報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

前回の続き

2013-08-19 10:27:43 | 日記
 “ボカロマスター”より、前回の続き

[15:30.仙台市内にある児童福祉施設 鏡音レン]

「……ありがとう♪王子さま♪お礼にこの海の♪小さな秘密を♪こっそり教えてあげましょう♪」(レン)
「……わたしは昼♪」(リン)
「ボクは夜♪」(レン)
「手を繋げればオレンジの空ー♪」(リン・レン)
 ミクがさらわれても、ボク達は仕事をキャンセルするわけにはいきません。今日は市内の児童福祉施設へ慰問の仕事です。
 ステージ脇を見ると、付き添いで来たなっちゃんは、相変わらず電話連絡などで忙しいようです。
 南里博士も亡くなって、ドクター・ウィリーもシンディに殺されました。そのシンディも“処刑”されて、もう悪者はいなくなったはずなのに、今度は誰が“悪役”をやっているんだろう……。

[同時刻 JR利府駅 敷島孝夫]

「はい、着きました」
「あ、どうも」
「1550円です」
「はい。領収書ください」
「はい」
 私達はタクシーを降りた。犯人の指示が無いので、取りあえず駅構内に入る。
 ローカルチックな駅だが、無人駅ではない。自動改札の奥には、2面2線のホームがある。当然、電車は行ったばかりなので、ホームに電車の姿は無い。
 時刻表を見ると、それまで岩切止まりの電車が、次の16時1分発から仙台駅まで直通するようだ。
 改札口横の待合室のベンチの前にはテレビが点いていて、MEIKOがトーク番組に出演していた。
〔「南里研究所が閉鎖になって、皆さんバラバラになっちゃいましたよね?寂しかったんじゃないですか?」〕
 コメンテーターが話を振る。
〔「そうですね。特に、うちのリンなんか久し振りに泣いてましたよ。皆お別れだって」〕
 本当は財団所属という共通点はあるので、厳密にはお別れではない。ただ、管理者がバラバラになっただけだ。
 私の再就職先は、何てことない。財団事務所で、ボーカロイドを管理する仕事だった。各研究機関などに引き取られたボーカロイド達が財団の取り決め通りに管理・研究されているか、ボーカロイドの稼働状況をチェックするというものである。なので業務上、意外とよく会う。
〔「……そうなんですよー。特に、リンがふざけてると、『四の五の言わないで、ちゃんとやりなさい』って……」〕
「!」
「!?」
 今、MEIKO、何て言った?
「エミリー、ちょっと今考え事していて聞いてなかったんだけど、MEIKOの奴、何に対して『四の五の……』って、言ってたんだ?」
「ドクター赤月です。鏡音リンが・仕事の・支度をせずに・ふざけていると・『四の五の言わずに』と……」
「マジかよ」
 赤月先生犯人説が急浮上!?いや、待て待て。誘拐事件が起きた時、赤月先生は私と平賀先生とで財団事務所で打ち合わせをしていたんだ。違うよな。
 それにしても、犯人からの電話が来ない。と思っていると、やっと来た。
{「利府駅に着いたか?」}
「ああ。今、待合室だよ。ここから電車に乗ればいいのか?」
{「そうだ。今度の仙台行きに乗れ」}
「それから?いい加減にして欲しいんだけどな。交通費もバカにならないんでねー」
{「四の五の言うな。追ってまた連絡する」}
 電話が切れた。
「まただ」
「?」
「また犯人の奴、『四の五の』って言った。口癖のようだな」
「あ、因みにですねー、“新人魔王……”の方なんスけど、もう少し締め切り延ばしてもらえませんかねー?ほら、“顕正会版人間革命”のスピンオフやることになっちゃったでしょ?いっぱいいっぱいで……え?ダメ?」
「作者の口癖は『因みに』なんだよな。人間の口癖ってのは、そう簡単に直らないからな」
 そうこうしているうちに、折り返しの電車が入線してきた。701系と呼ばれる3ドアのオール・ロングシートの電車が2両である。
 そこで敷島は閃いた。
「敷島さん。乗らないのですか?」
 エミリーが聞いてきた。
「まてまて。まだ発車まで20分以上ある」
 敷島はある場所へ連絡した。
「あ、もしもし。赤月先生ですか?」
{「敷島さん。どうしました?」}
「いや、実はさっき犯人から電話が掛かってきて、これから電車に乗れって言われたんですけど、これから乗る電車が何か、車両故障とかで、しばらく運転見合わせになるそうなんですよ。いや、別に犯人からはただ単に今度の電車に乗れってしか言われてないんですが、ダイヤ乱れってのは言い訳になるのかなぁって……」
{「そ、そうなんですか。うーん……いいんじゃないでしょうか。何かあったら、犯人の方から連絡してくるでしょうから」}
「そうですか。それならいいんですけど……」
 私は一瞬、赤月先生が狼狽する様子を感じ取った。やっぱり先生が犯人なのか!?
「赤月先生にそう言って頂けると、安心です。ダイヤ乱れくらいで、ミクを壊すような輩でないことを祈りますよ」
{「ええ……」}
 敷島は電話を切った。
「エミリー。今、赤月先生がどこにいるかGPS検索してくれ」
「イエス」
 もちろん、ダイヤは乱れていない。せいぜい、秋田新幹線の秋田~大曲間が大雨で運転見合わせをしているくらいの情報しかない。
「仙台市青葉区○○です。鏡音リン・レンも・一緒です」
「そうか……」

[16:01.仙台行き普通列車・先頭車 敷島孝夫]

 たった2両編成の電車は定刻通りに発車した。ワンマン運転なので、車内自動放送もそれに合わせた案内をしている。
「電車ん中で、あんま喋りたくないんだよなぁ。マナー違反だし」
「敷島さん。今は・そういう場合では・ありません」
「いや、まあ、そりゃそうなんだけどねぇ」
 そう言ってると、電話が掛かってきた。
「しょうがねぇな」
 私は舌打ちすると、トイレの中に入った。仙台までは20分程度だが、701系はややもすると片道何時間も走るので、見た目は通勤電車でもトイレが付いている。ま、それは首都圏の中距離電車と同じか。
「はい、もしもし?」
{「新利府駅を出たら後ろの乗務員室の窓を開け、そこから鞄を投げ捨てろ。お前達はそのまま仙台駅まで乗れ」}
 との指示だった。
(赤月先生は無関係か?)
 それとも、こんな子供だましのハッタリは通用しなかっただけか?
コメント (2)
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