日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

原子炉海水注入問題 東京電力記者会見のYouTubeを見て

2011-05-28 21:26:03 | 社会・政治
時間のあるのは良し悪しで、もう東京電力には拘わるまいと思っているのに、「海水注入の中断はなかった」とする東京電力記者会見の1時間以上に亘る模様を、YouTubeで見てしまった。

東京電力記者会見「吉田所長の判断で注水は継続していた」2011.05.26-1
東京電力記者会見「吉田所長の判断で注水は継続していた」2011.05.26-2
東京電力記者会見「吉田所長の判断で注水は継続していた」2011.05.26-3
東京電力記者会見「吉田所長の判断で注水は継続していた」2011.05.26-4
東京電力記者会見「吉田所長の判断で注水は継続していた」2011.05.26-5
東京電力記者会見「吉田所長の判断で注水は継続していた」2011.05.26-6

東京電力の武藤栄副社長と松本純一原子力・立地本部長代理が、記者からの質問にもかなり丁寧に答えていた。しかし発言を裏付ける資料がメモとか記憶とかで、内容の信憑性に関しては不満が大きく残る。会議記録一つにしてもどの程度のものがあるのかすら分からない。取り調べの可視化ではないが、会議の発言はすべて録音し、またテレビ会議もすべて録画して記録の万全を期すべきであると思った。

海水注入に関して、YouTubeにも出てくる東京電力がまとめた時系列を、電気新聞が次のように要領よく纏めている。

東電が公表した当日の時系列によると、3月12日の午後2時50分ごろに清水正孝社長が海水注入の実施について確認、実施を了解した。東電では「淡水が無くなれば海水を入れなければならないという判断が早い段階からあった」(武藤副社長)ため、午後3時18分ごろ、準備が整い次第、海水を注入する予定である旨を経済産業省原子力安全・保安院に通報。その後、午後3時36分に1号機の原子炉建屋が水素爆発したが、午後6時5分には国から海水注入に関する指示を受け、午後7時4分に海水注入を開始。同6分に注入開始を保安院に連絡した。

しかし、東電の官邸派遣者から「官邸では海水注入について首相の了解が得られていない」との連絡が本店本部と発電所側に対してあったため、テレビ会議での協議の結果、一旦海水注入を停止することが合意された。ただ、発電所側としては原子炉への注水継続が重要であると、吉田所長が判断。注水を継続していた。
(2011/05/27)

ここで私が注目したのは午後6時5分には国から海水注入に関する指示を受けの部分で、私にとって新しい事実であったからである。と同時に、昨日のブログで次のように述べた推測(強調部分)が覆されることにもなるからである。

《25日午前の記者会見で、東日本大震災翌日の3月12日午後3時20分ごろ、保安院に「準備が整い次第、炉内に海水を注入する予定である」と記したファクスを送っていたことを明らかにした》との報道は注目に値する。これだと単なる事前通知で、首相の了解を待っているとのニュアンスは0である。すなわちこれからは東電の判断で海水注入に踏ん切ったことがうかがわれる

海水注入にやはり国の指示が必要であったのだろうか。そこでこの経緯をYouTubeでのやりとりから私なりに調べたが、「海水を注入すること」という国からの指示は「あらずもがなの口出し」に過ぎないというのが私の結論であった。なぜか、を述べる。

YouTube(2011.05.26-2)で記者が18:05に国から海水注入に関する指示というのが検討の指示なのか注入の指示なのか具体的に、と問うたのに、「国からの海水注入の指示は、そのあと正式に命令書という形で出しているが、海水を注入することという指示と理解」(松本 1:30)と答えている。さらに(後刻出されたはずの)命令書の内容を「原子炉等規制法64条第3項の規定にもとづき、福島第一原子力発電所第1号機について、たとえばその原子炉容器内を海水で満たすなど適切な方法を検討したうえ、その原子炉容器の健全性を確保することを命じる」であったと武藤副社長は説明している。

原子炉等規制法とは正しくは「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」であって、第64条は危険時の措置に関するものである。長々とした条文であるが、要は主務大臣は「原子炉による災害を防止するために必要な措置を講ずることを命ずることができる」のであって、原子力事業者(東電)は「主務省令(第三項各号に掲げる原子力事業者等の区分に応じ、当該各号に定める大臣の発する命令をいう。)で定めるところにより、応急の措置を講じなければならない」ことになっている。

しかしこの原子炉等規制法の規定と昨日紹介した原子力災害対策特別措置法の規定とはどのような関係があるのだろうか。素人の私には分からない。しかし「海水注入」をわざわざ原子炉等規制法の規定で命令するのであれば、東電が「原子力災害の発生又は拡大を防止するために必要な業務を行う」(原子力災害対策特別措置法)そのすべてについて、原子炉等規制法にもとづく命令が出されなければならないのではと思うが、そうではなかったようである。経済産業省の「報道発表」では、3月15日に出された「第4号機の使用済み燃料プールへの注水を可及的速やかに行うことを命じる」との「原子炉等規制法に基づく命令について」は見ることが出来るが、海水注入その他の記録はなぜか残されていないのである。

一般人の常識で考えると、異なった法律による屋上屋を重ねるような指示・命令はまったく無意味であるし、現場が錯綜するだけである。そして東電現場でも重く見られていなかったことがYouTubeでのやり取りからも浮かび上がってくるのが面白い。その姿勢が官邸派遣者からの連絡のことについて、武藤副社長の次の説明にありありと現れている。

3月12日午後7時25分頃官邸派遣者から連絡があり、「海水注入という具体的なことをやるに当たって、首相が判断するという感じがある。責任者である首相の判断のない中で、実施は出来ないという雰囲気というか、空気を伝えてきた」と説明した(従来は19:00前後、東電元副社長の武黒フェローが「再臨界の可能性などを官邸で検討している」と東電に連絡、19:25に海水の試験注入を停止とされていた。実はこの食い違いも問題である)。そしてこのようにも言っている。「首相の了解を得ないと海水の注入は行えないということがこの時点(~17:25)でハッキリした。了解が得られるまでいったん中止をしようと合意」。これですでに出されていた原子炉等規制法にもとづく経済産業大臣の正式命令がいかに軽くあしらわれたかがよく分かる。なんせ正式命令が雰囲気・空気で吹っ飛んだのであるから。この命令、「あらずもがなの口出し」であったのだから当然といえば当然の成り行きであった。

いやはや、また気分が悪くなってしまった。それにしてもここで東電側の話していることが、またどう変わることやら。