私は先月29日東京電力の「ヒューマン・エラー」を外から眺めるとの中で、《福島第一原発事故が世界にまき散らす放射性物質の量が、せめてチェルノブイリ原発事故の規模を上回ることにならないようひたすら念じようではないか。》と述べたが、その願いも空しくチェルノブイリ原発事故が視野に入ってきた。昨4月12日、政府が福島第一原発1~3号機の事故を、国際的な原子力事故の評価尺度(INES)で最悪の「レベル7」と暫定評価したからである。
チェルノブイリでは大気中に放出された放射能量が520万テラベクレルとされているのに対して、福島第一原発では政府発表とは言いながら発表値が統一されずに、原子力安全・保安院の試算では37万テラベクレル、内閣府原子力安全委員会の試算では63万テラベクレルとなっている。これらの値に基づいてであろう、今朝の朝日新聞に次のような見出しがあった。

表面的にはそうなのかも知れないが、上にも記したように福島第一原発事故が世界にまき散らす放射性物質の量を問題にする限り、《今はチェルノブイリの1割》は正しくない。というのはここに記されている放射能量はあくまでも大気中への放出量だからである。それがどのようにして見積もられたのか、例によって例のごとし、The New York Times(NYT)にはもう少し詳しい説明がある。
この記事によると、「Speedi」と名付けられた計算機モデルに、事故の発生地点から離れた各所で測定された放射能の値を入力して計算させることで、事故現場の放出源から放出された放射能量が求められるようである。もちろんデータ入力にはこまかい条件があるだろうし、どのような地域分布でデータを集めるか、またデータ数の多寡によって計算結果は振れるであろう。それにしてもなぜ原子力安全委員会と原子力安全・保安院がそれぞれ別々の数値を発表したのだろう。そしてさらに次のような話があって、この発表値が信じてよいものかどうか、問題がややこしくなっている。
この情報がどこからどのように流れてきたのかは分からないが、同じ「Speedi」を用いた計算で、チェルノブイリの半分ほどの放射能量が放出されたことになっているのである。これに対してNYTはこう続ける。政府発表に異なる政府機関の異なる試算値を併置することにある種の「いかがわしさ」を感じとっているのだろうか。
そして本題に戻るが、政府の発表値はあくまでも大気中への放出量なのである。チェルノブイリでは事故発生後、冷却水を原子炉に供給する機会はほとんどなかったはずで、水はせいぜい消火活動に使われたくらいであろう。ゆえにチェルノブイリでは大気中への放射能放出量をもって総排出量とみなしても良いのでは無かろうか、それに反して福島第一原発では大量の水が燃料棒の冷却に投入され、大量の放射能汚染水を生じているが、それが現在も続いている。その間、どれほどの放射能汚染水が海に漏出したのかおよその見積すら明らかにされていない。したがって現段階の放射性物質の放出総量は政府の発表値をかなり上回るはずなので、朝日の《今はチェルノブイリの1割》という表現は正しくないことになる。もしかすると現段階ですでにチェルノブイリの放出量に迫るかもしくはそれを凌駕していると想像することに私には抵抗感が無いのである。
この期になって強気?になったのか、東京電力の松本純一原子力・立地本部長代理の発言が波紋を呼んでいるようである。
どのような根拠にもとづいての発言なのか知るよしもないが、私の想像と軌を一にした発言なのが気に掛かる。これに対して公安院の西村審議官はこう述べている。
東京電力は米国原子力規制委員会に倣って、楽観的だったこれまでの姿勢を大きく方向転換し始めたのだろうか。しかし元来データに基づいて下されるべき判断が、「気分」により大きく左右されるようでは国民はただ振り回されるだけで、ますます「発表」に信をおけなくなる。
原子力安全委員会、原子力安全・公安院、東京電力のそれぞれの思惑が絡んでおりそうな「レベル7」の格付けもさることながら、私の最大の関心事は「燃料棒の冷却」を一刻も早く制御下に置くことである。「レベル7」がこの取り組みに無力感をもたらすことがないことを今はただ祈りたい。
チェルノブイリでは大気中に放出された放射能量が520万テラベクレルとされているのに対して、福島第一原発では政府発表とは言いながら発表値が統一されずに、原子力安全・保安院の試算では37万テラベクレル、内閣府原子力安全委員会の試算では63万テラベクレルとなっている。これらの値に基づいてであろう、今朝の朝日新聞に次のような見出しがあった。

表面的にはそうなのかも知れないが、上にも記したように福島第一原発事故が世界にまき散らす放射性物質の量を問題にする限り、《今はチェルノブイリの1割》は正しくない。というのはここに記されている放射能量はあくまでも大気中への放出量だからである。それがどのようにして見積もられたのか、例によって例のごとし、The New York Times(NYT)にはもう少し詳しい説明がある。
The Nuclear Safety Commission ordered the use of a computer model called Speedi ― short for System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information ― to calculate the amount of radiation released from the plant, said Mr. Shiroya, the commissioner on the safety agency, who is also the former director of the Research Reactor Institute at Kyoto University.
To use the model, scientists enter radiation measurements from various distances from a nuclear accident. The model produces an estimate of the radioactive material escaping at the source of the accident.
Speaking at a news conference, Mr. Shiroya said those calculations were complex, and it was only recently that researchers had been able to narrow down the amount to within an acceptable margin of error.
To use the model, scientists enter radiation measurements from various distances from a nuclear accident. The model produces an estimate of the radioactive material escaping at the source of the accident.
Speaking at a news conference, Mr. Shiroya said those calculations were complex, and it was only recently that researchers had been able to narrow down the amount to within an acceptable margin of error.
(April 12, 2011)
この記事によると、「Speedi」と名付けられた計算機モデルに、事故の発生地点から離れた各所で測定された放射能の値を入力して計算させることで、事故現場の放出源から放出された放射能量が求められるようである。もちろんデータ入力にはこまかい条件があるだろうし、どのような地域分布でデータを集めるか、またデータ数の多寡によって計算結果は振れるであろう。それにしてもなぜ原子力安全委員会と原子力安全・保安院がそれぞれ別々の数値を発表したのだろう。そしてさらに次のような話があって、この発表値が信じてよいものかどうか、問題がややこしくなっている。
Even so, some people involved in the energy industry have been hearing about the results of the Speedi calculations for days. A senior executive said in a telephone interview on April 4 that he had been told that the Speedi model suggested that radioactive materials escaping the Daiichi complex were much higher than Japanese officials had publicly acknowledged, and perhaps as high as half of the releases from Chernobyl.
この情報がどこからどのように流れてきたのかは分からないが、同じ「Speedi」を用いた計算で、チェルノブイリの半分ほどの放射能量が放出されたことになっているのである。これに対してNYTはこう続ける。政府発表に異なる政府機関の異なる試算値を併置することにある種の「いかがわしさ」を感じとっているのだろうか。
Mr. Nishiyama(保安院) and Mr. Shiroya (安全委員会)said separately on Tuesday that that estimate had been wrong. But their two government agencies also released different figures for the level of emissions so far, and there appeared to be a degree of supposition embedded in the numbers.
そして本題に戻るが、政府の発表値はあくまでも大気中への放出量なのである。チェルノブイリでは事故発生後、冷却水を原子炉に供給する機会はほとんどなかったはずで、水はせいぜい消火活動に使われたくらいであろう。ゆえにチェルノブイリでは大気中への放射能放出量をもって総排出量とみなしても良いのでは無かろうか、それに反して福島第一原発では大量の水が燃料棒の冷却に投入され、大量の放射能汚染水を生じているが、それが現在も続いている。その間、どれほどの放射能汚染水が海に漏出したのかおよその見積すら明らかにされていない。したがって現段階の放射性物質の放出総量は政府の発表値をかなり上回るはずなので、朝日の《今はチェルノブイリの1割》という表現は正しくないことになる。もしかすると現段階ですでにチェルノブイリの放出量に迫るかもしくはそれを凌駕していると想像することに私には抵抗感が無いのである。
この期になって強気?になったのか、東京電力の松本純一原子力・立地本部長代理の発言が波紋を呼んでいるようである。
Junichi Matsumoto, a senior nuclear power executive from the plant’s operator, Tokyo Electric Power Company, fanned public fears about radiation when he said at a separate news conference on Tuesday morning that the radiation release from Daiichi could, in time, surpass levels seen in 1986.
“The radiation leak has not stopped completely, and our concern is that it could eventually exceed Chernobyl,” Mr. Matsumoto said.
“The radiation leak has not stopped completely, and our concern is that it could eventually exceed Chernobyl,” Mr. Matsumoto said.
どのような根拠にもとづいての発言なのか知るよしもないが、私の想像と軌を一にした発言なのが気に掛かる。これに対して公安院の西村審議官はこう述べている。
But Hidehiko Nishiyama, deputy director general of Japan’s nuclear regulator, the Nuclear and Industrial Safety Agency, said in an interview on Tuesday evening that he did not know how the company had come up with its estimate. “I cannot understand their position,” he said.
He speculated that Tokyo Electric was being “prudent and thinking about the worst-case scenario,” adding, “I think they don’t want to be seen as optimistic.”
He speculated that Tokyo Electric was being “prudent and thinking about the worst-case scenario,” adding, “I think they don’t want to be seen as optimistic.”
東京電力は米国原子力規制委員会に倣って、楽観的だったこれまでの姿勢を大きく方向転換し始めたのだろうか。しかし元来データに基づいて下されるべき判断が、「気分」により大きく左右されるようでは国民はただ振り回されるだけで、ますます「発表」に信をおけなくなる。
原子力安全委員会、原子力安全・公安院、東京電力のそれぞれの思惑が絡んでおりそうな「レベル7」の格付けもさることながら、私の最大の関心事は「燃料棒の冷却」を一刻も早く制御下に置くことである。「レベル7」がこの取り組みに無力感をもたらすことがないことを今はただ祈りたい。