[08:50.JR新富士駅北口]
「ほらっ、特盛、さっさと乗って」
「ふぇえい……って、タクシー!?」
「何ビックリしてんの?」
寝ぼけまなこの特盛くんは、エリちゃんによってタクシーに乗せられそうになり、やっと我に返った。
「だってぇ、ここから大石寺までタクシーで行ったら、5000円以上掛かるよぉ……」
「アタシが半分出すから。バスが出てないんじゃ、しょうがないでしょ」
「でもぉ、あと1時間待てば出るよぉ?」
「何だかね、一刻も早く行きたいってカンジなの」
「凄いな、エリちゃん。でも、ケンショーでお金が……」
「んっふっふっふ〜。心配ご無用。実はね、アタシ、やっと仕事が決まったの。それも正社員採用だよ?」
「ええっ!?うそっ!?マジでぇ!?」
「そ。来週には初任給も出るから、もうお金に困ることはないよ。これぞ、モノホンの『初心の功徳』?」
「そうだねぇ……。“ベタなとなりの沖田くんの法則”だぁ」
「何それ?ま、いいから、早く行こ」
2人はタクシーに乗って、新富士駅をあとにした。
その後にロータリーに出たユタと威吹。
「うちのお寺、結構デカいから臨時バスとか出てるかなって思ったけど、甘かったな……」
「どうするの?」
「しょうがないから、タクシーで行くか。都合良く、同じお寺の別の地区の人とかち合わないかな……」
ユタがキョロキョロしていると、威吹は長い髪の毛の中から、妖刀を取り出した。そして、刀を抜いてユタの前に出る。
「!!!」
ユタが声を上げる間も無く驚いていると、威吹と刀を合わせた者がいた。
「……落ちこぼれの威吹邪甲ッ!」
「いちいち枕詞付けんじゃねぇ……!」
それは威吹と同じ風体の者だった。けんけんごつごつといった感じで、仲が悪いのだろうか。
「あ、あの、どちら様で?」
ユタが声を掛ける。威吹より数㎝ほど背が高く、しかし髪は威吹より短い男は間違いなく妖狐であろう。
「何だコイツは?」
威吹に攻撃を仕掛けてきた男は、切れ長の目を値踏みをするようなする感じでユタに向けた。
「オレの“獲物”だ。ジロジロ見るんじゃねぇ」
「なに?女にダマされた班長さん、今度の相手はオトコですか。随分と無節操ですな」
「ダマされたって言うなっ!」
(いや、でも当たってはいる)
ユタはその言葉を飲み込んだ。
「僕は稲生ユウタって言います。威吹の“獲物”になった者です」
「それはどうも御愁傷様。オレは玉衛(たまえ)、字は完璽(かんじ)だ。人間共の伝説でも有名な玉藻前(たまものまえ)の血族で、只今好評売り出し中。どうぞよろしく」
「はあ、どうもです。“獲物”は1人につき、1人と決まっているはずですが……」
「無論」
すると、
「お待たせー」
駅構内から、1人の若い女性が出てきた。
「男の妖狐なら、“獲物”は女と決まってる。非モテの威吹クンは男で我慢してな」
(威吹で非モテなの!?)
ユタは目を丸くした。
「あの、もしかして、大石寺に行かれます?」
ユタは恐る恐る声を掛けた。
「いいえ。浅間神社です」
「あそこ!」
ユタは“やきそばエクスプレス”で、浅間大社の横を通ったのを思い出した。
「なに?巫女にダマされた威吹クン、懲りて今度は仏教徒ですか。無節操ですなぁ。すると次はクリスチャンですかな?」
「黙れ!」
「じゃ、そういうことで」
玉衛はピッと軽く敬礼のサインをすると、若い女性の肩を抱いてタクシーに乗り込んだ。
「うーん……。何か、僕だけ功徳が無いなぁ……」
ユタは苦笑いして首を傾げた。
「くくく……!」
威吹はギリギリと歯ぎしりをしていた。
[09:20.タクシー車内 稲生ユウタ、威吹邪甲]
「あの野郎……絶対コロす。殺してやる……!」
威吹は殺気を発しながら、両手に拳を作っていた。
「妖狐でも皆が皆、仲がいいわけじゃないんだね」
ユタはホッとした感じになった。
「逆に少し安心したよ」
「……え?」
「いや、怒らないでよ。何かその……人間臭さって言うかさ、そういう面もあるところに」
「そう、見てくれるか。まあ、ボク達だって生きてるわけだから、喜怒哀楽あるさ」
「でも本当に殺しちゃっていいの?妖狐族の法律的にOK?」
「……御法度だ。いかなる理由があれ、同族同士殺し合えば斬首という掟がある」
「人間界でも殺人罪の最高刑は死刑だからね。また1つ人間との共通点があったな」
ユタのにこやかな顔に、威吹は大きく息を吐いた。
「まあ、ユタの前でこんなことを言うのも何だけど、あの“獲物”が仏教徒じゃなくて良かったよ。ましてや同じ宗派ともなれば、また顔を合わせることになる」
「浅間大社って言ってたな。向こうさんも、何か行事があるのかな?」
ユタは首を捻った。スマホで検索してみたが、それらしい物は見当たらなかった。
タクシーは一路、国道を北に向かって走る。(公開ここまで?)
「ほらっ、特盛、さっさと乗って」
「ふぇえい……って、タクシー!?」
「何ビックリしてんの?」
寝ぼけまなこの特盛くんは、エリちゃんによってタクシーに乗せられそうになり、やっと我に返った。
「だってぇ、ここから大石寺までタクシーで行ったら、5000円以上掛かるよぉ……」
「アタシが半分出すから。バスが出てないんじゃ、しょうがないでしょ」
「でもぉ、あと1時間待てば出るよぉ?」
「何だかね、一刻も早く行きたいってカンジなの」
「凄いな、エリちゃん。でも、ケンショーでお金が……」
「んっふっふっふ〜。心配ご無用。実はね、アタシ、やっと仕事が決まったの。それも正社員採用だよ?」
「ええっ!?うそっ!?マジでぇ!?」
「そ。来週には初任給も出るから、もうお金に困ることはないよ。これぞ、モノホンの『初心の功徳』?」
「そうだねぇ……。“ベタなとなりの沖田くんの法則”だぁ」
「何それ?ま、いいから、早く行こ」
2人はタクシーに乗って、新富士駅をあとにした。
その後にロータリーに出たユタと威吹。
「うちのお寺、結構デカいから臨時バスとか出てるかなって思ったけど、甘かったな……」
「どうするの?」
「しょうがないから、タクシーで行くか。都合良く、同じお寺の別の地区の人とかち合わないかな……」
ユタがキョロキョロしていると、威吹は長い髪の毛の中から、妖刀を取り出した。そして、刀を抜いてユタの前に出る。
「!!!」
ユタが声を上げる間も無く驚いていると、威吹と刀を合わせた者がいた。
「……落ちこぼれの威吹邪甲ッ!」
「いちいち枕詞付けんじゃねぇ……!」
それは威吹と同じ風体の者だった。けんけんごつごつといった感じで、仲が悪いのだろうか。
「あ、あの、どちら様で?」
ユタが声を掛ける。威吹より数㎝ほど背が高く、しかし髪は威吹より短い男は間違いなく妖狐であろう。
「何だコイツは?」
威吹に攻撃を仕掛けてきた男は、切れ長の目を値踏みをするようなする感じでユタに向けた。
「オレの“獲物”だ。ジロジロ見るんじゃねぇ」
「なに?女にダマされた班長さん、今度の相手はオトコですか。随分と無節操ですな」
「ダマされたって言うなっ!」
(いや、でも当たってはいる)
ユタはその言葉を飲み込んだ。
「僕は稲生ユウタって言います。威吹の“獲物”になった者です」
「それはどうも御愁傷様。オレは玉衛(たまえ)、字は完璽(かんじ)だ。人間共の伝説でも有名な玉藻前(たまものまえ)の血族で、只今好評売り出し中。どうぞよろしく」
「はあ、どうもです。“獲物”は1人につき、1人と決まっているはずですが……」
「無論」
すると、
「お待たせー」
駅構内から、1人の若い女性が出てきた。
「男の妖狐なら、“獲物”は女と決まってる。非モテの威吹クンは男で我慢してな」
(威吹で非モテなの!?)
ユタは目を丸くした。
「あの、もしかして、大石寺に行かれます?」
ユタは恐る恐る声を掛けた。
「いいえ。浅間神社です」
「あそこ!」
ユタは“やきそばエクスプレス”で、浅間大社の横を通ったのを思い出した。
「なに?巫女にダマされた威吹クン、懲りて今度は仏教徒ですか。無節操ですなぁ。すると次はクリスチャンですかな?」
「黙れ!」
「じゃ、そういうことで」
玉衛はピッと軽く敬礼のサインをすると、若い女性の肩を抱いてタクシーに乗り込んだ。
「うーん……。何か、僕だけ功徳が無いなぁ……」
ユタは苦笑いして首を傾げた。
「くくく……!」
威吹はギリギリと歯ぎしりをしていた。
[09:20.タクシー車内 稲生ユウタ、威吹邪甲]
「あの野郎……絶対コロす。殺してやる……!」
威吹は殺気を発しながら、両手に拳を作っていた。
「妖狐でも皆が皆、仲がいいわけじゃないんだね」
ユタはホッとした感じになった。
「逆に少し安心したよ」
「……え?」
「いや、怒らないでよ。何かその……人間臭さって言うかさ、そういう面もあるところに」
「そう、見てくれるか。まあ、ボク達だって生きてるわけだから、喜怒哀楽あるさ」
「でも本当に殺しちゃっていいの?妖狐族の法律的にOK?」
「……御法度だ。いかなる理由があれ、同族同士殺し合えば斬首という掟がある」
「人間界でも殺人罪の最高刑は死刑だからね。また1つ人間との共通点があったな」
ユタのにこやかな顔に、威吹は大きく息を吐いた。
「まあ、ユタの前でこんなことを言うのも何だけど、あの“獲物”が仏教徒じゃなくて良かったよ。ましてや同じ宗派ともなれば、また顔を合わせることになる」
「浅間大社って言ってたな。向こうさんも、何か行事があるのかな?」
ユタは首を捻った。スマホで検索してみたが、それらしい物は見当たらなかった。
タクシーは一路、国道を北に向かって走る。(公開ここまで?)