“ボカロマスター”より。 私の今日の軌跡は、とある話の敷島のものと同じです。
[14:26.JRあおば通駅 敷島孝夫]
〔ピンポーン♪ まもなく、列車が到着致します。危ないですから、黄色い線の内側まで下がってお待ちください〕
真新しい地下ホームに、男声の接近放送が響く。轟音を立てて、かつては首都圏で運転されていた電車が入線してきた。違うのは寒冷地用にドア横にボタンが付いていて、乗客が自分でドアを開け閉めすることである。
(くそ。何でオレがこんなことを……)
私は4両編成の最後尾の座席に座った。元々が埼京線で運転されていた車両の中古車のせいか、かつて大日本電機東京本社に通勤していた頃を思い出した。
私の手にあるのは、いつものビジネス・バッグではなく、駅同様に真新しい黒い革製の鞄だ。大きさはA1サイズはある。なかなか重い。
〔「ご案内致します。この電車は14時34分発、仙石線下り、普通列車の東塩釜行きです。仙台、榴ヶ岡、宮城野原、陸前原ノ町、苦竹の順に各駅に停車致します。……」〕
事の発端は財団事務所に入った1本の電話だ。
『初音ミクを預かった。返して欲しければ、5つの鍵を持ってエミリーと共に14時34分発の電車に乗り、本塩釜駅で降りろ』
というものだった。
「南里所長もウィリーも死んだ。シンディも壊れた。あとは誰が悪いことしてくるんだ?」
「分かりません」
座席横に立つエミリーは、首を傾げた。基本的にガラガラの状態でないと、エミリーは着席しない。仙石線の仙台市内は混雑することが多い。
そして、5つの鍵だが、全部で7つあることが分かった。敷島や平賀などで、5つ集めたのである。
『ドラ○ンボー○みたいですね』
という冗談が出たのも束の間、実は“7つの大罪”に関わるとんでもないシロモノだったのだ。
「黄色い鍵は“傲慢”、青は“強欲”で、ピンクは“嫉妬”、緑は“怠慢”で、紫は“色欲”か。残るは“暴食”と“憤怒”になるけど、それぞれが新型のコンピューターウィルスが内蔵された鍵型のコンピューター・ウィルスだった」
「イエス」
「誘拐犯はこんなもの欲しがって、どうするんだ?」
「シンディを・暴走させた・危険物です。量産して・使用すれば・凶悪な・兵器に・なります」
「……そうか」
厄介なことに、ボーカロイドにも埋め込まれていた。レンには“憤怒の鍵”が無断で埋め込まれていたが、シンディに強奪されて今は行方不明だ。
〔「お待たせ致しました。14時34分発、仙石線下り、普通列車の東塩釜行き、まもなく発車致します」〕
発車の時間になり、地下ホームに壮大な発車メロディが流れる。これに匹敵するのは、東京駅京葉線ホームくらいではないか。
電車は時間通りに発車したが、それにしても疑問だ。よく刑事ドラマで、誘拐犯が被害者の関係者に身代金を持たせて、公共交通機関で移動させるシーンがあるが、ダイヤが乱れた場合はどうするのだろうかと。
「……私が最初から被害者を殺す場合は、わざと湘南新宿ラインで移動させます」
向かいの席では作者が物騒な話をしている。臨席にいる大柄な男性は、多摩準急氏だろうか。
「湘南新宿ラインはダイヤが乱れやすいですから、それで『約束の時間に着けなかった。殺す』なーんてね」
「だったら、渋滞の名所を通るバスで移動させたらどうだ?絶対遅れるぞ」
全く。不謹慎な連中だ。
[15:10.本塩釜駅 敷島孝夫]
取りあえず電車は時間通りに着いた。2面2線の高架駅。工事中のせいか、市街地にある駅の割に改札口は狭い。
私達は改札口を出て左にある正面出口の方に出た。しかし、何も起きない。自然と緊張が走る。ケータイには何の着信も無い。エミリーも険しい顔をして、周囲を警戒していた。
と、そこへ電話が鳴る。番号を見ると、犯人からだった。
「も、もしもし!?」
{「本塩釜駅には着いたか?」}
ボイスチェンジャーを使用しているものと思われる声が聞こえてきた。従って、相手が男か女か分からない。
「ああ。さっき着いた。これからどうしたらいいんだ?」
{「駅前からタクシーに乗り、利府駅に向かえ」}
「は?何で?だったら最初から東北線で……」
{「四の五の言わず、指示に従わなければ初音ミクを壊す」}
「わ、分かった!」
電話を切ると、私とエミリーは駅前ロータリーに止まっているタクシーに乗り込んだ。
「利府駅までお願いします」
「はい」
タクシーはすぐに発車した。
またもや着信があった。今度は平賀からだ。
{「どうしました?また移動してるみたいですが……」}
私達の動きはGPSで追っているのだった。私はさっきあった犯人からの指示を先生に伝えた。
{「なるほど。では犯人の言う通りにして……ますね。財団側も手を尽くしてますから」}
「分かってますよ」
{「仮に利府駅まで行ったとして、犯人側はどういう要求をしてくると思います?」}
「また電車に乗れとでも言いますかね?」
{「そうなってくると、少し困るんですよ」}
「えっ?」
{「恐らく敷島さん達が利府駅に到着する頃、ちょうど岩切行きの電車が出てしまいます。次の電車は16時1分発、仙台行きです」}
「15時台、1本だけ!?本数少なっ!」
あ?だから犯人は仙石線で行かせたのか?
[14:26.JRあおば通駅 敷島孝夫]
〔ピンポーン♪ まもなく、列車が到着致します。危ないですから、黄色い線の内側まで下がってお待ちください〕
真新しい地下ホームに、男声の接近放送が響く。轟音を立てて、かつては首都圏で運転されていた電車が入線してきた。違うのは寒冷地用にドア横にボタンが付いていて、乗客が自分でドアを開け閉めすることである。
(くそ。何でオレがこんなことを……)
私は4両編成の最後尾の座席に座った。元々が埼京線で運転されていた車両の中古車のせいか、かつて大日本電機東京本社に通勤していた頃を思い出した。
私の手にあるのは、いつものビジネス・バッグではなく、駅同様に真新しい黒い革製の鞄だ。大きさはA1サイズはある。なかなか重い。
〔「ご案内致します。この電車は14時34分発、仙石線下り、普通列車の東塩釜行きです。仙台、榴ヶ岡、宮城野原、陸前原ノ町、苦竹の順に各駅に停車致します。……」〕
事の発端は財団事務所に入った1本の電話だ。
『初音ミクを預かった。返して欲しければ、5つの鍵を持ってエミリーと共に14時34分発の電車に乗り、本塩釜駅で降りろ』
というものだった。
「南里所長もウィリーも死んだ。シンディも壊れた。あとは誰が悪いことしてくるんだ?」
「分かりません」
座席横に立つエミリーは、首を傾げた。基本的にガラガラの状態でないと、エミリーは着席しない。仙石線の仙台市内は混雑することが多い。
そして、5つの鍵だが、全部で7つあることが分かった。敷島や平賀などで、5つ集めたのである。
『ドラ○ンボー○みたいですね』
という冗談が出たのも束の間、実は“7つの大罪”に関わるとんでもないシロモノだったのだ。
「黄色い鍵は“傲慢”、青は“強欲”で、ピンクは“嫉妬”、緑は“怠慢”で、紫は“色欲”か。残るは“暴食”と“憤怒”になるけど、それぞれが新型のコンピューターウィルスが内蔵された鍵型のコンピューター・ウィルスだった」
「イエス」
「誘拐犯はこんなもの欲しがって、どうするんだ?」
「シンディを・暴走させた・危険物です。量産して・使用すれば・凶悪な・兵器に・なります」
「……そうか」
厄介なことに、ボーカロイドにも埋め込まれていた。レンには“憤怒の鍵”が無断で埋め込まれていたが、シンディに強奪されて今は行方不明だ。
〔「お待たせ致しました。14時34分発、仙石線下り、普通列車の東塩釜行き、まもなく発車致します」〕
発車の時間になり、地下ホームに壮大な発車メロディが流れる。これに匹敵するのは、東京駅京葉線ホームくらいではないか。
電車は時間通りに発車したが、それにしても疑問だ。よく刑事ドラマで、誘拐犯が被害者の関係者に身代金を持たせて、公共交通機関で移動させるシーンがあるが、ダイヤが乱れた場合はどうするのだろうかと。
「……私が最初から被害者を殺す場合は、わざと湘南新宿ラインで移動させます」
向かいの席では作者が物騒な話をしている。臨席にいる大柄な男性は、多摩準急氏だろうか。
「湘南新宿ラインはダイヤが乱れやすいですから、それで『約束の時間に着けなかった。殺す』なーんてね」
「だったら、渋滞の名所を通るバスで移動させたらどうだ?絶対遅れるぞ」
全く。不謹慎な連中だ。
[15:10.本塩釜駅 敷島孝夫]
取りあえず電車は時間通りに着いた。2面2線の高架駅。工事中のせいか、市街地にある駅の割に改札口は狭い。
私達は改札口を出て左にある正面出口の方に出た。しかし、何も起きない。自然と緊張が走る。ケータイには何の着信も無い。エミリーも険しい顔をして、周囲を警戒していた。
と、そこへ電話が鳴る。番号を見ると、犯人からだった。
「も、もしもし!?」
{「本塩釜駅には着いたか?」}
ボイスチェンジャーを使用しているものと思われる声が聞こえてきた。従って、相手が男か女か分からない。
「ああ。さっき着いた。これからどうしたらいいんだ?」
{「駅前からタクシーに乗り、利府駅に向かえ」}
「は?何で?だったら最初から東北線で……」
{「四の五の言わず、指示に従わなければ初音ミクを壊す」}
「わ、分かった!」
電話を切ると、私とエミリーは駅前ロータリーに止まっているタクシーに乗り込んだ。
「利府駅までお願いします」
「はい」
タクシーはすぐに発車した。
またもや着信があった。今度は平賀からだ。
{「どうしました?また移動してるみたいですが……」}
私達の動きはGPSで追っているのだった。私はさっきあった犯人からの指示を先生に伝えた。
{「なるほど。では犯人の言う通りにして……ますね。財団側も手を尽くしてますから」}
「分かってますよ」
{「仮に利府駅まで行ったとして、犯人側はどういう要求をしてくると思います?」}
「また電車に乗れとでも言いますかね?」
{「そうなってくると、少し困るんですよ」}
「えっ?」
{「恐らく敷島さん達が利府駅に到着する頃、ちょうど岩切行きの電車が出てしまいます。次の電車は16時1分発、仙台行きです」}
「15時台、1本だけ!?本数少なっ!」
あ?だから犯人は仙石線で行かせたのか?