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中国憲法評解(連載第6回)

2015-02-20 | 〆中国憲法評解

第二七条

1 すべての国家機関は、精鋭・簡素化の原則を実行し、職務責任制を実施し、職員の研修及び考課制度を実施して、絶えず執務の質及び能率を高め、官僚主義に反対する。

2 すべての国家機関及び国家公務員は、人民の支持に依拠して、常に人民との密接なつながりを保ち、人民の意見と提案に耳を傾け、人民の監督を受け入れ、人民のために奉仕することに努めなければならない。

 本条から第一章末尾の第三二条までは、主に治安・軍事・行政の基本原則を定めているが、本条は全国家機関・公務員に共通する活動上・執務上の規範を定めている。その中心は反官僚主義と人民への奉仕であるが、現状は本条の目標から遠い状況にあるようである。

第二八条

国家は、社会秩序を維持保護し、国家に対する反逆及び国の安全に危害を及ぼすその他の犯罪活動を鎮圧し、社会治安に危害を及ぼし、社会主義経済を破壊し、及びその他の罪を犯す活動を制裁し、犯罪分子を懲罰し、改造する。

 国家の体制護持の責務を定めている。反体制活動に対する厳格な取締りの直接的な根拠となる規定である。中国憲法が国家権力の統制よりも、社会の統制に関心を向けていることをよく物語る規定である。

第二九条

1 中華人民共和国の武装力は、人民に属する。その任務は、国防を強固にし、侵略に抵抗し、祖国を防衛し、人民の平和な労働を守り、国家建設の事業に参加し、人民のために奉仕することに努めることである。

2 国家は、武装力の革命化、現代化並びに正規化による建設を強化し、国防力を増強する

 軍に関する原則を定める本条は第一項で武装力を人民に属すると宣言するが、実際上、中国軍(人民解放軍)は今なお共産党の武装力(党軍)という性格が強い。ただし、第二項では武装力の現代化並びに正規化も謳っており、法律上国家の常備軍と規定される人民解放軍は実質的な国軍としての装備と機能を備えるに至っている。
 一方、第一項で軍は国家建設の事業にも参加するとされ、国防にとどまらない広範な活動領域を与えられている。これは中国の特徴である軍独自の経済活動の根拠ともなる規定であり、軍の経済利権問題につながるところである。

第三〇条

1 中華人民共和国の行政区画の区分は、次の通りである。

一 全国を省、自治区及び直轄市に分ける。
二 省及び自治区を自治州、県、自治県及び市に分ける。
三 県及び自治県を郷、民族郷及び鎮に分ける。

2 直轄市及び比較的大きな市を区及び県に分ける。自治州を県、自治県及び市に分ける。

3 自治区、自治州及び自治県は、いずれも民族自治地域である。

 本条は、地方行政区分に関する規定である。憲法上は省‐県‐郷の三層構造であるが、実際上は省と県の中間に地区が存在する四層で運営される。地方自治制ではなく、中央集権制の地方区分である。自治区/州/県はいずれも民族自治地域とされるが、自治権の範囲は限定されている。

第三一条

国家は、必要のある場合は、特別行政区を設置することができる。特別行政区において実施する制度は、具体的状況に照らして、全国人民代表大会が法律でこれを定める。

 特別行政区は、いわゆる一国二制度の下で本国とは別の法体系による高度の自治権が付与される区域であり、現時点では香港とマカオがそれに該当する。

第三二条

1 中華人民共和国は、中国の領域内にある外国人の適法な権利及び利益を保護する。中国の領域内にある外国人は、中華人民共和国の法律を遵守しなければならない。

2 中華人民共和国は、政治的原因で避難を求める外国人に対し、庇護を受ける権利を与えることができる。

 本条は、外国人の扱いに関する基本原則を定めている。第一項は国際法上当然の確認規定であるが、第二項は亡命権を正面から認めた規定である。同様の規定を持った旧ソ連憲法からの影響と考えられる。


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