今度は、田部井の方を向いた。
「あ、全然オッケーです。どうでした?」
「少々難しかったですね。感覚がだいぶ異なるので、ヒヤヒヤしましたよ。でも、ありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ、どうもすいませんでした」
「では。どうぞ中へ」
 そういうやり取りをすると、住職は境内へと入っていく。
「藤谷さん!」
「ん?」
 ユタは何故か、藤谷にくって掛かった。
「浅井先生……いや、会長や学会員の言う通りじゃないですか!法華講員の金で、こんな遊び車を……!!」
「何言ってるんだ?稲生君は何か勘違いしてるぞ」
「え?」
「あ、それ、僕の車です」
 と、田部井。
「御住職の車、修理中だから、田部井の車借りたんだよ」
「な、何だ……」
「普段の車がクラウンで、それからいきなりコレだろー?そりゃ、感覚が違うだろうな。右ハンと左ハンで相当違うだろうし」
「そ、そういうことでしたか」
 ユタはホッとした。

[15:45. 日蓮正宗・正証寺本堂 稲生ユウタ、藤谷春人]

 威吹は御受誡を見守るのも固辞した。ので、外で待っている。
(んおっ?)
 合掌するユタの頭の上に、御本尊が乗せられる。
「今身より仏身に至るまで、【作者がセリフを忘れたので中略】保ち奉るや否や?」
「保ち奉るべし!」
 本堂にいた法華講員一同が答える。
(えぇえ……!?)
 ユタは驚いた。顕正会の入信勤行と全く違うからだ。

 そして……。
「入信おめでとう。これからは過去世からの、そして顕正会で積んでしまった罪障を1日でも早く消滅させるよう、精進して参りましょう」
 住職はにこやかな顔で、ユタと握手してきた。
「よろしくお願いします」
「では藤谷さん、あとはよろしくお願いします」
「お任せください」
(あれ……?)
 ユタは首を傾げた。
「藤谷班長」
「何だい?」
「御本尊様は?帰り際ですか?」
「何の話?」
「顕正会では、『学会や宗門では入信と同時に、御本尊を渡す。何という不敬だ』と言ってましたが……」
「ああ。うちのお寺、信心興盛にならないと下附しないから。……あ、所属寺院から御本尊様を貸与されることを『下附』って言うんだけどね。まあ、申告制なんだけど……。自分で御本尊様を命に代えても護持できるという自覚を持ったら、申請書を書いて提出するんだよ。うちはね。他のお寺では分からないよ」
「そうなんですか。その点は顕正会と同じですね」
「そう。因みにその状態のことを、『内得信仰』という」
「へえ……」
「さーさ。まずは、このお寺の概要について説明しようか。今日からここが、稲生君の菩提寺になるんだからね」
「あっ、そっかぁ……」
「宗門での勤行の仕方も覚えないとな。まずは今日、夕勤行に参加してみてちょうだい。今の御受誡の勤行のスピードより物凄く速いから」
「そうなんですか?」
「今のは埼京線各駅停車。勤行のスピードは、その隣を走る新幹線だよ」
「うそ?何それ、速い!……『なめこ』?」
「『なめこ』じゃないから!」
 藤谷はガクッとなった。
「ま、とにかく、舌を噛まないように気をつけろよ。何しろ、元顕の最初の罪障消滅は、勤行の速いスピードについてこれず、舌を噛むことだっていうからな」
「それ、作者だけでは?」
                           続く
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“ユタと愉快な仲間たち” 「ユタの御受誡秘話」

2013-12-04 10:13:51 | 日記
[14:00.JR北与野駅高架下ファミレスの禁煙席 稲生ユウタ、威吹邪甲、藤谷春人]

 昼過ぎのファミレスは、修羅場が過ぎた後ということもあってか、どこかまったりとしていた。
「やあ、よく決心してくれたね」
 藤谷は、にこやかにユタに微笑みかけた。
「ええ。藤谷さんの執念には負けましたよ。顕正会員以上だ」
「いや、2人も御受誡なんて大歓喜だよ」
「ん?あ、いや、威吹はできませんよ」
「何で?」
「威吹は人間じゃないので」
「むしろ、仏敵扱いされる側だ」
 威吹は鼻を鳴らして言った。
「またまたぁ……。しかし、変わった格好してるね。その銀髪は地毛かい?」
「そうだが?」
「歌舞伎役者の卵か何か?」
「この時代では歌舞伎者扱いされるようだが、オレは妖狐だ」
「妖狐?だったら、耳は頭から生える“狐耳”だろうが。それはどう見ても、“エルフ耳”……」
「言ってる意味が分からんが、これはある程度妖力を抑えた状態の、いわば第一形態。妖力を解放すれば、お望み通りの姿になれるがな」
「またまたぁ……。その付け耳は……」
「触るなッ!!」
 威吹は藤谷の手に噛み付いた。
「いでっ!牙まで……!?」
「ウウウ……!」
 威吹は唸り声を上げて藤谷を睨みつけた。
「まあまあ。よーしよしよし……」
 ユタが威吹をなだめる。
「僕以外の人間には触られたくないみたいなんです」
「何だそりゃ……」
「とにかく、威吹の言ってることは本当です」
「まあいいや。じゃあ、取りあえず稲生君だけ御受誡するんだね?」
「御受誡……します」
「偉い!偉いぞ!よし。あと一杯飲んでから、出発しよう」
 藤谷は喜んで、ドリンクバーコーナーに向かった。

 その様子を見ていた店長は、
(あいつら、3時間粘ってんな……。でもそろそろ出るか?)
 で、今度は喫煙席を見る。
 喫煙席では……。
「あのさ、いい加減決心しないと、地獄界に行くこと間違い無しだって何回言えば分かるの?」
 4人席を埋める4人の男達。その窓側席には、気弱そうな青年の姿があった。
「キミのね家が貧乏なのも、受験に失敗したのも、過去世からの宿業で、このまま行けば……」
「中国が攻めてくるんだよ、中国が」

(まーた話が堂々巡りだ。しかも、5時間を粘ってて、まだ出そうにない……)
 と、店長は思った。

 会計を済ませて外に出るユタ達。
「ねぇ、ユタ。喫煙席の方で、ユタ達と似た会話をしていた連中がいたよ」
 と、威吹が言った。
「顕正会員も折伏してたのかな?」
 藤谷は駐車場に向かいながら笑った。
「なワケねーだろ。法華講員のいる所でよー。さ、乗った乗った」
「ベンツだ」
「型落ちの中古だけど、それでも200万はしたぞ。首都高はそっちか?」
「あの交差点を右です」
「よっしゃ」
             続く
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