日本国内の政治の話題は、もっぱら安保法案の可決がされるかにかかっているが、本来は日本の経済をいかに順調に進展さすかに、政策の重点を置くべきなのである。
国際社会の目はそういう面で、米国のFRB(米連邦準備理事会)の利上げに注目されている。
米国経済は、完全とは言えないまでも、ほぼ利上げを行っても可能な指標が並びつつある。
一方で、日銀黒田総裁に対しては、世界的に金融緩和の期待が多かったが、大方の予想通り据え置きが決まった。
この結果、今後はドル安、円高の方向で為替相場は推移すると見られている。
確かに日本の企業業績は、今までの円安政策の影響もあり、好業績の企業が多い、
労働需給も好転しており、人手不足が顕著になっている業界もある。それに伴い給与水準の上昇も少しは見込まれそうだと言う。
一方で、天候不順の影響もあったのであろう、生鮮食料品などの価格上昇も顕著で、皮肉な形の物価上昇現象もみられる。
ただ、エネルギーコストとしての原油の値下がりが顕著であり、日本のように100%の原油輸入国には大きなメリットを与えてくれている。
中国経済の減速は世界経済の大きなリスク要因である事は間違いなく、これから米国や日本にどのような形のリスクを与えるかなど、大いに注目されるところだ。
年末、年明けにかけてどのような経済環境になるのか、円高ドル安傾向がどの程度の幅で収まるのか等々、実質経済に与える影響を良くチェックする必要があるだろう。
(ロイターより貼り付け)
コラム:「米利上げ・日銀追加緩和」観測の罠
佐々木融JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長
2015年 09月 15日
[東京 15日] - 日銀の金融政策に関しては、海外勢を中心に追加緩和期待が強いが、15日の決定会合では大方の予想通り据え置きが決まった。
記者会見での黒田総裁発言も追加緩和の可能性を示唆するようなものはなく、むしろ過去最高水準に迫る企業収益などを背景に、インフレ率が堅調に推移することに対する自信を維持しているようだった。
こうした中、追加緩和を期待して円を売っていた海外勢による円の買い戻しが15日午後の円上昇の背景になっていると思われる。
当社は、米連邦準備理事会(FRB)が今週16―17日の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げに踏み切り、また年内に2度目の利上げを行う可能性もあると考えている。一方、日銀の金融政策については、メインシナリオとして来年1月に追加緩和、場合によっては今年10月にも追加緩和が行われると考えている。
月並みな言葉で言えば、日米金融政策の方向性は反対、つまり米国が金融引き締め方向で日本は金融緩和方向ということになる。もっとも、こうした見方は市場でも一般的であり、為替相場もすでに織り込んでいると考えられる。
また、本コラムでかねてより指摘してきたように、ドルはFRBによる最初の利上げ前後のタイミングがピークになる傾向が強い。加えて、日本の経常黒字の急増、円ショートポジションの積み上がりから、円安にはなりにくくなっている。そのため金融政策の方向性の違いはあったとしても、来年に向けては緩やかなドル安・円高方向への推移になると予想している。
<市場の期待と逆方向に向かうリスク>
ただ、筆者が本稿で指摘したいのは、逆の意味で日米金融政策が別方向に向かうリスクである。あくまで個人的な見解だが、FRBは市場が織り込んでいるほど利上げをできず、日銀は市場が期待するような追加緩和を行わないというリスクも無視できないのではないかと考えている。
まず日銀の金融政策については、個人消費の伸び悩み、所得環境の改善テンポが遅れていること、原油価格下落もあってインフレ期待が後退している可能性などを受けて、追加緩和を期待する声は根強い。
原油価格は、昨年6月のピークから追加緩和が行われた昨年10月末に向けて約4カ月間で25%程度下落した。今年も原油価格のピークは6月で、そこからの下落率は30%程度と、昨年よりも下落率は大きい。市場の期待インフレ率も昨年10月時点よりも現在のほうが低い。
しかし一方で、日銀も指摘している通り、企業収益が過去最高水準に達する中で、有効求人倍率は昨年10月時点に比べて0.1ポイントも上昇し、1990年代前半の水準まで戻している。失業率も約18年ぶりの水準まで低下してきている。FRBと同じロジックで言えば、今後賃金が上昇し始め、やがてインフレ圧力を強めてくる可能性があるということになる。
また、日銀がフォローし始めた、生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価指数の前年比は6月がプラス0.7%、7月はプラス0.9%と伸びが加速している。9月以降の悪天候を考えると、生鮮食品の価格が今後上昇する可能性は高く、結果的に全体の消費者物価上昇率を押し上げるかもしれない。ちなみに、日銀が物価の目標としてプラス2.0%と定めているのは、全体の消費者物価上昇率の前年比である。
さらに、昨年10月に実施した追加緩和の理由に、当時2015年10月に予定されていた2回目の消費税引き上げ決定をサポートするという目的も含まれていたとしたら、今回は全く状況が異なることになる。
もちろん、今後の経済・市場の動きによる部分も大きいが、日銀の金融政策が市場に期待されているような緩和に向かわないリスクも排除せずに見ていく必要があるのではないだろうか。
<急激なドル安・円高が進む可能性も>
一方、米国については、失業率は過去3年間で3%ポイントも急低下しており、FRBが先行きの賃金・インフレ率上昇を懸念し、少なくとも年内に1回は利上げに踏み切るとの見方は根強い。実際、FRB高官からもそうした可能性を指摘する声は多く聞かれている。
FOMCは前回7月29日の声明文で、「委員会は労働市場がさらにあと少し(some further)改善し、中期的にインフレ率が2%目標に向かって戻るとの合理的な確信が持てた時」、利上げが適切になるとの考えを示した。その前の6月17日FOMCの声明文では、「労働市場がさらに(further)改善」とされていたところに、「あと少し(some)」が加えられたことから、利上げの時期が近づいているとの見方が強まった。
7月FOMC以降に発表された主な米経済指標を見ると、労働市場関連の指標の強さが目立つ。声明文の基準に立てば、利上げが適切な状況になっていると言えるだろう。
しかし一方で、その7月分のFOMC議事要旨では、数名(some)の参加者がインフレ率への下方リスクとして、「さらなる原油・コモディティー価格の下落とさらなるドル上昇の可能性」を挙げた。これは、「明らかな原油価格及びドルの安定」がインフレ率に対する下方圧力を和らげるとし、「メンバーは中期的にインフレ率が2%に向かい上昇するとの見方を示した」と記述された6月分の議事要旨から変化している。
さらに、中国経済についても、6月分の議事要旨では、何人か(several)が諸外国、「特に中国や他の新興国」の経済成長ペースに対する不透明感について言及した程度にとどまったが、7月分の議事要旨では、今後の米国景気を左右する要因として中国経済に度々触れ、「実質的な中国経済活動の減速は米国経済見通しのリスクとなる」とトーンが強まった。
7月29日のFOMCから先週金曜日(9月11日)までの動きを見ると、ドルの名目実効レートは0.7%上昇し、ニューヨーク原油(WTI)は8.5%下落した。ドル高の進行は一服したように見受けられるが、原油価格に関しては相変わらず下落圧力が強く、7月FOMC議事要旨で言及されたドル高・原油安からのインフレ下振れリスクは、一段と高まっているとも考えられる。加えて、上海総合株価指数は7月29日以降15%程度下落している。
現状、市場はFRBが年内に1回の利上げを行い、来年末までに合計3回の利上げを行うことをほぼ織り込んでいる。しかし、足元の状況に鑑みると、市場が織り込んでいるペースより早く利上げが行われるリスクよりも、市場が織り込んでいるほどの利上げは行われないリスクのほうが高いとは考えられないだろうか。
日米金融政策は、市場の読みとは逆方向に向かっているというリスクも頭の片隅に入れておいたほうが良いのかもしれない。この場合は、むしろ想定以上のペースでドル安・円高が進むことになる。
(貼り付け終わり)
国際社会の目はそういう面で、米国のFRB(米連邦準備理事会)の利上げに注目されている。
米国経済は、完全とは言えないまでも、ほぼ利上げを行っても可能な指標が並びつつある。
一方で、日銀黒田総裁に対しては、世界的に金融緩和の期待が多かったが、大方の予想通り据え置きが決まった。
この結果、今後はドル安、円高の方向で為替相場は推移すると見られている。
確かに日本の企業業績は、今までの円安政策の影響もあり、好業績の企業が多い、
労働需給も好転しており、人手不足が顕著になっている業界もある。それに伴い給与水準の上昇も少しは見込まれそうだと言う。
一方で、天候不順の影響もあったのであろう、生鮮食料品などの価格上昇も顕著で、皮肉な形の物価上昇現象もみられる。
ただ、エネルギーコストとしての原油の値下がりが顕著であり、日本のように100%の原油輸入国には大きなメリットを与えてくれている。
中国経済の減速は世界経済の大きなリスク要因である事は間違いなく、これから米国や日本にどのような形のリスクを与えるかなど、大いに注目されるところだ。
年末、年明けにかけてどのような経済環境になるのか、円高ドル安傾向がどの程度の幅で収まるのか等々、実質経済に与える影響を良くチェックする必要があるだろう。
(ロイターより貼り付け)
コラム:「米利上げ・日銀追加緩和」観測の罠
佐々木融JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長
2015年 09月 15日
[東京 15日] - 日銀の金融政策に関しては、海外勢を中心に追加緩和期待が強いが、15日の決定会合では大方の予想通り据え置きが決まった。
記者会見での黒田総裁発言も追加緩和の可能性を示唆するようなものはなく、むしろ過去最高水準に迫る企業収益などを背景に、インフレ率が堅調に推移することに対する自信を維持しているようだった。
こうした中、追加緩和を期待して円を売っていた海外勢による円の買い戻しが15日午後の円上昇の背景になっていると思われる。
当社は、米連邦準備理事会(FRB)が今週16―17日の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げに踏み切り、また年内に2度目の利上げを行う可能性もあると考えている。一方、日銀の金融政策については、メインシナリオとして来年1月に追加緩和、場合によっては今年10月にも追加緩和が行われると考えている。
月並みな言葉で言えば、日米金融政策の方向性は反対、つまり米国が金融引き締め方向で日本は金融緩和方向ということになる。もっとも、こうした見方は市場でも一般的であり、為替相場もすでに織り込んでいると考えられる。
また、本コラムでかねてより指摘してきたように、ドルはFRBによる最初の利上げ前後のタイミングがピークになる傾向が強い。加えて、日本の経常黒字の急増、円ショートポジションの積み上がりから、円安にはなりにくくなっている。そのため金融政策の方向性の違いはあったとしても、来年に向けては緩やかなドル安・円高方向への推移になると予想している。
<市場の期待と逆方向に向かうリスク>
ただ、筆者が本稿で指摘したいのは、逆の意味で日米金融政策が別方向に向かうリスクである。あくまで個人的な見解だが、FRBは市場が織り込んでいるほど利上げをできず、日銀は市場が期待するような追加緩和を行わないというリスクも無視できないのではないかと考えている。
まず日銀の金融政策については、個人消費の伸び悩み、所得環境の改善テンポが遅れていること、原油価格下落もあってインフレ期待が後退している可能性などを受けて、追加緩和を期待する声は根強い。
原油価格は、昨年6月のピークから追加緩和が行われた昨年10月末に向けて約4カ月間で25%程度下落した。今年も原油価格のピークは6月で、そこからの下落率は30%程度と、昨年よりも下落率は大きい。市場の期待インフレ率も昨年10月時点よりも現在のほうが低い。
しかし一方で、日銀も指摘している通り、企業収益が過去最高水準に達する中で、有効求人倍率は昨年10月時点に比べて0.1ポイントも上昇し、1990年代前半の水準まで戻している。失業率も約18年ぶりの水準まで低下してきている。FRBと同じロジックで言えば、今後賃金が上昇し始め、やがてインフレ圧力を強めてくる可能性があるということになる。
また、日銀がフォローし始めた、生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価指数の前年比は6月がプラス0.7%、7月はプラス0.9%と伸びが加速している。9月以降の悪天候を考えると、生鮮食品の価格が今後上昇する可能性は高く、結果的に全体の消費者物価上昇率を押し上げるかもしれない。ちなみに、日銀が物価の目標としてプラス2.0%と定めているのは、全体の消費者物価上昇率の前年比である。
さらに、昨年10月に実施した追加緩和の理由に、当時2015年10月に予定されていた2回目の消費税引き上げ決定をサポートするという目的も含まれていたとしたら、今回は全く状況が異なることになる。
もちろん、今後の経済・市場の動きによる部分も大きいが、日銀の金融政策が市場に期待されているような緩和に向かわないリスクも排除せずに見ていく必要があるのではないだろうか。
<急激なドル安・円高が進む可能性も>
一方、米国については、失業率は過去3年間で3%ポイントも急低下しており、FRBが先行きの賃金・インフレ率上昇を懸念し、少なくとも年内に1回は利上げに踏み切るとの見方は根強い。実際、FRB高官からもそうした可能性を指摘する声は多く聞かれている。
FOMCは前回7月29日の声明文で、「委員会は労働市場がさらにあと少し(some further)改善し、中期的にインフレ率が2%目標に向かって戻るとの合理的な確信が持てた時」、利上げが適切になるとの考えを示した。その前の6月17日FOMCの声明文では、「労働市場がさらに(further)改善」とされていたところに、「あと少し(some)」が加えられたことから、利上げの時期が近づいているとの見方が強まった。
7月FOMC以降に発表された主な米経済指標を見ると、労働市場関連の指標の強さが目立つ。声明文の基準に立てば、利上げが適切な状況になっていると言えるだろう。
しかし一方で、その7月分のFOMC議事要旨では、数名(some)の参加者がインフレ率への下方リスクとして、「さらなる原油・コモディティー価格の下落とさらなるドル上昇の可能性」を挙げた。これは、「明らかな原油価格及びドルの安定」がインフレ率に対する下方圧力を和らげるとし、「メンバーは中期的にインフレ率が2%に向かい上昇するとの見方を示した」と記述された6月分の議事要旨から変化している。
さらに、中国経済についても、6月分の議事要旨では、何人か(several)が諸外国、「特に中国や他の新興国」の経済成長ペースに対する不透明感について言及した程度にとどまったが、7月分の議事要旨では、今後の米国景気を左右する要因として中国経済に度々触れ、「実質的な中国経済活動の減速は米国経済見通しのリスクとなる」とトーンが強まった。
7月29日のFOMCから先週金曜日(9月11日)までの動きを見ると、ドルの名目実効レートは0.7%上昇し、ニューヨーク原油(WTI)は8.5%下落した。ドル高の進行は一服したように見受けられるが、原油価格に関しては相変わらず下落圧力が強く、7月FOMC議事要旨で言及されたドル高・原油安からのインフレ下振れリスクは、一段と高まっているとも考えられる。加えて、上海総合株価指数は7月29日以降15%程度下落している。
現状、市場はFRBが年内に1回の利上げを行い、来年末までに合計3回の利上げを行うことをほぼ織り込んでいる。しかし、足元の状況に鑑みると、市場が織り込んでいるペースより早く利上げが行われるリスクよりも、市場が織り込んでいるほどの利上げは行われないリスクのほうが高いとは考えられないだろうか。
日米金融政策は、市場の読みとは逆方向に向かっているというリスクも頭の片隅に入れておいたほうが良いのかもしれない。この場合は、むしろ想定以上のペースでドル安・円高が進むことになる。
(貼り付け終わり)