日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

堤 未果著「ルポ 貧困大国アメリカII」を読んで

2010-03-05 23:39:55 | 読書

著者によるルポ第2弾で、Iは目を通していないが、帯の「日本の近未来を暗示」なる言葉につい手を出してしまった。こういう本を読むと心が暗くなりそうで、それでいて何かができるわけでもなし、だからふだんは避けるのにちょっとした好奇心で手を出したのが運の尽き、やっぱり心が暗くなった。出口が見えてくる話ではないからである。

「公教育が借金地獄に変わる」「崩壊する社会保障が高齢者と若者を襲う」「医療改革vs.医産複合体」「刑務所という名の巨大労働市場」と四つのトピックに分けて貧困大国の内情が述べられているが、私が意表をつかれたのはアメリカでは刑務所に入るのにお金がいるということであった。ニューヨーク州で窃盗を犯した青年の言葉である。

「まず逮捕された日付で、法定手数料三00ドル(三万円)と囚人基金の積立金二五ドル(二五00円)の請求がきたのです」

これは有罪判決が確定してからのことだろうが、刑務所での労働の対価は時給が四0セントで、そこから部屋代と医療費で毎日二ドルずつ引かれたというのである。本業のほかに貧困地域の未成年被告の法廷弁護をボランティアで務める弁護士はこのように語っている。

「刑務所が囚人たちに押し付ける負担範囲は拡大する一方です。囚人たちは用を足すときに使うトイレットペーパーや図書館の利用料、部屋代や食費、最低レベルの医療サービスなど、本来無料であるべき部分まで請求されています」

民間刑務所が巨大ビジネスの仲間入りをしているのである。目を疑うような話ばかりなのであとは実際にこの本を読んで頂くしかない。

今、アメリカで話題のオバマ大統領による医療改革の分かりにくい紆余曲折も、この本で概要と問題点を一応理解できた。社会保障の問題点でも昨年6月、GMの連邦破産法適用を申請した流れで、六五歳以上の退職者への医療保険提供の廃止とか、企業年金の年金額の六割削減が退職者の生活に及ぼす影響を分析しているが、読む方の気持ちはますます滅入ってくる。このルポではアメリカの貧困大国の面を描いているのだから、暗い話ばかりが出てくるのは当然で、もしこれがサクセスストーリーのルポなら、一転して明るい話ばかりが続くことだろうな、とでも思わないことには心のバランスが崩れてしまうことだろう。その意味でこの本はアメリカ社会の暗い面を描くのには大いに成功していると言えよう。

それにしても私の知っている古き良きアメリカはどこに行ってしまったのだろう。次の文章で始まる第一章「公教育が借金地獄に変わる」にその大きな変貌を見る。

 二00九年十一月二十三日、カリフォルニア州立大学(UC)のキャンパスで、何千人という学生たちが建物を占拠する映像が全米に流れた。
 武装した警官とにらみあう学生たちが、大声を上げながら理事たちの車を取り囲み、「大学民営化反対」「役員ボーナスをカットしろ」「教育をマネーゲームするな」などのプラカードを掲げて、通りを更新する姿だ。(中略)
 今回、UCが発表したのは、年間三二%の授業料の値上げだ。

私がUCサンタバーバラ校に務めていたのは1967-68年で、その当時州立大学が授業料を取っていたのかなとふと疑問に思ったが、次の文章で氷解した。二00八年、公教育の重要性を掲げて、サンフランシスコから下院議員に立候補した反戦活動家が次のように語っているのである。

「性別や経済状態にかかわらず誰にも平等に与えられるはずの教育は、いつから狂ってしまったんでしょう。私が学生だった頃、通っていた州立大学の学費は無料でした。今、UCに行った私の娘と息子は、それぞれ四万ドル以上の学資ローンを抱えています。一八%というクレジットカード並みの利息ですね」

その一方で、UCが数人の役員に対して総予算の一二%にあたる総額八億五000万ドル(八五0億円)のボーナスを出していたとという、ルポの信憑性を疑いたくなるような乱費が行われているとのスキャンダルが浮かび上がった。さらに元来は政府の学資ローンを扱っていたはずの非営利公的教育援助機関が、いつのまにか民間のローン会社に変容して、しかも不良債権化したローンの回収で大きな利益をあげているとの話が出てくる。現在、全米の大学生の三分の二が学資ローンを借り入れており、ローン総額が九00億ドル(九兆円)に達しているという。大学は出たが就職先がない、ローンを返済できない、と転がり出すと、これはサブプライムローン悲劇と変わるところがない。とにかく暗すぎる。