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香港の皮肉な逆説

2021-04-01 | 時評

3月30日、中国当局が香港における選挙制度を改変し、立法会(議会)の直接選挙枠を定数の約2割に縮小すること、行政長官を選ぶ選挙委員会がすべての立法会議員候補を指名すること、治安機関も加わって候補者の資格を審査することなどを柱とする新制度を創設した。

これによって、中央政府が忌避する人物の立候補は制度的に排除されることとなり、中央政府の宿願どおり、香港を中央政府の完全な統制下に置くことが可能となる。これは、1997年の返還以来、香港にとって画期となる新段階である。

振り返れば、香港では長い英国植民統治の末期に、英国モデルの直接選挙による議会制度が遅ればせながら限定的に導入され、返還直前に、言わば置き土産のような形で直接選挙枠を拡大して中国政府に引き渡された。

中国政府は返還交渉に際して、50年間の現状維持(いわゆる一国二制度)を公約したとはいえ、わざとらしい置き土産の英国モデルには初めから反発を示していた。

その後の対処としては、香港でも共産党を組織し、立法会選挙に参加する方法と、中央政府の代理政党を通じて立法会を間接的に統制する方法の二つがあり得たところ、中国政府は後者を選択した。前者を選択して、もし共産党が惨敗することがあれば、体面を失うからであろう。

しばらくは、このような間接統治が機能していたが、近年、主として返還後に生まれた青年層を主体とする民主化運動の高揚に直面し、少なくとも政治制度面では公約の実質的な修正に踏み切ったものと見られる。

おそらく、中国政府としては「現状維持」公約の期限である返還50周年(2047年)を迎える前に、香港をシンガポールのような政治的に厳しく統制された資本主義都市として再編したい考えであろう。そうしておけば、50周年を待って現状を変更し、正式に共産党統治下に編入しやすくなるからである。

かくして、不当な植民地支配下で種をまかれた香港の民主主義が、正当な返還後、本土並みの全体主義へ移行しようとしているのである。ここには、歴史の皮肉な逆説がある。英国モデルの議会制を求める若い民主運動家にとっては、かれらが知らない英国植民地時代のほうがよかったということになりかねない。

ただ、共産党支配下の中国へ返還された以上、いつかこうなることは必然だったと冷めた見方をすることもできる。中共が、香港に「民主主義特区」を許すとは考えられない。そうした特別扱いは、本土にも民主化運動を伝染させることになりかねないからである。

一方、民主化運動にとっては冬の時代となるが、それはチャンスでもある。英国モデルが民主主義の到達点なのではない。立法会から締め出されることで、民衆会議のような新しい民主的対抗権力の創設への道も拓かれるからである。香港青年層の真剣さと柔軟さに期待したい。


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