日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

韓国・朝鮮語 理由が理由でない理由 

2010-03-10 11:35:47 | Weblog
これは言葉遊びのつもりなのであるが、実はこのままでは意味をなさないかも知れない。「韓国・朝鮮語 理由(이요)が理由(리요)でない理由」と書くと、朝鮮語を少し囓った人なら「あ、そういうことか」と反応するかもしれないが、「何がおかしい?」と聞き返す人もいるかもしれない。ということで、少し朝鮮語の説明をしないといけないと思う。

朝鮮でも日本と同じく昔は漢字が使われていたが、今は表音文字であるハングル(한글)で朝鮮語を表記するようになっている。いうまでもないがハングルは李氏朝鮮第四代国王の世宗が1446年に「訓民正音」の名で公布したもので、これは「民衆に教える正しい音」という意味である。しかし李王朝時代でも正式な文書はいぜんとして漢文であった。ハングルの特徴はそれまでに存在していた文字とはまったく無関係に独創的な文字を作ったところにあり、古文書「訓民正音」は1997年10月にユネスコ世界記録遺産(the Memory of the World)に登録されている。

朝鮮も日本も中国から伝わって来た漢字を使っていたから、ハングルの表す言葉が漢字言葉であるば日本人にもその意味が分かるし、また逆に漢字言葉をハングルに直すことも限られた規則さえ飲み込めばそう難しいことではない。韓国では1970年代に一時漢字教育が廃止されたことがあり、この世代の韓国人は漢字を頭に思い浮かべることなく朝鮮語を使っている。その世代の韓国人とくらべると日本人は漢字、漢字言葉を知っている分、朝鮮語を学ぶのに利点があることになる。韓国で通用している漢字言葉さえ頭に入っておれば、一定の規則に従って簡単にハングルに置き換えることが出来るからである。

昨日の朝鮮語のクラスは今期最後の日であったので、復習として先生がこの漢字言葉をハングルで表す規則のことを取り上げた。その一つが、ら行で始まる日本語の漢字言葉をハングルに直すときの決まりである。羅、離、留 廬のようなら行漢字は一般にㄹ(リウル)で始まるハングルで라(ラ)、 리(リ)、료(リョ)、로(ロ)と表されるところであるが、そのまま使われるのは実は二文字漢字の二番目にきたときで、それが最初に出てくると「ㄹ」が「ㅇ」か「ㄴ」に変わるというのである。具体的にいうと、整理(정리)、生理(생리)、料理(요리)のように「理」が二番目に来るとちゃんと「리」と表記され「リ」と発音されるのに、理解(이해)、理由(이요)のように最初に来ると「이」と表記され「イ」と発音されるのである。だから理由(리요)でよいはずのものが理由(이요)になってしまうのである。

このようなことを熱をこめて語る先生の話を聞いていて、ふと疑問が浮かび上がってきた。そういう規則だと割り切ればそれまでのことであるが、「理」がどこに出てこようと「리」にしておけば、一つでも余計な規則を覚えなくてすむではないか。そこで先生に「そんなややこしい規則なんていらないじゃないですか」と私の疑問をぶっつけたところ、思いがけない答えが返ってきた。北朝鮮ではあなたのいうような使われかたがされています、というのである。すなわち北朝鮮では「理由」は「리요」で、「이요」とは韓国での用法なのである。私に言わせるとこの北朝鮮での用法の方が理にかなっている。余計なことをしているのは韓国なのである。その理由をさらに質すと「北朝鮮からのスパイを見分けるためではないかしら」と、一説によるとと断りながらも、先生の答えが返ってきた。「なるほど、なるほど」とミステリー大好きの私はこれで即座に納得した。日常的によく使う「料理」でも「요리」(ヨリ)と言わずにもうっかり「료리」(リョリ)と言ってしまうと、さてはと疑われてしまうのである。これでひとまず「理由(이요)が理由(리요)でない理由」が理解できたこととした。

ところで、先生が最初の自己紹介の時に「李はイともリとも言うけれど、私はリと呼んで下さい」と言われたことを思い出した。たしかに李承晩ラインの李元韓国大統領は이승만(イ・スンマン)と呼ばれていた。それを先生があえて「리」(リ)を強調される理由とは・・・。さぁ、また聞いてみよう。