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「承認せず関与」政策:アフガン人道危機

2021-09-15 | 時評

実質上、次の日本首相を決める与党の総裁選挙を目前に控えているが、すでに始まっている「論戦」からはアフガニスタンのアの字も聞こえてこない。否、正確にはかすかに聞こえているが、現地邦人等救出のための自衛隊法改正云々など視野の狭い議論ばかりである。

目下、アフガニスタンで起きているのは、ターリバーンが政権掌握した中、全土で国民の三人に一人が食糧難にあり、厳冬を前に大規模な飢餓が発生する恐れがあると警告されている事態である。これは人道危機である。

誰が次期首相になるにせよ、来月にも発足する新内閣にとっても、この新たな人道危機にどう対処するのかは最初の重要な外交課題の一つとなるはずで、総裁選挙でも重要なテーマに据えるべきものである。

元はと言えば、傀儡政権を見捨てていきなり全軍を引き揚げたアメリカがもたらした惨事だが、用済みとなった傀儡政権や代理政権を見捨てるのは、アメリカの歴史的な常套であり、過去にはまさにアフガニスタンで、旧ソ連と傀儡社会主義政権に抵抗したイスラーム武装勢力を利用しながら、ソ連軍が撤退するとあっさり見捨てたのもアメリカである。

そうした見捨てられた勢力の中から、アメリカに矛先を向き変え、今年で20周年の9.11事件を引き起こしたアル・カーイダのようなテロ戦争組織やターリバーンのような過激復古勢力も培養されてきた。とはいえ、目下、ワクチン義務化政策に夢中のバイデン政権に全責任を押し付けても始まらない。

諸国はターリバーンを警戒し、人道支援も停止しているというが、飢餓で大量死するのを傍観するのは、不作為による殺戮と同じであり、緩慢なジェノサイドである。

一方で人道支援を再開するためにターリバーン政権を承認することは、すでに各地で人権侵害事例が報告され、1996年‐2001年の第一次ターリバーン政権当時と径庭のない抑圧的な体制を認めることになり、ジレンマではある。

臨時政府の樹立を発表しながら、実質的な元首となるはずの宗教指導者も政府首班も姿を現さない異常な状況は、飢えた国民を人質に取って国際承認を得るための無言の戦術なのかどうか不明であるが、彼らなりに何らかの国際社会のレスポンスを求めているのかもしれない。

ターリバーンと価値観を共有できる諸国はごくわずかであるが、このような人道危機に際しては「価値観外交」は失当である。価値観を共有できずとも、「承認しないが関与する」という現実的な対応が求められるだろう。

ちなみに、ターリバーンが女性閣僚を排除したということが特別に問題視されているが、他国を非難できるほど数多くの女性閣僚を擁する諸国は少ない。日本の与党総裁選の女性候補者も、女性閣僚の比率基準は設けないと明言なさった。女性軽視の価値観は共有できるのではないだろうか。


[付記]
国際連合は13日、12億ドル(約1300億円)超の人道支援を決めたが、アフガニスタン国内は極度の通貨不足に陥っているため、米国が凍結したアフガニスタン中央銀行の在外資産約100億ドル(約1兆円)の凍結解除が必要とされる。解除ができないならば、代替として相応の追加支援が必要となる。


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