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「遡及逮捕」と無罪推定

2017-04-16 | 時評

千葉県下で外国籍の少女が誘拐・殺害された事件は、地元小学校保護者会長氏が死体遺棄で逮捕されるという衝撃的事態に発展した。ミステリードラマ顔負けの思いがけない人物だったため、注目の高さはわかるが、現時点では「死体遺棄」の容疑にとどまっている。

最近の警察の殺人事件捜査として、このように時間的には後の死体遺棄容疑でまず逮捕し、取調べを経て本命の殺人罪で再逮捕するというやり方が常態化しているようである。これは別件逮捕とまで言えないが、本来一体的な殺人・死体遺棄を分割して、後ろの死体遺棄から遡っていくというややずるいやり方である。

業界的にどう呼ぶのか知らないが、あえて言えば時間的に遡る「遡及逮捕」である。おそらく本命の殺人容疑が固まっていないので、まず簡単な死体遺棄で挙げておいて、取調べで殺人を自白させてからおもむろに殺人罪で逮捕しようという算段なのだろう。その限りでは、別件逮捕の変則版とも言える。

そもそもすでに拘束した人を(釈放せずに)「再逮捕」するというのも手品のようで不思議な日本の慣例であるが―すでに留置されている人に改めて逃亡や罪証隠滅の危険は生じないはずだから―、それをおいても死体遺棄から遡るやり方は自白偏重捜査の名残ではないかと懸念される。

だが、もっと問題なのは、死体遺棄で逮捕されただけで早くも殺人の「犯人」と断じて、報道洪水を起こすメディア総体である。このような推定無罪無視の早まった犯人視報道は日本の犯罪報道の宿痾だが、いっこうに正される気配がないのはどうしてだろうか。

こうした報道悪習が数々の冤罪事件を生み出してきた歴史は、顧みられていない。冤罪確定の時だけ一転して「さん」付けでもって名誉回復報道をしても時遅すぎ、かつ白々しい。たとえ今回は冤罪でないとしても、推定無罪は全事件において貫徹されるべき例外なき鉄則である。

〔追記〕
千葉県警は5月5日、上述被疑者を殺人とわいせつ目的誘拐などの疑いで再逮捕した。ただし、本人は当初否認、その後は黙秘しているとされる。


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