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中国憲法評解(連載第17回)

2015-04-30 | 〆中国憲法評解

第三章 国家機構

第七節 人民法院及び人民検察院 

第一二三条

人民法院は、国家の裁判機関である。

第一二四条

1 中華人民共和国に、最高人民法院及び地方各級人民法院並びに軍事法院その他の専門人民法院を置く。

2 最高人民法院院長の毎期の任期は、全国人民代表大会の毎期の任期と同一とし、二期を超えて連続して就任することはできない。

3 人民法院の組織は、法律でこれを定める。

 中国の裁判制度も最上級審である最高人民法院を頂点としたヒエラルキーを採る点では諸国の制度と大差ないが、最高裁長官に相当する最高人民法院院長は全人代で選出され、任期も全人代の任期と符合するのは、建前上は全人代が司法を含む全国家権力の源泉となる人民代表機関とされるためである。

第一二五条

人民法院における事件の審理は、法律の定める特別の場合を除いて、全て公開で行う。被告人は、弁護を受ける権利を有する。

 本条は裁判公開原則であるが、非公開の例外がすべて立法政策に委ねられているのは穏当でない。

第一二六条

人民法院は、法律の定めるところにより、独立して裁判権を行使し、行政機関、社会団体及び個人による干渉を受けない。

 本条は司法の独立に関する規定であるが、個々の裁判官の独立性は保障されておらず、裁判機関の独立性にとどまる。しかもそれは第一二八条で民主集中制により制約されるほか、共産党支配体制によっても事実上制約され、党からの独立性は保障されない。これは旧ソ連をはじめ、一党支配制に共通する司法制度の特徴―欠陥―である。

第一二七条

1 最高人民法院は、最高の裁判機関である。

2 最高人民法院は、地方各級人民法院及び専門人民法院の裁判活動を監督し、また、上級人民法院は、下級人民法院の裁判活動を監督する。

 最上級審の最高人民法院は下位の法院を監督し、下位の法院内部では上級が下級を監督するというように、集権的な運営が想定されている。「監督」とは第一三二条に定める検察院内部の「指導」より緩やかなチェックと思われるが、上級裁判機関ひいては党の裁判干渉の余地を残している。

第一二八条

最高人民法院は、全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会に対して責任を負う。地方各級人民法院は、それを組織した国家権力機関に対して責任を負う。

 裁判機関も民主集中原則に基づくため、自己を選出した代表機関に対して責任を負う。この点で、司法の独立性は制約されるが、見方を変えれば、司法制度の民主的基盤を一定担保しているとも言える。

第一二九条

人民検察院は、国家の法律監督機関である。

第一三〇条

1 中華人民共和国に、最高人民検察院及び地方各級人民検察院並びに軍事検察院その他の専門人民検察院を置く。

2 最高人民検察院検察長の毎期の任期は、全国人民代表大会の毎期の任期と同一とし、二期を超えて連続して就任することはできない。

3 人民検察院の組織は、法律でこれを定める。

 検察制度の具体的な規定を憲法上に置くのは、旧ソ連憲法の影響と思われる。検察制度が単なる訴追機関にとどまらず、国家の法律監督機関という性格を与えられているのも、旧ソ連憲法と同様である。その具体的な制度構成は、裁判機関に準じる。

第一三一条

人民検察院は、法律の定めるところにより、独立して検察権を行使し、行政機関、社会団体及び個人による干渉を受けない。

 検察機関も裁判機関に準じた独立性が保障されるが、これにも裁判機関と同様の制約がかかる。

第一三二条

1 最高人民検察院は、最高の検察機関である。

2 最高人民検察院は、地方各級人民検察院及び専門人民検察院の活動を指導し、また、上級人民検察院は、下級人民検察院の活動を指導する。

第一三三条

最高人民検察院は、全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会に対して責任を負う。地方各級人民検察院は、それを組織した国家権力機関及び上級人民検察院に対して責任を負う。

第一三四条

1 いずれの民族公民も、全て自民族の言語・文字を用いて訴訟を行う権利を有する。人民法院及び人民検察院は、現地で通用する言語・文字に通じない訴訟関係人に対し、翻訳しなければならない。

2 少数民族が集居し、又はいくつかの民族が共同居住する地区においては、現地で通用する言語を用いて審理を行い、また、起訴状、判決書、布告その他の文書は、実際の必要に応じて、現地で通用する一種又は数種の文字を使用する。

 本条は、多民族国家における多言語主義を司法手続きにも及ぼす規定である。これも、旧ソ連憲法に類似の規定が存在した。

第一三五条

人民法院、人民検察院及び公安機関は、刑事事件を処理するに当たって、責任を分担し、相互に協力し、互いに制約しあって、法律の的確で効果的な執行を保障しなければならない。

 裁判‐検察‐警察の三大法執行機関の責任分担、相互協力、相互牽制に関する規定である。法治国家を支える規定と言えるが、公正さよりも法確証に比重を置く形式的法治国家の理念に基づいている。


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