Cafe de Kerm ~毒味ブログ~

物言いにも、珈琲にも、もれなく毒が混入している可能性が無いこともないです。

粘菌は路線設計のスペシャリスト?

2010-01-24 23:59:59 | Thinkings

 現実世界に起きる事象を想定し、複数の要素を与えることで模擬的に事象を再現、経過観察・実験する事を、一般にシミュレーションと言います。シミュレーションは、理論物理学のような極小かつ観測が難しいものや、天体の運動のような複雑且つタイムスケールの非常に長いもの、都市計画におけるインフラ整備のように莫大な予算のかかるもの・・・要するに、現実世界で実験するのが難しい分野において、その中でももっとも正解に近いであろうものを絞り込むのに使われます。
 同じ実験をするにしても、あらかじめシミュレーションでもっとも効果的なパラメーターを絞っておいて、それに近い範囲を重点的に調べることで、寄り少ない工程・予算で目的の結果を検証することが出来ると言うわけです。

 このようなシミュレーションは、主にコンピューターを使って行われます。使うリソースが電力と時間だけですので、トライアンドエラーがやりやすく、かつ作成するプログラムによって柔軟にシミュレーション内容を変えられるのが強みです。

 しかしながら、逆に言えばプログラムがうまくできていなければ、目的の結果に近づけないという事です。例えば、鉄道や道路、電力などと言ったインフラ網は、様々な条件の重なった複雑な地形状に張り巡らさせる為、「正解」を導き出すのは難しい分野です。そこで、こんな面白いものを使って鉄道網を「シミュレーション」した例が報告されました。

広がる粘菌が作った鉄道網 本物より「輸送効率」優秀? asahi.com

 アメーバ状に自在に広がる単細胞生物の粘菌が、駅の配置に似せてエサを置いた板の上で実際の鉄道網そっくりのネットワークを形成することを、科学技術振興機構の手老(てろう)篤史・さきがけ研究者(北海道大学電子科学研究所、数理生物学)らのチームが確かめた。粘菌のつくるネットワークは効率性や障害に対する強さの面で優れ、交通や物流、通信などの分野に応用できる可能性がある。

 元々粘菌は、迷路状の容器の中心に配置し、入り口と出口にエサを置いておくと、その迷路を最適解で解くようにネットワークを形成するという特徴がありますが、それを応用した形です。なるほど、高効率、高リスク耐性の栄養伝達ネットワークを作るように進化することで、これまでの淘汰の歴史を生き抜いてきたわけですから、この結果も納得できるというものです。
 なお、すべての駅をうまく結ぶために50回ほど実験を繰り返し、成功例は20回ほどだそうです。成功率も中々ですが、その実験アプローチは正にコンピューターシミュレーションのようですね。

 将来的には、鉄道だけではなく、他のインフラにも応用したいとのことですが、近い未来、粘菌によって設計されたインフラが、実際に敷設される日が来るかも知れませんね。