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比較:影の警察国家(連載第66回)

2022-08-21 | 〆比較:影の警察国家

Ⅴ 日本―折衷的集権型警察国家

1‐4:海上保安庁の国境警備隊化

 陸(及び陸の延長としての空)の警察である警察庁に対して、言わば海の警察庁として海上保安庁がある。ただし、海上保安庁は国土交通省の外局として設置されており、警察庁とは政府部内の系統を異にしている。
 元来、戦前は海上保安活動も海軍が実施していたところ、戦後の日本軍解体に伴い、1948年に旧運輸省外局として設置されたのが海上保安庁であり、歴史上は1954年設置の警察庁より数年古い。
 そうした創設の経緯から、海上保安庁は非軍事的な文民警察組織として機能するが、陸の警察と異なり、都道府県は海上保安活動に関与しないことから、海上保安庁を頂点にその地方支分部局として管区海上保安本部が各地に配置される純粋の「国家警察」として機能する点が、陸の警察とは大きく異なる。
 また、自衛隊が防衛出動または治安出動する事態に際しては、内閣総理大臣命令に基づき、防衛大臣の指揮下に置かれる場合がある点も、陸の警察との相違点である。その限りでは、海上保安庁は部分的に軍事的な性格も帯びている。
 そもそも、敗戦後に現行領域まで縮小された日本領土は外国との間に陸上の国境線を持たず、外国との境界線はすべて海上にあることから、海上保安庁は単なる海の警察を超えた事実上の国境警備隊としての任務を帯びているとも言える。
 そうした国境警備隊的な性格は、20世紀末以降、強化されてきている。重要な転機となったのが、1999年の能登半島沖領海に北朝鮮船籍と見られる不審船が侵入した事件である。この事件では、海上保安庁の対処能力の限界から、海上自衛隊に初の海上警備行動が発令される事態となった。
 この事件の教訓から、海上保安庁巡視船の射撃能力の強化、さらには海上保安官による致死傷結果を招く危害射撃の免責条件の緩和といった対策が講じられたことにより、海上保安庁の国境警備隊化が進んだ。
 この傾向は、続いて2001年にも再発した同じく北朝鮮船籍の工作船が九州南西海域に侵入した事件に際し、強化された海上保安庁巡視船との銃撃戦の末、対象工作船が自爆し、乗組員が死亡するという事態で現実のものとなった。
 その後、尖閣諸島周辺海域をめぐっても、近年、中国側のカウンターパートである中国海警局の船舶による示威行動が多発するに至り、これへの対処も海上保安庁の重要任務となる中、海上保安庁の国境警備隊化は一層進行していると考えられる。
 こうした海上保安庁の強化策は陸の警察にも一定の影響を及ぼしていると見え、2001年には警察庁も警察官の武器使用基準の緩和(第一次的な拳銃使用・無警告射撃の容認等)に踏み切っている。


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