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共産論(連載第5回)

2019-01-15 | 〆共産論[増訂版]

第1章 資本主義の限界

(3)資本主義は崩壊しない:Capitalism might not collapse.

◇ケインズの箴言
 2008年の大不況は、それまでグローバル資本主義を散々もてはやしていた論者の間にすら「資本主義の崩壊」といった悲観論を巻き起こした。しかし、果たして「資本主義の崩壊」などというあたかも最後の審判のような事態が到来するのだろうか。
 この資本主義崩壊論は、『資本論』第一巻で「資本主義的私有の最期を告げる鐘が鳴る」という黙示録的預言を残したマルクスを彷彿とさせるものがあるが、このようなマルクスの神がかった物言いは「科学」を強調したマルクス理論の威信を落としかねないものであった。
 それよりも、「資本主義は、賢明に管理される限り、今まで見られたどの代替的経済組織よりも効率的なものにすることができる」というケインズの箴言のほうにより反証的説得力を認めるに足りる証拠がある。
 実際、大不況に際しても、当初は大恐慌に至るとの予測もあり、この世の終わりであるかのような騒然としたムードに包まれたが、主要国の政府・中央銀行による通貨供給などの緊急措置が迅速に講じられ、資本主義総本山・米国がタブーとも言える鉄則を破ってまで民間資本に対する公的資金の投入や事実上の国有化といった手法を駆使して大不況の発端となった金融危機張本人の金融界や米国資本の象徴たる自動車業界の救済に走った結果、ひとまず最悪的事態は避けられた形となった。
 現代の資本主義はもはや純粋の自由放任経済ではなく、平素から実行されている中央銀行による金融調節や経済危機の際における政府による直接的な資本救済措置をも備えた「調整経済」とも呼ぶべき体制を採っており、この体制は規制緩和と民営化が至上命令となったグローバル資本主義の下でもなお保たれ、大規模な経済危機に対してもかなり有効に働くことが改めて証明されたと言える。

◇打たれ強い資本主義
 加えて、資本主義経済は1930年代の世界大恐慌以来、国際的な規模での経済危機にもたびたび見舞われてきながら、それらをそのつど克服してきた経験も豊富である。言わば危機管理の虎の巻を持っているようなものである。こうしたことから、現代資本主義経済は危機に強く、打たれ強い体質のシステムとなってきていることは否定できない。
 もちろん歴史上、永遠に続いた経済システムというものは一つもない。奴隷制経済、封建制経済、社会主義経済等々、すべて終焉した。資本主義経済だけが例外であるという証拠があるわけでは決してない。
 大不況に際して米国が民間資本国有化のような手法にまで打って出ざるを得ないところまで追い込まれたことはある意味で末期的であり、これを主導した当時のオバマ大統領は、ちょうどソ連末期、ソ連では逆にタブーであった市場経済を部分的に導入しようとしたゴルバチョフ書記長(後に大統領)に相当するような人物だったのかもしれない。
 特に米国経済の象徴であった金融資本と自動車資本の揺らぎは、ドルの価値下落と合わせて、米国が体現してきた偉大なる資本主義の終わりの始まりであり、歴史的にはあたかもソ連邦解体に匹敵する意味―合衆国が解体して50の州が独立してしまうかどうかはともかく―を持つことになるかもしれない。
 仮に、真に「資本主義の崩壊」と呼び得るような事態が出来するとしたら、その引き金を引くのは、やはり米国系金融資本である可能性は高い。マルクスは『資本論』第二巻で、生産力の物質的発展と世界市場の形成を促進する信用制度が同時に恐慌を促進し、古い生産様式の解体の諸要素を促進することを指摘していたが、この部分は正鵠を得た診断であったと言えよう。
 とはいえ、資本主義経済には歴史上見られたどの経済システムよりも強力な自己保存装置が備わっており、人類がこのシステムに固執し続けようとする限り、ほとんど半永久的に存続していくのではないかとさえ思えてくる。


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