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ON THE ROAD

適当に音楽や映画などの趣味についてだらだら

『モームの謎』 行方昭夫

2023-01-03 20:57:08 | 


モームは好きな作家なので著書だけでなくこういう本も読んでみようと手を出してみた。しかし、タイトルが昔に流行った『磯野家の謎』彷彿とさせていかん。中身はモームの翻訳を数多く手掛けている行方さんなので間違いないが。読み方を「なめかた」というのは初めて知った。

本の内容はモームの人生を作品とクロスさせて解説している。モームは自身の体験を作品に反映していることが多く、モームの生い立ちを知るというとは作品を読む上で大いに役立つ。特に代表作でもある『人間の絆』は自身の伝記的作品とも言われているから。
しかしながら、読んでない作品に関してはネタバレにもなってしまう。モームを全く読まずにこの本を読む人はいないだろうが、ある程度読む必要はある。私も積んでいる『サミング・アップ』を読んでから読めばよかった。

一方で作品を読んでいるだけではわからないことを知ることができるのは多い。私の大好きな『お菓子とビール』のロウジーのモデルも解説しているし、モームにとって医者としての経験が大きかったこともわかる。ただ、『人間の絆』のミルドレッドのモデルは未だに不明らしい。
モームが諜報員だったのは有名だが、グレアム・グリーンも諜報員をやっていたんだね。丁度並行して『ブライトン・ロック』を読んでいたから驚いた。

最後にモームと著者の架空の対談が載っているが、お人形遊び感があって薄ら寒い。モームの発言に矛盾がないにしても、本文と重複するし必要性は感じられない。著者が脳内モームに「君は凄い」って言われたいだけなのかな。

『無名』  沢木耕太郎

2023-01-02 20:30:09 | 


今は地域的な理由で聴けないでいるが、学生時代はクリスマスイブの夜は沢木さんのラジオ番組「MIDNIGHT EXPRESS 天涯へ」を聴くのがお約束であった。
10年ほど前だが、その番組の中で沢木さんが自身の父親の俳句を紹介し、それがずっと自分の心の中に残っていた。その句というのが、「差引けば 仕合はせ残る 年の暮」である。俳句には全く明るくない自分だが、その句の庶民的な奥ゆかしさに親しみと憧れを抱いた。

作品は沢木さんの高齢の父親が亡くなる前後のことを描いている。親の死というのは誰にでも訪れることで、当事者には少なからずドラマがあることだろう。しかし、当然ながらそこには、それまで築いてきた親子関係というのがあってこそのもである。
作中でもの述べられているが、沢木さんと父親のやり取りは非常に他人行儀に感じた。でも、そこにはお互いへのリスペクトを感じることができる。無名ではあるものの読書人であった父親を沢木さんは尊敬していたし、物書きを諦めた父親は作家となった沢木さんをまたリスペクトしていたことだろう。

そんな沢木さんの父親はどういう人かというと、自分の名を残そうとかという自己顕示欲とは程遠い人間であった。そう考えると、私が上記の句を聴いたときに感じた「奥ゆかしさ」というのは的外れではなかったのかと思う。たっと17字に人柄が出るとは俳句も面白いものだ。
また、俳句を一時辞めてもいたのだが、その理由も興味深く、引用させていただく。

俳句というのは、溢れるものをあの短い詩形に押し込めるために無理をする。押し潰し、削ぎ落とす。だが、その無理をすることで、逆に過剰になってしまうものがある。歳をとるごとに、その過剰さが鬱陶しく思えるようになってしまった

私は有名所の句を受け取って、その洗練に感嘆するだけだが、これは実際に俳句を詠む人にしかわからない悩みだろう。でも言わんとしていることはわかる。

この本を読むと自分と親のことを重ねてしまうことだろう。私は30代前半で両親も60代と沢木さんとは状況が違うが、必ずいつかはこのような日が来る。別に不仲ではないが、2年近く両親に会っていない私にも、もっと会っておけば良かったと後悔する日が来るのかな。

『自分で考える勇気 カント哲学入門』 御子柴善之

2023-01-01 22:38:37 | 


別にカントに興味があったわけではないが、哲学にはちょっと関心があったので手にとってみた。にしても、いや〜難しい。原典よりはよっぽど易しいのだろうけど、何回か読んで噛み砕かなければ行けない本だ。そもそも哲学をお手軽に理解しようとすること自体がおこがましいのかな。

カントの生い立ちとともにカント哲学を紐解いていくが、キーワードとなるのはタイトルにもある「自分で考える勇気」ということ。自分で考えるということはどういうことかというと、先入観(イドラ)を捨て去ること。その先入観を捨てないことには新しい考えは生まれてこないと述べている。
しかし、読んでいて先入観とは一体何なのだろうと疑問が浮かんだ。極端な話、文字、言葉を知っている時点で先入観ともなりうるのではないかと。いずれにしても自分の持っている知識について疑う、決別することは言葉で言う以上に難しい。

もちろん本書では色々述べられているが、自分の中で整理、理解できていないことがたくさんある。
哲学というと日常生活とあまり結びつかず、不要とさえも思えてしまうが、決してそんなことはなく、平たく言ってしまうと目指すところは幸福なのである。しかも単なる幸福(最高善)ではなく、そこに道徳が加わった幸福(最上善)である。
実現できるかは別として、これらは人類にとって無視することができない普遍的なテーマである。もうちょう突き詰めていきたい。


『ゴドーを待ちながら』 サミュエル・ベケット

2022-12-30 12:12:57 | 


苦手である戯曲ではあるが、なんとなく面白そうなので手を出してみた。

この作品の話題になると漏れなく「不条理」という言葉が出てくるが、まさにその通りである。二人の浮浪者がただひたすらゴドーを待つ。その理由も、ゴドーが何者かもわからない。
何が面白いのかはわからないが、どことなく魅力を感じるのは間違いない。ストーリーというほどのものはないが、登場人物のやりとりは意外と楽しめる。
作者自身はどの程度この作品にメッセージを込めたのだろうか。案外何も考えずに書いたのか。

可能ならばぜひ舞台で観てみたい作品だ。というか絶対舞台のほうが映える作品だと思う。


名刺代わりの小説10選

2022-12-29 16:34:35 | 
twitterを覗いているとちょこちょこ「名刺代わりの小説10選」のハッシュタグが目につく。前からちょっと憧れていたので私もブログでやってみることにした。
単に好きな作品ベスト10ではなく「名刺代わり」というのがポイントだな。自分を表す10冊とは何になるか。

https://www.tenbooksmaker.com/5757cf76-fd80-433a-87b2-6fb710f13d76

勝手に生きろ!/ブコウスキー
ライ麦畑でつかまえて/サリンジャー
お菓子とビール/モーム
冷血/カポーティ
深夜特急/沢木耕太郎
悪の誘惑/ジェームズ・ホッグ
ドン・キホーテ/セルバンテス
八月の光/フォークナー
ジャンキー/バロウズ
ゴーレム/グスタフ・マイリンク

順番には意味がない。我ながらキモいチョイスだなと思った。もちろんみんな名作ではあるが、ここに挙げるほどフォークナーなんて理解できているのか。カッコつけたいだけではないか。再読していない作品だって多いし。
まあ、それも含めての名刺代わりの10冊ということかな。

一応個別に感想は書いているので気になる人は探して読んでいただきたい。わざわざリンクは貼らん。


本は基本的に紙で買う派。『ゴーレム』は手元においておきたいが、絶版で手に入らない。逆に『悪の誘惑』は絶版になって価格上がっていてメシウマ。