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ON THE ROAD

適当に音楽や映画などの趣味についてだらだら

『ジゴロとジゴレット』 モーム

2023-02-22 19:28:25 | 


全8篇からなるモームの短編集。多分全部初めて読む作品。
結構どれも良かったが、私が好きなのは最初の2作「アンティーブの三人の太った女」と「征服されざる者」。

前者は仲良しの三人女性が一緒にダイエットやブリッジをしながら生活しているところに一人のスレンダーな女性がやってきて一騒動。三人が食事制限をしているところを尻目に痩せた女性はお構いなしに美味しいものを食べる。そんな姿を目の当たりにすると三人のストレスはマックスでお互いの不満をぶつけ合う。

最後はスレンダー女性が去って再び仲良しになるが、短い作品の中で女性の醜い部分がありありと出てとても面白い。実にモームだなと思える作品であった。軽妙さの中にも鋭さがある。

後者の作品は一転してフォークナーばりのヘビーさがある。
戦争中にドイツ兵がフランス人女性を襲い子どもを身ごもることになる。最初は軽い気持ちだったドイツ兵も次第にフランス人女性への愛を表現するようになる。資産的な誠意も見せることで女性の家族は結婚を受け入れるように言うが、女性の方は頑なに拒み続ける。
最後は生まれた子ども殺すところでお終い。後味は悪いが、こういう話は好きだ。

重い話ではあるが、笑ってしまったところもある。捕虜になって収容所に入っていた女性のフィアンセが、食事が少ないことを契機に暴動が発生して、その結果殺されることとなった。そのことを知ったドイツ兵が「収容所をなんだと思っているんだ。リッツホテルか?」と言う。こういうツッコミも好きだ。

『サミング・アップ』 モーム

2023-02-12 23:07:52 | 


モームのエッセイ的な作品で、モームのこと、モームの作品を深く知る上では避けては通れない作品だ。

モームの生い立ちが作品にリンクしていることは有名だが、その詳細がわかる。
また、それだけでなく、モームが文学や芝居についてどう考えているかもうかがい知ることができる。

しかし、後半になるとスピノザがどうだとか宇宙がどうだとかの話が出てきてよくわからなくなる。
こういう話が理解できないとは、やはり私もまだまだ未熟だ。読み物として面白い部分も多々あるけどね。

『嵐が丘』 エミリー・ブロンテ

2023-01-18 20:53:35 | 


映画の方はちょっと前に観たが、漠然と原作のほうが面白いのではと思った。そして当たっていた。

いや〜、やはり名作だけあって面白いし、登場人物のパワーが凄い。全員呪われているのではないかというくらいに取り憑かれた生き様だ。
例として、映画でも印象的であったキャサリンのセリフをひとつ取り上げてみる。
「どうして愛しているのかというと、ハンサムだからじゃなくてね、ネリー、あの子がわたし以上にわたしだからよ。人間の魂がなにで出来ていようと、ヒースクリフとわたしの魂はおなじもの。リントンの魂とは、稲妻が月明かりと違うくらい、炎と氷が違うぐらい、かけ離れているの」

この「あの子がわたし以上にわたしだからよ」という言葉が特に強烈。純愛だとか偏愛だとか言葉では言い表せないものが詰まっていると思う。もちろん、言葉だけでなくそれまでの過程や、物語のゴシックな雰囲気も相まってのことだが。

その後も以下の台詞が続く。
「けど、ほかのすべてが残っても、あの子が消えてしまえば、宇宙は赤の他人になりはてるでしょうね。」

宇宙まで出てくると閉口するしかない。他にも色々あるが、ここまで言葉の力強さを感じる作品は他にあるだろうか。

物語の舞台となるのは嵐が丘と鶫の辻のみと非常に限定されている。にもかかわらず非常に奥行き、スケールを感じるのは、前述の通りの登場人物のパワーと時代を経ているという点だろう。
映画では語られていないが、ヒロインであるキャサリンが死んでからも物語は続く。しかし、登場人物の中にはキャサリンの影が色濃く残っている。いい例えではないだろうが、ディオが死んでもジョースター家との因縁は続くようなものか。

恋愛小説ではあるが決して美しくはない、それどころかひねくれて残酷でもある。しかし、そんな中にも美しさは必ず存在していると思う。

『明治の津和野人たち:幕末・維新を生き延びた小藩の物語』 山岡 浩二

2023-01-15 21:36:17 | 


島根県西部の津和野にスポットを当てたなかなかにマニアックな本だ。なんで読もうかと思ったかというと、思想家である西周(にしあまね)について知りたかったからだったと思う。

筆者は生まれも育ちも津和野の生粋の津和野っ子。本には津和野の偉人が様々登場するが、中にはwikiの項目すらない人物もいる。しかし、そんな人物に対しても筆者はべた褒めでかなりの思い入れを感じることができる。

とはいえ有名無名にかかわらず歴史というのは面白いものだ。桑本才次郎いう有望な数学者が同僚に殺されるエピソードはなかなかに興味深く、歴史に埋もれさすには惜しいものである。

肝心の西周は大雑把なバイオグラフィに触れただけで、肝心の思想等には深く触れられていなかったのが残念だ。しかし、知識人として津和野の後進の育成の関わっていることから影響が大きいと言えよう。

もうちょい身近な話だと福羽逸人という人は農学者、造園家で日本で初めていちごの品種改良を行ったり新宿御苑の設計なんかもしている。現在栽培されているいちごも元をたどると、この福羽氏のいちごだったりするらしい。

また、津和野という土地はキリシタンが迫害されていた悲しい土地でもある。今でも乙女峠というところにはその名残があるらしい。ここには遠藤周作も訪れているらしい。本文では触れられてはいないが、『沈黙』へも影響しているのではと考えざるを得ない。

他にもいろいろな人物が取り上げられているが、避けては通れないのが森鴎外である。3章あるうちの1章をまるまる鴎外について取り上げているのでその思い入れが伺える。

しかしながら私は鴎外を一冊も読んだことがない。これはあかんなと反省して近いうちに読みたい。

以下の写真は2018年に津和野に旅行で行ったときの写真。ザ・地方の町という感じながら雰囲気は良くて気に入った。こうして本を読むと、もうちょい歴史を勉強していくと良かったな。何も津和野に限ったことではないが、歴史は知っておくべきだ。
森鴎外記念館は行こうとは思ったが閉館中だった。

駅に近い食堂のような店でダチョウ肉のカレーを食べるかマヨネーズラーメンどちらを食べるかはものすごく悩んだ。
















『ブライトン・ロック』 グレアム・グリーン

2023-01-09 19:20:20 | 


ずっと読みたいと思いつつ1年以上積んでしまっていた。最近知ったのだが、グレアム・グリーンって『第三の男』の原作者なんだね。そう考えるもっと評価されてもいい作家だと思う。

「ブライトン・ロック」というと真っ先にクイーンの楽曲が思い浮かぶ。関連性はわからないが、作品を読んでいると「ニュース・オブ・ザ・ワールド」という新聞が出てくるが、これはクイーンのアルバムタイトルになっている。これが元ネタだったりするの穴。

あらすじだけ読むと暴力的な刺激を感じるが、実際に読むとそんな単純ではない。罪を犯した少年と無垢な少女の一風変わったボーイミーツガール。それぞれの腹の中の思いや葛藤は一筋縄ではいかない。打算的に近づいた少年と純愛を信じる少女のすれ違いが悲しくも魅力的である。

主人公を追う側の女性が出てくる。善悪としては彼女が正しいのだが、読み手としては主人公を応援したくなる。結末も含めてアメリカン・ニューシネマ的な魅力もある作品だと思う。