日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

ユッケ食中毒事件あれこれ

2011-05-09 18:09:51 | Weblog
平成10(1998)年9月11日に厚生省生活衛生局長名で都道府県知事・政令市市長・特別区区長宛に出された「生食用食肉等の安全性確保について」の通知に含まれる「生食用食肉の衛生基準」の食肉に関する要点は次のように始まる。

1 生食用食肉の成分規格目標

 生食用食肉(牛又は馬の肝臓又は肉であって生食用食肉として販売するものをいう。以下同じ。)は、糞便系大腸菌群(fecal coliforms)及びサルモネラ属菌が陰性でなければならない。

そして続く。

2 生食用食肉の加工等基準目標

(1) とちく場における加工(肝臓の処理なので省略)

(2) 食肉処理場(食肉処理業又は食肉販売業の営業許可を受けている施設をいう。以下同じ。)における加工


生食用食肉のトリミング(表面の細菌汚染を取り除くため、筋膜、スジ等表面を削り取る行為をいう。
以下同じ。)及び細切(刺身用に切分ける前のいわゆる册状にする行為をいう。以下同じ。)を行う場所は、衛生的に支障のない場所であって他の設備と明確に区分されており、低温保持に努めること。
また、洗浄、消毒に必要な専用の設備が設けられていること。

トリミング又は細切に用いられる加工台、まな板及び包丁等の器具は、専用のものを用いること。
また、これらの器具は、清潔で衛生的な洗浄消毒が容易な不浸透性の材質であること。
ウ 細切するための肉塊は、次の基準に適合する方法でトリミングを行うこと。
  (1) トリミングの直前に、手指を洗浄し、使用する器具を洗浄消毒すること。
  (2) 肉塊を、洗浄消毒したまな板に置き、おもて面のトリミングを行うこと。
  (3)おもて面をトリミングした肉塊を当該肉塊が接触していた面以外の場所に裏返し、残りの部分のトリミングを行うこと。
  (4)1つの肉塊のトリミング終了ごとに、手指を洗浄し、使用した器具を洗浄消毒すること。
オ 細切は、次のように行うこと。
(1) 細切の直前に手指を洗浄し、使用する器具を洗浄消毒すること。
(2)1つの肉塊の細切終了ごとに手指を洗浄し、使用した器具を洗浄消毒すること。
カ 器具の洗浄消毒は、83℃以上の温湯により行うこと。
キ 手指は、洗浄消毒剤を用いて洗浄すること。

手指又は器具が汚染されたと考えられる場合には、その都度洗浄又は洗浄消毒を行うこと。

生食用食肉は10℃以下となるよう速やかに冷却すること。
また、10℃以下となった生食用食肉は、10℃を越えることのないよう加工すること。
(3) 飲食店営業の営業許可を受けている施設における調理
ア 生食用食肉を調理する、まな板及び包丁等の器具は、専用のものを用いること。
また、これらの器具は、清潔で衛生的な洗浄消毒が容易な不浸透性の材質であること。

調理は、トリミングを行った後に行うこと。トリミングの方法は、(2)のウに準じること。(あらかじめ、細切され、容器包装に収められたものを取り出してそのまま使用する場合は除く。)

手指又は器具が汚染されたと考えられる場合には、その都度洗浄又は洗浄消毒を行うこと。
エ 器具の洗浄消毒は、83℃以上の温湯により行うこと。
オ 手指は、洗浄消毒剤を用いて洗浄すること。
カ 生食用食肉の温度が10℃を越えることのないよう調理すること。

具体的で分かりやすい。そして食肉処理場においてこのように加工された生食用食肉に関して「生食用」であることが表示されうる。

4 生食用食肉の表示基準目標
この基準に基づいて処理した食肉を生食用として販売する場合は、食品衛生法施行規則第5条の表示基準に加えて、次の事項を容器包装の見やすい位置に表示すること。ただし、とちく場と食肉処理場が併設しており、とさつから加工処理まで一貫して行う場合は(3)を省略することが出来る。
(1) 生食用である旨
(2) とさつ、解体されたとちく場の所在する都道府県名(輸入品の場合は原産国名)及びとさつ、解体されたとちく場名、又はとさつ解体されたとちく場の所在する都道府県名(輸入品の場合は原産国名)及び
とさつ、解体されたとちく場番号
(3) 加工した食肉処理場の所在する都道府県名(輸入品の場合は、原産国名)及び食肉処理場名(食肉処理場が複数にわたる場合はすべての食肉処理場名)

ここで定められた加工を行った食肉はちゃんと「生食用」と表示することが出来るのであるから、牡蠣が「生食用」「加熱用」と区別されて販売されているように、「生食用牛肉」が市場に出まわっているのかと思ったら、次の産経ニュース(抜粋)に驚いた。

焼き肉店食中毒 生食用牛肉“流通していない” 国の基準形骸化

国内では現在、国の衛生基準を通った生食用の牛肉は流通していない。厚生労働省は「店が自らの責任で生肉を出している状態」としており、基準は形骸化している。

(中略)

 現在全国で基準適合の登録食肉処理場は13カ所。しかし平成21年以降、いずれの施設も出荷実績は馬レバーか馬肉のみで、牛肉は出荷されていない。
(2011.5.3 20:56 )

私が驚いたというのは「生食用牛肉」が公に出まわってはいなかったのにもかかわらず生食が現実には当たり前のように行われていたことと、さらに今回の事件が発生するまでは「生食用牛肉」による食中毒が大きく報じられることのなかったことの二点についてなのである。しかしよく考えてみれば当たり前のことで、食中毒事件を引き起こすと大きな損害を被るのは飲食店の経営者である。下手すると店は潰れるし、賠償金の支払いに一生追いかけられることにもなりかねない。その飲食店の主人が客の要望に応えてユッケを提供しようと思えばどうすればよいのか。答えは簡単である。たとえ「生食用」が市場に出まわっていなくても、自らの目利きで食肉業者から牛肉の塊を仕入れて、上記の「飲食店営業の営業許可を受けている施設における調理」を自ら行えばよいのである。それを客がおいしいおいしいと食べて喜んでくれたら目出度しめでたしなのである。これまでユッケ食中毒が起こらなかったのは、客に直接食物を提供する飲食店店主が、こういうプロとしての仕事をしていたせいであろうと私は想像する。

Google画像に食肉卸業者の大和屋商店が焼き肉屋のチェーンを経営する「フーズ・フォーラス」に送ったと思われるメールを見ることが出来るが、ここに何が書かれていたにあったにせよ、出荷商品に生食用食肉の表示基準目標を達成している旨の「生食用」が表示されていない限り、大和屋商店の言い分が通るように私は思う。卸の大和屋商店がユッケとして試食したというのも、「生食用」と表示される食肉でなくても生食が出来るという事実を伝えたまでで、それをどう受け取るかは買い手の自由であり、その使用法を決定出来るのはあくまでも買い手である。さらにその「加熱用」牛肉が取引開始の2009年7月から現在に至るまで、焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」でユッケとして客に販売して別に問題を起こさなかったことが、卸売業者からの仕入れ肉をそのままトリミングせずに客に提供したことを正当化するものではない。「生食用」と表示されていない限りその食肉は「加熱用」で、それを生食用牛肉として客に提供するのであれば、あくまでも焼肉店側の責任において行わねばならないのである。価格競争に躍起な焼き肉チェーン店側が大和屋商店の仕掛け?に足をすくわれたという図式が私には分かりやすい。

ユッケ食中毒事件をきっかけに、食品衛生法に基づく新たな基準を設け、それに違反した場合は罰則を適用する方向で検討を始めたということであるが、余計なことだと思う。上記の厚生省(現厚労省)通知の内容を見れば分かるが、よくできていると思う。今回も「飲食店営業の営業許可を受けている施設における調理」が守られておれば、おそらく食中毒は起こらなかったであろう。要するにこれは食品提供業者のモラルでもある。いくら罰則で強制しても人為的ミスを原則として排除出来ない以上、食中毒発生の可能性は必ず存在する。そんなことより生肉を調理する人、食べる人にそれなりの感覚を備えて貰えば済むことであろう。

腸管出血性大腸菌O111の感染経路、ちょっと想像がつかない。ネットによるとさる4月18日のテレビ番組でこの焼き肉チェーン「焼肉酒家えびす」が「激安スペシャル」として安いのに高級感があるとか、接客抜群などと大きく紹介されたそうである。そして「焼肉酒家えびす」砺波店で発症した客の8割以上が4月22、23両日の来店客で、その客に提供された肉は19日前後に納入された可能性が大きいそうである。この番組のことを予め知った誰かの仕掛けかな、とこれはミステリー大好き人間ならではの勘ぐりである。真相の解明が待たれる。

それにしても一皿280円のユッケ(生肉+生卵)とは。