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持続可能的計画経済論(連載第2回)

2018-04-16 | 〆持続可能的計画経済論

第1章 計画経済とは何か

(1)計画経済と市場経済
 計画経済について考える場合、計画経済とは何かということを初めに確定しておく必要があるが、実のところ、それが容易でない。
 計画経済というと「社会主義」が連想されるが、計画経済と社会主義は決して同義ではない。実際、今日の中国は「社会主義市場経済」を標榜し、社会主義と市場経済を結合させようとしているし、現代の社会主義体制は程度の差はあれ、みな市場経済への適応を指向している。
 また計画経済と統制経済とが同一視されることもあるが、これも適切な把握とは言えない。統制経済はしばしば戦時には政府が戦争遂行に必要な物資を集中的に調達する目的から体制の標榜を超えて導入され、資本主義体制の枠内でも戦時統制経済を取ることが可能なことは、例えば世界大戦中の戦時統制経済を見てもわかる。
 ただ、計画経済では通常は政府が策定する経済計画に基づき生産と流通が規制されるため、市場経済に比べれば「統制」の要素が強くなることは否めないが、それでも統制経済と計画経済は概念上区別されなければならない。
 一方、市場経済は計画経済の反対語とみなされているが、両者は通常考えられているほどに対立する概念ではない。市場経済を標榜していても、政府の経済介入の権限が広汎に及ぶ場合は計画性を帯びてくるし、また市場原理によって修正された計画経済もあり得るからである。
 前者―計画的市場経済―の実例は先の社会主義市場経済である。ここでは政府の経済計画は維持されるものの、本来の計画経済のような規範性がなく、それは経済活動の総ガイドライン的な意義にとどまる。またある時期までの戦後日本経済は、政府の経済企画と行政指導を通じた「指導された資本主義」という性格が強かったが、これも社会主義市場経済よりはゆるやかながら計画的市場経済の亜種とも言えた。
 後者の市場的計画経済の実例は多くはないが、旧ユーゴスラビアの「自主管理社会主義」はその例に数えられる。ここでは労働者自身が経営に携わるとされる自主管理企業間に一定の競争関係が見られた。また1960年以降の経済改革で利潤原理が一部導入された旧ソ連経済も、ユーゴよりは限定的ながら市場的計画経済の亜種であった。
 かくして計画経済と市場経済の概念的区別も決して厳格ではないのだが、一点、計画経済に必ずなくてはならない要件は、公式かつ規範性を持った経済計画に基づいて経済運営がなされるということである。先の計画的市場経済が市場経済であって計画経済でないのは、そこでの経済計画ないし企画は規範性を持たないからである。
 なお、そうした規範性を持った経済計画が経済活動の全般に及ぶか―包括的計画経済―、それとも基幹産業分野に限られるか―重点的計画経済―という点は政策選択の問題となる。

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持続可能的計画経済論(連載第1回)

2018-04-16 | 〆持続可能的計画経済論

まえがき

 本連載は2013‐14年に公表した旧稿『新計画経済論序説』を改題のうえ、実質的に改訂したものである。旧稿は筆者の『共産論』の中核を成す共産主義的計画経済の概要をより敷衍して論じたものであったが、旧稿ではなお「序説」の段階にとどまっていた。しかし、その後の考察を経て、いちおうの完成の域に達したことから、ここに改題して改めて公表するものである。構成や内容に根本的な変化はないが、一部用語を改め、かつ説明を補正した。なお、表題の「持続可能的」(sustainable)とは、環境的持続可能性を指向する計画経済という本連載の主意からの命名である。


序言

 計画経済は、資本主義的市場経済に対するオルタナティブとして、20世紀に社会主義を標榜したソヴィエト連邦によって初めて実践され、その後、ソ連の衛星諸国やその影響下諸国の間で急速に広まったが、同世紀末のソ連邦解体後、今日までにほぼ姿を消した。その意味では、計画経済は20世紀史の中の失敗に終わった一社会実験であるとも言える。
 しかし、20世紀的計画経済とはあくまでもソ連邦という一体制が実践した一つの計画経済―ソ連式計画経済―にすぎない。ソ連式計画経済が失敗に終わった原因については―本当に「計画経済」だったのかどうかも含め―検証が必要であるが、それだけが唯一無二の計画経済なのではない。むしろ真の計画経済はいまだ発明されていないとさえ言える。
 現時点では、市場経済があたかも唯一可能な経済体制であるかのような宣伝がなされ、世界の主流はそうした信念で固まっているように見える。だが、その一方で、市場経済は打ち続く世界規模での経済危機、国際及び国内両面での貧困を伴う生活格差の拡大といった内部的な矛盾に加え、地球環境の悪化という人類の生存に関わる外部的な問題も引き起こしている。
 こうした有害事象は口では慨嘆されながらも、まばゆい光である市場経済に伴う影の部分として容認されている。地球環境問題に関しては待ったなしの警告を発する識者たちでも、市場経済そのものの転換には決して踏む込もうとしない。あたかも「環境的に持続可能な市場経済」が存在するかのごとくである。
 だが、目下喫緊の課題とされている地球温暖化抑制のための温室効果ガス規制にしても、市場経済は真に効果的な解決策を見出してはいない。市場経済システムを温存するためには、生産活動そのものの直接的な規制には踏み込めないからである。
 地球温暖化に限らず、資源枯渇も含めた地球環境問題全般を包括的に解決するためには、生産活動そのものを量的にも質的にもコントロール可能な計画経済システムが必要である。そういう新しい観点からの計画経済論はいまだ自覚的に提起されているとは言えない。
 景気循環に伴う経済危機や格差問題の解決も重要であるが、そうした問題に対しては市場経済論内部にも一応の「対策」がないではない。だが、それらも決してスムーズには実現されないだろう。そうした問題の解決のためにも、計画経済が再考されなければならない。
 計画経済にはその実際的なシステム設計や政治制度との関係など、ソ連式計画経済では解決できなかった様々な難題も控えている。とはいえ、計画経済の成功的な再構築は、言葉だけにとどまらない環境的に持続可能かつ社会的に公正な未来社会への展望を開く鍵となるものと確信する。

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