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最新国際経済二論

2015-10-11 | 時評

「人民自動車」の環境不祥事

直訳すればVolkswagen‐「人民自動車」というまるで社会主義国産車のような名称を持つドイツ系大資本―沿革的にはナチスの国策企業―による大規模な環境規制逃れの不祥事は、グローバル資本主義における「環境対策」の正体を垣間見せている。

グローバル市場競争に打ち勝つ上で、環境対策のコストは資本にとって桎梏である。資本は常に何とか環境規制を免れようと腐心する点では、節税対策と似ている。今回、Volkswagen社は組織ぐるみを否定しているが、全世界規模でのリコールを結果するのは、組織ぐるみと変わらない。

一方で、問題発覚の発端となったアメリカにおける環境取締りの真意も疑わしい。アメリカは地球温暖化防止条約(京都議定書)から脱退し、政権が変わっても復帰しない点では、反環境規制を一貫した国家意思としている。

そのアメリカがドイツ系資本に仕掛ける環境攻勢はもう一つの法的武器である独占禁止規制と同じで、ライバル国資本への法的牽制手段という戦略的な意味があると考えられる。

とはいえ、Volkswagenの不正は許されることではない。この一件は、自動車のような環境負荷的生産物の生産活動は民衆的な環境計画経済下に置くべきであることを裏書きする事案である。その意味で、volkswagenは固有名詞ならぬ、まさに「民衆自動車」である。

グローバル自由貿易体制へ前進

五年越しの協議でようやく妥結したTPPは、Free TradeならぬEconomic Partnership という互助的な響きの用語が使われていながら、推進者が豪語するとおり、世界の総生産の半分近くをカバーする超域的自由貿易体制である。

従来、各国は資本主義の究極の理想郷である自由貿易を前に立ちすくんでいた。その破壊的効果を知っているからである。国内業界の圧力を受けて、保護貿易に片足を突っ込みながらの及び腰の交渉姿勢が妥結を遅らせてきたのだ。

しかし、ここへ来てようやく決心がついたようである。おそらく各国とも自由貿易で最も不利益をこうむる農業者の減少と政治的パワーの喪失という状況変化を見て、自由貿易主義ヘの移行好機という判断に達したのだろう。

とはいえ、関税撤廃時期を先延ばしにする品目もあり、及び腰は残っている。また「自由貿易」という直截的な用語も避けている。だが、TPPのような超域的自由貿易体制の確立で、資本主義は新たな段階に入ると言える。

将来的に、地域を限定しないグローバル自由貿易条約が締結されるところまで進むかどうかはわからないが、そこまで行けば、自由貿易は革命促進要因となる。つまりfree tradeは、その推進者が望まない反転を来たして、economic cooperationとなるのである。


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