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近代科学の政治経済史(連載第22回)

2022-10-31 | 〆近代科学の政治経済史

五 電気工学の誕生と社会変革

近代科学の歴史において、19世紀以降における電気現象の科学的な解明とそれを前提とする電気工学の創始は科学自身の発展においても画期的であったが、さらに政治経済を超えた社会のありよう全般を変革した。ある意味では、電気工学の創始以前と以後(現在を含む)とでは、人類は全く異なる社会に住んでいると言って過言でない。その意味で、電気工学は社会変革の促進媒体となり、レーニンに「共産主義とは、ソヴィエト権力プラス全土の電化である」と言わしめたほどである。もちろん電化社会は共産主義の専売特許ではなく、「資本主義とは、資本企業プラス全土の電化である」と定義することもできるであろう。


電気現象の科学的解明

 電荷の移動や相互作用によって生起する種々の物理現象と定義される電気現象については、電気を意味する英単語electricityがギリシャ語で琥珀を意味する単語をもとに、英国のウィリアム・ギルバートが造語したラテン語electricusに由来するように、古代ギリシャ時代から経験的に知られていた。
 ただし、それは主に静電気現象であり、本職は医師であったギルバートも、琥珀を帯電させて静電気を発生させる研究を行った。彼は実用面でも、世界初の検電器を発明したことから、電気工学の祖と目されている。
 ギルバートはまだ思弁的な自然哲学が主流の16世紀後半期に実験を重視したため、実験科学の先駆者ともみなされているが、電気現象のより科学的な解明は17世紀以降の近代科学の創始を待たねばならない。特に18世紀から19世紀にかけて、今日まで有効性を保つ数々の電気的な物理法則の発見が相次ぎ、飛躍的な進歩が見られた。
 特に19世紀はその全期間を通じて電気研究の時代と言え、前半期には主として電気現象の基礎物理学的な研究が進むが、貧困家庭出自の製本職人出身でほぼ独学の物理学者マイケル・ファラデーが発見した電磁誘導現象は後に電動機の基礎原理となる画期的な成果であった。
 ちなみに、電磁誘導現象の発見はアメリカの物理学者ジョセフ・ヘンリーがわずかに先行していたが、発表順が遅れたため、ファラデーに先人の座を譲ることになった。奇しくも、ヘンリーもまた貧困家庭出自の独学者であったが、彼は電信技術の基礎となる継電器をはじめとする数々の電気的発明を行いながら、特許を申請せず、他者の自由な利用を許す先進的な知的所有権の解放も行った。


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