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続・持続可能的計画経済論(連載第8回)

2019-11-22 | 〆続・持続可能的計画経済論

第1部 持続可能的計画経済の諸原理

第2章 計画化の基準原理

(1)総説  
 本章では、持続可能的計画経済に基づく具体的な計画化を実施するに当たっての基準となる諸原理について、見ていくことにする。この計画化の基準原理とは、個々の経済計画を策定するうえで適用される経済技術の基礎となるべきものである。
 その点、前章(4)で取り上げた三つの計画経済モデルに再度立ち返ってみると、最初の均衡計画経済モデルにあっては、需要と供給の均衡ということが計画化における最大の基準原理となる。ある意味では、計画経済論の出発点である。
 資本主義市場経済では、需要と供給の関係は市場におけるランダムで気まぐれな当事者間の取引に委ねられるから、恒常的に不安定である一方、意図的な価格操作のような策略によって市場が操縦される危険も常につきまとう。そのため、経済運営は本質的に不安定で、需給バランスの崩れから恐慌や不況のような事象は避けられない。
 そうした欠陥にかんがみ、計画経済では、需給関係を適切に調節するべく、事前の計画化がなされる。ここで基準原理となるのは、「物財バランス」という概念である。物財バランスとは、各計画年次において、生産目標として設定される生産量(価値量)とそれに必要な投入量とを均衡させることをいい、まさに計画経済における需給調節の中核となる概念である。
 このようなバランス調整原理は、実際のところ、資本主義経済における個別企業の生産計画においても適用されているものであるが、計画経済にあっては、経済計画が施行される領域全体において適用する点に違いがあると言える。
 ちなみに、第二の開発計画経済モデルにおいては、物財バランス原理を基層原理としながら、毎次経済計画を通じた経済発展の度合を計る「発展テンポ」が付加的な基準原理として設定されていた。これは、低開発状態から出発し、資本主義に追いつき追い越すことを至上命題とした旧ソ連型の計画経済モデルに特有の基準原理であるが、いつしか物財バランスよりも、拡大再生産が優先原理と化していった。
 これに対して、ここでの主題である持続可能性計画経済が前提とする第三の環境計画経済モデルにあっては、「環境バランス」が付加される。これは、地球環境の負荷許容量に応じて、物財バランスを調節する原理であり、まさに生態学的な持続可能性を保証する中核原理となるものである。
 その意味では、この原理は単なる「付加」原理にとどまらず、上述の物財バランスに優先されるべき根本原理と言っても過言ではない。反面、環境バランスを押しやりかねない発展テンポのような原理は、環境計画経済モデルにあっては、もはや適用されない。
 ところで、物財バランスにせよ、環境バランスにせよ、それらの原理の厳密な適用に当たっては、数理モデルの構築が不可欠である。中でも、線形計画法の応用である。その点、今日におけるスーパーコンピュータ、さらに人工知能の発達は、そうした計画化数理モデルの構築にとっては追い風となる状況と言えるだろう。
 一方、需給調節に関わる物財バランスの適用に当たっては、人間不在の机上計画に陥る可能性もある数理モデルのみならず、具体的な生身の人間の経済的な意思決定のあり方を合理的に予測するための行動科学原理の導入も必定である。

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