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良心的裁判役拒否(連載第19回)

2012-01-21 | 〆良心的裁判役拒否

実践編:略

第9章 超法規的に拒否する方法(続き)

(4)制裁のリスク
 
超法規的な方法による良心的拒否を実践するときに念頭に置かねばならないのは制裁を科せられるリスクです。特に、理由を示さない全面的不出頭は裁判所側から「正当な理由」を欠くと判断されやすいため、注意を要するところです。
 この場合に科せられる可能性があるのは、何度か指摘してきた過料(最大10万円)です。過料は罰金と似ていますが、刑事罰である罰金とは異なり、行政的なペナルティーです。従って、捜査機関によって身柄を拘束されるような心配はありません。
 ですが、過料は非訟手続という特殊な裁判手続を通じて科せられ、その際に裁判所は予め検察官の意見を聴くものとされ(非訟事件手続法162条1項)、過料の執行は検察官が行うことになっています(同法163条1項)。このように、過料という制度は刑事手続とは異なりながら、検察官が関与してくるという点では罰金の制度に近似しています。
 もちろん当事者は争うこともできますが、それは即時抗告という簡易な手続によってです(裁判員法113条)。当事者はここで不出頭に「正当な理由」があったことを証明し、過料処分の不当性を訴えることができます。ただ、そうすると、結果として自分自身の信条の内容を裁判所で明かさざるを得なくなるというジレンマもありますし、それなら最初からそのように申し出ればよかったとして、即時抗告を棄却されてしまうこともあり得ます。
 ところで、この即時抗告を通じて裁判員制度の違憲性を主張し、憲法訴訟に発展させるという方法もあります。これは最も断固たる訴訟の方法ではありますが、落とし穴もあります。
 それは裁判所が裁判員制度の違憲性を認める可能性は乏しく、合憲の判断が示される公算が高いということです。というのも、最高裁当局は憲法の番人としてあらゆる国家制度の憲法適合性を中立な立場で審査するという憲法上の職責に反して、政府とタッグを組んで裁判員制度のPRに努めてきた手前、今さら憲法違反を言い出せなくなっているからです。
 実際、昨年11月には、裁判員裁判を受けた被告人側が裁判員制度の違憲性を主張した上告に対して、最高裁は明白に合憲とする判決を出しました。この判決で、最高裁は裁判役を義務づけることは憲法18条が禁ずる「意に反する苦役」に当たらないとも明言しています。
 この判決は15人の判事の全員一致であったことからして、仮に裁判員候補者が憲法違反を主張して争った場合でも同一の結論となる公算は高いと見られます。
 憲法訴訟を提起して最高裁まで争った末に合憲判断を引き出してしまうと、最高裁の判例は先例として大きな重みを持ちますから、やぶへびとなる危険が高いわけです。従って、憲法訴訟を提起するかどうかについては慎重に熟慮したほうがよいと思われます(当面は提起しないほうがよいというのが私見です)。
 なお、前回見た良心的守秘義務違反に対して想定される制裁は、「6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金」という投獄を含むまぎれもない刑罰です。従って、当事者は捜査機関によって身柄を拘束され、刑事訴追される危険にも直面します。
 万一捜査が始まってしまったら、少なくとも身柄拘束は回避するため、捜査機関の任意出頭要請は受け入れ、捜査に協力したほうがよいでしょう。さらに、刑事訴追を避けるためには、冤罪を明らかにするなどの正当な目的でのやむにやまれぬ行動であったことを説明し、不起訴処分とするよう検察官に要請することです。それでも起訴を強行されてしまった場合は、実質的な違法性がないことを主張して起訴事実を争い、無罪判決の獲得を目指します。
 以上の検討からも明らかなように、裁判員制度とは、各人の良心の領域に対して、民事・刑事の両面から制裁=抑圧を加える衝動を隠さない、まさにファッショ的な制度なのです。
 それだけに、限られた有効な法的対抗措置を検討するうえでは弁護士の助言と支援が欠かせないでしょう。その際は、裁判員制度全般に批判的・否定的な弁護士を探すべきだと思われます。
 現在、日弁連は理論編でも指摘したような経緯から総体として裁判員制度を支持・推進する翼賛的な立場をとっていますが、個々的には制度を厳しく批判し、反対運動に身を投じている弁護士も少なくありませんから、そうした弁護士のほうが一般的な弁護士よりも的確な助言と熱心な支援とを得られやすいと考えられるのです。


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