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奴隷の世界歴史(連載第51回)

2018-06-03 | 〆奴隷の世界歴史

第七章 古代国家と奴隷制

古代「文明」と奴隷制⑤:古代ユダヤ
 古代ユダヤ人は、聖書で有名な出エジプトに象徴されるように、古代エジプトによって奴隷化されていた時代もあった。もっとも、出エジプトは同時代の他史料による裏づけができておらず、史実性には慎重な留保が必要であるが、まったくの虚構と断じる根拠もない。
 いずれにせよ、旧約聖書(ヘブライ語聖書)以来、語り継がれていった出エジプト‐脱奴隷化はユダヤ人の歴史的原体験とも言える。ところが、一方で、古代ユダヤ人自身がその社会に奴隷制を有していたことは、旧約聖書(ヘブライ語聖書)に記された奴隷に関する数多くの法的規定からも明白である。
 古代ユダヤ社会の奴隷は家内奴隷が中心的であり、非ユダヤ人奴隷とユダヤ人奴隷とに系統が分かれていた。このうち非ユダヤ人奴隷の多くは戦争捕虜出自であり、ユダヤ人奴隷は貧困者や債務者出自であったという点では、他の古代社会と類似するところが多いが、古代ユダヤ社会では、この両系統の奴隷が異なる法規によって規律されていたことに特徴がある。
 非ユダヤ人奴隷の多くは、ユダヤ人が征服対象とみなしていたカナーン人から徴発されることが多く、奴隷の大半を占めていたと見られる。その待遇はユダヤ人奴隷に比べても劣悪であり、ユダヤ人奴隷は一定年数の経過後、また聖書にいわゆるヨベル(大恩赦)年ごとに解放されたのに対し、非ユダヤ人奴隷は恒久的かつ遺言相続の対象とされた。
 古代ユダヤ社会では元来、他者を完全に人格支配する文字どおりの奴隷化は許されていなかったとされるが、この人格尊重論が適用されたのはユダヤ人奴隷だけであり、非ユダヤ人奴隷には適用されなかったのである。
 このような差別待遇は、ノアのカナーンに対する呪い―ノアが自身の酔った寝姿を見た息子ハムの子カナーンを呪い、カナーンの子孫がセムとヤペテの子孫の奴隷となると予言したとされる聖書説話―によって、宗教的に正当化された。
 このような民族差別的な二元奴隷制の一方で、古代ユダヤ社会の奴隷法制は外国から逃亡してきた奴隷の送還を禁じ、これら外国人逃亡奴隷を通常の外国人居住者と同等に扱うこととしている。ある種の亡命者庇護権の先駆として注目される規定である。


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