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中国憲法評解(連載第14回)

2015-04-03 | 〆中国憲法評解

第三章 国家機構

第三節 国務院 

第八五条

国務院、すなわち中央人民政府は、最高国家権力機関の執行機関であり、最高の国家行政機関である。

 国務院は中央政府であり、軍事を除く一般行政権を掌握する。ソ連大臣会議に相当する機関であるが、ソ連の制度に比べると、合議性が弱く、総理の指導性が強い。

第八六条

1 国務院は、次に掲げる者によって構成される。

 総理
 副総理 若干名
 国務委員 若干名
 各部部長
 各委員会主任
 会計検査長
 秘書長

2 国務院は、総理責任制を実施する。部及び委員会は、部長責任制及び主任責任制を実施する。

3 国務院の組織は、法律でこれを定める。

 国務院は総理(首相)を長とし、大臣及び大臣級役職者で構成される。会計検査長も大臣級とされるのが特徴的であるが、これにより、会計検査の独立性が失われる恐れもある。

第八七条

1 国務院の毎期の任期は、全国人民代表大会の毎期の任期と同一とする。

2 総理、副総理及び国務委員は、二期を超えて連続就任することはできない。

 国務院は最高機関である全人代によって選出され、全人代から授権されて国務に当たる建前のため、全人代の任期と符合される。

第八八条

1 総理は、国務院の活動を指導する。副総理及び国務委員は、総理の活動を補佐する。

2 総理、副総理、国務委員及び秘書長をもって、国務院常務会議を構成する。

3 総理は、国務院常務会議及び国務院全体会議を招集し、及び主宰する。

 国務院総理(首相)の権限を定めている。総理の指導性が強いため、党内序列も高位に置かれる。国務院を構成するメンバーの数が多いため、会議の効率性を考慮して常務会議と全体会議に分かれている。

第八九条

国務院は、次の職権を行使する。

一 この憲法及び法律に基づいて、行政上の措置を定め、行政法規を制定し、並びに決定及び命令を発布すること。
二 全国人民代表大会又は全国人民代表大会常務委員会に議案を提出すること。
三 各部及び各委員会の任務及び職責を定め、各部及び各委員会の活動を統一的に指導し、かつ、各部及び各委員会に属しない全国的行政事務を指導すること。
四 全国の地方各級国家行政機関の活動を統一的に指導し、中央並びに省、自治区及び直轄市の国家行政機関の職権の具体的区分を定めること。
五 国民経済・社会発展計画及び国家予算を編成し、及び執行すること。
六 経済活動及び都市・農村建設を指導し、及び管理すること。
七 教育、科学、文化、衛生、体育及び計画出産の各活動を指導し、及び管理すること。
八 民政、公安、司法行政及び監察などの各活動を指導し、及び管理すること。
九 対外事務を管理し、外国と条約及び協定を締結すること。
一〇 国防建設事業を指導し、及び管理すること。
一一 民族事務を指導し、及び管理し、少数民族の平等の権利及び民族自治地域の自治権を保障すること。
一二 華僑の正当な権利及び利益を保護し、帰国華僑及び国内に居住する華僑の家族の適法な権利及び利益を保護すること。
一三 部及び委員会の発布した不適当な命令、指示及び規程を改め、又はこれを取り消すこと。
一四 地方各級国家行政機関の不適当な決定及び命令を改め、又はこれを取り消すこと。
一五 省、自治区及び直轄市の行政区画を承認し、また、自治州、県、自治県及び市の設置並びにその行政区画を承認すること。
一六 法律の定めるところにより、省、自治区、直轄市の範囲内の一部地区の緊急事態への突入を決定すること。
一七 行政機構の編成を審議決定し、法律の定めるところにより、行政職員の任免、研修、考課及び賞罰を行うこと。
一八 全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会の授けるその他の職権

 国務院の職務権限を列挙した規定である。軍事を除くあらゆる行政領域に及んでいる。

第九〇条

1 国務院の各部部長及び各委員会主任は、その部門の活動について責任を負い、かつ、部務会議又は委員会会議若しくは委務会議を招集し、及び主宰し、その部門の活動上の重要事項を討議に付して決定する。

2 各部及び各委員会は、法律並びに国務院の行政法規、決定及び命令に基づき、その部門の権限内で命令、指示及び規程を発布する。

 国務院の各部は中央省庁に相当する行政機関、委員会は合議制の専門行政機関である。それぞれの長は大臣として担当部門について責任を負う。

第九一条

1 国務院は、会計検査機関を設置して、国務院各部門及び地方各級政府の財政収支並びに国家の財政金融機構及び企業・事業組織の財務収支に対し、会計検査による監督を行う。

2 会計検査機関は、国務院総理の指導の下に、法律の定めるところにより、独立して会計検査監督権を行使し、他の行政機関、社会団体及び個人による干渉を受けない。

 会計検査機関が国務院総理の指導の下にある一方で、独立性を求められるのは矛盾的であり、会計検査の実効性にも関わるであろう。

第九二条

国務院は、全国人民代表大会に対して責任を負い、かつ、活動を報告する。また、全国人民代表大会閉会中の期間においては、全国人民代表大会常務委員会に対して責任を負い、かつ、活動を報告する。

 国務院は全人代で選出され、権限を授権されて活動する機関であるため、全人代に対し、責任と報告義務を負う。これも民主集中制の現われである。

第四節 中央軍事委員会 

第九三条

1 中央軍事委員会は、全国の武装力を指導する。

2 中央軍事委員会は、次に掲げる者によって構成される。

 主席
 副主席 若干名
 委員 若干名

3 中央軍事委員会は、主席責任制を実施する。

4 中央軍事委員会の毎期の任期は、全国人民代表大会の毎期の任期と同一とする。

 中央軍事委員会は、言わば軍事限定の国務院のようなものである。第八九条第一〇号は国務院の職権として「国防建設事業を指導し、及び管理すること」を挙げているが、これは軍政事務を意味しており、統帥は中央軍事委の任務となる。政軍を分離する思想に基づいている。
 ただし、人民解放軍は共産党の党軍としての性格を維持しているため、実際上は共産党中央軍事委員会が最高統帥機関となり、国家中央軍事委とはメンバーが重複する非効率を生じている。
 中央軍事委主席は、最高統帥機関の長として、国家主席が兼任する慣例があるが、同時に党総書記・党中央軍事委主席をも兼任し、党・国家・軍の長を最高指導者が単独で兼職するのが近年の慣例であるため、個人への権力集中が強まる危険もある。

第九四条

中央軍事委員会主席は、全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会に対して責任を負う。

 国務院における第九二条と同様、民主集中制に基づく責任規定であるが、報告義務は規定されていない。


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