
モームは好きな作家なので著書だけでなくこういう本も読んでみようと手を出してみた。しかし、タイトルが昔に流行った『磯野家の謎』彷彿とさせていかん。中身はモームの翻訳を数多く手掛けている行方さんなので間違いないが。読み方を「なめかた」というのは初めて知った。
本の内容はモームの人生を作品とクロスさせて解説している。モームは自身の体験を作品に反映していることが多く、モームの生い立ちを知るというとは作品を読む上で大いに役立つ。特に代表作でもある『人間の絆』は自身の伝記的作品とも言われているから。
しかしながら、読んでない作品に関してはネタバレにもなってしまう。モームを全く読まずにこの本を読む人はいないだろうが、ある程度読む必要はある。私も積んでいる『サミング・アップ』を読んでから読めばよかった。
一方で作品を読んでいるだけではわからないことを知ることができるのは多い。私の大好きな『お菓子とビール』のロウジーのモデルも解説しているし、モームにとって医者としての経験が大きかったこともわかる。ただ、『人間の絆』のミルドレッドのモデルは未だに不明らしい。
モームが諜報員だったのは有名だが、グレアム・グリーンも諜報員をやっていたんだね。丁度並行して『ブライトン・ロック』を読んでいたから驚いた。
最後にモームと著者の架空の対談が載っているが、お人形遊び感があって薄ら寒い。モームの発言に矛盾がないにしても、本文と重複するし必要性は感じられない。著者が脳内モームに「君は凄い」って言われたいだけなのかな。