日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

警戒区域への一時帰宅者 何の為の予行演習 硬直したこのお役所仕事

2011-05-12 21:58:43 | Weblog
産経ニュースの記事(抜粋)である。

大荒れ一時帰宅「自己責任」署名に住民怒

 避難している川内村の住民123世帯のうち、約15キロ圏外に家がある54世帯、92人(21~85歳)がこの日午前9時ごろ、原発から22キロ離れた村民体育センターに集合。トラブルはここで起こった。

 事前の説明会で国側から紙が配られたのだが、そこに「警戒区域は危険であり、自己責任で立ち入る」と書かれてあり、住民らは同意の署名を求められた。これにキレた。しかも、突き付けられた同意書には「宛名」がない。ダレに同意を求められているのか不明のお粗末な紙切れだった。

 慌てた政府の現地対策本部担当者が、「放射能汚染を含めたリスクが存在することを村民に了解してもらうことが目的」と釈明したが、リスクを理解してもらうことと、自己責任を求めることは別問題のはずだ。

 当然、住民の怒りは収まらない。さらに東電の担当者が防護服や線量計の説明を始めると、「オマエは誰だ!! 名乗れ!!」と村民の1人から大声が上がった。担当者はあわてて「申し遅れました」と名前を告げ、ようやく再開した。

(中略)

 立ち入りは原則、1世帯1人だが多くの世帯が2人での参加を希望した。滞在時間は2時間で、持ち出し品は縦横70センチのポリ袋1枚に入る分だけ。住民らは白い防護服姿で、片付けや貴重品の持ち出しを急いだ。ポリ袋には夏モノの衣類を入れる人が目立った。最初のバスは午後2時50分ごろ帰還し、その後、順次センターに戻った。

 内閣府の一時帰宅担当者によると、2時間の滞在で受けた個人の累積放射線量は暫定値で最低1マイクロシーベルト、最高で10マイクロシーベルト。女性3人がセンターに戻った際、体調不良を訴えたが、すぐに回復した。
(2011.5.11 16:31)

実はこの一時帰宅に先立って予行演習があった。時事ドットコムの記事を転載する。

一時帰宅へ予行演習=参加者「防護服で作業きつい」-警戒区域内で手順確認・福島

 福島第1原発から半径20キロ圏内の「警戒区域」の避難住民を対象にした一時帰宅を前に、一連の手順を確認するため、国や関係自治体によるトライアル(予行演習)が3日、実施された。
 政府や自治体職員ら計54人が参加。30キロ圏内にある川内村の村民体育センターを中継基地とし、同センターで放射性物質の付着を防ぐ防護服を着用、放射線量計を携帯した上で、マイクロバス3台で福島第1原発のある大熊町に入った。役場や住宅地などで誘導の手順や通信状況を確認した他、一般住宅への立ち入りも行った。
 2時間程度滞在した後、同センターに戻り、放射性物質が付着していないか調べる被ばく状況調査(スクリーニング)を実施。除染が必要な高いレベルの被ばくはなく、体調を崩した人もいなかった。職員らは役場の書類を持ち帰り、スクリーニング検査された。
 トライアルに参加した内閣府の上田英志審議官は「慣れない防護服やマスクを着用し、水やトイレも制限される。(住民は)十分に準備の上で一時帰宅に臨んでほしい」と述べた。大熊町役場に勤める成田康郎さん(35)は「町は地震直後のまま。家が崩れているところもあり、防護服で作業するのはきつい」と感想を語った。
(2011/05/03)

予行演習が行われたのは福島第一原発から約5キロの大熊町中心部。そこで滞在中の被曝線量をモニターしたところ、除染が必要な高いレベル(実際のデータは当然あるはずである 追記参照)の被曝はなかったというのである。この予行演習の結果をどのように一時帰宅に生かすのか、常識的に考えればきわめて簡単である。

まず大熊町より汚染レベルの低い川内村への一時帰宅に際しては、いくつかの不便が指摘されている防護服の着用は不要である。この手間がはぶけた分、滞在時間を延長すればよい。そもそも滞在時間をなぜ2時間に区切ったのか、被曝線量との関わりで考える限り、合理的な理由は見当たらない。しかし念のためにモニター用の放射線量計は携帯していただく。事実、実測データは上記赤字で強調したように問題のない安全レベルであることが確認されている。

ところが現実にはこの予行演習の結果は何一つ良い方向に生かされていない。防護服を依然として着用させて滞在時間は2時間と限定し、あまつさえ予想される被曝線量は何らの健康障害のおそれがないにもにもかかわらず「同意書」への署名を求めるなど、国は住民の側に立つどころか神経を逆撫でするような威圧的態度で臨んだのである。予行演習の結果を合理的に判断すれば、住民の側に立ったどのようにも柔軟な対応ができるであろうに、依然として防護服着用、滞在時間2時間に固執することで硬直したお役所仕事の典型を世間に示してしまった。

住民の利益を守るのはまず市長、町長、村長であろう。川内村村長(もしくはその代理者)はどうしていたのだろう。普通の常識さえあれば、私が述べたようなことを住民を代表して国に要求すべきであるし、また同意書への署名を要求した国に対して抗議をするのが筋というものである。住民から怒りの声が上がったのは当然で、これを後押しして国の押しつけを撤回させ得る動きが立ち消えになったのが返す返すも残念である。唯々諾々と「お上」の言いなりにならざるを得なかった戦時中の国民の愚を繰り返して欲しくないものである。このようなこと想像したくはないが、「補償金」の給付に不利が生じないようにとの思惑が水面下で渦巻いているのだろうか。

考えてみるとあの防護服も、住民にそこはかとなき恐怖感を植え付けて、黙らせるための格好の小道具になっているような気がする。マスメディアにもまたとない被写体を提供することであるし。元来ならマスメディアが硬直したお役所仕事の問題点を積極的に指摘して、住民側に立った事態の改善を提言すべきでないのか。そういう具体的な問題提起を行わず、ただ受け身の報道に淫しているマスメディアを見ていると、「大本営発表」を右から左に国民に伝えた戦時中の新聞を連想してしまう。一社でも良いから以前私が提言したことであるが、福島第1原発:警戒区域に高齢者の残留を認めるべきでは?に賛同の旗を振って欲しいものである。実際に生活する人の被曝量実測データに基づけば、本格的な帰宅の時期が早まることは間違いないことと思う。

追記(5月12日)

NYT「Japan to Cancel Plan to Build More Nuclear Plants」で始まる5月10日付けの記事に、次のような記述があった。

Last week, the government staged a trial run; officials played the role of returning residents to see if the trips could be made safely. Screened for radiation on their return, those participating were found to have been exposed to a dose of up to 25 microsieverts during the two-hour visit.