真夜中の随想(2)

2010年08月31日 | 随想
真夜中の月は半月。
薄い氷のような蒼空に、五十一年目の秋が深まっていく。
今は遠くの命。
遥かな、遥かな蒼暗い空の中に浮かんでいた
とんでもない月の光。
僕は多くのことを忘れてしまった。
亡くなった友のことも、白い巨大な雪のことも、
岩を超えていく歓びも、落ちていく恐怖も。
全ての経験が今は牙を剥くこともなく、怯えることもない。
僕は茫然として一人、食堂の机を見つめている。