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続・持続可能的計画経済論(連載第11回)

2020-01-30 | 〆続・持続可能的計画経済論

第1部 持続可能的計画経済の諸原理

第2章 計画化の基準原理

(4)物財バランス①:需給調整
 環境的な持続可能性に重点を置く持続可能的計画経済においては、何よりも環境バランスが計画化の優先的基準原理となるのであるが、経済計画は生産と分配、消費の全経済過程を計画的に調整することを意味するから、物財バランスという原理が不可欠である。
 物財バランスとは、経済全体における需要と供給の総体的な事前のバランス調整を意味する。そして、このような事前の需給調整こそ、需給関係を市場におけるランダムな取引の結果に任せるために、需給関係の気まぐれな転変から恐慌局面を含む景気の無規律な循環を結果する市場経済との最大の相違点として、計画経済論において強調されてきたものである。
 その点、持続可能的計画経済においても、需給調整が重要な原理となることは変わらないが、従来の計画経済論とは異なり、持続可能的計画経済論では、まず環境バランスの基準が適用された後に、その枠内で需給調整が適用されるという二段構えになる点が異なっている。
 従ってまた、需給調整が適用されるのは、環境負荷的な産業分野―おおむねエネルギー産業を含む工業的・鉱業的基幹産業分野と重なる―に限局され、旧ソ連型の計画経済において追求されたように、あらゆる産業分野にまで及ぶ拡大的なものとはならない。言い換えれば、非環境負荷的産業分野は需給調整の適用対象外であり、自由生産に委ねられることになる。
 需給調整が適用される場合、予め見込まれる需要予測に応じた生産計画が立案されるのが通例であるが、持続可能的計画計画経済においては、そのプロセスが逆転し、環境バランス基準に基づいて許容される生産量及び生産方法に応じて需要が規整されることになる。
 つまり、「これだけの分量が欲しい」という生(なま)の需要に応じて生産量が決められるのではなく、環境バランス基準によって許容された生産量及び生産方法に応じて需要が決定されるということになる。その限りで、需要は人間の消費欲求とは直結しなくなり、言わば環境的に規範化されることになる。
 その点では、経済開発に重点を置いた旧ソ連型の計画経済において、達成されるべき生産目標(ノルマ)が規範的に決定され、それに応じた需要が刺激されていたこととも異なり、環境的に許容される生産容量が規範的に決定され、それに応じた需要が導出されることになる。
 といっても、需要が機械的に定められるのではない。人間が文化的に充足された生活を営むことのできる限界線は担保されなければ、窮乏を強制することになりかねない。従って、生産容量も、そうした文化的生存限界線を下回ることのないように調整されなければならない。


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