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比較:影の警察国家(連載第18回)

2020-10-25 | 〆比較:影の警察国家

Ⅰ アメリカ―分権型多重警察国家

2‐2:自治体警察の準軍事化

 アメリカの自治体警察は、旧宗主国イギリスの隣保制と呼ばれる地域の自警的な治安組織に沿革を持つとされるものの、事実上の無法状態の中、入植者団による開拓により発展していったアメリカでは、最初期の保安官制度の時代から法執行者は武装することが常であった。
 近代的な自治体警察の時代に入っても、武装警察としての本質は変わらなかったが、1960年代後半以降になると、自治体警察が単純な武装を越えて、軍隊に近い装備を備える傾向を見せ始めた。その嚆矢となったのは、1967年、ロサンゼルス市警察局が導入した特殊武装攻撃班(Special Weapons Attack Team)であった。
 これは当時、武装した犯人による重大犯罪が多発していたロサンゼルス市で、通常の武装レベルでは対応できない事案に対し、重武装した警官チームが対処し、現場での犯人殺傷も辞さない攻撃的な法執行を敢行する目的から創設された新しいチームであった。
 そのため、ロス市警では、イギリス陸軍特殊部隊やフランスの軍事警察(警察軍)治安介入部隊など、海外の軍特殊部隊に視察団を送り、その戦術を学び取った。このように、ロス市警特殊武装攻撃班は、警察の枠を超えた準軍事的な特殊部隊としての機能を志向していたのである。言わば、犯行現場を戦場に見立て、戦闘の手法で法執行に当たるコンセプトである。
 このロス市警の取り組みは全米の自治体警察で注目を集め、1970年代から80年代にかけて、同様に重大犯罪の増加に悩む自治体警察が特殊班を創設していった。現在では「特殊武装戦術」(Special Weapons And Tactics:SWAT)という統一名称が与えられ、全米で1000隊を越えるSWATチームが活動している。
 こうしたSWATチームの普及と定着は、全米の自治体警察が軍隊に準じた武力を備えるに至ったことを意味している。実際、SWATチームは自動小銃やカービン銃、機関銃、狙撃銃などの兵器的重火器を装備するほか、装甲車まで配備する場合もあり、要員の兵装を含め、準軍事化されている。
 SWATチーム本来の目的は、如上のとおり、とりわけ銃武装犯人の制圧であるが、通常の制服警官隊とは比較にならない攻撃能力の高さから、麻薬事犯などへの対処にも拡大される傾向にあり、全米で年間のべ5万回を越える出動回数を記録するようになっている。
 このようなSWATチームの活動拡大は、一部大都市の警察を除けば、人員的に小規模な組織が大半を占めるアメリカの自治体警察に強大な武力を与えることにより、総体的には警察国家化を促進している。
 一方で、多くの小規模自治体警察では専従SWATチームを組めず、一般警察官の兼任要員によるチーム構成となっていることで、こうした警察の準軍事化傾向が一般警察官の行動にも影響し、後に見るように、被疑者を殺傷する強権的な法執行の多発化を招いていると考えられる。


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