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世界共同体憲章試案(連載第27回)

2020-02-14 | 〆世界共同体憲章試案

第15章 人権査察院

〈意義〉

【第89条】

人権査察院は、世界共同体憲章に定められた基本的人権を侵害された当事者を法的に救済する世界共同体の主要な常設司法機関である。人権査察院は、この憲章に定めがあるもののほか、付属の規程に従って任務を行う。

[注釈]
 現存国際連合では、人権理事会なる政治的な機関が加盟各国の人権査察を定期的に実施する体制が採られている反面、人権裁判所のような当事者救済型の司法機関が欠けているため、国際的な人権保障体制は政治化する一方、強制力を伴う人権救済がなされない。それに対して、世界共同体の人権査察院は常設司法機関であり、当事者からの直接的な審査請求を受けて、個別事案の救済を図る点に特長がある。

〈構成等〉

【第90条】

1.人権査察院は、世界共同体を構成する領域圏及び直轄自治圏の中から抽選された15の構成主体が各一名ずつ同時に選任する判事及び補欠判事によって構成される。

2.判事及び補欠判事の任期は五年とし、再任されることはできない。判事が任期途中で退任し、または執務不能により停職した場合、補欠判事は当該判事の残任期のみを務めることができる。

3.審査事案のいずれかの当事者が属する世界共同体構成主体に属する判事及び補欠判事は、審理及び審決に参加することができない。この場合は改めて抽選を行い、本項第一文の構成主体以外に属する臨時の判事及び補欠判事を選任しなければならない。臨時の判事及び補欠判事は、審決後に退任する。

4.判事は人権査察院の所在地に常駐しなければならない。

5.任期満了により退任した判事及び補欠判事が属する構成主体は、以後、二期を経なければ判事及び補欠判事の抽選に参加することはできない。

[注釈]
 人権査察院は、抽選された15の世界共同体構成主体から選任された15人の判事(及び同数の補欠判事)によって構成される

〈手続き〉

1.人権査察院は、世界共同体籍を有する個人または世界共同体構成主体のいずれか一つに籍を置く団体が、その所属する構成主体内の司法機関による適切な救済を得られなかった場合に、当該当事者の審査請求に基づいて審査を開始する。

2.前項の規定にもかかわらず、緊急性が高い場合は、当事者は直接に人権査察院の審査を請求することができる。

3.前二項の審査請求を受けた人権査察院は、公開の予備審査を開始する。予備審査では、必要に応じ、当事者または証人を召喚することができる。

4.予備審査の結果、本審査の必要があると認めるときは、事案を本審査に送致する。本審査の必要がないと認めるときは、請求を却下する。

[注釈]
 人権査察院の審査は、世界共同体の各構成主体内の司法機関による審理を受けることを前提とする二段階主義を採るが、緊急性が高い場合は各構成主体内の司法機関を飛び越えた跳躍審査を認める。

〈審決及び執行〉

1.人権査察院の審決は、15人の判事の多数決でこれを行う。ただし、多数意見に反対する判事は、個別に少数意見を示すことができる。

2.人権侵害の加害者に対する人権侵害行為の差し止めを命ずる審決は、強制的に執行される。その目的のため、人権査察院は審決執行者を派遣する。

[注釈]
 人権査察院の審決は、基本的に人権侵害行為の即時または将来の差し止め命令である。命令は、審決執行者を通じて加害当事者に強制執行される。加害者が構成主体の公的機関であっても、同様である。

〈特別人道法廷の設置決定〉

【第91条】

人権査察院は、審査の結果、当該事案が人道に対する罪に該当すると判断するときは、審決をもって、特別人道法廷の設置を決定することができる。

[注釈]
 審査事案が、単なる人権侵害にとどまらず、反人道犯罪に該当するときは、弾劾裁判の性格を有する特別人道法廷の設置を決定する。


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