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貨幣的ディストピア

2014-02-27 | 時評

現在、取り付け騒ぎが起きているビットコインは、国家による経済規制を嫌う資本主義者にとってはユートピアなのかもしれない。たしかにビットコインの概念には、ユートピア思想に共通する無国家のモチーフが認められる。

しかし、ビットコインでは貨幣廃止は構想されず、それどころか国家なき通貨制度が夢想されている。一方で売買・換金は国家発行の通貨によるなど、中途半端に国家の存在を前提ともしている。そのあたりに無理があるようだ。

近代貨幣は国家と相即不離である。貨幣は発行権者たる国家の信用と管理の下で、初めて安全に通用する。発行国家のない貨幣は、商品券等と変わらない。

しかし、ビットコインは発行企業体のある商品券ですらないから、ビットコインとは誰も管理しない電子的な数的価値を交換機能付きで投資対象としたうえ、銀行ならぬ取引所に口座機能まで与えてしまう大胆極まりない金融システムである。

国境を越える世界通貨は国家ですら管理困難な怪物と化しているのに、そもそも責任ある管理者がなければ、通貨という怪物は野放図な怪獣として暴れ回るだろう。その意味で、ビットコインは、ユートピアというより、ディストピアに分類したほうがよいのかもしれない。

キプロス危機とビットコイン危機━。影響規模は比較にならないが、共に取り付け騒ぎを引き起こしたこの二つの通貨危機は、貨幣という人工物の恐怖を体験できる警鐘的出来事と認識されるべきではないか。

[追記]
問題の渦中にあり、28日に事実上経営破綻した取引仲介会社の公式発表によると、ビットコインはシステムの脆弱性を突いた外部からの不正アクセスによるコイン盗難によって消失した可能性が高いという。それが真相だとすると、今回の問題は外部的要因によるものだったことになるが、ネット上の仮想通貨にとってシステムの安全性は単なる外部条件ではなく、不可欠の存立基盤であるから、これをもってビットコインそのものは全く安全であるとは言い得ないであろう。それどころか、通貨そのものが「消失」してしまうという通常の金融機関ではまず考えられない極大リスクがあり得ることを示している。

[追記2]
2015年8月、経営破綻した取引仲介会社の元CEO(フランス国籍)が日本警察に逮捕された。直接の逮捕容疑は、社内システムを不正に操作し、自己名義の口座残高を大幅に水増しした私電磁的記録不正作出・同供用容疑ということだが、顧客からの巨額の預かり金も消失しており、業務上横領容疑でも調べを進めるという。被疑者は否認しており、真相解明はこれからだが、仮に被疑事実が真相だとすると、この事件はビットコイン取引所経営者による個人的な不正だったことになる。私設の通貨取引所ではこうした人為的な不正も十分に起こり得る。私的通貨制度に内在するもう一つのリスクである。

[追記3]
業務上横領や私電磁的記録不正作出・同供用罪の罪で起訴された元CEO(マルク・カルプレス被告人)について、2019年3月、東京地方裁判所は、横領については無罪、私電磁的記録不正作出・同供用罪については懲役2年6月、執行猶予4年の判決を言い渡した。横領の無罪に関して、検察側は控訴せず、その部分の判決は確定した。被告人側の控訴及び上告は2021月1月までに棄却され、有罪判決が確定した。


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